第78話 ダンジョンですか?ダンジョンだと思いますよ?
(・ω・)間違えて他のやつに投稿しちゃったのでやり直し。滅多にやらないことするとこれだから……
「ダンジョンの入り口ってさー」
「ダンジョン入り口がどした」
「もっとこう、ダンジョンダンジョンしいのを想像してた」
「そのダンジョンダンジョンしいってのが具体的に意味わからんが言いたいことはわかる」
ラーへランデン大湿地帯の、人が踏み入らない危険地帯へと足を踏み入れたシア達冒険者ギルド新人研修御一行は、現在湿原では数少ない比較的硬い地面の上にいた。
周囲は一面が湿原、というか、積もり積もった枯れた植物層により富栄養化しているのか植物群落が競うようにその背を伸ばし、人の背を軽く超える壁のように密集してその視界どころか行く手をも遮っている。
「まさかダンジョンの入り口が地下って言うか湿原下? から出てくるとは思わなかった」
「ウチだって初めて見つけた時は何の冗談かと思ったわ」
その彼らがしばし休憩していたところ、その目の前に怪しげななにかが出現していた。
つい先程までは普通に湿原だった場所にである。
「この大湿原、前ン時はただの狩場だったじゃない? ダンジョンがある、って言われた時はなんでやと思ったけど」
「元はここにあったモンじゃないと思われ」
「最近できたダンジョン? 生まれて間もないってこと?」
「んー、いやまあ一回入ったら俺らにはわかると思うよ。こっち生まれの人には理解できんだろうけど」
この世界に於けるダンジョンの発生は、自然の洞窟や遺跡などが魔素の吹き溜まりとなって魔獣が生まれ住み着きだすのが一般的である。
実際、熊子達ギルドメンバーが知るところのゲーム時代のモノは幾つか発見されていた。
そして、それ以外のまったく新規のダンジョンも発見されているのだ。
「まったくの新規ダンジョンやったらウチラもそう悩まん。まあねーちんならかすり傷一つ負わんのは保証しとくから心配すんな。あと、新人も死ぬことは絶対にないから安心しろ」
「ほー? そりゃどういう仕組なんだろう」
「仕組みは知らん。まあ後はうだうだ言っても始まらんから入ろうず」
そういって指さされた先には、湿原から突き出た巨大な槍の穂のような、硬質の輝きをもつ建造物が存在していた。
「なんというか、間欠泉的な感じで決まった時間に地表に出てくるんだよね、これ」
「ふむん、そりゃタイミング良くその場にいないと見つけらんないわね」
「そそ、こんなとこまで来る物好きはいるかもだけど、これと出くわせるくらい長居できるかっていうとちょっとね。でてくるの夕方だし。野営する気でもないとこんなとこにおらんやろ?」
そして当然こんな危険なところで野営などしたがる物好きなどそうはいない。それがこのダンジョンの発見されなかった理由の一つだろう。
「まあ取り敢えず入ろっか。おーい、新人どもー? 呆けてないでちゃっちゃと動け?」
「あ、はい!」
「すごいねー、じめんからでてきたよいりぐち―いりぐちー?」
「そだねー」
声を掛けるやすたすたと進んでいく熊子とシアに続いて、他の面々も装備を改めつつ続いた、のだが。
「おわっ!?」
「なんっとぉ?」
「ああ、足元ゆるいから気をつけてな」
「なんでお二人はこんなトコを普通に歩けるんですかぁ!?」
「ワザ?」
「カン?」
すいすいと歩くシアと熊子の、その後に続いた者たちは、水分を多く含んだ枯れて堆積しやがては泥炭になるだろう不安定な足場に不意をつかれ、危うく転けそうになっていた。
そうして湿原から突き出たそれの側までくると、熊子は躊躇なくその表面に手を触れた。すると、触れた部分から表面が波打ち、熊子の手が沈み込み始めたのである。まるで触れた部分だけが液体になったかのように。
「こんな感じで手を触れて、押し込んでいけば入れるから。んじゃねーちんは最後な。みんな慌てず続いて入ってきな。あ、使役獣はここで待たせといて。こら、お前もなにしれっと普通に入ろうとしてんだよ、待ってろ」
「ホロッホー」
「うるさい黙れ」
「あははは。んじゃ、ほーれみんな。熊子のマネしてー、サクサク入って―」
シアは先陣を切った熊子に続くように皆に告げると、周囲を見回して危険がないのを確認、全員が無事中に入るのを確認してから待機する使役獣らに手を振って、自身も続いたのである。普段はトロ臭いコアラの獣人ミーシャが、やけに張り切って駆け足で突入しようとしてデコを思い切り打って涙目になった以外は特に問題なくダンジョンに侵入できたのであった。
なお妖女とタマちゃんはシアにおんぶされたり頭の上でくつろいだりしていた。
☆
「よっしゃ、これでみんな揃ったな。ほないこか」
「敵とか出てきてないんだ?」
「出るトコ決まってっから。あ、ねーちんはウチと一緒に一番うしろな。先頭は新人三人組、その後ろジョニー組、んでクリスとハイジ、そんでウチらって並びな」
「らじゃ。しかし、ここって、なんというか……」
最後にシアがダンジョン内に入ると、熊子を最後尾とした隊列を組んで皆が待ち構えていた。そこは金属なのか石材なのか判別のつかない、奇妙な素材で囲まれた学校の教室程度の広さのドームであった。出入り口と思われる開口部が一つだけあり、そこは幅は成人男子が両手を広げて二人並べるほどで、高さも同じくらいのほぼ正方形。壁自体が光っているのかほんのり明るく、その床も壁も天井も、どこもかしこもが綺麗に磨き上げられたように、チリ一つ落ちてはいなかった。
「……なんか見覚えが」
「せやろな。ほんじゃ進んでいこっか、」
初めて訪れたはずのダンジョン、であるにもかかわらず、シアの記憶に引っかかる物があった。そしてそれは。
「ギルマスも、みたいだぞ」
「お、おう。んじゃ間違いないんじゃね?」
「てことは、だ」
そうつぶやいたのは熊子とは隊列の逆側、いわゆる通路の奥側に位置する転生組三人衆、金髪のアルバトロナール・A児・アズマ、銀髪のジークフリード・ローエングリーンと黒髪のアレキサンドロス・ズルカルナインである。
熊子曰くの行けばわかるさ発言を小耳に挟んでいた訳でもあるまいに、いざ入ってみると見覚えのある空間であったため少々困惑していたのだ。そして、シアの言葉でようやく得心がいったとばかりにお互いに頷きあっていた。
二列目以降の現地組はなんのことやらと首を傾げていたが。
「するってーと、ここを進めば――」
「うん、間違いない」
「っと、ほら出た」
ゆっくりと進み始めた彼らの前に、淡く光る繭のようなものが現れたのだ。それはすぐに輝きを無くし、そこにはなんと、3匹の魔物が姿を現していた。
「コボルド出現っと」
「うは、やっぱり」
「これチュートリアルじゃん!」
そう、まだ元のゲームでは初心者から一歩はみ出た程度の彼らにとっては記憶に新しい、チュートリアルステージ。ゲームなどではおなじみの、貧弱な敵が出現してそれに対処することで基本操作を学ぶためのアレである。
そのため――。
「あ、あれ? スキルが使えねえ?」
「マジかよ。うわ、ホントだ!?」
「こっちは矢が矢筒から抜けねんだけど!?」
彼らはコボルド戦に際してスキルを発動しようとして、何故かそれが出来なかったのである。
「コボルド程度で何慌ててんのさ、アイツラ」
「なんか、おかしな状況みたいだけど」
後方からそれを眺めていたクリスとハイジは、あたふたし始めた転生者3人に苦笑いを浮かべつつも、背後の二人が静観している為に、放置していてもいいのだろうかと心配しながらも手を出さずにいた。
そして目の前に現れたコボルドはというとこちらに来るでもなし、攻撃するでもなしに武器を構えたままの臨戦態勢を維持したまま、微動だにしなかった。最前列の3人はスキだらけであるのもかかわらずだ。
「なるほど、ここってアレなのね。じゃあさ」
「うん、ねーちんならわかるか。あれ、まずは攻撃する前に『武器の装備』をしてからじゃないといかんのよね」
「あー、やっぱそうよね。てことは、一回装備外して装備し直し?」
「もしくは新しく武器に持ち替え、やね」
それを聞いた転生組は、なるほどと頷き合い互いの武器を交換して装備し直して再度コボルドと対峙した。
「たーしーかー、まずは普通に攻撃! そいやっ!」
「うりゃ!」
「せいっ!」
たかがコボルドされどコボルド、これまで何度も痛い目を見てきてなお甘い考えを持っていた転生三人組の彼らだったが、ギルドでの指導を経てようやくと言っていいのか流石にスキなどは無かった。ナメてかかってしくじって、その尻拭いをされ続けては平身低頭を繰り返すというのは、とてもとても恥ずかしいということを何度も経験してやっと身に沁みたので。
「うんうん、リアル空間じゃ色々配慮したアイテムやら防具やらを装備してない限り、ザコ相手でもちゃんとせんとまぐれの一撃でも死ねるし下手すりゃ掠り傷から敗血症で死ねるからな? 基本、ゴブとかコボの武器には毒こそないかもだけど、もっとタチ悪い汚れとか付いてることのほうが多いし」
「ああ、鏃にう◯ちとかつけるってやつね?」
「それもあるけど、あいつら倒した獲物を全部持ってる武器でさばいちゃうんだけど、洗ったりしないんだよね。変な病気とか感染っても嫌じゃろ」
「狂犬病的なのとかあるんだ?」
「ヤバイ寄生虫もな。知ってて対処手段持ってりゃその都度なんとかなるけどさ」
「ああ、ゲーム的ムーヴしてたらアレかしら。ある程度HP減るまでは回復アイテムとかMPもったいないから治療しない的な」
「そそそ。ウチラこっち来た当初はどこまでがゲームかリアルなのかの違いがわかんなくてさ。ナメてかかって下手すりゃ死ぬのと、慎重に慎重にやって、やりすぎて笑われるのとどっちがいいよ、ってなったらさ」
「そりゃ慎重にやるわよね」
ゲーム時のチュートリアルを思い出しながら行動を開始した転生組三人を眺めながら、二人はそんな事を語っていた。
そういった事態は現地組にとってはある意味当たり前であり、ある程度は許容しなければいけない。
だが、そんな可能性すら出来るかぎり無くしたいというその行動に、現地組も気合を入れなおして準備を始めた。
「ミーシャは大丈夫? ちゃんと攻撃できる?」
「だいじょうぶー。心配いらないよ―? マーシャはへいきー?」
前の三人組が慎重に事を進めている後ろで、次は自分たちの番かと気合を入れているジョニー組の面々。その中でも、直接物理攻撃には全く向いてなさそうな二人がお互いに心配しあっていた。
そんな光景を微笑ましく見ているシアであったが、そういやコアラっ娘のミーシャは武器持ってたっけ? と首を傾げた。
まあ、チュートリアルが再現されているダンジョンだというのなら、攻撃力ほぼ皆無なミーシャやマーシャでも確かに熊子の言う通り危険はないだろう。
それよりも、と。シアは周囲をぐるりと見回して熊子に尋ねた。
「ここって、まるっぽチュートリアル・ステージそのまんまなの?」
「だいたい。あいつらが今戦ってるコボを手順通りにやっつけたら、って言うか手順通りに動かないと攻撃できないんだけどさ。ちゃんと初期に役立つお助けアイテムが貰えるところまでバッチリよ」
「ふーんむ?」
「ちなみにウチがもろたのは、レベル20までの経験値半減の指輪な……貰ったときにはとっくに超えてたっぽくって即座に砕け散りよったわ」
「oh……」
「まあそれは別にいいとして、基本を学べて死なないってのは便利なんよな。経験値は貰えるし」
「ふむん」
なるほどと頷きつつも、なにか違う気がする、と腕を組み考え込むシア。視線の先では、転生三人組がコボルドを倒し終え、前に進み始めたところであった。
「前の奴らがやったの真似しな。その通りやればえーから」
「はいっ!」
ジョニー組の前にコボルドが現れると、それに対して熊子がちゃんと指示を出していた。さすがにやり方わかってるだろう転生組同様に放置プレイはしないようであった。
そしてそれを見つづけていたシアは、ポンと手を打つと隊列から離れてドームへと戻り、周囲をぐるりと見渡すと、通路を戻ってドームの壁にへばりつくと、コンコンとノックし始めたのだ。
「ねーちん何しとるん?」
「いやあ、なんか違うなって思ってさぁ……っ!ここだ!」
何を思ったのか不思議な行動をとるシアに、熊子も流石に気になったため、そう問うたのだが。
「熊子! ここ! ここなんかある!」
突然シアが振り向き、熊子を呼びつけたのだ。
「ええー? そんな、うちが隅から隅まで調べたあとやで? そんな隠し扉的なもんあるわけ……あるわ。なにこれ前来た時こんなんなかったぞ」
「ここ! なんかあるって! 間違いないって! 音が違うもん!」
ドームの壁の一角を指差しそう言い張るシアに、熊子はふむ、と納得しかねる風を装いつつも、真剣に調べ始めた。
「きっとアレよ、確かにあるんだと思ってないと消えちゃう的な」
「頂上で相棒でも遭難してる山か? まあいいや、あったらあったで儲けもん、って……ほい?」
ゲーム時代でもよくあった、シアが力説する「そんなとこにあらへんやろ」という場所を調べてみたらなんかあったりする、そう言う類のものかと考えた熊子、持てるスキルを総動員してみたところ、確かにそれは存在していたのだ。
「隠し……階段、だと……」
「ほーらあったじゃん!」
ドームの壁を熊子がいじくりたおすと、何もないはずのその壁が白く光りだすとポッカリと穴があき、階段が露出したのである。
「どうする? ねーちん」
「どうするって何が?」
下りの階段を覗き込みながら問いかけてくる熊子に、シアは何を尋ねられているのか一瞬わからなかった。『未踏破ゾーンがあったら何をさておいても覗くくらいはする』のが基本姿勢であり、それはゲーム時代には一貫していた。
なので何を今更というところだったのだが。
「新人たちほっぽってウチらだけで行くかどうかって話」
「ああ……あの先ってチュートリアル通りなんでしょ?」
「せやで」
「そしたらクリアしたら外にだされるの?」
「うん? クリアしたら今の階段みたいな出口が開くんよ。で、ドームに戻ってもう一回おかわりか、外に出るかの二択。まあ戻ってやり直したら経験値こそ入るけど、アイテムもらえるのは初回だけだけどな--ってそっか、そうなるわな」
「でしょ。んじゃあ」
「おーい、お前らちょっと待ち」
先に進みかけている面子に声をかけ一時中断させ、ドームに戻させたのである。
「どしたんです? 順調にゴブ倒せたから次に行こうって時に」
「次は宝箱の開け方レクチャーの、お助けアイテムガチャだったのに……」
転生3人組は、割と楽しみながらチュートリアル時の記憶を思い出しつつ進めていたようである。というか本来ならチュートリアルなのだからあっという間にクリアしなければ駄目なレベルなのであるが――。
「ふむん。やっぱりかも」
「なにがさ、ねーちん」
「まあ行ってみよう」
そう言って、さっさと階段に足を踏み入れるシアに続いて、熊子も。そして、新人連中も首を傾げならがその後に続いたのである。そしてーー
「なんだこれ」
「うわー、これ遺跡?」
「その割には綺麗っていうか、遺跡感これっぽっちもないよね」
「そうさねぇ。遺跡には何度か入ったことあるけど、ここみたいに荒らされてないのは初めてさね」
階段を降りきったそこは、まるでどこかの喫茶室か何かのような落ち着いた佇まいを見せる、広い空間であった。
バロック調に似た趣きある調度が並び、今にも給仕が姿を現し案内を告げても不思議ではないと思わせるような、そんな雰囲気を纏っていた。
「ねーちん、これ……」
「うん……」
そんな空間の奥に一足先に進んでいたシアと熊子は、物陰に隠れるようにしてうずくまっている、既に身動きの一つもしないその存在を見つけていた。
艷やかな、皺一つないその肌にはしかし、生気というものは感じられず。しかしながら今にも動き出しそうな程に、柔らかな微笑みを湛えて、静かに、そして永遠の眠りについているようであった。
「チュートリアルで動作の指示を出してくれてたおねーさんだよねこれ」
「せやな……すっかり忘れてたっちゅーかなんちゅーか。ここ放送室的ななにかなのかいな」
ゲーム時代、チュートリアルステージに進んだ際に、何をどうしろと教えてくれるヘルプの人が、まさかそのすぐ地下で活動していたなど、誰が思うのかという話である。
「んでどうするよねーちん」
「どうするって言われても、埋めてあげる? やっぱ湿原だから屍蝋化しやすかったのかしら……ってこの人--【ボッタクリ商店】」
シアは、弔うために静かに眠るその女性に手を触れようとして、あることに気づき鑑定スキルを発動させた。そしてその結果。
「現在機能停止状態、って」
「おいおいおい、神造人形とか厄ネタじゃん、勘弁してくれよ」
二人は背後から近づく新人たちにどう説明しようかと頭を悩ませるのだった。
こんなことなら二人だけで入るんだったと後悔しながら。
_(:3」∠)_
へんじがないただのしかばねのようだ