短編動物園
この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。
和恵 :「あきら君、神崎さんからお電話です」
あきら:「あい」
神崎さんはポッチのお父さんだ。弁護士で普段忙しい人だが、時々暇になると俺に電話をかけてくる。何か面白いイベントを考えてるんだろう。
あきら:「もしもし。いつもお世話になっております」
神崎 :「こんばんわ。まあ、堅苦しい挨拶ぬきで」
あきら:「ですね。」
神崎 :「今週の土曜日に何か予定入ってますか?」
あきら:「いえ、特に」
神崎 :「動物園行きませんか?」
あきら:「え? 動物園ですか?」
神崎 :「はい。もちろんあっちの動物園です」
あきら:「いいですね~。久しぶりですね~。でも、家族が許してくれるか」
神崎 :「大丈夫です。家族もつれていけばいいんです」
あきら:「でも、ばれたら」
神崎 :「なに、連れて行ってしまえばこっちのものです。昔と違って今の動物園は女子供も楽しめます」
あきら:「なるほど。じゃあ行きましょうか」
神崎 :「よろしくお願いします。ぐふふ」
そういって電話を切った。
詩音 :「ポッチのお父さん? なんだって?」
あきら:「今週の土曜日、動物園に行かないかってお誘いだ」
詩音 :「いく~~~~!」
そういって動物園行きが決まった。
-------------------------------
あきら:「どうして、こんなに人が増えてるんだ?」
集合場所に集まったのは、俺、和恵、詩音の楠木家の3人、神崎さん、ポッチのいつものメンバーのほかにくるみ、舞ちゃん、舞ちゃんのママの冬子、美鈴ちゃんの9人だった。
詩音 :「だって、大勢の方が面白そうじゃない」
あきら:「しかし…」
神崎 :「大丈夫です。想定範囲内です。動物園の中のレストラン予約しています。そこで女性と子供たちには楽しんでもらいましょう。そして、我々は。ぐふふ」
あきら:「そうですね。そうですよね」
こうして一行は動物園に着く。
和恵 :「羽田競馬場?」
詩音 :「どういうこと?」
神崎 :「動物園です」
舞 :「どこが動物園?」
あきら:「ちゃんと動物がいるだろ」
ポッチ:「動物園て言っても、動物一種類しかいないよ」
あきら:「そんなことないぞ~。白いのとか黒いのとか茶色いのとかいろいろいるぞ~」
美鈴 :「何がいるの?」
舞 :「馬。馬しかいないの」
和恵 :「さいて~」
美鈴 :「でも、私馬大好き。早く見たい!」
和恵 :「すぐ飽きるわよ」
神崎 :「そうおっしゃると思って、レストランを予約しております。場内にある有名な高級レストランです」
冬子 :「競馬場に高級レストランなんかないです。冬子知りません」
神崎 :「ええ、普通の競馬場にはありませんが、この羽田競馬場だけにはあります。女性客に人気のレストランです」
冬子 :「冬子ちょっと興味わいてきました。舞ちゃん行きましょう」
舞 :「あんまり、期待できないけど、冬ちゃんが興味あるなら付き合う」
和恵 :「もう。でも、レストラン予約してあるのにキャンセルしたらもったいないです。食事したら、本当の動物園に行きましょう」
そういって、一行は競馬場の中に入って行った。
詩音 :「馬いないよ?」
あきら:「今はレースの間だからいないのさ。レース前になれば出てくるよ」
詩音 :「レース?」
あきら:「ああ、馬が競争するんだ。それで、どの馬が一着になるか当てるゲームだ」
詩音 :「ふ~ん。当てると何かいいことあるの?」
あきら:「お金が儲かる」
詩音 :「!」
和恵 :「あきらくん! 詩音ちゃんに何ふきこんでるの!」
詩音 :「詩音やる!」
和恵 :「ほら、みなさい。この子絶対そういうの好きだから!」
くるみ:「あの~。みんな新聞読んでるけどなんで? 動物園でなんで新聞読んでるの?」
あきら:「あれは、どの馬が勝つか過去の実績とかもとに予想するためのネタが書かれてるんだ」
くるみ:「重回帰分析とかの数式が書かれてるの?」
あきら:「いや、そんなことまではしない。せいぜい過去5レースの結果が書かれてる」
詩音 :「え? そんなあいまいなデータで予測してるの?」
くるみと詩音の目が光る。
くるみ:「それでは予想は当たらないの。ちゃんと回帰分析しないといけないの」
詩音 :「この競馬場に来る人たち回帰分析しないで予想してるの?」
あきら:「普通そこまでしないだろう」
くるみと詩音が顔を見合わせる。
詩音 :「チャーンス!」
くるみ:「なのなの」
詩音 :「指数関数と自然対数使えばこんなの簡単に解ける!」
くるみ:「逆行列使えばさらに簡単なの」
詩音 :「うん、過去の実績をもとに⊿つまり自然対数を微分してしまえば回帰式が出る!」
くるみ:「目的変数は何にする?」
詩音 :「もちろん、期待値でしょ」
くるみ:「期待値を左辺として右辺を自然対数の偏微分方程式としてしまえば解ける」
詩音 :「マハラノビスの汎距離が一番小さいのでロジスティック回帰分析すればできちゃう!」
くるみ:「でも、それは手計算ではできないの」
詩音 :「途中でPCルームがあってPC貸しだしてた!」
くるみ:「すぐ行きましょう! 詩音ちゃん。 あきらちゃんありがとう! すごく面白いかも。大金持ちになるの!」
そういうと二人はどこかに行ってしまった。
あきら:「お~い。ちょっとまて!」
しかし、ふたりはわき目も振れず行ってしまった。
あきら:「たく、何考えてるんだか。あの二人はほっておいて行きましょう。神崎さん」
しかし、神崎さんは競馬新聞に夢中で全く俺の声が聞こえていない。
ポッチ:「おとうさん、こうなったら梃子でも動かない。ものすごい集中して周りの声が聞こえないから」
舞 :「いわゆる過集中ね。頭のいい人にはそういう能力というか欠点持った人がいるって聞いたことある」
俺はため息をついた。
あきら:「とりあえず、レストラン行くか」
残った6人でレストランに行く。
あきら:「神崎で予約してると思いますが」
俺たちは席に案内される。
和恵 :「結構いい雰囲気ね。競馬場とは思えないです」
和恵があたりを見回す。
あきら:「ああ。眼下に競馬場を見ながら食事を楽しむ。完全なデートスポットだな」
和恵 :「昔はふたりでこうやってデートしました。あの頃はおいしいワインを頼んで」
あきら:「じゃあ、ワイン頼むか。たまにはいいだろ」
俺は店員を呼んでワインを頼んだ。
ほどなくしてボトルとグラスがふたつ来た。
あきら:「冬子さんは飲まないんでしたよね? ウーロン茶かなんか頼みます?」
確か冬子は飲めなかったはずだ。
冬子 :「はい、醸造酒だめなんです。蒸留酒じゃないと」
あきら:「はい?」
冬子 :「焼酎とかウイスキーじゃないと。しかも割るとだめです」
舞 :「冬ちゃん、飲むときは焼酎ロックだよね」
冬子 :「ラムもすきです。アルコール度50%くらいの。ストレートでもおいしいです」
これだから対世界は困る。見た目はおんなじくせに性格とか嗜好が全然違うことがある。
あきら:「ワインは薄くて駄目か。じゃあ、焼酎ロックで頼むか」
冬子 :「いえ、お気遣いなく。頼んだ料理に焼酎はあいません。ですから冬子に気にせず飲んでください」
冬子が固辞する。しょうがなく、二人分注いでもらう。
だけど、ウエイトレスが気もそぞろでこぼしてしまった。
和恵 :「あ!」
給仕 :「す、すいません」
あきら:「おいおい、気をつけてくれよ」
幸い服にはこぼれなかったからよかった。でも、なんか雰囲気が浮足立っている。
そうこうしているうちに料理が来る。さっそく舌鼓を打ちながら食べ始める。
あきら:「ほう」
和恵 :「おいしいです。とても競馬場とは思えないです。これだけ食べに来る価値あります」
ポッチも美鈴ちゃんも満足そうに食べる。
しかし、案の定というか…
舞 :「アンバランス」
冬子 :「全くです。これではお肉がかわいそうです」
まあ、こうなるとは思っていたが一応聞いてみる。
あきら:「この料理のどこがまずいんだ?」
冬子 :「最高級の食材を使ってるのに、料理が下手です。素材の力だけでおいしいと誤解させています」
舞 :「これは、ひどいよね」
舞がウェイターを呼ぶ。
あきら:「あああ」
俺は頭を抱える。
冬子 :「この料理ですが、とてもかわいそうです。これはしょうがないのでしょうか?」
年配の男性に話しかける。周りの客が注目する。
ウェイターが激怒するかと思ったが、意外にも涙目でわびる。
給仕 :「申し訳ございません。やはりお気づきになりますよね。他のお客様でも何人か気付かれましたが。実はコック長が今日は風邪でお休みなのです。それで若いのが頑張っているのですが、なにぶん…」
冬子 :「そうでしたか。それは冬子失礼しました。それでは仕方ないと思います。でも、いくら若いとはいえ、この材料でこの味はどうかと。何か集中できていないような感じです」
どうしてそこまでわかるんだ。俺はこころの中で叫んだ。
給仕 :「お客様、さすがです。やはり、当店に来られるのにふさわしい方です。実は、この後北海道のテレビ局の料理番組の取材があるのですが、そのキャストが味にうるさくて」
和恵 :「もしかして『ごはん温めますか』ですか?」
給仕 :「はい、そのとおりです」
和恵 :「うわ~、私小泉洋のファンなんです」
あきら:「もしかして、味にうるさいキャストって!」
給仕 :「そうなんです。北海道のテレビ局といってもあの番組は全国に流れています。このままだと、『がっかり』とか女性アナウンサーにも言われかねません」
和恵 :「確かに、真奈ちゃんとかしげるさんとかいいそうです」
小泉洋と一緒に出演している二人の口調を思い出す。確かにいいそうだ。
給仕 :「困った限りです」
ここで俺は嫌な予感がした。次の展開が手に取るように分かる。
冬子 :「よござんす。冬子、このレストランのために一肌脱ぎます。その北海道の田舎俳優にぎゃふんと言わせましょう。冬子が厨房にはいります」
やっぱり、俺は頭を抱える。
給仕 :「はあ?」
舞 :「冬ちゃんね、ホテル大日本でシェフしてたの。だから料理の腕は天下一品よ」
給仕 :「え! あのホテル大日本ですか! なるほどそれならば味がわかったのも納得行きます。この緊急時ですぜひ手伝ってください」
冬子 :「わかりました。舞ちゃんも手伝ってください」
そういうと二人が厨房に入っていく。
あきら:「どうしてこのメンバーはおとなしくしていないんだ」
すでに過半数の人間が脱落している。
そうこうしているうちに周りの客に料理が運ばれてくる。そして、みな料理を口に付けた途端、フォークやナイフを落とす。
客A :「信じられない」
客B :「この世にこんなうまいものがあるのか?」
我々の席にも料理が運ばれてくる
給仕 :「子羊のソテーとあさりのワイン蒸しです。我々からのお礼です」
美鈴 :「ありがとう。うわ~、おいしい。やっぱり冬ママ最高」
美鈴がおいしそうに食べる。我々も口にする。
和恵 :「!」
ポッチ:「!」
あきら:「!」
わかっていたが声が出ない。なんだこのうまさわ!。最高の材料を使うとここまでうまいか!
客C :「おい! 料理人を呼んでくれ! ぜひお礼をしたい!」
冬子と舞が出てくる。客はこんなにうまい料理は今まで食べたことないと絶賛する。
冬子がどや顔で俺たちを見る。
もう、脱帽するしかない。
結局、予約していた時間がすぎ、次の客が来るからと促される。俺たちは後ろ髪を引かれる思いでレストランを出る。
和恵 :「残念です。料理も食べたっかし、小泉さんも見たかったです」
冬子と舞は引き続き厨房で手伝っている。
俺たち4人は結局競馬場に降りてくる。
競馬場では競馬だけでなくいろんなイベントが行われている。
そのうちの一つに入口の近くで鼓笛隊が演奏している。だけど、競馬場で演奏しててもだれも見向きしない。
和恵 :「ちょっと、面白そうです。見てきましょう」
すっかり酔いが回った和恵が言う。そういえばボトルのほとんどを和恵が飲んでいる。
あきら:「でも、全然見向きされてないぜ。行っても面白くないよ」
ポッチの目がきらっと光る。
ポッチ:「面白くすればいいんだよね」
あきら:「(しまった! 余計なひと言だった!)」
おれは海より深く反省する。
ポッチはリュックの中から色々取り出す。
あきら:「ああああ。俺が悪かった。許してくれ」
ジャグリング、ボール。そして、腹話術のポッチ人形。なんでそんなの持ってるんだと思うのが次から次へと出てくる。
ポッチが鼓笛隊のリーダーに話しかける。そして、鼓笛隊の楽器の入れ物を開けて観客の前に置く。
ポッチ:「さあ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。これからポッチのイリュージョンが始まるよ。お代は見てからでいいよ!」
そう言って鼓笛隊の音楽に合わせて、ジャグリングを始める。そうして人が寄ってきたところで腹話術を始める。
大喝さいだった。観客は次々とお金を楽器の箱に投げ入れる。
あきら:「あああ」
美鈴 :「ポッチ上手」
和恵 :「ポッチちゃん、ほんと上手です。私も負けてれれません」
そういうと和恵が中に入っていく。そして鼓笛隊の音楽に合わせて踊り出す。
あきら:「やめてくれ~。花見と一緒じゃないか~。勘弁してくれ~」
観客は大喜びで拍手する。
あきら:「もう、どうとでもなれ」
もう、諦めた。
しかし、その時、警備員が寄ってきた。
警備員:「許可なく、興業するな! 直ちに中止しろ!」
ポッチ:「なぜです? 鼓笛隊に合わせて大道芸やってはいけないとどこに書いてあります!」
あきら:「あああ」
警備員:「なんだと~。生意気なガキだ!」
警備員がポッチをひっぱたこうとする。
やばい! この状況前にもあった気がするぞ!
あきら:「やめろー。ひどい目にあうぞ!」
しかし遅かった。ひっぱたく寸前、警備員の手は止められる。
あきら:「あああ」
厳 :「暴行の現行犯で逮捕する!」
警備員はねじ伏せられ、悲鳴を上げる。
南 :「興業の許可は取ってある。さあ、責任者出してもらおうか!」
あきら:「プロジェクトの介入… もうしらん!」
すぐにかっぷくのいい背広を着た年配の男性が来る。
南から話をきくと真っ青になってポッチと南にペコペコ謝る。恰幅の良い男は警備員に怒鳴りつける。
年配男:「おまえ、なんてことしてくれたんだ! おまえんところの警備会社ごと契約解除だ!」
こんどは警備会社の責任者がすっとんでくる。
年配男:「直ちに契約解除だ!」
南 :「大臣から通達があったよな」
年配男:「もうしわけございません」
ポッチ:「ひど~い。認めらてるのに確かめもせず暴力をふるうなんて最低!」
厳 :「おい! この警備員を連れていけ!」
警備員が手錠をはめられ連れ去られる。
南 :「おふたりにもじっくり署でお話をおうかがいしましょうか」
競馬場の上役らしい恰幅の良い男と警備会社の責任者がうなだれて南に連れていかれる。
ああ、いつぞやの入学式の再現だ。
和恵 :「さあ、野暮なことが起きたけど、気を取り直してつづけるわよ~」
すっかり酔いが回って人格が変わった和恵がハイテンションで叫ぶ。
ポッチ:「おお~!」
ポッチが答える。もう止められない。
俺と美鈴ちゃんと茫然と見守る。
美鈴 :「ねえ、今日動物園に来たんだよね」
あきら:「ああ、そうだ」
美鈴 :「でも、全然お馬さん見ていない」
あきら:「本当だよな」
詩音とくるみは統計学に夢中になりPCルームに直行。神崎さんは新聞に熱中。舞ちゃんと冬子さんはレストランで手伝い。そしてポッチと和恵は飛び入りでパフォーマンス中。賭けるどころか全然馬を見ていない。
あきら:「美鈴ちゃん、せっかくだから、馬見に行くか!」
美鈴 :「うん、私お馬さん大好きなの。しょっちゅう近くの牧場に行ってお馬さんに乗せてもらうの」
そうだった。和恵が紹介した牧場でホースセラピーをうけたのがきっかけだったな。
あきら:「じゃあ、内馬場に行こう。あそこで曳き馬やってるはずだ。そこで馬に乗せてもらおう」
美鈴 :「うん!」
そういって、二人で内馬場に行く。そこでは子供たちを馬に乗せるサービスをやっていた。
あきら:「じゃあ、順番に並んで待ってよう」
俺たちは順番を待っていた。ほどなくして俺達の番が来た。
あきら:「美鈴ちゃん、一人で乗れる?」
美鈴 :「大丈夫、まかしておいて」
係員 :「馬に乗ったことがあるの?」
美鈴 :「うん、しょっちゅう乗ってる」
係員 :「じゃあ、この子でも大丈夫ね。ちょっと気が荒いけど、驚かせなければ大丈夫。他の馬つかれちゃって休憩中なの」
そういって係員が美鈴ちゃんを馬に乗せて出発する。
俺は美鈴ちゃんを見ながらオーロラビジョンに映っているレースも見る。ちょうどレース中だった。レースも最期の直線に入り、団子状態でゴールに向かっていた。
そのときだった。先頭の馬がよろけたと思ったとたん、騎手が落馬した。そして先頭集団の5,6馬がつられて落馬する。
ウワー
スタンドからものすごい大きな悲鳴が聞こえる。
ヒヒーン!
その悲鳴を聞いた美鈴ちゃんを乗せた馬が棹立ちになる。そして係員が持っている手綱をむりやりはがし曳き馬の馬場を美鈴ちゃんを乗せたまま暴走する。
あきら:「美鈴ちゃーん!」
係員が茫然と立ち尽くす。
あきら:「おまえら何やってるんだ! はやくあの馬を抑えろ! 美鈴ちゃんが振り落とされたらどうするつもりだ! 新聞沙汰だぞ!」
係員たちは我に帰りあわてて止めにかかる。だが、馬は興奮して手がつけられない。美鈴ちゃんは必死にしがみついているが振り落とされるのは時間の問題だ。
あきら:「なんてことだ」
俺はうめいた。
係員たちは止めにかかるが一行に要領をえない。
あきら:「身を呈してでも止めろ!ばかやろ!」
しかし、そのとき信じられない光景を見た。背中に乗っている美鈴ちゃんが手綱をつかみ、ぐっとひっぱる。しかし、暴れ馬は興奮が収まらず、後ろ足をはねたり、さお立ちになったり美鈴ちゃんを振り落とそうとする。だけど巧みにバランスをとり、馬をなだめにかかる。そして最後には馬の首をポンポンとたたき落ち着かせる。
あきら:「あああ」
いやってほど思い知らされた。普段、おとなしくて天然に見える美鈴ちゃんだが彼女は対世界のポッチだった。動物好きで、器用なのは同じ。これくらい簡単か。
美鈴ちゃんが帰ってくる。
美鈴 :「ちょっと、驚いただけ。大丈夫。この子悪くない」
係員が一斉に寄ってきてあやまりまくる。
あきら:「大丈夫なのか? 怪我はないか?」
美鈴 :「へ? これくらい大丈夫よ。ムックなんてもっと暴れん坊だもん」
あきら:「ムック?」
美鈴 :「ちかくの牧場の馬。すんごく気が荒くて牧場の人も手を焼いてて、私しか乗りこなせないの」
あきら:「あああ。なんで俺の周りにはこんなやつらしかいないんだ。」
----------------------------------------------
夕方になりみんな集合する。
神崎 :「いやー、今日はよかったです。あの一斉落馬のレース。あのレースは大荒れでしたね。あれで10万儲けました」
詩音 :「やっぱり13頭だて以上だとロジスティック分析で当たるね」
くるみ:「なのなの。10万とれたの」
冬子 :「やっと終わりました。ちょっと疲れました」
舞 :「でも、お客さんもお店に人もすごく喜んでた。しかも謝礼に10万円もらっちゃった」
和恵 :「私たちも鼓笛隊の人に感謝されました。こんなにもり上がったの初めてだって」
ポッチ:「それで、大道芸でもらったお金のうち10万円いただきました」
美鈴 :「わたしも迷惑料って言われて10万円もらっちゃった。お母さんには内緒にねっていわれた」
こいつら…
詩音 :「パパは?」
あきら:「へ?」
詩音 :「いくら儲かった?」
あきら:「もうけてないよ。それどころか1レースもかけてないよ」
詩音がふっとため息をつく。
詩音 :「パパって才能無い」
おしまい。