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MMORPG?知ってますけどなにか?  作者: でーぶ
第二章 異世界漫遊記
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第52話 当社を希望された動機はなんですか?成り行きですか?

忙しい分を暇な時期に振り分けたい…

「あそこ、って…ほんとにあそこ?」

「そだよ?なにか?」


 ようやくたどり着いたゴール王国の王都ルーテティアにて、シアは熊子が指差す先にある冒険者ギルドルーテティア支部の建物を視界に収め、目をパチクリさせていた。

 呆けたような視線を支部に向け続けるシアをそのままに、何度も訪れた事がある熊子は特にこれといった感慨も浮かべずにさっさと先に進もうとした。

 が、シアに襟首を掴まれ、「ぐえ」と呻いて立ち止まることを強いられた。


「何すんのさ、ねーちん。ウチは肉体的にも精神的にも意外と繊細に出来てるんだからあんまり無茶で手荒に扱ってほしくないんだけども」

「昔はともかく今じゃ心臓に毛が生えてて神経は鋼鉄のワイヤー製でおまけに身体はそこいらの岩に叩きつけても怪我一つしない不思議物質で出来てるくせに。何?実は心は硝子で身体が剣で出来てたりするわけ?って、それはともかくほんとにここ?いや、ちゃんと書いてあるから間違ってないのは分かるんだけど」


 実際のところ、肉体的には前世において氾濫していた特撮やアニメのヒーロー並に強靭ではあるが、中身は本人の言うように繊細なのかもしれない。誰も肯定はしてくれないだろうが。

 それはさておき、彼女らが目にしている建物には、毛筆であろうか、無駄に達筆な書体で『ぼうけんしゃぎるど』とひらがなで(・・・・・)書かれた文字を浮き彫りにした看板が掲げられており、それと共に二階付近の窓の下から突き出たポールには、白地に赤い丸の描かれたギルド旗が燦然と翻っていた。

 因みにこのエウローペー亜大陸において一般的に使用されている文字は、どこかの文化に飢えてる巨大宇宙人連中が使っていたとある文字のようにカクカクとした形状の表音文字アルファベットで、ギルドの看板は奇妙な模様扱いである。


「ほんとにここみたいですね。私初めてなんでアレですけど、モノイコスのギルド本部に比べると違和感が否めませんね」

「だねぇ。案内されてなきゃ、ココがそうだとはわかん無いんじゃないかい?」


 二人がグダグダとやっている中、付き従っているハイジとクリスからも、シアと同様の感想が漏れてきていた。

 ギルド支部(ここ)を初めて見る三人が言うように、目の前の建物はおよそ彼女らが想像していた冒険者ギルドの建物としては似つかわしくないものであった。

 と言っても、周囲の建物とほぼ変わらない石造りの外観をした、元現代日本人が想像する中世ヨーロッパ的な建物そのものなだけなのだが。

 ごく普通に煉瓦と石との組み合わせで建てられた、ごく普通に周囲に合わせた外観をした、実に一般的な建物である。まあ十二分にお屋敷といってもいいレベルの大きさを誇る建物ではある。

 大通りから少し外れた、とは言っても裏路地ではなく、馬車の行き来に支障がない程度の幅員の通りに面して、ギルド支部は存在していた。

 三階建ての立派な建物で、間口はゆうに一チェイン(二十メートル)を超えている。中央部分にある両開きの正面玄関の左右には立哨が立ち、その右横には大きめの馬車でも余裕を持ってくぐれそうな開口部が存在するという作りで、似たような建物はここに来る途中にも散見していた。

 モノイコス王国にあるギルド本部がこの世界においてあまり見ることのない、見た目シンプルすぎるデザインであった事もあるが、こちらはこの世界にあまりにもマッチしすぎたデザインの、平凡すぎる造形であるため逆に予想外だったようである。


「て言うか、なんか普通。いやおっきさは凄いんだけどさ」

「うん、まあ言いたいことは分かる」


 シアの言葉にウンウンと頷くハイジとクリス、おまけにシアの頭の上のぷち玉藻(子狐Ver.)。

 玉藻に限っては、周りが頷いているので同じようにしてみただけのようだが。

 その反応に肯定の言葉をこぼしつつ苦笑いする熊子は、皆を促して建物の正面玄関へと歩みを進めた。

 実のところ、ギルドメンバーらはここ王都に支部を建てるに至った際に、それはそれは様々な建設案が出されたのだが、流石に冒険者ギルドの存在にそれなりに馴染んだ地元(モノイコス)でもない所に、周囲から浮くような奇抜な建物はいかがものかと言う話になり、現在の姿に成ったという。

 試案の中には劇場作って歌劇団やろうぜ!と言う意見や、高いタワーの上に円盤状の建物を設け、ギルドハウスが来た時はそこに係留出来るようにしよう、などという意見まであったとか。

 前者はじゃあ誰が歌って踊るのか、と言う話になり、知らない人の前で歌ったりとか無理、と言う意見が大半だった事で却下となった。某黒エルフなどは、「舞台に立つのはいいですが―――風俗営業になってしまいますが構わないのでしょうか?前世の職場的に考えて」等と宣ったため、それ以上話は続かなかったという。なおタワー計画は、ギルドハウスが現実の物となった際のサイズが当時不明だったために、最後まで検討されていたものの、結局は破棄されてしまった。

 先走って建造されていれば、どちらもさぞ違和感バリバリの空間が出来上がっていたことだろう。特に後者など、大都会のど真ん中に位置する地球外からの脅威に立ち向かう特殊編成部隊の極東基地のような出鱈目な存在になっていたに違いない。

 それはともかく、建物の中に入ろうと考えたシア達であったが、その扉の左右で立哨をしている揃いの装備を身につけた、おそらくは冒険者になってまだ日が浅いだろう若い男女に、「あ、すいません。騎獣は奥の方にお願いします」と言われてしまった。

 言われてみれば、図体のでかい使役獣を三体も引き連れているのである。ギルド支部の周辺もそれなりに人通りはあり、ギルドに出入りする者も割と頻繁に見受けられていた。

 使役獣と呼ばれてはいるものの、主人と認められた人物以外は余程取り扱いに長けているか圧倒的な強さを持つ者でなければ命が危うい危険な魔獣である。予め言いつけておけば、余程のことがない限り余人に危害を加える事はないはずであるが、それでも拙いことには違いない。

 そのため関係者以外が立ち入れない場所に、厩舎などのそういった施設を併設するのは当然といえば当然で、そういった設備がない所に行く際には、事前に預けて赴くのが一般的となっている。

 冒険者ギルドにはそういった騎獣を扱う者も当然居るため、当たり前のように設置されており、その場所が奥とやらに当たるのだろう。

 指定された場所へと通じる道であろう、扉の横の開口部を指差し「ここ?」と尋ね返すシアに、立哨の女性はゆっくりと頷くとそのまま再び前を向いて姿勢を正した。

 真面目にお仕事を続ける二人に軽く頭を下げ、四人はその場を後にした。

 そして薄暗い通路をくぐり抜けると、そこは一転して明るい空間が広がっていた。周囲をぐるりと建物に囲まれた、意外に広い――と言うよりも、ありえないほどに広い――きちんと整備された平地が広がっていたのである。

 入って直ぐ左に折れた壁添には、しっかりとしたつくりで備え付けられている横木があり、それには数頭の使役獣と思われる魔獣と、中程に屋敷の中へと続く扉を挟んで少々離れた位置にはこちらはごく普通の鹿毛の馬が、おとなしく繋がれていた。

 右側の壁添には、手入れがキチンとされている樹木が庭園のように整然と植えられ、管理が行き届いていることが素人目にもはっきりと分かる趣を醸し出している。正面の突き当りには、屋敷の壁に張り付くような位置に建てられた、煙突から煙を吐き出している恐らくは鍛冶場であろう小屋が見えた。

 そしてそれらを擁しても全く広さを減じさせているようには見えない程に広いグラウンドでは、幾人かの、おそらくはギルドメンバーであろう若い男女数名が、フル装備のままで全力疾走している姿があった。

 それを目にしたシアは、嫌がりまくる鳥バーをなんとか繋ぎ終えた熊子がそのままギルド支部の中へ向かおうとしているところを、再び首根っこを引っ掴んで立ち止まらせた。


「ねーちん…」

「ごめんごめん。えっと、なにあれ。いびり?」

「おー、やってるねえ。多分新人向けの特訓じゃないかなー?」


 涙目で振り返った熊子に片手を上げて謝意を表すと同時に、ぼそぼそと囁くようにしてシアは尋ねた。他に聞こえないように気を使ったシアに対して、熊子は何の気なしに平然と答えた。その答えに目を丸くしたのはハイジとクリスであった。


「新人?!え?そういう訓練とかあるんですか?」

「私らそんなのやってないけど、いいのかい?」


 どちらもシアの一存で無試験無審査の即決採用だった為に、通常の段取りを知らない故のこの言動である。

 それを察してか、熊子は走っている連中に聞こえないように内緒話(スキル)を起動すると、お気楽そうにこう告げた。


「色々と未経験な現地採用者の、荒事向け担当の訓練だよ。ハイジ達みたく実戦とかに従事した事があるレベルならまだしも、ごく一般的な生活をしてた子たちみたいだからねぇ。せめて基礎体力つけとかないと、戦闘云々以前にウチラのお仕事に付いてこれないからさ。フル装備で走らせるのは、アレだよ。修行に付き物のパワーリスト(亀の甲羅)的な感じ?んで、先導してるのに追いつくか、良いって言われるまで走んのさ」


どこぞのエロジジイな仙人が興した流派のような修行方法を口にする熊子であるが、実際のところ装備やらなにやらを身につけての移動が当たり前と考えると、その状態で自由に動けなければ意味が無いとも言える。戦闘の度に荷物を放り出していては、取りに戻れない状況に陥ったりした場合、詰んでしまいかねない。そういった事も理解させた上でのこのシゴキなのだろう。


「先頭を走ってるのが、指導してる方、ということですか?」

「そだよ。追いつけそうで追いつけない、いやーな緩急つけて走るのがデフォ」

「なんというか、お気の毒だねぇ」


彼女らの視線の先には、先頭を行く者の後を追う若者たちの姿がある。

自分たちならばあそこまで苦労せずともなんとかなるとは思うが、流石に好き好んでやりたいとは思えない光景に、若干の後ろめたさを感じながら、ハイジとクリスは苦笑いしてその場をごまかした。

それにしても、フル装備――分厚い革鎧やブーツに手甲、剣や盾に食料等の野営に必要な品々が詰め込まれた背嚢など、必需品をすべて抱えた状態で、必死になって走っているのが今立っている位置からでもよく分かる。前世ならば虐待呼ばわりされそうな状態で、いつ逃げ出しても誰も批判はしないだろうという状況だった。しかしながら、手加減した訓練ではいざ現場に出た時に、力不足が即座に命にかかわる事もわかる為、やり過ぎだなどと言うような言葉は誰も口にしなかった。

とはいえやはり気にはなるようで、皆なかなか建物内に入る素振りを見せず、しばらくの間そのまま走る彼らを見つめることとなった。

程なく訓練生ともいうべき新人たちが、一人また一人とぶっ倒れはじめ、最後の一人が這々の体で先頭を走っていた人物に追いつき手を伸ばしかけた所で相手は更に加速、引き離された事で遂に気力も底をついたのか、そのままの勢いで地面にスライディングして訓練は一応の終了となった。指導教官は死屍累々の周囲をぐるりと一瞥すると、ゆっくりとした歩調で点々と転がる新人たちの様子を見て回り、問題なしと見るや順次抱え上げてグラウンドの隅まで抱えてゆき、日の当たらない場所でごろりと寝転がらせた。

その先頭を走っていた人物であるが、全身をシャープなラインで構成された金属鎧で覆い、左手には大型の盾、右肩に担ぐのは身長を越えるほどの長さの長柄武器、そして背中には後ろを走っていた新人達よりも多くの荷物が括りつけられたフレームザックを背負うという、普通ならば立つのもやっとどころか潰れてしまう程の重量を身にまとっているはずなのに、それを感じさせない動きを見せるというかなりの出鱈目さ加減。スラリとした長身である事と鎧の形状から、女性であろうと言う以外は種族や容貌は確認できなかった。正体を知っているであろう熊子が何も言い出さないところを見ると、それもまた支部廻りの一環と言うことなのだろう。

その全身鎧女性は、新人全員を回収し終え、意識があるのかないのかよくわからない彼らに何やら話をしたあと、シアたちの方へと今度はガシャガシャガシャとけたたましく音を立て、先ほどとは比べ物にならないほどの勢いで疾走してきたのだった。

若干内股で。



 ☆



 冒険者ギルド・ルーテティア支部は、外見こそ周囲に合わせた形状をしているが、その内部はかなり現代日本的なシステマチックな物となっている。

 三階建ての建物は大通りに面した側が分厚い、いわゆる変形のロの字型をしており、その内側が訓練場ともなっている先ほどシア達が騎獣を繋いだ場所である。正面玄関から入ると右側は壁になっており、そこには総合受付と呼ばれるカウンターが設けられ、その先にロビーが広がっている。

 ロビーの向こう側には二階に上がる階段があり、その左には豊かな芳香と喧騒で賑わう食堂が置かれ、その奥手には中庭へと通じる扉があった。なお、建物の正面玄関横には、何方様でもご利用いただけますと食堂の看板と共に但し書きがなされている。

 左に伸びる通路は、そのまま奥の棟に続くように九十度曲がって続く形だが、途中に扉が設けられていてその先は関係者以外は立入禁止だ。

仕事の依頼主やギルドメンバーらへの様々な対応は、二階に設けられている売店兼務の窓口で行われており、依頼の精査及び依頼主の身元確認、仕事の斡旋や報酬の受け渡し、回収してきた素材の確認から装備の手入れに携帯糧食や魔法軟膏等の各種必需品の発注その他に至るまで、およそ考えられるサービスは全てここが担っていた。

 なお、この支部では本部のように宿は開設されておらず、せいぜい稀に訪れる他支部のギルメンが宿泊するための客間がある程度でだ。また、奥の棟や手前の棟の三階はギルドメンバーと職員の居室や倉庫の他、彼らのレクリエーション空間として利用されている。

 そんなギルド支部であるが、今は夕刻と言う事もあり、依頼を消化してきた者などでそれなりの賑わいを見せいてた。

 どやどやと騒ぎながら、本日の獲物を担いで二階に上がるもの、依頼完了の報告だけ告げて食堂へと向かうもの、溜め込んだ稼ぎで新たな装備を見繕うために目を輝かせている者など様々であるが、年齢・種族ともに様々で、流石に普通人が大半だが獣人なども多く見られ、年齢層も幅広く、中には就労していいのかと問い詰めたくなる歳の者や、そろそろ隠居したほうが良いのではと肩を叩きたくなるお年寄りまでいる。そのためか、よくあるファンタジーな世界の酒場的な、やさぐれたオヤジ臭が蔓延した薄暗さは欠片も見受けられなかった。誰もが笑みを浮かべ、今日一日を無事に過ごせたことと、明日に向けての意気込みを胸に、今を生きていたからだ。

そんな中、中庭に通じる扉がガチャリと開かれ、数名の見慣れぬ男女と共に、皆がよく知る人物が姿を表した。先頭に立つのはここに居て知らないなどと言ったらモグリと誹られる程度で済めば僥倖であろう、この支部の責任者である女性だ。壮年の普通人女性で、細身の体ながら常人ではありえないほどの重装鎧と盾、槍に斧を追加したような形状のハルバードや鎚とは少々趣の異なる、自身の身長よりも長い、先端が平たく潰され二股に加工され鍵状に曲がっているだけの総金属製の棒を用いるという、一風変わった装備の人物である。

その彼女が、下へも置かぬ扱いでとある女性に応対していたのだからその場に居た者達は唖然としているほかなかった。

彼らは静まり返った食堂を抜け、そのまま二階に続く階段へと歩を進めた。

ギルド支部の面子は、なんだかんだ言いつつ皆が皆顔見知りである。その為、皆が知らぬ人物で二階に用事がある者と言えば、仕事を依頼しに来た者か、あるいは他の支部に所属していてそこでしか活動していないメンバーか、若しくは新たにギルドに加入したい者のどれかである。

そして、支部長たる彼女が対応していた彼らの風体から、この王都や近隣の集落に居を構えているとは言いがたく、故に依頼者とは考え難い。

 話のネタが出来たとワイワイ騒ぐ者達を他所に、先程まで扱かれていた新人たちが裏口の扉から姿を現し、どこか呆然とした表情のまま、食堂のテーブルに座り込んだ。力なくウェイトレスを呼び止め、ぼそぼそとした声で注文した後、出てきた料理をもそもそと食いつつなにやら途切れ途切れに話をしては、天を仰いだり突っ伏して呻いたりと謎の行動をとっていた。

あんまりにもあんまりな新人たちの姿に、すぐ側のテーブルで談笑していた初老の普通人女性がどっこらせと立ち上がって彼らに話しかけた。


「どうしたんだい?お若いの。訓練がキツイとかなら頑張りなとしか言えないけれど、それ以外に何か気がかりがあるならば、このおばちゃんが話を聞いてやれるよ?」


若いころならばそれなりに魅力的だったであろう面影をその笑みに残した彼女は、このギルド支部が出来る前、それこそ冒険者ギルドが設立される以前の、傭兵団もどきのような扱いを受けていた頃からの現地採用者(ギルドメンバー)である。

クリスチーネと言う名のその女性は、所謂このギルド支部における御意見番と言う立場の最古参メンバーなのだ。

戦闘力こそ転生者であるギルド設立メンバーに劣るとはいえ、ことシティアドベンチャー的な街中での騒動やらなにやらに関しては、呉羽さえも一目置く程の人物である。

若かりし頃の転生者達との一悶着は、それはそれは色々とあったらしいが、今は割愛させていただく事として、若い新人たちは、暗い表情ではあったが一縷の望みをかけたように意を決してクリスチーネに話しだした。

なお、クリスチーネの事を、親しいギルドメンバー(転生者)らは、ジャ○子と呼ぶとか何とか。





「頼もう!」


未だ処理待ちのメンバーが屯する二階のフロアで、幾つもの窓口が並ぶカウンターのうち、『依頼・新規加入受付』と書かれた一角で三人の男達が盛大に声を張り上げていた。

金髪に銀髪、黒髪と三者三様ではあるものの、その容姿・体格は、誰もが羨むほどの均整がとれた美しさを誇っている。

黙って街を歩けばかなりの視線を集めるだろうと思われるその三人は、意気揚々と目指すカウンターへと歩みを進めた。


「いらっしゃいませ、冒険者ギルドにようこそ。本日のご用件は私、メリューが担当させて頂きます。よろしくお願いいたします」


やけにテンション高めの男たちに対して、受付担当者はごくごく自然体で応対を行った。

自然な動きがただそれだけで美しいと感じるほどのその人物は、にこやかな笑みを浮かべる怜悧な美貌に、透き通るような藍色の長髪が艶かしい、妙齢の竜人女性であった。

側頭部の二対四本の角は研ぎ澄まされた剣のような鋭さを見せて伸び、竜人特有の皮膜の翼は小さく折りたたまれていてその存在は正面からでは伺えない。身に纏っているのはここルーテティア支部限定の制服であるが、人によっては堅苦しいと断言するほどのデザインの服であるのに、その存在を主張するふたつの丘の間に生じる渓谷状態の圧倒的柔肉空間はまさに爆乳的肉感の小宇宙!


それはさておき、ここルーテティア支部では、ギルド職員として受付に入る者は、正規のギルドメンバーであろうとなかろうと――冒険者として活動する為には能力が足りないが、ギルドが雑務を担わせるために雇用している者も多い――関係なく、同様の制服を身に付ける事が慣例となっている。それは現代日本人的に見ればごく普通のOL姿なのだが、その事を知らないこの世界の者からすれば一風変わった光景に見えるかもしれない。

この世界にも制服という概念こそあるが、所属の判別をその衣服で即座に行う必要のある軍などではいざしらず、このような市井の団体が行うには費用がかかるばかりで、もし盗まれ悪用でもされようものなら信用問題にも関わると忌避されるのが普通だからだ。

しかし、冒険者ギルドにおいては費用の大小はあまり関係がなかった。材料さえ揃えれば、職人系のメンバーによるスキルで量産が可能だからだ。

そしてこのルーテティア支部では、他支部に先駆けて統一デザインの制服を採用、職員に貸与しているのである。

美しいお姉さん(OL姿)は好きですか?


   はい

   いいえ

ニア だいこうぶつです


「ぐはぁっ、竜人の女性とかどこの皇赤龍のハーフだよ。大好物過ぎてA児一生の不覚!とかやらかしかねんレベルだわ」

「同感だっ!なんという眼福…なんという破壊力…ありがとうございました!ごちそうさまでした!」

「お前らそういうテンプレ的なのはいいから…いや気持ちはわかりすぎるけれども。あ、すいません。僕ら三人冒険者ギルドに入りたいんですけど。あ、これ推薦状だそうです」

金髪銀髪がそう口走り、怪しげな行動をとる中、黒髪の男だけが比較的まともに受け答えし、懐から一枚のカードを取り出した。


「えっと、はい。確認させて頂きますね。えー……と?」


手渡されたカードには、【この者転生者】と現地の文字(・・・・・)で書かれており、その中心部には意匠化された熊子の顔が、自身の頭文字を背景に描かれていた。それを見た受付の竜人女性メリューは、がばっと顔を上げてまじまじと三人をじっくりと見定めだしたのだ。それこそ頭のてっぺんからつま先まで仔細漏らさぬ勢いで。

しばらく身じろぎもさせぬ勢いでガン見していたメリューは、ふうと一息つくと、受付カウンターの下から人数分の書類を取り出して記入を始めた。

そして三人の人種・性別・眼の色や髪の色、肌の色などの外見的な特徴を書き込んだ後、それぞれに手渡した。


「ここに名前、ここには前職や特技をご記入いただけますか?ああ、ご自分で使える文字でしたら(・・・・・・・・・)なんでも構いませんから」

「え、あ、はい」


手渡された用紙とメリューとの間を何度も視線を行き来させながら、なにか言いたそうに手近の鉛筆(・・)を手にして書き込みを始める三人。

何やら「なんか違う…」とか「もっとこう…なあ?」「て言うか、これ日本語じゃ…」などとぶつくさ言いいながら、彼らは必要事項を書き込んでいった。


「金髪の方が斥候系スカウトのアルバトロナール・A児・アズマさん、銀髪の方が精密射撃系のジークフリード・ローエングリーンさんと黒髪の方が殲滅射撃系アレキサンドロス・ズルカルナインさんでお間違えないですね?はい、それではこれでお手続きは終了です。それじゃ、暫くお待ちいただけますか?仮ギルドカードにお名前等を刻印して参りますから。三ヶ月の間は試用期間で仮メンバー扱いとなりまして、その期間中に適性無しと判断されなければ終了後に正式加入か脱退か、ご意志の再確認をいたします。なのでその際に窓口までお越しください。おいでにならない場合は自動的に脱退扱いとなりまして、その場合は後日加入をご希望になられましてもお断りさせていただくことになります。それでは他に何かお聞きになりたいことはございますか?」


トントンと書類を確認して束ねたメリューは、立ち上がりながら目の前の三人に質問を促した。

彼らはその言葉に顔を見合わせて頷き、三人横一列に並んでいたうちの真ん中に位置していた、銀髪のジークフリードが代表して口を開いた。


「あの、カードに血を垂らすとか水晶球で魔力検査とかは無いんですか」

「ありません。と言いますか、そんな魔導技術は知られてませんし」

「その、カードですけど、再発行にはいかほど…まさかすごい高額とか…」

「仮ギルドカードは五十銅貨(スレイ)を再発行手数料としてご請求させて頂く事になります。正規のギルドカードは、モノイコス王国の認証も兼ねておりますので五十銀貨(グルー)となっております。なお、仮ギルドカードは正式の物とは違いますので、試用期間を過ぎてなお正式版へ移行されずに所持なされていると、手動的に消滅させに行きますのでご了承ください」

「手動なの!?って消滅させに来るんですか!?」

「はい、一応探知が掛かっておりますので、位置を把握するのは容易いので。ああ、これは本来未熟な方が行方知れずになった際の探索用なので解除は不許可です」

「あの、冒険者ランクとかはあるんですよね?最初はFで実績を重ねて目指せAランク!とか」

「ランクではありませんが、当ギルドでは硬度(ハードネス)レベルと申します位階を設けております。最高位である硬度十はギルドマスターが、以下九位から七位まではギルド創始メンバーが、六位から一位までを通常のメンバー各位に、その総合能力から適当と思われる位階を任じております。また、各位階において高い実績やギルドへの貢献などにより銘を授けられる場合もございます。ちなみに私は硬度7、羊脂白玉やんしーばいゆーのメリューと申します。以後お見知りおきを」

「え、なにそれ怖い」

「ご質問は以上でしょうか?それではしばらくお待ちください」


取り留めのない三人の質問を、立て板に水が如く答えたメリューは、他に質問がないことを確認するとくるりと踵を返して受付の奥へと引っ込んでしまった。

その後姿を見送りながら、残された三人は「早まったかもしれん」と思いつつも、OL姿の後ろ姿に心の中で「尻も太ももも極上品だとう!?ありがとうございます!」と叫んでいたという。






「あんまり面白いリアクションはなかったね」

「リティ、趣味悪ーい」

「ねーちんがそれ言うかね」

「…試用期間とか、私達どうなるのかしら」

「この任務がそれって事で、いいんじゃないかい?」


階段を登り切った所で、五人の女性陣がコソコソと先ほどの光景を見物していたのは語るまでもないことであろう。


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