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MMORPG?知ってますけどなにか?  作者: でーぶ
第二章 異世界漫遊記
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第70話 獣人と言うと何を思い浮かべます?豹と狼のコンビとか?

「はい、ただ今ご紹介に預かりましたギルドマスターのシアです、よろしくおなしゃす」

「新人のミーシャです!よろしくおねがいします!」


 酔っている訳ではないが、魔法使いまくりの徹夜明けの上に更に精霊魔法をふんだんに用いて訓練場の地形から植生まで整えてしまったシアは、ナチュラルハイ状態であった。

 そんな挨拶の言葉を受けてミーシャが自己紹介を行うと、そのぷにモフッとしたミーシャの毛並と体型に食指が動いたのかして目を輝かせたシアは、「もうがまんできな~い」とばかりに動き始めた。

 が、しかし。


「てりゃ」

「おうふ」


 どこからかいつの間にか姿を表した熊子が、シアにいわゆる「膝カックン」をしてその勢いを止めたのである。


「はい、そこの。端から順番に名前言ってけ。自己紹介よろ。そしてねーちんは餅つけ」

「あら熊子、寝なくていいの?あなたも疲れてるでしょうに」

「ねーちんの暴走を止める役目はウチが仰せつかってるんだわ、角ねーちんから」


 シアの膝裏へと激しい肘打ち(外門頂肘)を行って姿を表した熊子に、リティは労うように声をかけた。

 熊子としても正直眠りたくはあるが、この状態のシアを放っておくと色々とアレでソレな事になりかねないので重い腰を上げたのである。

 なおアレでソレな事の事例としては、元のゲーム時代に同様の状態で初心者にレクチャーしていた際に、素人には到底できそうにもない基礎動作の組み合わせによる連環コンボをやって見せ、「ね、かんたんでしょ」と言って心を折った辺りだろうか。

 なおハイジやクリスなどは支部の空き部屋に転がり込んでとっとと夢の世界に飛び込んでいる。上司を放ってさっさと眠りにつく当たり、中々冒険者ギルドに染まってきたようである。まあ実際限界だったのだろうが。


「うー、ひーどーいー」

「ひどくない。ほれ、自己紹介スタート!」


 涙目のシアをサクッと放置して、熊子は新人たちへと声をかけた。

 しかし、新人たちは呆然とした状態で熊子を見つめるのみであった。

 ただ一人、ミーシャだけはやたらをキラキラした目で熊子を見つめていたが。


「あー、改めて。シアと一緒にお前らの指導員を務めることになった熊子っちゅうもんだ。硬度は九、銘は金緑石(アレキサンドライト)な。こっちはさっきも聞いただろうがギルマスのシアな。硬度十、銘は星の金剛石(ダイヤモンド・スター)。言っとくけど、ウチもシアも、見た目こんなんでもお前らが千人居ても小指で捻れるからな?ほれ、自己紹介始め!」


 脅すわけではないだろうが、初めにきっちり言っておかないとわからない者も居る。

 言ってもわからないものも居るだろうが、そんな奴はギルドから放り出すつもりの熊子である。


「はいっ!ミーシャですっ!獣人ですっ!何の獣人かはよくわかりません!」

「……いやチミはさっきも聞いた、って何の獣人かワカランってなんでまた」


 元気よくもう一度自己紹介を行うミーシャに突っ込む熊子であったが、彼女の言う「何の獣人かわからない」と言う言葉に疑問を持ったのは必然であろう。


「なんでだろうね~」

「いやウチが聞いてるんだってばよ」


 ボケ殺しとでも言えばいいのか、天然な様子のミーシャに、熊子のツッコミは軽くスルーされてしまうのだった。


「あの、ミーシャは獣化がちゃんと出来ないんです。半獣化までは出来るんですけど、それだと何の獣種かよくわからなくて……。あっ、私ミーシャの実の姉でマーシャと言います、すいません、よろしくお願いします」

「ふむん?」


 およそ獣人はその特徴が普段から外見に出ている為、大まかな獣種の判別は付くのだが、彼女のそれは判別不能だという。

 分かりやすいのは比較的人口比率が高く接する機会が多い猫種や犬種であるが、ソレにしたところで更に細かな分類は存在する為、しっかりとそれだと認識できるわけでもないが。

 実は虎種などは本来猫種に含まれたり、狼種と犬種は違うのだ!と力説するものが居たりと、実のところ分類学的にはっきりと区別されているわけではなかったりする。

 本来ならば親から子へと伝えられるのが筋なのだが、孤児であればそれを求めるのは酷というものであろう。


「ミーシャちゃんミーシャちゃん」

「はいっ」

「獣化してみて?」


 シアは、ミーシャに手招きして気楽にそう言った。


「ふんぬー!」

「うーん」


 全身に力を込めて、ミーシャは獣化を行おうと奮闘していた。

 が、それは遅々として進まず、せいぜい体毛が伸び毛深くなる程度であった。


「これはこれで」

「よくねーからな、ねーちん」


 ふわふわもこもこの半獣化状態になっただけのミーシャを見てご満悦なシアにツッコミを入れて、熊子は改めて彼女を見つめた。

 ジーっと見つめる熊子に、ミーシャは獣化への注力を止め、見つめ返した。

 お互いにしばし見つめ合う中、先に視線を切ったのは熊子の方であった。


「ねーちんや」

「なんぞ」


熊子はミーシャの様子をじっくり見たあと、服のあちこちに手を突っ込み、何やら取り出そうと奮戦しばがらシアに声をかけた。


「んーと、っとあったあった」

「む?」


あちこちに手を突っ込んだ挙句、結局上着の内ポケットから取り出したのは、何やら細かな棘だらけの、種類もよくわからない一粒の種子であった。


「うりゃ」

「はわっ!?」


ぺちりとばかりにミーシャの額に取り出したそれを放り投げると、それはもふりとした体毛に見事に絡まり、どこぞの恒点観測員のようにまるでビンディがごとく引っ付いたのである。


「……うーむ、そうきたか」

「ホレねーちん。やったげて」

「私っ!?」


いきなり指名されて驚くシアであったが、それもつかの間。

彼女が腰のポーチからずるうりと取り出したのは、柄や鞘に革紐が巻かれた拵えの、湾曲した剣――太刀――であった。


「ぬうんっ!」

「はわっ?!」


 シアは自身の肩ほどまである長さの太刀の鯉口を音もなく切ると、そのまま構えもせずに抜き打ち、その剣閃はぼけーっとその様子を見ていたミーシャへと放たれたのだ。

 当然ミーシャにはそれに反応できる事はできず、それを止められるかもしれない熊子とリティはというと、意外や無反応であった。

 シアが本気で剣を放った場合、並の人類ではガードすらできず防具ごと両断されても不思議ではない。


「ありゃ」

「ほえー」


 高レベルの圧倒的な膂力で放たれた剣は、しかしながらミーシャには届かなかった。


「おっ、獣化完了?」

「せやな……って、これもしかして」


 額に張り付かせた、いわゆるヒッツキ虫とも呼ばれる類の種子は、シアの手により見事十字に切り裂かれていた、が。

 ミーシャには、毛ほどの、いやその体毛の一筋すら断たれてはいなかったのである。


「おおー、完全獣化ー?できてるー?」

「できてるよ、すごいねミーシャ!」


 振り抜いていた体勢をゆっくりと戻し、放り捨てられていた鞘を拾い上げて音もなく静か納刀し、腰に一旦太刀を戻したその時、ようやく新人達は何が行われたのかが理解できたのだった。

生命の危機に瀕した際(イヤボーン)にその潜在能力が発揮されるのはよくある話で、熊子もそれを意図して行わせたわけである。

まあ、昨日【潜在POT】を飲ませていた事もあり、こういう方面でも影響があったのだろう。

そして半獣化ではよくわからなかったというそのミーシャの完全獣化した姿は、どこからどう見ても。


「コアラ……かしら?」

「この世界にもコアラおるんか……」

「……もふもふさが増した……だと……」


そう、立派なコアラだった。

つぶらな瞳に大きな耳、もふもふの体毛。

どこからどう見ても、癒し系アニモー筆頭の、コアラであった。

間違っても背番号1994なマスコットキャラではない。


「コア……ラ……?」

「そんなの聞いたことないですけど」


新人連中は、当の本人は愚か、ジョニーを始めとして全員が首を傾げていた。

それはそうだろう。

生態系が似ているこの世界、確かに有袋類も居たのかもしれない。

だがしかし、それほど似通っているならば、居たとしても遠くはるかな海の向こうの大陸に生息しているのではなかろうか。あるいは生存競争に負けて絶滅しているかもしれないし。

まあ元の世界同様、切り離された地域に生息していると仮定しても間違いないだろうが。

しかしそれにしても。

この世界の獣人は幾通り居るのであろうか。


「うーむ、まあレアだってことで」

「レアだからと言って有能とは限んないけどね。頑張って取った星5キャラが産廃でしたとかよくあること」

「ソシャゲキャラ扱いはやめてあげような?ねーちん達」


そんなこんながありつつも、新人指導二日目が幕を開けたのであった。



「ココにあるやつ自由に使っていいって……?」

「ちゃんと貸出し申請したら、オッケーらしい」

「持ち逃げされたらどうするんだよ……」


 一方その頃、シア達によって確保されたギルドメンバー外の転生者三人組は、ルーテティア支部の倉庫で眠る装備の山を前にして、呆気にとられていた。


「この世界に来てみて、店売り武器がどれもコレも初期装備程度のしかなかったのに絶望したもんだけど」

「俺は店に辿り着く前に……毒盛られてとっ捕まった」

「お前もか」

「何やってたんだお前ら」


倉庫内の武器を眺めながら進み、それぞれ気に入った品を手にとっては身体に合わせてみたり構えてみたりとを繰り返し、一通りの装備を決めたところで、彼らの背後にメリューが姿を表していた。

残念ながら、鑑定系のスキルは持っていないらしい。


「お決まりになりましたか?」

「あ、はい」


その声に反応できたのは、金髪の男、アルバトロナール・A児・アズマだけであった。

ちなみに他の二名はと言うと。ちょっぴり欲をかいて「これは予備、予備だから」「必要っ、弱者である俺らには必要な装備っ、予備っ」などと呟きつつ、色々と手を伸ばしてしていたところであった。


「おまえら……」

「いや、これはその」

「ほ、ほんの出来心で」


両手いっぱいに装備を抱えた二人は、バツの悪そうな表情で手にした装備を戻し始めたが。


「別にここの中の品は中古品ですからいくつ持ち出しをされても構いませんが……」

「えっ、いいの?」

「紛失した際には、それ相応のペナルティが御座います。正当な理由のない場合、まあ転売とかですね。そう言った際にはもちろん買い戻していただくのは当然ですが――」

「ですが?」

「横領というのは犯罪なのですよ?」


当然のごとく、当局に引き渡すという、実にまっとうな処理を行うと言われ、二人はある意味恐怖した。


「まあ冗談はそれくらいにしておきましょうか」


メリューはその豊満な肉体を揺らしながら三人に近づくと、上からしたまで舐めるように見た後に、駄目出しを始めた。


「ニンジャが重装甲付けてどうするんですか。寧ろ裸のほうが回避あがるんですから寧ろ脱げ。と言うかそこまでレベルが高く無いということでしょうか」

「すいませんその仕様、別ゲーなんですよ」


元「中忍」のアルバトロナール・A児・アズマは、そう言いつつも、たしかに自分の保持スキルとは相性が悪いと納得して装備を外し始めた。


「って、やっぱりギルドの偉い人って俺達と同じ?」

「ええ、そうですよ?今頃気がついたんですか?」

「まじかー」


淡々と告げるメリューに、A児は向き直って頭を下げた。


「あっ、改めまして。よろしくご指導ご鞭撻よろしくお願いいたしましゅ!」


少し噛んだが。

まあ噛んだのはともかく、それに自分から気が付き、礼を尽くす者に対してメリューたち冒険者ギルドはある意味優しくある意味厳しかった。


「はい、承りましょう。ではまず、自分にできることとできないことをきっちりと理解してもらうことにしましょう。どうやら他のお二方もそのあたり理解されていないようですので」

「え?」


言われて見回すと、他の二人、銀髪のジークフリード・ローエングリーンと黒髪のアレキサンドロス・ズルカルナインは、倉庫の奥へと足を進め、自分の身の丈に合わない装備を選びに選んでいた。


「一揃いだけというなら出来る限り高そうで強そうなやつを……」

「稼げる様になるためにも、先ずは武器っ装備っ。死なないための防具っ」

「あいつら……」


弓兵であるお前たちが、重装備で剣や槍を履いてどうするんだと、大きくため息を漏らすA児なのであった。



「で、こいつらも追加だって」

「よろしくお願いします!」

「しまーす」

「よろー」


コアラの獣人という事が判明したミーシャを愛でていると、メリューが新人転生者三人組を引き連れてシア達の前に現れた。


「金髪の小僧はマシな顔つきしてるけど、銀髪と黒髪は腑抜けた顔してんな」

「しっ、熊子ってば聞こえるわよ」

「聞かせてんだよねーちん」


目の前に並ぶ現地採用新人と自分たち同様の転生新人。

さてどうするかと考え始めた熊子であったが、隣に立つシアの一言でそれは中断されることっとなった。


「じゃあ私が追いかけるから、あのアスレチックコースを逃げてみてもらおうかしら」


シアはお手製のアスレチックコースと化した訓練場を指差してそう言うと、ニッコリ笑ってこう続けた。


「ああ、装備は外しても付けたままでも良いからね。私は付けたままで行くけど」


そう言って見せると、いつの間にかシアはフル装備の、全身これ宝具的なレベルの姿へと変わっていたのである。


「ねーちん、本気やね」

「訓練は実戦の如く!実戦は訓練の如く!が基本でしょ」


なおゲームは現実の如く、現実はゲームの如くとは行かないのである。悲しいことに。

そしてそんなシアを目にした各新人たちの反応は、その凄さがわかる者(転生者)わからない者(現地採用者)気にしない者(ミーシャ)と様々であったが、熊子による号令をもって訓練が開始されるまで、呆然としていたのは言うまでもない。

https://twitter.com/debudebu2015

(;´Д`)ツイッター始めてました


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