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MMORPG?知ってますけどなにか?  作者: でーぶ
第二章 異世界漫遊記
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第59話 かくれんぼ?いえいえエクストリーム・かくれんぼですよ?

「私の隠形が見破られるとは…。正直驚きました」


シア達ギルドメンバーが並んで座る席の背後、食堂の壁から喧騒の中にも関わらずしっとりと耳に染みこむような声が聞こえたかと思うと、そこには銀髪を三つ編みに纏めたエルフの女性が姿を表していた。

斥候(スカウト)猟兵(レンジャー)系の者達が用いる、隠形系統(石ころ帽子)のスキルであろうか。

姿を表したエルフ女性に対し、シアは特にこれといった反応も返さずに目の前のヒゲ親父に視線を向けたまま、横に座るリティにヒソヒソと訪ねてみた。


「あのさ、アレっくらいのスキル熟練度で胸張れるのがこの世界のデフォ?」

「ん?結構なレベルなんじゃない?私らだと、居るのはわかっててもはっきり『そこだっ!』ってとこまでいかないし。(べあ)子とか『踊る鈴』の面子ならいざしらず」


熊子はその斥候としての能力で、今現在砂漠で行動中のギルメン達の中でも『踊る鈴』小隊のパーティーメンバーは、その育て上げた常時発動の直感スキルで、額から放電したりしながら見えない敵やら素早い敵やらを叩き伏せたりする。

ヘスペリスの持つ【危険察知(父さん妖気です)】は、ある意味予知能力のようなスキルなのでまた別物であるが。

それはともかく、こっそりひっそり会話しているつもりであるシアとリティであったが、酒のせいかはたまた風のいたずらか、二人の言葉はきっちりと当事者達の耳に届いていたようで、カールマンのみならず、銀髪のエルフ女性も大いに頬を引き攣らせたが言った当人達はどこ吹く風である。


「まあ、いい薬なんじゃないでしょうか。いつまでバレてないつもりなのか、ずっと生暖かく見守っててあげても良かったんですけれど、私達もいい加減うっとおしかったですし」


シアら二人の言葉に続き、実際に事務所に侵入を試みられているという事もあってか歯に衣を着せないメリューの意見が追い打ちをかけたのだが、そこにもう一撃、シアの次の行動が更にとどめを刺した。


「本気で隠れるならコレくらいじゃないとねぇ。……【硬質の蛇(スネェェェク!)】」


その言葉とともに、シアの隠形スキルが発動した。

今の今までその場に居たはずのシアが、カールマンの視界からその姿、いや、のみならず、気配も何もかもが消失してしまったのだ。


「こ、こいつは…」

「そんな、目の前で消えてしまうような隠形スキルだなんて…信じられない…」


カールマン銀髪エルフの二人は流石に驚きを隠せず、呆然としてしまった。


「シア、冗談もほどほどにね?て言うかあんまり手の内見せるんじゃないっ」

「んー、ちょっと調子に乗っちゃった?…ごめんなさい」


リティの窘めるような言葉に、謝罪とともに姿を表したシアであったが、その位置は先程のまま、リティとセイバーの間に座ったままで、ご丁寧に未だにセイバーがもたれ掛かっている状態であった。


「いや、おみそれした。正直な所、ギルドマスター殿の外見だけで見くびってしまっていた」

「見た目で判断して痛い目に会うのなんて、今更ですけどね。この人、私と初めてあった時に」

「すまん、ソレ以上はかんべんしてくれ」


目の前で見たシアの能力に、二人は既に諸手を上げて降参状態であった。

椅子に座ったままではあったが真正面から頭を下げたカールマンに、シアはよくあることですからと笑って答え、銀髪エルフ女性の方も、苦笑しつつカールマンの背後に立ち、過去にあった自身の初遭遇時の顛末を口にしようとしていたが、ひげ親父の懇願によりソレは回避された。


「で、今更ですがこちらの方は?」


促すようにそう言ったシアの声に、カールマンは先ほどの過去話開陳の危機を思ってか苦虫を噛み潰したかのような表情で忌々しげに口を開いた。


「俺の嫁だ。名はイスズ」


その名をカールマンが発した途端、シアの片眉が若干引きつった。


「…少々耳慣れない響きのお名前ですね。あ、他意はございません。気を悪くされたのでしたら謝罪いたします」

「いえ、お気持ちだけで。実際よく言われるのですが、もう慣れてしまいました。私の名は、今はもういない曾祖母が付けてくださった名前だそうです。ただ、部族の誰も由来を知らなくて…」


苦笑しながら言葉を返すエルフ女性、イスズに、シアはなるほどと頷き、因みに、と思い浮かんだ疑問を口にした。

その問いかけに応えたイスズからの返事は、シアの懸念通りのものであった。

彼女の、曾祖母方の血筋に連なるのは先ず父、その名はタケル、そしてその母であるイスズの祖母の名はユーノ、祖父の姉妹である大叔母はミルファで、そしてそして曾祖母本人の名はディードリッヒというそうである。


「……確かにエルフ繋がりだけども!って、自分は福神漬かよっ!」


シアのボヤキは隣に座る苦笑いしているリティーの耳にしか届かなかったのは幸いだったのであろう。


「まあそれはともかく…【遮音結界(ないしょばなし)】」


気を落ち着かせたシアがそう言いながら人差し指を立てて唇に当てつつウインクすると、そのスキルは発動した。

音の伝達を阻害する結界スキル、この世界における一般常識ではこのような一瞬での発動を行える人物は、知られていない。

それをいとも容易く、なんの集中もせずに行ったことに気付いた二人は、もはや驚きを隠そうともせず、感嘆の表情を見せていた。


「カールマンさんにイスズさん?これで余人を交えず―――とは言えませんが、他の人達には聞こえません。今日お越しになった、本題をお聞かせ願えますか?」


コレまでのお気楽そうな態度から一変して、煌めく光輝を幻視させるかのようなシアに、二人はお互いに視線を交わし、頷き合って向き直った。


「ギルドマスター殿が王都(ルーテティア)に来られる際に、商人の一行を救ったと伺ったのだが」

「ああ、はい。今朝までご一緒してましたよ?目的地が同じだったので、格安で護衛を承って」

「そうか、心から感謝する」


シアの答えを聞いたカールマンは、即座に感謝の言葉を述べ、テーブルに両手をつき、大きく頭を下げた。

イスズも同じく、彼の背後で綺麗な礼を見せ、微動だにしない。


「たった20金貨(ロア)でウチの移動要塞(シア)無敵変人(熊子)、ギルドに入って間もないとはいえスキルホルダー(一線級)の魔獣使いが二人。格安どころか大盤振る舞いよ?そこら辺の砦程度なら楽勝で落とせる戦力だわ」

「って何その二つ名」


頭を下げられて戸惑うシアの横で、リティが嘲るように口を開いた。

感謝の意を示している人物に対してソレはどうよと思ったシアだが、自身を示す二つ名に思わずツッコミを入れてしまった。

そんなシアに対し、対面に座るメリューは別に気にもせずにパタパタと手を振って補足するように言葉を継いだ。


「下手に安値で護衛を行えば、後で自分たちにではなく巡り巡って他の者に降りかかります。話だけを小耳に挟んだ連中が当ギルドのトップがその金額で動いたとなれば、下位の者達に対して『もっと安くしろ』と言ってくるのは確定的に明らか」

「あー、そういう…」

「熊子には後で言っとくけど…あとの二人(ハイジとクリス)にしてみたら、割のいい稼ぎだったんでしょうねぇ…」


フリーランスで傭兵稼業を続けていた二人にとって、普段の護衛任務などは大手の傭兵団が国家や他の商業・職人ギルドなどから受けた仕事を下請けする事で糊口を凌ぐのが普通である。

依頼主から直接請け負う等という事は稀有な部類だろう。

常識的に考えて、見ず知らずの人物に身の安全を守る役目をお願いするなどというのはまずありえない。

その背後に信頼出来る何かがあってはじめて依頼され、請け負えるのだ。

大手の傭兵団は、コレまでの実績をその名と共に。

そして冒険者ギルドは、他の追随を許さない高位魔獣に対するその類稀なる討伐達成率と小なりとはいえ一国家の後ろ盾と共に。


「その辺りは後で俺から補填させてもらってもいい。実際、少々どころではない世話をかけたようであるし」

「あの、それはありがたいんですが、そこまでなさる理由というのがわかりかねます。あの商隊とどういった御関係で?」


迷惑料とでも言うのか、護衛としての――雇われた側の価値を下げないために、補填しようとまで言ってくれるカールマンに、シアはどうしてそこまでと口にした。

そしてその問いかけに、男は若干バツの悪そうな顔をしながら、言った。


「俺の弟があの商隊に居たのさ。お前さん方がいなかったら、命を落としていただろうともな」


そう言われたシアは、目の前の男の顔を若干見開いた目で見つめた。

そしてその脳裏に浮かんだのは―――。


「ああ、ゲオルグさん(超兄貴)のお兄さんなんだ?」

「ちがいます」


つい口から出たシアの言葉に見事な捻りが加わった右手とともに即座にツッコミを入れたのは、ひげ親父本人ではなくその斜め後ろに立つエルフの若奥様、イスズであった。





一方その頃スライム退治の面々はというと。

ギルド脅威のテクノロジー―――ではなく、驚異的な討伐達成率を実現してきた幹部のお歴々は、モルダヴィア大砂漠の上空に浮かぶギルドハウス(天の磐船)内部で色々と話が弾んでいた。

発端となった黒子さんの前世の旦那の一件は、少々の混乱こそあったがここにいる全ての人間が転生組ということも有り、然程問題にはならなかった。


「し、失礼した。黒子さんの前世の旦那さんというと、交通事故でお亡くなりになったという、あの?」

「ああ、その、それ(・・)であってます。ここのギルメンだと、初期メンバーくらいしか面識がなかったかなぁ?」


その混乱もこの程度の会話で収まってしまい、ほぼ全員が「世間(異世界)は狭い」と納得して座り込んだのである。


「まさか黒子さんの旦那の死因が転生トラックだったとは」

「我ながら驚いてる。色んな意味で」


混乱こそ無いとはいえ、口々に「まさかそんなことが」「読めなかった。この我輩の目を持ってしても」などと呟いていたが、当の本人が一番驚愕しているといった口ぶりに、ソレはそうだろうな、皆納得していた。

愛しい妻と死に別れ、死んだと思ったら異世界に転生し、どうにかこうにか成人してなんとか生き残ってきた所に、前世の嫁が姿を変えて現れたのである。

喜び以上に驚きの方が大きくてもしかたのないところであろう。


「でもなんでそうだとわかったんですか?見た目も何もかも変わってるんでしょうに」

「いやソレがよ」


先ほどクロコさんとベタベタしてるのは誰やねんと指摘した踊る鈴小隊長のマリームが、少々突っ込んだ内容を尋ねると、今度はカレアシンがどっこらせと体を起こしつつ後を継いだ。


「いや、こいつがハイドして近寄ってきてたんだけどよ、黒子が手持ちの武器ぶつけようとしたら避けるどころか受け止めやがって。この世界の人間でんなこと出来る奴はそうそういねえだろ?その上に胡散くせえ奴だなぁって口を突いてでた言葉に『怪しさ大爆発か?』なんて返されたからよ。黒子と二人して『貴様転生者だな、転生者に違いあるまい!』って突っ込んでみたら大当たりw」

「いやあ」

「照れんなキモイ。まあ?普通のやつに転生云々言っても何寝言言ってんだぐらいにしか思われないだろ?ソレがこいつ思いっきり動揺してくれてな、『ててて転生ちゃうわ』とかw」

「そんな豆腐メンタルな所も好きよ、ア・ナ・タ」

「もうお前ら個室に入って出てくんな。で、問い詰めたら前世の記憶持ちでよ。ああ、俺らと一緒かーなんて思ってたらかなり細部が違ってな」


聞けば前世においてトラックに轢かれそうになっていた子供を助けようとして死亡、その際にどことも知れない空間でなんだかよくわからないまま、異世界の神様の使徒だとかいう人物に転生を勧められたという。

管轄外と言う事で、生き返ると言う選択肢は流石に無理らしく、成仏か転生かの二択と言われて仕方なく転生を選んだとか。


「んで生前の詳細っつーか名前とか教え合ってたらこの二人がキックオフ状態に突入しくさって……」

「うわ、なっつかし。歳がばれるわよ」

「うるせえこの世界じゃお前らと同い年だ。エビフライぶつけんぞ。で、だ。俺らと違って新生児として生まれてからこっち、一応男爵家に生まれたらしいんだが名ばかりの法衣貴族だったらしくてな」

「ええ、中々に苦労しました。生前に、転生ネタのネット小説なんかも摘んでましたから、色々やってみようとか最初は考えてたんですがね。権力基盤のない状態であれこれすると不味いってのは実際その通りで、若いころは自重してたんですが…歳食ってきて手元不如意だとアレだったんで魔が差したんでしょうかねぇ。危うく家ごと潰されかけました」


カレアシンの解説に色々と突っ込んだり注釈を入れたりしながら、黒子さんの前世の旦那―――名をキャスパル・ツー・クリューガー―――は、その短く刈り込んだ髪をボリボリと掻きながら、過去を思い出してか苦笑いを浮かべた。


「んまあ、儲けの大半吐き出してなんとか逃げ切りました。いやあ、生兵法は大怪我の元とはよく言ったもんです」

「何やったんだお前」

「いや、少々錬金術(・・・)を」


聞いていた者皆が錬金術?と首を捻る。

高レベルの職人スキルを使えばソレこそリアルに錬金術師達が本来目指した高み(金錬成)へとたどり着ける勢いであるが、冒険者ギルドの職人部門の長であるアマクニでも、やって出来ない事は無いが、割に合わなさすぎるしそんな事が出来ると知れたら面倒だとして技術を秘匿している始末だ。出来ないとは言わない辺りがアマクニらしい。

個人では、もし出来たとしても売るにしろなんにしろ即足がつき特定されてあとは貴金属を生む機械として死なない程度に酷使されるであろう未来が丸見えである。

そんな事を想像していた面子をよそに、元旦那は気楽そうに話を続けた。


「いやあ、故国(くに)でとある花が鑑賞目的で珍重されててね。んで、変わった色や模様の花はびっくりするぐらい高値がついてね。俺はそう言った花がモザイク病だかウイルス病だかなんだかの病気にかかったのが原因ってのを知ってたんで、な」

「手当たり次第に羅患させてみたら、狙い通りの花ができたから売りさばいた、と?」

「ええ。そんで調子に乗ってバンバン売ってたら、それが引き金になったのか、しばらくすると一気に値崩れ。儲かったのは儲かったんですが、少々質の悪い輩に目をつけられまして…」

あの僻地(守護の砦)に逃げてきた、と?…っていうかまんまチューリップ・バブルじゃねえか!自重しろや!」


「いやあ」と苦笑いしつつ頭を掻く元旦那に、周囲の面々も呆れてものが言えなくなってしまっていた。

おそらくは値崩れの影響で破産した投機目的の連中に逆恨みでもされたのだろう。

儲けを吐き出して寄り親にでも庇護を求めたのだろうが、その寄り親が投機に絡んでいたら今頃あココどころか何処にもいなかった事になっていただろう。


「やっぱり地道が一番、何事も程々にって事ですよ。ですがそちらは上手くやってたみたいで、冒険者ギルドのお噂はかねがね」

「軌道に乗ったのはここ最近だ。コイツ(ギルドハウス)が使えるようになったのだって、ついこないだギルマス(シア)が来てからだしな」


寝転がった姿勢のまま、床をパンパンと叩いて示すカレアシン。

元旦那のキャスパルも、ココに連れて来られた当初は驚きを隠せずに居たが、シアとは前世でも夫婦で面識があったらしく、ギルドメンバーが全員転生者(そう)だと知り納得すると、ソレ以上の深い追求はして来なかった。


「知ってしまうと報告しなきゃ(言わなきゃ)なりませんしね。知らないほうがいい。向こうにもしがらみはありますんで、早々にこちらに寄せてもらうってのも難しい話ですんで」


そう言って、彼は「名残惜しいけれど」と言いながらも、部下が待ち惚けているであろう地上へと戻っていった。

黒子さんに「出来るだけ早く退役願い(暇乞い)を受理させてお前の所に戻ってくる」と告げて。

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