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MMORPG?知ってますけどなにか?  作者: でーぶ
第二章 異世界漫遊記
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第69話 ナチュラルハイってなったことあります?あれって状態異常なのかしらね?

おひさ(・ω・)ノシ

 蒼衣の戦士、若しくは蒼き獅子ことカールマンとその妻イスズは、シア達と共に王都に戻り彼らと別れると、その足で都市の中心部にそびえ立つ王城の裏手へと足を運んだ。

 王城の裏門……では無く、王城の外壁から少し離れた場所にある、深い緑に包まれた集団墓地に足を踏み入れたのである。大小様々な墓石が居並ぶ中を滑るように進んだ二人は、植えられた樹々に埋もれるように鎮座している小さな庵のような墓所に近寄ると、その一枚岩から削りだされた継ぎ目があるようには思えないその墓石の扉を開いて、周囲を警戒しつつその身を滑り込ませたのだ。


「他の誰かが使った痕跡は?」

「ありません、挟んでおいた私の髪もそのままでした」

「そうか」


 そこは、いざという時の王城からの脱出ルート、隠し通路の出口であった。現在は主に仕事の息抜き……ではなく、市井を知らねば真の政は行えないという為政者の矜持に基づいて、お忍びで外出する為の裏玄関となっているのであった。直接市民の生活を目の当たりにし、その身をもって体験することにより、机上の政策を地に足をつけたものにするためなのである(強弁)。

 そう、何を隠そう蒼衣の戦士ことカールマンとその妻イスズは、ゴール王国の国王とその王妃なのであった。なお、本当に隠し通せていると思っているのは国王本人ぐらいであるが。


「陛下、やけに遅いお帰りで。何をしておいでだったのですか?王妃様もご一緒でしたから安心しておりましたものを」


 通路の終端にたどり着いた二人が壁の一部を押し込むと、通路正面の壁がスライドし、明るい光が暗闇の通路に差し込む。その光の中に佇んでいたのは一人の侍女服に身を包んだ女性。そして彼らを出迎えたのは、遠慮会釈のない慇懃無礼な言葉であった。

 隠し通路の王城側の出入り口は、当然の事ながら王の私室である。

 すなわち、彼がお忍びで出歩く際は、私室は完全に無人、というわけにはいかなかった。

 無人であることを隠す必要があるため、信用のおける人物に後を託し、面会等の申し込みを断ってもらう必要があるからだ。

 故に、隠し通路の存在を知るのは王城には王夫婦以外にも幾人か存在し、そのうちの一人が今現在、出入り口前で直立不動で二人を見据え剰え糾弾している存在である、この王宮の侍女長、ヨランドだ。


「し、執務時間外に好きなようにして何が悪い」

「色々と。可及的速やかに報告を致さねばならない事案など、昼夜関係ございませぬ故」


 まだ執務の開始には早いとはいえ、もう日も昇って早朝とはいえない時間である。昨晩から今まで、いつ戻るやも知れぬ二人を、隠し通路の出入り口前でずっと立ったまま待ち続けていたのだろうか。しかしながらその姿勢には疲れなどというものは一切伺えず、そろそろ初老《40歳》を超えるというのに老いさえも見せないその姿に、国王といえど気後れする存在でもあった。


「陛下、やけにのんびりとしたご帰還ですな」


 侍女長からの叱責を聞き流しながら装備を解くカールマンに、いつからそこにいたのか壮年の偉丈夫が苦笑いを浮かべながらソファーから立ち上がっていた。

 言わずと知れたこの国の将軍、ジョセフ・ジョフルである。


「む、戻ったかジョセフ……のんびり、か。のんびり……なぁ……」

「あれをのんびりと言われると、少なくない異論を呈したくはなりますね」


  ゴール王国軍の将軍であるジョセフ・ジョフルはカールマンにとってはまさに右腕ともいえる存在であり、王太子擁立以前からの旧知の間柄であった。

 それ故に、お互いの性格も、その行動パターンも把握されており、侍女長も彼ならばよしとして入室させたのであろう。

 そんなジョセフであったがさすがの彼も、軽い皮肉に国王夫妻がそろって乾いた笑みを浮かべて沈んだ空気を纏うとは考えてもいなかった。


「一体何が?」

「いいわ、あったことをキチンとお話してさし上げましょう。よろしいですね、陛下」

「ああ、当然だな。と言うかジョセフ、お前酒臭いぞ」

「ええ、少々あそこ(・・・)の乱痴気騒ぎに巻き込まれかけたもので」

「乱痴気騒ぎに巻き込まれた、か。そちらの方がどれだけ気楽だったか……」


 正直自分たちだけで、新たに知ることとなった冒険者ギルドのデタラメさ加減を抱えていたくない、と言うのが本音の国王夫婦であったが、それに対する逆撃を将軍から食らうことになるとは思ってもいなかったのである。


 ☆


「ただいまかえりました!どちら様ですか!ギルドマスターのシアちゃんです!お入りください!ありがとう!」

「久しぶりに聞くなー、そのネタ」

「これで中にいる支部の人たちが一斉に転んでくれてたら完璧なんだけどね」

「流石にその反応は無理でしょ」

「ていうかシアってばテンションたけーなー」

「睡眠不足でナチュラルハイなんじゃない?」


 冒険者ギルドルーテティア支部の玄関前で立ち止まり、やけにハイテンションで声を上げるシアに、ぞろぞろと連れ立って歩いていた帰還メンバーらは、口々に突込みやら感想やらを語っていた。


「意味が分からないです……」

「あんたもかい?私もだよ」


 おいてけぼりなハイジとクリスはもうあきらめの表情であった。


「まあそれはともかく入りましょ」

「うんうん、さすがにお腹すいたし正直眠い」


 そう言いながら、正面玄関のノブに手をかけて、開きながらシアはある事にふと気づいた。


「あれ?玄関前で立哨してる人が――」


 いなかったっけ、と言い切る前に。


「臭っ!酒臭っ!?」


 何気なく開いた扉の隙間から流れ出てきたのは、これでもかというほどのアルコール臭と、それに混じった酸っぱい臭いであった。


「あー、これまた派手に……」


 立ちすくんだシアの横から顔を出したのは、ルーテティア支部長のリティであった。 固まるシアから扉のノブをするりと奪い、一気に開く。

 するとそこには。


「うーん、こうなるだろうなとは思ってたけど、予想通りすぎてなんだかなー」

「酒は飲んでも飲まれるな、って話さ。俺なんか見ろ、ちゃんと最後の一滴まで飲み干してからちゃんとベッドに潜り込んで寝るぜ?」

「牙ねーちんの場合は途中途中で寝落ちしながらじゃん」


 元気に走り回る酔っぱらい共の姿が!という事は当然無く。

 見るも無残な状態のギルド支部内部は、それこそ急性アルコール中毒で死人が出ているのではないかと思われるレベルでひっくり返った者たちで溢れかえっていたのである。

 わりと酒飲みの部類に入る竜人メリューと、有れば有るだけ飲み倒す獣人セイバーですら呆れがかなり混じった声で、その同じギルドメンバーの醜態を嘆いていた。


 リティが開いた扉を抜けて、ギルド内にスタスタと歩みを進めたメリューとセイバーの二人は、メインホールから食堂にかけてボロ雑巾のごとく死屍累々と横たわる者たちを一人一人引きずっては裏の出入り口から中庭に放り出しはじめた。


「こんなになるまで飲むなんて酒に対する冒涜だぞ、全く。ほいっと」

「はーい、精霊さん!お願いしますっ!」


 セイバーらによって屋外に放り出された者は、流れ作業のようにメリューによる精霊魔法により大量の水を頭から浴びせかけられ、その酒と吐瀉物に塗れた汚物状態からはなんとか脱出することとなったのである。


 ☆


「うー」

「頭が割れそうに痛い」


 酒によって引っくり返っていたのは老若男女を問わず、冒険者ギルドに入りたての新入りからベテラン、たまたま来店していたこの地域のお得意さん方まで、様々であった。


「はーい、二日酔いの方々~。宴の翌朝恒例の「解毒魔法」サービスですよー。迎え酒の方がいいって言うならそっちのカウンターでどうぞ~」

「ああ、新人君たちはそのまま装備付けて裏に集合。今日の訓練始めるからね」

「え」

「なんでー?」


 水をぶっかけられた面々は、よろよろと起き上がりながら、メリューによる神聖魔法の恩恵に預かろうと動き出していた。

 それに続こうとしていた昨日ギルドに加入したばかりの地元の若人、期待の新人六名は、リティの言葉によってその体調不良のまま訓練に参加するよう言い渡されていた。


「どんな体調でも、一度現場に出張ったら嫌とはいえない状況が待ってる可能性はあるのさ」

「お腹すいててもご飯が無くて食べられないみたいなもの~?」

「だいたいあってる。終わったら死ぬほど食わせてやんよ。さっさと支度してきな!」


 その叱責を背に、呻きを上げながら装備を整えに行った新人を見送り、リティはシアへと視線を送った。


「ほ?」

「ふふん、シア?ちょーいと手ぇ貸してもらえるかい?」

「こんな手で良ければ何本でも~」

「じゃあ5・6本おなしゃす」

「残念、限定2本まで」


 シアとリティの二人は、何やらボソボソと会話をすると、にこやかに微笑みながら、二人はそれはそれは楽しげに、訓練場を見渡した。


「いつもはメリューにやってもらってんだけどねぇ。流石にそろそろガス欠みたいだしさ」


 そう言ってリティは未だ続く解毒魔法サービスの行列の先頭で神聖魔法をかけまくるメリューをちらりと見、シアへと顔を向けた。

 昨晩からこっち、魔法職の彼女は休む暇なく魔法を使いまくってきた為、流石に魔力が底をつき始めていた。

 多少の余裕があるリティはと言うと、これからシアに行ってもらう技能を保持していなかった。


「こう、あれだね。詠唱魔法専門ってのも考えもんかね?」

「いやー、色々やれるってのも考えものだけどね。器用貧乏待ったなしだし」

「アンタがそれ言うと嫌味にしか聞こえないんだけどねぇ」

「いやあ」

「まあそれはともかく、私も訓練の用意して来るから。任せたよ」

「らじゃ」


 装備を整えにギルドハウス内へと戻るリティを見送って、シアはふんすとばかりに気合を入れなおし、柏手を打つように両手の平を目の前で打ち鳴らすと、魔力を込めた手の平をそのまま地面へと叩きつけた。


 ☆


「準備は出来たかい?出来てないならそのままでも良いけど、キツさを倍にするよ!」

「じゅ、準備完了しました」

「しました~」


 新人六名、ジョニーを始めとした貧民街出身の少年少女は、眠気と二日酔いの辛さを抱えつつ、装備を整え終えて食堂にいた。

 なおこの世界、飲酒可能年齢等の規制はないが、ジョニーらは既に成人と認められる年令に達している為、無問題である。

 でなければギルドに正式加入は認められないからだ。

 それはともかく、彼らは昨日と変わらぬ装備を身に着け、ジョニーを先頭に整然と一列に並んでいた。


「結構。それでは本日の訓練を開始します。昨日よりちょっぴりきつめだけど、ただ走るだけだから。まあ頑張りな」


 こちらも昨日と同様の重装備に身を包み、巨大なフレームザックを背負ったリティはそれだけ言うと踵を返して訓練場へと足を向けた。


「きょうもがんばるぞ~」

「ミーシャはいつも元気だね……」

「おう、マーシャは元気ないのか?しんどいか?」

「正直しんどい」


 リティに続いて歩きはじめたジョニーに続いて昨日の疲労を微塵も見せない獣人少女のミーシャに、その背後から声がかけられた。

 マーシャと呼ばれた少女は、ミーシャとよく似た顔立ちながら、少々大人びた雰囲気を持っていた。

 実は彼女はミーシャの姉であるが、普通人として生まれたため体力的に辛いのであろう。

 この世界、混血というのが存在せず、異なる種族で子を成した場合、親のどちらかの性質を継いで生まれてくるのだ。

 二人の親は、物心付いた頃には普通人の母しかおらず、その母も二人を育てる為に苦労して働いた末に既に身罷っていた。その父がどういった種族でどういった人物なのかは、彼女たちは詳しく知るすべのないまま今に至っていた。


「今はそれでも頑張らなきゃだめだから。大丈夫だよ」

「おう、ミーシャもがんばるからマーシャもがんばれ」

「……うん!」


 天真爛漫に笑顔を浮かべるミーシャに、そう応えるマーシャ。

 そんな二人を微笑ましげに見つめる三人が居た。


「脳天気なのが羨ましいというかなんというか」

「付き合い短かったら腹立つだろうな」

「……元気なのは良いことだ」


 ジョニーやミーシャ・マーシャ姉妹同様に、貧民街から付いて来た者たちである。

 獣人の少女と、普通人の少年二人。

 ジョニーらに着いてきていなければ、貧民街で今でも燻っていただろう事を重々承知している三人であった。


「ほら何ボーッとしてるんだい?今日もきっちり扱かれてきな」


 そんな彼らに、クリスチーネからの激が飛ぶ。

 彼女も昨晩からの宴会で相当に痛飲した筈であったが、もう既にいつもと変わらぬ立ち振舞であった。


「あの人、魔法かけてもらってない、はず」

「上位の人はトンデモないって話は本当なんだな……」

「……元気なのは良いことだ」


 慌てて訓練場へと走り出した彼らを、クリスチーネは楽しげに見送って、その場を後にした。


 ☆


「なんっだこりゃ」


 訓練場に足を踏み入れた新人連中は、そこに有り得ない光景を見たのである。


「あすれちーっく!な訓練場へようこそようこ」


 そしてそんな呆然とする新人達の前に、そのあり得ない光景を作り上げた張本人、やたらとハイテンションなシアがくるくると回りながら姿を表したのだ。


「あすれちーっく?」

「そそ、あすれちーっく!」

「あすれちーっく!!」

「あすれちーっく!!」


 シアの言葉に反応したミーシャが、やけにノリノリでシアとともに叫びだしたりしたが、その他の面々は目の前の光景が信じられないとばかりにあっけにとられていた。


「まっ平らだったはずの訓練場が……」

「いつの間に……」


 それもそのはず、ただの広場であったはずのそこは、いつのまにやら起伏に飛んだ地形へと変わっており、更には幾つもの大小様々な樹々がそれを彩り、あまつさえそれらを利用した障害コースまで築かれていたのである。まさにアスレチックコースさながらに。


「はーい、せいれーつ。本日の訓練を担当してくださる教官を紹介しまーす」

「されまーす」

「あすれちーっく!」


 波長が合うのかして、やけにノリノリになっているシアとミーシャの背後から、リティが淡々と訓練の進行を始めた。

 過去にはよくあったことなのかもしれない、徹夜に徹夜を重ねた末のナチュラルハイ程度は。

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