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MMORPG?知ってますけどなにか?  作者: でーぶ
第二章 異世界漫遊記
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第66話 竜来々?正しくは竜来竜来ですよね?

熊子に促されて振り向いたそこには、巨大な、あまりにも巨大な(ドラゴン)が、ギルドハウスの結界ギリギリの位置まで近づき、明らかに館橋の自分たちを知覚している様子が見て取れる挙動をしているのである。


「おお……でけえ……かっけぇ……」

「落ち着いてるねぇ、ねーちん……」


さすがに5レウガ(約11km)程もあるギルドハウスには及ばないが、その巨体はシアをぎろりと見つめてくるその眼一つとっても、中に入れそうな程の巨大さだ。

リアルで目の中に入れても痛くないが出来そうなレベルででかいのである。

サイズ的には頭だけでも1チェイン(20m)を確実に越しているだろう。

もう少し離れてくれたら全景が視界に収められるのにとまでは考えるが、さすがに視線を飛ばして全体を見るほどの余裕は生じていないようである。


「落ち着いてるっていうかねー、テンパッてはいるのよ?でも、なんか敵意感じないし、それに危険察知も気配察知も働かなかったのよねぇ……」


ギルメンなら誰もが取得している常時発動型の気配察知スキルや、エルフなどの特定種族や斥候職(スカウト)などが適正を持つ危険察知スキル。

これらに反応しないということは、何を意味するのか、二人は理解していた。


「アレね、某ダンジョン型RPGの三作目で、名前の日本語表記間違ってるって原作者に突っ込まれてたあのドラゴン的な?」

「まあ、そうなるねぇ。て言うか、たぶんウチらアレと会ってる……」

「うそん!?」


シアにとっては衝撃的な言葉に、熊子はとことことシアを押しのけるとベランダの柵の上にぴょんと飛び乗り、「おいっす!」と叫んで片手を振り上げた。

すると明らかに熊子を認識した様子で、目玉をぎょろりと動かすと、巌のようなその竜の顔が、わずかに歪み、まるで笑みを浮かべるかのように動いたのである。



『久しいな、小さき者よ』

「あ、直接脳内に!?」

『……言った方がいいのか?主らに教えてもらった、小ネタと言う奴を』

「ねーちんが調子に乗るから言わないであげて。お久しゅう、山親爺殿」

『うむ、息災で何より』

「なに?熊子知り合い!?羨ましい!」


知り合った経緯をプリーズ!と言うシアに、また後で詳しく話すからと言って、熊子は巨大な竜に向かって大声で叫んだ。


「山親爺殿?この(天の磐船の)上に降りられる?ちーと位なら森の木踏み潰してもいいから。あとねーちん、結界限定解除よろしく」

『……努力してみよう』

「え、あ、うん。りょーかい。“結界限定解除(入っていいよ)”」


竜はそう言うと、天の磐船からゆっくりと離れ、シアは熊子に言われたとおり、ギルドハウスへの出入りを許可した。


一旦大きく天の磐船から離れた竜は、半ばほどまでにたんでいた翼を大きく広げるとふわりと高度を上げ、ゆったりと弧を描くようにギルドの後方上空位置すると、今度は翼をたたんで降下しての加速に移ったのである。

そうして天の磐船へと突き進み、館に覆いかぶさるような位置取りからさらに前方へと水平飛行に以降した後、翼を大きく広げると同時に、前腕部の脇の下にいくつも並ぶ鰓のような亀裂から風の魔力を纏った空気を吹き出してギルドハウスの地面に吹き溜まらせたのだ。

それは着地の衝撃を和らげるクッションの役目をするようで、竜はゆっくりとその足を下ろすことに成功したのである。ずしんという地響きとともに。


「おお、ないすたっちだうん」

「ん、被害出なくてよかった。んじゃねーちん、ご挨拶といきますか」

「そだね。ちょーっと待ってね。空中で停止状態ならここ(館橋)に居続ける必要もないし、っと……行きますか」


熊子に言われて天の磐船の速度を落とし始めたシアは、その速度が落ちきったのを確認してから熊子と共に館橋を後にした。

無論、たまちゃんとようじょも一緒に。




「っと流石にみんな気づいたみたいね」

「そりゃー気づくっしょ。あのサイズじゃどんなにソフトランディングでも響くもんは響くしね。ウチの面子なら酔っ払って寝こけてても飛び起きなきゃ嘘だわ」


シア達が館の外に出てみると、そこには既に他のギルドメンバーらの姿もあり、地に伏せた姿勢の竜と向かい合っていた。


「お久しゅうございますね、大賢竜ビートーン」

『お主らも息災で何よりだ』


シア達がそばにいくと、やはり熊子の言うとおり知己であるようで、呉羽が代表して会話を行っているようであった。


「くれは〜、もうご挨拶は済んじゃった?」

「あらシア。ええ、簡単にはね。こちら、うちのギルドマスター(親分)、シアよ。シア、こちらは竜の大賢者、ビートーン」

「先程は失礼いたしました。改めて、はじめまして、シアと申します」


シアが近づくと、呉羽はシアを手招きして竜の鼻先まで連れ立ってゆき、お互いを紹介しあわせた。

ビートーンは、四肢を折りたたみ寝そべるようにその巨大な顔を地面につけ、眼球だけを動かしてシアを見つめ、その挨拶に応えた。


『小さき者たちにはビートーンと呼ばれている。そうか、お主が……』

「はい?」

『いや、こちらの話だ』


シアの顔をまじまじと見つめると、ビートーンは何かに納得したかのように瞼を閉じ、ゴロゴロと機嫌良さ気に喉を鳴らしたのである。

シアが改めての挨拶をし終えると、背後からカレアシンが進み出てビートーンに向かって「久しぶりだなぁ、死に損なってたか」と声をかけた。

ゆるりとまぶたを開いた竜は、目を細めてその言葉に答え『殺せるものなら殺してみるがいい』と声にせず笑った。

そして一頻り減らず口を叩きあった後、カレアシンは真剣な顔つきで竜に尋ねた。


「んでビートーンの爺様よ、いつの間に動けるようになったんだ?」


そのカレアシンの問いかけに、ビートーンは目を細めて口元を歪ませると、『つい先程だ』と答えた。


「ついさっき?初めて俺らがあんたと会った時からずっと、あんたはピクリとも動けない状態だったじゃねえか。それがいきなり動けるようになった、だと?」

『ああ、そうだ。小さき者たちはいざ知らず、我らのような神代の時代から生きながらえておる身にとって、動くためだけでもそれなりの魔素が必要でな』


言って、その巨大な片腕を上げてみせる。


『何年前になるか、我ら竜に限らず、幻獣とお主らが呼ぶような者たちは、その巨体さ故に身動きがとれなくなったのじゃ』


巨岩を連ねたような豪腕をゆるうりと動かす竜に、カレアシンは「ふむ」と嘆息し、納得したかのように口を開いた。


「要は魔力が足りなくて動けなかった、と。んで急に魔力が戻ってきた、って事でいいんだな?」

『正確に言うならば、魔力が足りなかったのではない。魔力を生み出すための根本たるものが極端に少なくなっておったのだ』


空に、海に、陸に。

世界中に普遍的に存在していたモノが、ある時を境に失われ、そして再び蘇ったというのだ。


「えっと、それってもしかして……」

「元コイツが原因だったんじゃね?」

【を?】

『ふむ?』


シアと熊子の言葉にぎょろり、と竜の視線が動く。

シアの足元でたまちゃんとじゃれあっている妖女が、なんかいようかい?とばかりにその動きを止めて、その桁外れに大きな体躯を誇る竜に視線を向けた。


【ををぅ】

『ほう、このような存在は初めて見るが……ふむ』

「まあ初めて見るだろうとは思うよ。異界からやってきた魔神の思念体か何かがカタチを取ろうとしていたみたいなんだが、うちの親分(シア)が『魔素喰らい』って奴を吹き飛ばそうとした所にちょうど這い出てきやがってな」


どうせならもっと別な這い寄る奴が良かった。などと口にしながら、妖女に関して竜に説明してゆく。

無論、同時に倒した魔素喰らいについてもだ。

それをひと通り聞いたビートーンは、目を凝らすように細めて妖女を見つめ、ぐらぐらと喉を鳴らした。

それはもしや笑っているのか?と周囲の面々が驚くが、ひとしきり喉を鳴らし終えると落ち着いたのか先が二股に割れた細く長い舌―――とは言えその先端でさえ人の腕ほどもあるが―――をちょろりと伸ばし、妖女を突くようにしていじり始めた。


「味見?」

『今更物など食わぬ。ふむ、面白い』


ひとしきり二股の舌先で妖女を突いたり挟んで持ち上げたりひっくり返したりしていたが、得心がいったのか、ひょいとシアに投げ渡すと、鼻から突風のような息を吹き出し、再びぐらぐらと喉を鳴らした。


『小さき者の長よ。その更に小さき者を保護してやってくれぬか』

「ほい?いやまあ最初っからそのつもりだけど。ネフシュタン(あのバカ)にも言われたし」


腕に抱えた妖女をひょいと肩車して向き直ると、シアは特に気負う事もなくそう返した。

周囲の面子は「まあそうだろうなぁ」とスルーしていたが。


『そうか、それは重畳。ならばわしも一肌脱ごう』


そう言って竜は、大きく口を広げ深呼吸するかのように胸を大きくふくらませ始めた。


「んんん?魔素が盛大に吸い込まれてる?」

「あー、ねーちんは魔素見えるんだっけ。エルフは便利だあねぇ」

「普通のエルフには見えません。見えて精々魔力のラインぐらいです。さすがシア」

「あ、黒ねーちん居たんだ」

「私は誰かと違って奥ゆかしいので一々前に出たりは致しませんから」

「あら、先頭に立つ気苦労を知らずに何を言うつもりかしら」

「奥ゆかしさと矢面に立つのを避けるのとは違うわよ?ヘスペリス」

「し、シア……そんな……」

「んなことよりビートーンさんは何をする気なのかしらね」


目の前で大量の魔素を吸い込み始めた竜が、いったい何をするのか内心ワクテカのシアは、ヘスペリスと呉羽が言い争いを始めそうなところをぼきりと打ち砕いた。

そして竜に吸い込まれてしまいかねない位置での、かぶりつきの見学中である。

しばらく巨大な口全開にして周囲の魔素を盛大に吸い込んでいた竜であったが、やがてその口を閉じると、次に膨らんだ胸を元のサイズまで縮め、その身体を縮こまらせていった。

身体を折りたたんで小さく見せると言う話ではなく、正しくその体躯を縮めた(・・・)のだ。


「……一割くらい縮んだ?」

「……こりゃあ、もしかして」


その光景を見ていたギルドの面子は、ほぼ全員がその後に生じる結果を知識として知っていた。

そして、目の前で行われるそれを、全員が目の当たりにしたのである。



一頻り縮んだ巨大な竜が、ぴくりとも動かなくなり、やがて目の光が失われる。

が、しかし。

徐々に高まっていく魔力の奔流は、シアでなくとも感知できるほどとなっていった。


「きれい……」


うずくまる竜の背に亀裂が入るや、そこから魔力の残滓とも言える輝く粒が吹き出し、それが徐々に量を増やしてゆく。

そして、その亀裂から、ずるうりと姿を表したものがあった。


『ふむ、やはり清々しい気持ちになるな、前回の脱皮から幾星霜、と言ったところだからなぁ』


その背中の亀裂から現れたのは、体長にして大凡三分の二ほどの真っ白な鱗に覆われた美しい竜であった。


「やっぱ新生脱皮か……」

『そうだ』


それは、通常の、成長するための脱皮ではなく、老いさらばえた竜が生まれ変わるためのものであり、しかしながらその為にはおのが持つ能力の大半を切り捨てる行為でもあった。

為に、その能力を高めに高め、なおかつ生き長らえた竜がそれを行うのはまず起こりえなく、ありうるとすれば、死を目前にした竜が最後の力を振り絞って行う行為でもあった。

しかし、そこまで生きた竜にとって死は身近なものではなく、万が一死が近づいているとするならば、それは敵対する某かによるものであるため、それを行うことはすなわち弱体化した上で敵に相対する行為となってしまうのだ。


『ふむ、身体が軽い。いやはや、まさか新生出来るほどの魔素が命あるうちに再び溢れだしてくれるようになるとはな』

「おおう……ぴかぴかの新品竜とか、超レアじゃん。て言うか、それだと山親爺らしくない!うちの山親爺を返せ!」

『しらんがな』


無茶を言う熊子にサラリと返事をして、新生したビートーンは再び魔素をその身体一杯に吸い込み始めた。


「新生したてのくせに超強くない?この(ひと)

「そらまあ強いだろうよ。レベルとかそんなの関係ない(存在)だからな」

「ふむん、数値化も出来ないか」


そんな竜を目にして、シアは普段通り鑑定スキルを使って強さを数値化してみようと試みたが、強いということだけはわかるが、それがどれほどのものかというのははっきりとした数値としてはじき出すことが出来なかった。


「データがないってことは、倒せない存在ってことで。やっぱり最初感じたのは間違いじゃなかったと」

「倒すなよ」


そんなシアの妄言にツッコミを入れるカレアシンであったが、少々難儀なことになったなと考えていた。


「おい、爺様よ」

『なんだ、我が一族に連なるものよ』


カレアシンは龍人なために、一応竜の眷属の片隅に存在している形であるため、このようなやりとりになるのだが、それは現在のところどちらにとっても特に意味のないものであった。


「剥けた皮、置いてく気か?」

『ああ、小さき者にとっては価値が有るのだろう?我が鱗一枚を拾って泣いて喜ぶ者も過去に居たと記憶しているぞ』


確かに竜に限らず高位幻獣の鱗や爪などは、高い価値を持っている。

爪一本でも手に入れば、高い鍛冶スキルを持っている者が扱うという場合に限るが、正しく切れぬものなしの剣と成りうるのだ。

だがしかし……。


「こんなにあってもなぁ……」

『多い分には困らぬ、そう昔言っていたと記憶しておるが』

「うるせーよ」


小山のような大きさの、竜そのままのカタチを残した抜け殻は、流石に全てを買い取れるような資金を持つものが存在しないのではなかろうか、とカレアシンは悩むのだった。


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