第57話 職場で宴会といえば無礼講とか言い出す人いますよね?実際には有り得ませんけどね?
日も沈み、空を満たすのは暗闇と星明り。
ゴール王国の王都であるルーテティアに降りた夜の帳は、全ての人々を覆い尽くし彼らに一日の終わりを告げた。
しかしながら都市を囲む高い壁の上では篝火が焚かれ、各大通りの接続部である円形の交差点の中心では、王都守備隊所属の魔法使いらの手により、魔法の光源が灯されている様は、暗闇に支配されぬよう抗っているようにも思えた。
流石にすべての道を照らす事はないが、その他にも王城をはじめ、大商会や各種のギルド、あるいはいわゆるひとつの夜のお仕事的なお店や、金銭的に余裕のある者などの邸宅でも、同じく魔法の灯火がその生活空間を潤していた。
高価な魔法の道具を入手できない者は、油脂や蝋燭などを用いるが、光を発する魔法の道具と比べれば安いとはいえ、消耗品である。
どちらにしても、それなりの余裕が無ければ常時使用するなどという事はできないために、多くは日が沈むと共に眠りに付き、日が昇るとともに目覚めるというのが一般的な生活であり、そしてそれが大多数の、『普通』であった。
そして我らが冒険者ギルド・ルーテティア支部はというと、暗闇に抗うかのように点々と明かりが灯る大通りに面している支部の建物、その全ての窓から明るい光が漏れ、それだけに留まらず、その外側からも暗闇に浮かび上がるように照らしだされていた。
そりゃもうどこのパチンコ屋だというレベルで。
そんな支部の前に、男が一人。
いや、その側に、一歩下がって影に控えるようにもう一人、こちらは女性であろうか、比較的大柄な男に比べ、些か線の細さが見受けられる。
どちらもフードの付いたマントを羽織っており、その面差しを窺い知ることは出来ない。
二人は暫くその煌々と照らされている建物を見上げていたが、しばらくすると何方からともなくゆっくりと動き出した。
ギルドの扉に向かって。
「……なんかすげえ騒がしいな」
「いつものことでは?」
などと口にしながら。
そんな彼らが足を踏み入れた冒険者ギルド・ルーテティア支部の食堂は、いつも以上の喧騒に満ち溢れていた。
普段のこの時間帯、支部の食堂は程よい喧騒に包まれているのだが、今日に限ってはソレが静謐に包まれている様に思えるレベルで騒がしい。
いつもはといえば、仕事を終えて報酬を得た者達の殆どが、その稼いだ金の余剰分で飲み食いしていくために、それなりの騒がしさであるのだが、今日は少々桁が違う。
普段でも『宵越しの金など云々』という勢いで浪費し騒ぐ者も居るが、それでも食堂の一角が騒がしい程度だ。
他の者が静か、と言うわけではないのだが、ギルド関係者以外の者も結構な頻度で訪れる事も多く、常軌を逸するような馬鹿騒ぎをする者などが居た場合、速やかに鎮圧されてしまう事から、大概の者はそれなりに自重して居るのである。
しかもココはリーズナブルな価格で地元のモノとは違う、一風変わった美味な料理を提供している為に、毎晩のように訪れる者も居る優良飲食店でもあるのだ。
そのように周囲の住民らに認識されている為に、多少の騒音程度は日常茶飯事と受け止められているのだが、今日に限ってソレが普段に倍する騒々しさに、周辺の耳目を引くほどであった。
知らぬものが見れば常軌を逸したどんちゃん騒ぎとしか見えない空間に別段驚いた様子もなく、二人は自然な動作でフードを取った
男の方は普通人で不惑をいくらか超えたくらいだろうか、大柄な体格に見合った均整のとれた体型をしており、紺碧に染め上げられた革の上下を纏っていた。
腰に佩いた長剣は、冒険者ギルド謹製の物と一瞥してわかる刻印が刻まれていたが、使い込まれた様子は然程無く、しかしながら身にそぐわないと言うこともなく実に馴染んでいた。
その顔つきは彫りが深く青い瞳と鷲鼻の、巌のような趣で、特に目を引くのは綺麗に整えられた顎髭であろうか。
鈍い色合いの刈り込まれた金色の頭髪と相まって、野趣溢れる存在感を示していた。
対して女性はスラリとした細身のエルフであった。
薄い色素の紫の瞳は吸い込まれるような印象を受ける。
細身の体には慎ましやかな胸と折れそうな腰回り、しっとりとした銀に近い色の長髪が、三つ編みに編まれ肩越しに胸の前へと垂れ下がっており、男とは正反対の静けさを思わせる空気を纏っていた。
二人は周囲を見回すと、苦笑を浮かべ口を開いた。
「凄い盛り上がりだな」
「はい、どうやらいつもとは少々様子が違うようですね」
「話に聞いた通りなら、そりゃそうだろうな」
お互いの声さえ聞き取りにくい程の喧騒の中でそう口にし、誰が気にするわけでもないだろうが、あまり視線を止めずにぐるりと目当ての人物を探す。
そうして男が軽く片手を上げ歩き出すと、女性エルフは黙礼して送り出し、自身も静かに喧騒の渦に紛れていった。
「うははは、目出度いねぇ!ほら、飲んでるかい?遠慮するんじゃないよ、シア!」
「飲んでる!飲んでるから!ああもう、こぼれるっつか、こぼれてるってば!注ぐならチャンと見て注いでよね」
酔って浮かれたセイバーが酒瓶を片手に丼鉢を酒盃代わりにして、シアの肩を組んで酒を注いでは笑い、注いだ酒を飲み干しては笑い、何かを口にしては笑いを繰り返している。
かと思えば一方では、熊子がギルド本部からここに至るまでの道中を、少々の誇張と脚色を加えて語りだしていた。
「ソレはウチラがモナイコスを出てしばらくした時だったんよ。森の彼方で助けを呼ぶ声が!」
「最初に察知したのは熊子殿の使役獣でしたけどね」
「ウチラはそれを察知すると、矢のような勢いで森を抜けたんよ」
「熊子殿は乗騎ごと後ろ向きに走り出しましたけど」
「樹々が切れた先では、商隊を襲う、正体不明の魔獣が!ウチラは遠方から先ずは矢を一閃!その矢はものの見事に追手の足の関節を貫いたっ!」
「射たのは私ですよ私、ハイジです!よろしくお願いしまーす!あと一射目は背中に中りましたから」
「もんどりうって商隊を追いかけていた勢いのまま転がった魔獣、そいつはポントス暗黒海の向こうに棲むという、異形のサソリ、本来頭である部分に人型の上半身が生えた、蠍人っ!高い知能と体力を持ち、ソレを元にした侮れない戦闘能力、おまけに硬い外殻を併せ持つ、未知の魔獣!生半可な攻撃では通じないと考えたウチラはまず相手の武器を抑えにかかる!乗騎を促し、獲物を持つ手に『牙を突き立てろ!』と叫んだね!そして狙い違わず蠍人の片腕をそのアギトに捉えた使役獣!そこからはもうあっという間!」
「牙を突き立てたのはアタシんとこの子だけどね」
「乗騎から飛び、腰の剣を振りかぶり、気合一閃!『宇宙剣!愛国コロニー落とし!』」
どかーんという音とともに、光り輝くエフェクトが熊子の背後から発せられた。
「頭の先から尻尾のギリギリまで、真っ二つにされた蠍人は、哀れこのような魔晶結石と相成りましたとさ」
そういって取り出した巨大な魔晶結石に、周囲の者も「おお!」と感嘆の声を上げる。
「うん、トドメさしたのシア様だよね。熊子殿全部終わってから追いついて来ましたよね」
「いちいちツッコミありがとう!っていいじゃんちょっとぐらいその辺ボカしたって!」
ここまでの道中、唯一の魔獣襲撃を皆に語って聞かせていた熊子と、ほろ酔い気分のハイジとクリスが笑いながらそのツッコミ役として立派に務めを果たしていた。
細々とエフェクトを入れながら語る熊子のお話は、それなりに好評のようで、クリスチーネをはじめ、訓練生達も熱心に聴き入っていたのである。
「そいつがその魔獣からとれた魔晶結石か…ちょっといいか?」
「ん?ああ、ひげ親父か。ひさしぶり?いつの間に来たん?」
ほい、と巨大な魔晶結石を手渡した先には、全身を青い装備で固めた壮年の男性が、威厳たっぷりに立っていた。
「ついさっきだ。と言うか熊子、そのひげ親父というのはいい加減やめてくれんか…」
「じゃあ紺碧のおっさん」
「…ひげ親父でいい。それはさておき、ふむ、これはなんとも…」
手にした魔晶結石を睨みつけ、何やらぶつぶつと口にする男に、熊子はニヤリと笑って擦り寄っていく。
「ひげ親父ぃ、そいつは良い物だと思うよー?多分、並の魔晶結石とは桁が違うんじゃないかなー。加工して発動体にしたら魔法の威力が数倍に跳ね上がるよー?地面に叩きつけて壊すとかしなくて済むよ―?」
「なんだそれは。む、しかしコレは確かに…」
熊子ら冒険者ギルドの面子的にはそこまで大したものではないのだが、市井の魔法使いらにとっては垂涎の的と言える品質の魔晶結石なのである。
むろん、そのままの状態で十全の性能を発揮出来るわけではないので、ある程度の加工が必要となるが、これほど大きな結晶自体、早々市場に出回るものではない。
大きさもさることながら、その純度ともいうべき結晶の魔力集積能力が、非常に高いと見積もられていた。
「ほれほれひげ親父ぃ。まだ買い手は着いてないけどぉ。これ狩った時にプランタン商会の人が居たからさ―。きっと買い付けに来ると思うんだよねー」
今なら言い値で売るけど―?と擦り寄る熊子に、ひげ親父と呼ばれた男は眉間にシワを寄せ苦悩していた。
「ねーせいばー、あのおじさん誰?」
そんな熊子の行動を視界の端で見とがめたシアは、未だ肩を組んでは抱きついたりしなだれかかったりしてくるセイバーに、件の男性のことを問うた。
「んー?あーっと?ああ、あのおっさんはアレだ。おうぶふっ!?」
「はーい、セイバーちゃーん?シアの独り占めはいくないわね―」
その問いに答えかけたセイバーの頭頂部にカラテチョップを叩き込んだリティが、そこに居た。
シアを挟む形でセイバーの反対側に場所を確保したリティは、「じゃあ私から一献」と言いつつシアに盃を空けるように促した。
セイバーに注がれたままだった酒を飲み干して、何かの魔獣の角を加工した精細な装飾を施された角杯を突き出すシアに、リティは目を細めて手にした酒瓶を傾けた。
「それじゃ、改めて乾杯」
「うん、乾杯」
「かんぱーい!あっはっはっは!」
リティの持つマグカップに角杯を合わせるシアと、その横で陽気に騒ぐセイバーであった。
「で、あのおじさんは?」
「あー、うん。えーと、どう説明したらいいものやら」
何度目かもはやわからない乾杯を終えたあと、シアは隣の席に腰を下ろしたリティに対し先ほどの質問を繰り返した。
だが、リティは些か渋面を顕にし、表現のし難い説明をどう行おうかと思案顔になったのだが、そこに今度はメリューが配膳用のサービスワゴンを押しながら現れ、シア達の前のテーブルに大量の料理を置き始めた為に、暫し会話が中断された。
「お話の邪魔をしたようで、失礼しました。どのような事を?」
「あ、メリューってばまだ事務モードだ」
「誰が連邦の量産型ですか」
「いや、そうじゃなく」
料理を並べ終わったメリューは、そのままシアの対面位置の椅子に腰掛け、話を続けるように促した。
「いえね、斯々然々ということなんだけども」
「うん、リアルでソレ使われてもわかりません。つかソレくらい面倒がらないで欲しいです」
事務員モードが残る――というかなちゅらるボケ倒し状態ではないメリューに、シアは再度質問を行った。
すると若干口元を歪めながら、鼻先でその男性を指し、語った。
「あの男性は、自称流れ者の一介の賞金稼ぎで、通り名を『蒼衣の戦士』若しくは『蒼き獅子』と言います」
「うはw蒼衣wwのww剣士ww蒼き獅子ww蒼い獅子ww将軍はロンリーwwウルフwwwで、戦士はwwライオンwwさんww」
囁くように告げられた内容は、シアのツボに入ったようであった。
「で、その蒼衣の蒼き獅子な戦士wwさんはなんでまたウチに?メンバーじゃないんでしょ?」
「ええ、と。加入云々以前に、色々と問題が」
遠い目をしたメリューに、シアはあまり聞かれたくないのだろうかと思い、「フーン」と言って流すことにした。
したのだが、当のその本人が彼女らの前に姿を表し、挨拶もそこそこにメリューの隣の椅子を占拠したのである。
「いよう、お三方揃い踏みだな。どうだ?オレんとこに来る気にはまだならねえのか?」
「いよっ、おう…っと、おっさん。相変わらずそれかよ。だから俺らは誰かの下につく気はねえって言ってんだろ」
「毎度毎度よく飽きませんね。いい加減にしないと出入り禁止にしますよ?事務権限で」
「支部長権限も足していいよ?で、ソレが言いたかっただけかい?」
深い蒼に染められた装備に身を固めた壮年の戦士、といった風情の男であるが、彼の言葉からするとそれなりの組織が背景にある、とシアは理解した。
その男の言葉に対しては、セイバー・メリュー・リティの三名は、異口同音にソレに答えていた。
男はソレを受けてガシガシと頭を掻くが、その答え自体は想定していたと見えて、然程気にした素振りは見せなかった。
が、ふいとシアに視線をやると、すぐに視線を外して手にしていたジョッキを傾け、周囲をぐるりと見渡してから、再び口を開いた。
「お前さん達が宴会好きなのは知ってるが、しかし、なんでまた今日に限っていつも以上に盛大な宴会を?」
「まあ確かによくあることですが。と言うか、ギルドマスターが来ためでたい日ですし当然です」
「ほおう、お前さんらの待ち人がようやくご到着と?」
メリューの答えに舐めるような視線をシアに向けた男は、そのまま瞳をギラつかせた。
「あ、どーも。ギルドマスターのシアです。どうもうちの子たちがお世話になってるみたいで」
「あ、ああ。こちらも色々と助かってる」
気安げに挨拶したシアに、男は一瞬呆けるように目を見張ったが、次の瞬間には何事もなかったかのように言葉を返した。
実のところ男は自身のスキルを強化した上でシアに向けて放ったのである、が。
そのスキルは【圧倒】。
【威圧】の上位スキルであり、多少のレベル差があっても高確率で相手を怯ませる事が可能で、心の準備が無ければギルドメンバーレベルでも臆する事があると言う、少々厄介なものである。
しかしながら、当然のごとく弾いたシアの様子に、男は少々面食らったのである。
そんな様子を見ていた他の三人は、一様に苦笑を浮かべて杯を傾けるのであった。
本来ならば軽く「来たよー」と挨拶して、あとは転移用の魔法陣を作ったら一晩ゆっくり寝て、明日一日観光でもして次の支部、などと思っていた少々薄情なシアである。
無論、こんなネタを逃すリティらでは無く、大方のメンバーは砂漠におかわりしに行っているとはいえ、懐かしさもひとしおなので、当然のごとく飲めや歌えの大騒ぎになったわけであるが、その発端はといえばセイバーであった。
食堂で、シアがギルドマスターである事を告げた驚愕に、一同が陥っていた際。
目の前のエルフ女性が、あの呉羽やカレアシンらを統べる人物なのだと言われて、「へえ、そうなんだ」で済むわけがなく。
クリスチーネが最敬礼で頭を垂れたのはまだ生易しいものであった。
と言うよりも、他の面子はあまりの事に身動きひとつ取れなかったのである。
シアにとっては「え、なんか空気が…なんかハズした!?やっぱハズしちゃってた!?」と思わずにいられないほどの位相空間と感じられたほどに。
「えっと…」
「たっだいまー!!シア来てるだろ!?祝だ!宴だ!パーッとやろう!宴会だ!!」
シアが空気を変える為に何か言おうと口を開きかけたその時、ギルド支部の正面玄関が盛大な音を立てて開かれ、そこから豪奢な金髪が鬣のようにも見える獣人女性、セイバーが姿を表したのだった。
「お、お帰りなさい?」
「どっちかってーっとむしろねーちんのがオカエリナサλじゃね?つかむしろいらっしゃーいって感じだけど」
「そりゃそーだけど」
「おっ、シアそこかぁ!おいおっさん!酒出せ!あととっときのやつがあったろ!遺跡で見つけた例の奴!アレもだ!いいから有るだけ出せ!!宴会だ!!一心不乱の大宴会だ!!」
そうしてなし崩しの内に『【シアなんか嫌い!】☆おいでませルーテティア支部へ☆【祝ってやる!】』大歓迎会が開始されたのである。
「とまあこんな感じで今に至るわけですよ。まあ歓迎してくれるのは正直嬉しいんですけどね。もしかしたら『今頃来やがって!』って感じの恨み事の百や二百は言われるかも―って覚悟はしてたんですけども」
なんだかんだで皆がギルドマスターたる自身の到着を喜んでくれているのが分かるのである。
まあ、中にはただ単に飲んで騒ぎたいだけの者も居るだろうが。
そんな言葉を酒を呑む合間に目の前の怪しげな青い親父に語るシア。
その聞き役に回るはめになった男は、これといって不満そうな顔も見せず適度に相槌をうち、シアの持つ器が空になったかと思えば注いでやったりもしていた。
「いえ、本音を言わせてもらうと、もう来なくてもいいかな?とか思ってた頃もありましたけど」
「マジっすか」
男の横の席で静かに飲んでいたメリューにサラリと告げられた言葉に、思わず酒精で緩くなっていた思考が一気に平常に引き戻される。
しかしながらメリューがくすくすと嬉しげな笑顔で自身の反応を受け止めているのを見て、肩の力が抜けたシアである。
「でもね、シア。二・三年経った頃に来てたらきっとみんなブチ切れてたと思います。遅いわ―!と」
「そうね、その頃なら私も全力の一撃でお出迎えしてたわ。ああ、謝罪は必要ないからね?むしろ私達結果オーライだと思ってるから」
にっこりと笑いながら言う|メリューと、それに相槌を打つ、リティ。
どちらも冗談めかして言ってはいるものの、目が笑っていない。
「あー、うん、ほんとにごめんなさい」
「まあその辺の事情については本部の他の面子も、特にどうこう言わなかったんでしょ?今思うと、あの頃ギルドハウスが無くて苦労したのはしたけど、あったらあったで今みたいにこの世界に馴染めてなかったんじゃないかなって思うのよね」
「それは私もそう思います。確かに不便で色々と困った事も多かったりしましたが、結果的にその経験は自分たちの血肉になりましたから」
申し訳なさにしゅんとしたシアに、今度は本心からの笑顔と言葉を投げかける。
そんなやり取りを静かに見ていた男は、思い出したかのように居住まいを正すと、改まって右手を差し出してきた。
「自己紹介がまだだったな。俺の名は」
「ぶふぅーーっ!」
彼が名乗ろうとした瞬間、酒盃を傾けていたシアは思わず先に聞いていた二つ名を思い出し、盛大にぶちまけたのだった。
因みにセイバーは、シアに寄りかかってさっさと撃沈していた。