第7話 話が進みませんね?すすめますよ?
ギルドハウスの私の個人部屋。
今ここに居るのは私ともう一人とで作った、ゲーム内ギルドの最初期からのメンバーだ。
現在冒険者ギルド長代行の立場で頑張ってくれている人との、二人で始めたギルドの募集に、快く参加してくれた人たち。
他にも何人か居るが、どうも後詰を担当するらしく冒険者ギルドで待機中らしい。
募集した時は重複していた種族も多かったが、何度か転生を繰り返すとお気に入りの種族と言うものが出来てしまい、自然と綺麗に分かれた。
それに、プレイスタイル的に面倒だからと固定しているメンバーも多い。
今居る面子はその代表格でもある。
ダークエルフ女性のヘスペリスさん。
元はオカマでネカマ、念願叶って女性の身体で超美形。
銀髪さらさら鼻筋スッキリぷにぷにつやつやほっぺにつやつや唇。
褐色のすべすべお肌に切れ長の目と、シャープなラインを描いて左右後方へと伸びる長い耳が超らぶりい。
前の世界でもお綺麗でしたけどね?
改造人間ぱねぇっす。
竜人のカレアシン、寝たきりじじいだったのにこんなに巨大になっちゃって。
あっちじゃ「床ずれがwwwやべえwww尻に穴がwww笑えんwww」とか言ってたのに、面影無しw
たまに出ちゃうっぽいじじい言葉が、唯一の面影って所なのかしら。
ドワーフのアマクニさんは私の職人としてのお師匠さんだ。
昔ながらの職人気質を標榜していて、スキルも能力値もほぼ鍛冶とかに特化していた。
一度、やけに悩んでいた時があって、何を考えているのやらと思っていたら「これだけ自由度が高いんだから、スキル無くても余裕じゃね?」とか言いながら、火の入ってた炉から焼けた金属を取り出して、スキルを使わず槌でぶっ叩いた。
…結果、材料は、下に敷いてあった金床ごと粉砕され、灼熱の弾丸と化して飛び散りました。
近くで見ていた私は、時間をかけて設定した髪型だったのにちりちりに焼けるわ、来ていた服は焦げ跡が付いて台無しになるわ…。
まあその後ちゃんと、スキル使って調髪してもらって服も新品を作ってもらいましたから、もう怒ってないですけどね?
でもまあ、忘れないけどな。
髪の恨みはリアルじゃなかった時だって大きいのだ。
おんなのこだもの。
あとホビット女性の…名前なんだったっけ。
この人、地味に印象薄いし、転生ごとに名前変えるからすぐ忘れるわ。
雛なんとかだのクランなんだのプルプルプルプルだのなのなの言う子だのにぱーとか言う子だの。
ああ、ロリ好きの変態紳士君、だ。エーと、今は熊子さん、だっけ。
くりくりとした目を片一方だけ出して、もう一方は前髪で隠している。
ホビット族の特徴である、その成人しても低い身長と薄い胸が彼の好みにあっていたらしく、転生してもずっとホビットばかりだった。
まあ、デザインは変えてたけど。
会ったばかりのころは、金髪ふわふわ碧眼くりくりっとした、西洋のビスクドールみたいなふんわりした印象の美幼女だった。
今は、黒髪の黒目で元気よく動き回っているあたり、完全にキャラクターとしてロールプレイしてたんだなと思う。
今のが地なんだろうか、実に生き生きしてる。
私もこの世界でなら、そんな充実した人生が送れるだろうか。
元リアルの本名を知らないとか、顔は見た事ないとかも居るけどだけど、みんなとても良い人たち。
人は悪いけど。
てな事を考えてたら、なんか皆のお話が重い方向に行きそうになる。
命かかってるんだから、ドーピングだろうとなんだろうと、手段は問えないよね?
って事で、ここに居る人たちは信用できるから、話しておく。
「あ、“速さが足りない”なら、倉庫に在庫ありますよ?」
☆
前はギルドハウス内で特定のキーを押せば、画面に倉庫画面が開いて在庫が閲覧できたけど、今はちゃんと倉庫まで移動しなければいけない。
個人用倉庫とは別に、大きな空間がギルドハウスの奥にあった。
「広いですね」
「ああ、スミソニアンもかくや、だな」
5人連れ立って、倉庫の扉を開き中に入った第一声がこれだ。
流石にスミソニアンと一緒にされると困る。
ちゃんと整理されてるし。
整理整頓魔法で、だけど。
「一応、そこに在庫一覧の本がありますから、開いてみてください」
「こいつか、どれどれ」
アマクニが入り口脇の小部屋のテーブルに置かれてある、重厚な革張りの本を手にし、開いた。
その中身はと言うと。
「真っ白じゃん」
「何も書いてないな。どうなってる?索引とかがあるんじゃないのか」
「えっと、欲しいものを本に向かって言ってみてください」
「エロ本」
熊子のお馬鹿が即答した。
しねばいいのに。
だが、そんなつまんない言葉にも本は律儀に反応し、淡い光を放つ。
『検索語彙に該当する在庫はありません』
「おお、字が浮かび上がってきおった。なるほどのぅ」
アマクニはそれだけで理解したのか、すぐさま再検索とばかりに本に向かって「能力値上昇の薬」とつぶやいた。
再び本が淡く光を放つと、そこにはこう浮かび上がってきた。
『能力値上昇の薬、で検索を行いました。該当する在庫はございますが取り出せません』
「…あるぇ?」
「…課金アイテムですから、納めた本人であるギルマスじゃないと駄目なんじゃないかしら?」
「あー焦った。そういえばそうだわ。課金アイテムだし、私じゃないと出せないよねwww」
「ビックリさせるな。しかし、こんな数の課金アイテム、よく持ってたな」
ズラリと並ぶ、能力値上昇薬一覧。
一時的に能力値をあげるポーションは自分で作ったりできるが、恒久的に上げていられるのは課金アイテムだけだ。
蛇め、銭ゲバか。
それはそうとここは個人用倉庫とは違い、メンバーなら誰でも出入り自由の共用倉庫である。
現実になった世界だから気にしてなかったが、こちらに収めた時には制約があるのだった。
いわゆる課金アイテムや、レアアイテムなど高額で取引される物は、ゲームの時には共用スペースである倉庫に入れる際にも出す際にも、ギルマス権限持ちの承認が要るのである。
ギルメンなら誰でも出し入れ自由だった初期のころ、ひと悶着あった過去があり、おかげさまでそういった物を倉庫に入れたいも出したい場合も、ギルマス権限のある者の承認が必要になったのである。
ドロボーさん対策と言うより揉め事予防だわね。
まあ、そんなもん共用スペースに入れるほうも悪いんだけど、どうしても捨てられないアイテムとか、たまるし。
私なんて、最初に使った初期アイテム、未だに個人倉庫で眠ってるし。
竜探索シリーズとか、前輪駆動シリーズとかの昔ながらのRPGでも、使うのもったいない系のアイテムとか寝かしてたし!
個人用倉庫がぎゅうぎゅうになっちゃうのも仕方ないよね!
それはともかく、現実となったこの世界、ギルメンなら誰でも入れて誰でも出れますが、持ち出せません。
魔法のおかげです。
魔法すげえ。
入れたいアイテム持って倉庫に入ると、魔法生物が勝手に棚に収めてくれるのです。
出す時も、本開いて、検索して、出てきたアイテムの文字を指でなぞりながら数を言うと、魔法生物が持ってきてくれます。
ちなみに魔法生物は10cmくらいの昆虫のような羽根を背負った、小さな妖精さん。
3匹いて、わずかにサイズが違い、大中小と区別がつきやすくなっております。
うん、どう見てもミク○イドです、スイスイヒラヒラドッコイショです、本当にありがとうございました。
ともあれ、お薬は無事アマクニのおじさんに渡せた。
親父さんは、「この薬の副作用がなぁ…」とブツブツいいながら飲み干した。
ゲーム内では能力値が100あがる、素早さ系の最強薬ですが、実際に、となるとどうなんでしょうか。
うっすらと、アマクニのおじさんの体表にピンクの輝きが浮かび、しばらくすると消えた。
「ど、どうです?」
「実感が沸かんが…こっちの世界に転生してからステータスが数値で見れんのが痛いのぉ。どれ、おいトカゲ、手合わせじゃ。あんがとよ、チア」
そう言い放ってすたすたと倉庫から出て行った。おそらくは修練場代わりになっている裏庭に行くのだろう。
あと、副作用早速出てた。
「トカゲじゃねーっつってんだろうが!まったく、中の奴が元の俺と大して年が変わらんだけに、どーもやりにくいわ、あいつだきゃあよ」
そう言いつつも、彼の後を追うカレアシン。
なんだかんだで仲が良いのはいいことだ。
しかし、課金アイテムを大量購入してきて、本当によかった。
「シア」
「何?ヘスペリス」
「貴方、課金アイテムをアレだけ買うって…。どうやって向こうで現金工面したの?」
「…それは」
「秘密ですってのは通らねーよ、シアのねーちん」
二人に挟まれて睨まれにやけられる。
無論、睨むのはヘスペリスでにやけるのは熊子さんだ。
「べ、べつにやましい事は…ちょっとだけあるかな」
「あるんかい」
異口同音に突込みが入りました、ありがとうございます。
まあ、この二人なら大丈夫だろうから言っておこう。
あと、もう一人にも言わないとなー。
「実は、会社辞めて、親の残してくれた住んでたマンション売って、そんで家財道具一式売り払って、クレジットカードも限度額一杯まで使って買えるだけ買いました」
「はぁ?」
「ねーちん外道」
「え?なんで?」
「転生しても、身体に新しく魂魄突っ込んで生活させるって、聞かなかった?シア、あなた残った自分の身体が不憫だと思わないのですか?」
「そーだー。この人非人~、人でなし~、緊那羅~」
なんじゃそら。
「いや、転生にしようと思ったけど、結局トリップ選択したのよ?私」
「はぁ?」
「ねーちんねーちん」
「何よ」
「ハイ、鏡」
「ん?」
わー、綺麗な金髪に金の混じった翠の瞳に長い耳。
あっるぇぇぇぇええええええええええぇえええええええええええええぇぇぇぇぇええ?????
☆
☆
魔獣の侵略…いや、ただただひたすらに走り続けているだけなのかもしれないが。
半月ほど前、国中の…いや、知る限り全ての国々の神殿と教会に、女神の御使いが遣わされた。
それは、あの東の大砂漠よりもさらに向こう、はるかなアフローラシア大陸から、驚異的な数の魔獣たちが侵攻してくると、神託を下すためであった。
女神はこの世界全てを生み出した存在ゆえに、それらが行う行為を断罪しない。
皆に大小の差はあれど加護を与えてくださるだけ。
そしてそれで十分だと、私は思う。
人同士ですら対立するのだから、ましてや言葉の通じぬ魔獣となど。
魔獣侵攻が事実であることが、希少な飛行幻獣使いによる偵察で確認された。
あの劣悪な環境の砂漠を、地を埋め尽くすような数の大小の魔獣が、倒れた仲間を食う事で腹を満たし、寸暇を惜しむようにこちらに迫って来ていると。
神託故に、報告の結果を待つよりも先に準備が整えられ始めており、事実と確認されて後は、取るものも取りあえず、我々騎士をはじめとした戦闘可能な者達は、女神の加護を祈りつつ戦場へと旅立っていった。
地理的に間に合わない西国の者達は、遠隔地から可能な資金援助や、現地には間に合わないが為に、国土守護の騎士たちが居ない隙を狙う盗賊等から人々を守る役目を担ってくれた。
後顧の憂いなく、目の前の戦いに挑めるというわけだ。
しかし、われらの陣の傍に立てられた陣幕は、どこの所属なのだろうか。
屋根に相当する部分に描かれた紋章は、どこの国のものでもない。
しかし、アレが紋章だとは、到底信じられない。
普通、家や国を象徴する紋章は、趣向を凝らした複雑なものが多い。
しかし、アレは…ただの赤い丸ではないか。
寄騎の者に聞けば、あの冒険者ギルドと呼ばれる者たちが詰めているという。
雑多な種族の集まりの、何でも屋。
そう揶揄されている者たちだ。
様々なアイテムの製造から武器防具の生産・修理、魔獣退治からそれこそ子供の使い程度の雑事まで請け負うためだ。
そのため、あからさまに侮蔑するものも多いが、私の見るところ凄まじい技量を持つものも多く見受けられた。
特に、あの部隊を率いていると見られる竜人や、それに常に付き従う黒エルフ、ドワーフ族の男も私ですら太刀打ちできるか怪しく思える。
負けるとは思いたくないが、勝てるとは絶対に言えぬほどに。
そして、戦いが始まった…いや、アレはもはや戦いとは呼べぬ。
蹂躙であった。
無論、我々のほうが蹂躙される側である。
唯一、敵の勢いを殺し続けられたのは、やはりあの冒険者達の陣営だけであった。
我らでは及びも付かない技と膂力。
何故か魔法攻撃を行うものは見かけなかったが、あれほどの手練が居るのだから魔法使いが居ないとは考えられない。
やはり魔道具が高価で希少ゆえにたとえ使える者が居たとしても、そう易々と手に入らない為に戦場へは出てこれないのだろう。
供をしていた寄騎達も倒され、私もこれまでかと思われた時、空が。
いや、天に蓋がされた。
そう思えるほどの巨大な何かがそこに出現した。
冒険者達がそれを見上げてなにやら歓声を上げている。
味方なのか?と疑問を感じる中、突如として巨大な鳥が、しかも炎を身に纏った、幻想の中にしかその名を記されていない、“火の鳥”が姿を現したのだ。
―――そこからの記憶は酷くあいまいだ。
火の鳥に続き、大地を凍らせ敵味方入り混じった戦場の中、鋭い氷の牙で魔獣だけを噛み千切ったのは、神話にのみその名を残す、“神を喰らう狼”。
見渡す限りに広がる魔獣を、その暗黒の息吹でひと飲みにしてしまった、伝説に聞かされる無限の力を秘めた巨人、“ギガンティス”。
魔獣の侵攻が、それらによって食い止められた後、私は信じられないものを目にしたのだ。
空に浮かぶ何かから、光り輝くエルフの女性が、降ってくるのを。
その女性は、優しく輝く暖かな光で我らを癒し、そして消えていった。
冒険者ギルドの面々と共に。
戦場に居た者にしか、理解してもらえないこの話。
国に帰ってから、何度か使える限りの伝を用いて上奏をと努力したが、聞き入れてもらえなかった。
大臣どもは、あの戦いを各国家だけの手柄にしようとしているのだ。
王に伝えようにも、近づくことさえ今は許されない。
彼らが本気ならば、国の一つや二つ容易く攻め落とせるだろう。
わざわざ冒険者ギルドなどと言うものを興してまで、氏素性のわからぬものをまとめて真っ当とはいいがたいが職に付かせるなどと言うことをする必要などはないのだ。
ただ、わが国にでも攻め込めば。
それだけで彼らは王を僭称できる。
それだけの力がある。
それだけは避けなければならない。
だから私は、行くと決めた。
冒険者ギルドに、あの女神のような女性の下で仕えたいと、そう決めたのだ。
彼等に、各国の悪意を伝える為にも。
私は行く。