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MMORPG?知ってますけどなにか?  作者: でーぶ
第二章 異世界漫遊記
55/83

第51話 新年開けましたよ?おめでとうございます?

まあ内容は新年とこれっぽっちも関係ないんですけどね

種族スキル(忍法竜変化)発動っ!」


 カレアシンのスキル起動の声と共に、周囲を激しい光とエフェクトの白煙が包む。それが収まった時、そこには竜人ではなく、竜本来の肉体を得た姿となったカレアシンが、その巨大な肉体を誇示するように屹立していた。

 しかしその姿はファンタジー世界でよく見る爬虫類的な外見に翼や角などが生えた様相ではなかった。でこぼことした体表は鱗が無く、黒一色のような、それでいて緑がかったような、あるいは銀色にも見えるような照り返しもある奇妙な色合いだ。通常ならば四足歩行のはずが太い二本足で直立しており、前肢はさほど長くないが、十二分な力強さを誇示していた。長い尾は地面を引きずるように伸び、その背中は体表の凹凸がより一層尖ったかのように、天に向かって歪なノコギリのように生え揃っていた。


『旦那、おれっちが居る意味あったんですかい?』


 拵えを変えられた無銘の魔法剣が、カレアシンであるはずの巨竜の頭部脇に浮かびあがり問うたが、その返事は巨大な咆哮であった。

 その叫びとともに、カレアシンの背中が青白く輝くと、鋭い牙が並ぶ口腔から、凄まじい勢いで眩い光が放たれた。


『どうええええええ!?』


 竜のブレス攻撃である。

 巨竜カレアシンが吐き出したブレスによる爆風で、魔法剣は吹き飛ばされ地面に突き立ってしまい、この世の終わりかと嘆くような声でカレアシンを呼んだ。


『…だだだだ、だ、旦那?』


 途方に暮れる魔法剣の傍では、他の四人がカレアシンの攻撃を見てウンウンと頷いていたりするのだった。




 ☆



カレアシン(爺様)の|【竜化】スキルかな?中々の再現力だことww」

「まああの年代の人にとって、ドラゴン(怪獣)的な代表っていったらああなるんでしょうねェ」


 赤い肩小隊から少々離れた場所で、何やら納得したような言葉を吐くのは、ロボロボ団…その名の通り、ロボ(ゴーレム)使いの部隊の面々である。

 小隊長を任されたのは誰あろう、初期にちょろっとモブ的に出たきり、作者に中途半端に忘れられていた、ホビット男性のダイサークだ。行きずりの恋で生まれた娘がモノイコス盗賊ギルドマスターをやっている、前世が女でショタコンであった例の彼と言えば思い出していただけるであろうか。そのダイサークを始めとして、普通人女性が一人、魔人男性が一人、牛種の女性と兎種の女性獣人が各一人の、計五人でこの小隊は構成されている。


「しっかし年寄りはなんでああいうふうにするかね」

「生物的に正しいってのじゃなくて特撮的に正しい怪獣(きぐるみを忠実に再現)、なんという俺得とか思ってるんでしょうねー」


 魔人男性の言葉に兎種の獣人女性がクスクスと笑いながら頷きを返している。

 確かにその言葉通り、カレアシンがスキルで変化した竜的な何かは、どこぞのアレな実験で巨大な何かになってしまったトカゲの姿そのものであった。

 しかもご丁寧に目は内側から何かの光源で光らせているかのように微妙な輝きをみせ、首元にはなぜだかわからないが小さな穴のようなものがプツプツと開いていたりと、本人的には凝りまくったスキル改変(造形美)の賜物である。

 そしてその竜化したカレアシンは、眩く輝く光線のようなものを、砂漠を覆い尽くすように広がる粘液生物に向けて放ったのだ。

 閃光とともに口腔から放たれた攻撃は、ほんの一斉射でありながらも彼の首の動きに追従して広い範囲をその効果範囲に入れた。


「たーまやー。結構いい感じに蒸発した(吹っ飛んだ)わねぇ」

「見た目はアレのくせに、攻撃はどこぞの谷に落ちて腐っちゃう奴風味とか」


 徹底してないのは減点だ、などとぶつくさ言いつつ、別の二人がカレアシンが放つ超絶ブレス攻撃を見て評論していた。

 普通人女性のマリーと牛種の獣人女性であるマイアだ。

 どちらもヤレヤレといった感じで今度は縮んでゆくカレアシンを見ながら次は自分たちの出番だと、軽く意気込んでいる様子であった。


「それはともかく、名まえがほしくない?スライムとかじゃあ今いちラスボスっぽくなくない?この僕チンが名付け親(ゴッドファーザー)になってやるッ! そうだな… 『なんだかよくわからないモノ』という意味の『モケケピロピロ』というのはどうかな! 」


 そんな四人に割りこむように、背の低い、少年と見まごうような男性が背後で口を開いた。

 このロボロボ団の小隊長を務めるホビット男性の、ダイサークである。

 彼は半ズボンにハイソックスとズック靴、ワイシャツ・ネクタイ・ジャケットという、いつもどおりの淑女(ショタ)御用達の格好でこの作戦に挑んでいた。

 黒髪短髪でブラウンの瞳がくりくりとした可愛らしい容姿のホビットがそのような格好をしていると、似合うと言うよりもそのまんまだから質が悪い。

 異世界であるここでも、そういった彼の格好に食指を動かされる女性陣が居るのは厳然たる事実である。


「別に判別に失敗したわけじゃないから」

「いやいや、99.9999%の確率でスライムの亜種が超巨大化したって決まってるわけじゃなくない?確定してないんだからさ」


 一応それはどうだろうと突っ込んだ普通人女性マリーにニヨニヨとした微妙な笑みを返すダイサークであったが、次の瞬間ビクリと震えて固まっていた。

 何故ならば、彼らの耳元にとある女性の声が届いたからである。


『デルタ1より各小隊。以後敵性体は『もけけぴろぴろ』と呼称します。ロボロボ団1?名付け親なんだから、きちんと始末つけてくださいね』

「げ、黒の姉御(ヘスペリス)。盗み聞きとか趣味悪くない?」

「…そりゃ、管制してんですから、聞いてるでしょ」


 あからさまに挙動不審になったダイサークを横目で見つつ、マリーは当たり前だと肩を竦めた。


『デルタ1よりロボロボ団1。戦闘、真面目にお願いします。というか真面目にやらないと娘さん(アウローラ)に言いつけますよ?』

「ロ、ロボロボ団リーダー、りょーかい!りょーかいしました!!只今より全力を持って戦闘を開始いたします!10-4・10-10(テンフォー・テンテン)


ダイサークの弱点の一つであるモノイコス盗賊ギルドのギルマスは、父親の逸話を聞く事を何よりの楽しみにしているのだが、ギルドメンバーから時折失敗やら悪ふざけなどの告げ口が混ざったりしている際には、直接父親の元を訪れ滾々と何故こんな事をしたのかという説明を求めるという行動を取るのである。実の父が敬愛するギルド幹部らに迷惑をかけたと言う点が許せないらしく、ダイサークの説明(言い訳)如何によっては、とても素敵な親孝行(お仕置き)が待っているのだという。突撃されている時点でダイサークにとっては十二分にお仕置きなのではあるが、彼は同じホビットであるベア子よりも自重できない質なので、アウローラの行動を皆が推奨していたりする。

 それはともかく敵を前にしている状態でカレアシンの格好を眺めていた彼らだが、別に仕事を忘れていたわけではない。

 それぞれに準備をしているのだが、この世界における初の秘蔵アイテム使用に、多少手間取っているというか準備に熱心だったのだ。

 ロボが好きかと問われれば、このギルドメンバーのほとんど全員が嫌いじゃない、もしくは好きだと答えるであろうが、ことプレイ様式にまでそれを本格的に持ち込んでいるのは、主に彼らロボロボ団の面々である。であるが、この世界に来てからというもの、ゴーレムで嬉々として戦うのは、ダイサークのみであった。

 それはゴーレムを呼び出す際に、ゴーレムのコアとなるアイテムの有無で、その造形がまるで変わってくるためである。

 ゲーム時代、他のアイテムや魔法、スキルなどと同様に、ゴーレムもその形状を自由に変更できたのだが、それには予め形状を登録しておかなければならず、そうでない場合は素体と呼ばれる、太めの棒人間のような単純形状のものしか呼び出せない。

この世界に転生してゴーレムを呼び出した際の落胆はかなりの物であっただろう。

しかし、ダイサークはそれにめげずに何度も試行錯誤した挙句に、遂には比較的複雑な形状でない限りは望み通りのゴーレムを生み出すことに成功していたのである。

これは、スキル発動時の一瞬で、ゴーレムの形状を脳内で完璧に想像できるか否かによるものと考えられているが、他のメンバーが何度試してみても同様の結果は得られなかった。

ダイサーク曰く、「ふんぬっ!って感じに脳内妄想にスキル発動するイメージ?」と曖昧なものであったために今ひとつ再現がし難かったのも一因であろう。


「なにテンパッて緊急指令的な反応を…」

「う、そんなことより戦闘だ!いつものゴーレム(GR)だと基本物理で殴るのがメインだから広域殲滅には向かなくってどうしようかと悩んだけれど!考えてみればギルドハウスで眠っていた!こいつがあるじゃないか!」


 そう叫びを上げて懐から取り出したのが、やけに角ばった長方形のアイテムであった。


「でろー!!市庁ロボ―!」


 そう言って放り投げられたアイテムは、キラリンと表面を照り返しの輝きで光らせると、何やら明後日の方角へ光線を放った。


「説明しよう!市庁ロボは謎空間である“レインボー・道路(虹の街)”を通ることにより巨大化するのだ!」

「誰に説明してるのさ」


 アイテムから発せられた光線が貫いた先では、背後の景色が滲むように空間が歪み、やがて七色に彩られた別空間へと変貌していった。

 そこに突き進んでいったゴーレムコアは、何かがはじかれるような甲高い音を響かせるや百八十度反転して元の空間へと姿を表した。

 その、手の平サイズだった大きさを、長辺が五チェイン《百メートル》ほどはある、直方体へと巨大化させて。


「市庁ロボは全長一市庁メートル、体重一市庁トンの巨体なのだ!」

「説明はいいから、さっさと攻撃させなさいよ」


 興奮気味のダイサークの言葉をうけて砂岩質の大地に降り立ったのは、磨きぬかれた御影石に包まれた、どう見ても建物を無理やり人型に組み替えただけの物を、まるで巨大な人が中に入って動かしている、かのように見える造形の、異様な存在であった。


「よし!行け!市庁ロボ!必ず殺すと書いて必殺の市長ビーム!!説明しよう!市長ビームとは、市庁ロボに出勤しているという設定の市長から放たれる、市民の血税を浪費して威力を上げる破壊光線なのだ!」

「いや、だから誰に説明してるのよ」

「こういうロボの出番があるときは、説明が付きものなんだよ?」

「だからなんで説明するのよ。私は知ってるってば」

「知ってるんならちょうどいいや、マリーにはこっちの防衛軍仕様のヘリ空母ゴーレム“日向ひなた”を貸してあげる」

「いらないわよ!」


 一人でノリノリになっているダイサークに一々ツッコミを入れているのは、ギルドメンバーでは数少ない普通人女性への転生者で、名はマリア=ルイーゼ。通称マリー。

 見た目はセミロングの金髪に碧眼、彫りの深さも程よく、すっきりと通った鼻筋に、ぷっくらとした柔らかさを確かめたくなるようなピンクの唇にシャープな顎の線、黄金率で構成されたかのような均整のとれたメリハリのある身体という、実に男好きのする肉体を持った女性なのである。

 前世においてはごく普通に進学をして就職、ごく普通の男性とお付き合いをしてごく普通の家庭を築く事を夢見ていていた、ごく普通の女性であったが、しかしてその実態は、ディープなコスプレイヤーとしてアンダーグラウンドにその名を知られたコアなオタク女性なのであった。

 お付き合いしていた大学時代からの彼氏には、自分の趣味をひた隠しに隠していたのだが、とあるカメコ(カメラ小僧)彼女とのお約束(顔にモザイク)を失念して素顔の画像を自サイトに上げてしまった事から知人伝いに発覚し、『オタクとかキモい』と言われてフラレてしまったという、少々残念な過去を持つ人物なのだ。

 それ以前から既にMMORPG『ALL GATHERED』にはハマっており、振られた事を散々ギルメンたちにくだを巻いては慰められたり、シア達をオフに引っ張り出してはヤケ酒に付きあわせていた事もあったりと、中の人同士の親交を深めるという点ではある意味でギルドを担ってきたと言えるかも知れない。

 件の彼氏と別れて以降、趣味のレイヤーとゲームと仕事とを頑張っていた彼女だったが、不況のあおりを受けて無職となり、ならばと芸能方面から幾つかオファーの来ていたレイヤーの方に力を入れようとしたが、オファー先を調べてみると十八禁的な映像関係メインのところだったり色々とヤバ気な関係筋であったりと、色々残念な状態であったとか。仕方なく趣味方面のまっとうなコネを駆使してコスプレ喫茶でバイトをして生計を立てていたという。

 ちなみに紹介してもらった先はヘスペリスの中の人の勤め先と同資本であったとかなんとか。

 そんな彼女が前世に未練なく転生を決意できたのは当然と言えよう。

 ズビデュバーっと市庁舎ロボが変な光線を発射しているのを見上げながら、「はぁ」と軽い溜息をついて首を振ると、姿勢を正し、叫んだ。


起 動(アウェイクン)!」


 その叫びとともに、彼女が身に着けている両手首の腕輪に光が灯った。

 腕輪同士を身体の正面で打ち合わせると、そのまま大きく両手を開き、それぞれの腕輪で二つ円を描くようにしゅるりと腕を宙に這わせた。

 腕輪の光が宙に輝く円環を二つ描くと、それらが互いに混ざり合うように回転を始め、周囲へと拡大していった。


「光とともに現れ出でよ。常世の闇を遍く照らさん」


 眼前で広げた掌を正面に向け、両手の人差し指と親指とで三角形を形作ると、そこだけがくりぬかれたように光を失うや、次の瞬間一気に周辺に広がった光の円環が収束して弾けた。

 そして、光が収まると、そこには身長が1チェイン(20m)程もある、純白の巨人が姿を現していた。


「お、マリーのロボ(ゴーレム)か。実際に見れるようになるとはなー」

「ゴーレムを呼ぶ詠唱が実に厨二的ですねー。あの頃(ゲーム時代)に仕込んでた『私が考えた格好良いゴーレム召喚』ですもんねー。名前なんて言うんでしたっけ」

「う、うるさい!聞くな!」


マリーが呼び出したゴーレムを見上げ、牛の獣人女性マイアが懐かしげな視線を送っている横で、兎の獣人女性も感心したような顔つきでマリーへと問いかけているが、当の本人は顔を真赤にして両手で顔を覆って慌てふためくだけであった。

が、そこにダイサークがひょっこりと顔を出し、こう言った。


「【絢爛たる闇を満たす(プラチナム)赫奕たる白金の光槍(ロンゴミアント)】だよねー。あ、市庁ロボ!市職員ミサイル発射!説明しよう!市職員ミサイルとは」

「説明せんでいい!んもう、行きなさい!ロンゴミアント!」


ダイサークに自身のロボに付けていた厨二的な名をバラされ、がっくりと肩を落としたマリーは、半ばヤケになりつつ呼び出したゴーレムに戦闘開始を指示して、戦闘目標である『モケケピロピロ(スライム)』へと駆け出させた。


「『全き穿つ白き閃光(プラチナム・カーカス)』!」

「厨二的ネーミングだねぇ」

「うるっさい!」


グダグダと言い合いながら自分たちの呼び出したロボの後を追い、かけ出したマリーとダイサークであった。

そんな二人を見送って、残る三名は各々自分たちのゴーレムを呼ぶ為にコアとなるアイテムを起動させていった。


 ☆


「行くよー」


 マントを翻した黒子さんが、縮み始めたカレアシン目掛け、スキルを開放した。


「スキル発動!【そのとき不思議(完 全)な事が起こった(回 復)!!】」


その声と同時に、巨体を維持できなくなって元のサイズにまで縮んで蹲っていたカレアシンにキラキラと煌くエフェクトが降り注いだ。

体力もスタミナも使いきって、身動きもままならなくなるはずの彼が、カッと目を見開き、何事もなかったかのように立ち上がった。


「ふう、あんがとよ」

「いえいえこれ位、軽いもんです」


いい汗かいたとばかりに額を拭うカレアシンに、黒子さんが手にしたヨーヨーを弄びながら開いた手の平をパタパタと振って答えた。


「ジローサブローは【胸から怪光線(Ωスマッシャー)】の連発か…。あの双子は?」

「むこうで二人してスキル連発してますねー。例のアレです」


周囲に視線を送ったカレアシンだが、目的の人物たちの内、一人はすぐに把握できた。

ジローサブローは装備している鎧に付与されている特殊スキルを連発し、広範囲を派手に蒸発させていた為にすぐに目についたからだ。

他の二名はというと、そのジローサブローの攻撃に巻き込まれない為に若干離れた場所で、お互いをカバーしつつスキルを発動させまくっていた。

ハイエルフだけに精霊魔法で攻撃するものとばかり思っていたカレアシンは、その連発されるスキルを見てしばし唖然としたが、「まあ、俺らにはよくあること」と思考を放棄して無理やり納得していた。

そのメアリーとスーであるが、細身のハイエルフであり、とりわけ精霊に好かれる為に高度な精霊魔法を得意とする種族なのである。あるが。


「メアリー、いくですよ!【絶対破壊(四五口径)艦砲射撃(五十サンチ砲)】!!」

「よーそろー」


身に纏うは鋼鉄の戦船を模した、実用性皆無の装備。

しかしながら彼女らはそれを余すところ無く使い、目に見える効果を発揮していた。

スーは、両肩に三連装砲塔を模した巨大な肩当てが目立つ鎧を着こみ、額には菊花紋章が飾られた艦首部分のような鉢金だかティアラだかよくわからないものをつけ、両手には軍刀を持ち、スキルを連続発動していた。

その横ではメアリーが、スキル【ものまね(キルミーベイベー)】を起動して、同様の攻撃を行なっていた。


「五十サンチ砲…?ああ、戦艦紀伊ですか。だから四十六サンチじゃないんですねぇ」

「紀伊?あー超大和級かよ……八八艦隊の方かとおもたわ。そういやむか~し、まだぐんくつのあしおとwがどうのって話が喧しくなかった頃に、子供向けの漫画雑誌とかに載ってたなぁ。紀伊だの尾張だのって艦名で…って、あいつら中の人そんな歳じゃなかった筈なんだが…」

「ですよね。私は旦那の親御さんがそっち系統を好んでたのかして、色々と蔵書に混じってまして。その影響で色々と…ですけど」

「あー、お前さんの旦那はアレか。サラブレッド(親もヲタク)だったかよ。つくづく惜しい人をなくしたよなぁ…っと、すまん」

「いいんですよぉ。心の整理はとっくに済んでますから。残念なのは旦那を死なせた相手が見つからなかった事ぐらいで…」

「信号無視のダンプだったか…まったくなぁ…」


夫婦揃って来れていたら、さぞかしと、これは口に出さずにカレアシンは目の前の黒子さんの旦那を思い出していた。

何かにつけて毒を吐く、多少斜に構えた性格の持ち主だったが、高齢ヲタクの自分の話題によく追従してきた生粋のヲタクでカレアシンも感心していた程である。

一流大学を出て有名企業に就職していた、経歴だけ見れば真っ当な人物(一般人)であったが、その人生のレールは親に言われた一言で決まったということも聞いていた。


「将来、稼げて休みがきっちり取れる職につく為に勉強はしとけ、か。他の趣味もそうだが、ヲタ趣味も、とかくカネがかかったからなぁ」

「ええ、イベント行く交通費に欲しいアイテムとか、独り身の時は資金繰り大変でしたねぇ。結婚してからは旦那の稼ぎに私のパート、家のローンを払っても可処分所得に余裕があるって素敵って感じでした」




「イベントといやあ、通販なんかがあたりまえじゃあ無かった頃は、そこに行かなきゃ手に入らなかったしな。同人誌なんざ特に」

「私も旦那も、地方でしたからねぇ。今思えば大変な時代でした」

「俺は関東の秘境(グンマー)だったから比較的楽だったけどな。|晴海時代にゃあ浦島に泊まったりしたが」

「私の初参加はメッセでしたね。まああっと言う間に使えなくなりましたが」

「…いやな、時代だったな」

「忘れましょう、もう私達には無縁ですしお寿司」

「そういやよ。旦那()と初めて話しした時は、会話の内容がズレててなぁ」

「ああ、言ってました。ガッ○イガーの話をしてるトコに割り込んだら、宇宙○盤大戦争じゃなくて超ス○パーカーの話で恥かいたとか」

「他にも冬にフグ食いに行こうって話になってふぐ刺し(てっさ)の話してたら、ふもっふ面白いですとか言ってきてなぁ。早とちりっつーかなんつーか」


いろいろな方法で攻撃され(削られ)ている『モケケピロピロ』を眺めながら、竜人と猫種獣人の二人は、前世《昔》を思い出して懐かしんでいた。そんなふたりの背後で地面に突き刺さったままの魔法剣が、呆れながらも声を発した。


『旦那、いいんですかい?ぼさっとしてて』

「いーんだよ、どうせ長丁場になるんだ。二日や三日の長時間戦闘は想定しとかにゃ」


のんびりとしている持ち主に、魔法剣――今や剣とは言いがたい太刀拵えとなっているが――は一応の忠告を行なった。

もともと持ち主に戦場で助言したり注意を促す類の魔法具の一面を持っているこの魔法剣としては、言わずにはおれなかったのだろうが、現在の主はそんな言葉は右から左、であった。


『いや、でも旦那ぁ。油断禁物って言うじゃないですか。コレでも俺っちは気を使ってんですよ?』

「あー、うんわかったわかった…ん?」

「あら?」


魔法剣の言葉を聞き流していたカレアシンであったが、ふと視線を背後に向け一点を凝視した。

黒子も同時に気づいたのかして、弄っていたヨーヨーをただの砂と砂礫しか無い空間へ向けて放った。と。


「おいおい、いきなりかぁ?」


何もなかったはずの地点に、黒子の放ったヨーヨーを掴み取った男が一人、姿を表していた。





「ねー熊子、あんなコト言って良かったの?」

「にゅ?あんなコトってなんぞ?」


守備隊らとともに列だのなんだのをすっ飛ばして王都に入り、色々と手続きがあるからと言うセイバーや商隊と別れてシア達はギルドへと向かっていたのだが、熊子の先導に従いながら街を歩きつつ、シアは気になっていたことを口にした。


私たち(ギルドメンバー)の過去を捏造した件に決まってるじゃない。流石にあそこまで嘘だとどうかなーと」

「ねーちん。全部が全部ウソってわけじゃないじゃん?どっちかって言うと曲解?」


ちょっと首を傾げて心配気に天を仰ぐシアに、熊子は事も無げに言い放つ。

その表情に心配とか杞憂といった系統の陰りは微塵も存在していないように見えた。


「…捏造って言葉しか浮かんでこないわ」


その顔を胡散臭気な視線で横目に睨むシアだが、熊子は一向に堪えない。

むしろ奇貨を得たとばかりに高揚しているようにも見えた。


「だってほら、これで天の磐船(ギルドハウス)は昔の国の一部と言い張れるしー」


一応考えてはいるのだと、口元を若干歪めて熊子はそう言い張った。

消え行く国土から、古代の遺跡を切り出してたとえわずかでも故郷の名残を、と言う筋書きにしているのである。

大国などからよこせと言われたら、反抗する大義名分となる、との心づもりなのであろう。

その際には、きっとシアの立場はギルドマスターではなく、亡国の女王だというでっち上げでもなされることであろう。

実際、シアのギルドカードには、そのステータスの職業欄に『女帝』と記されているために、神聖魔法によって虚偽を確かめたとしても嘘ではないという答えが出ることまちがいなしである。

あくまでも嘘ではない、というだけの話だが。


「でも身内も騙してるのは気がひけるって言うか」


気楽そうに言ってくれる熊子に、シアはチラリと背後を気にする。

後ろを付いて歩くハイジとクリスには、ちょっと幹部同士の話しがあるからと断りを入れ【遮音結界ないしょばなし】を発動しているため、話の内容については知られる心配はない。

なお道すがらに冒険者ギルドの成立以前の話を聞かせた事についてだが、興が乗ってしまったためか、かなり脚色された叙事詩的な物語となって語られており、聴衆もハイジらだけではなく、聞き耳をたてていた傭兵団や商隊、それに守備隊の面々にまで聞かれていた。

熊子がその状況をそのまま利用しての現状となるのだが、その影響が現れ始めるのは幾分時間が必要であった。


「まあ、ほら。敵を騙すにはまず味方からって言うじゃん」

「別に敵じゃないし味方だけ騙されたりしたら笑えないけど。まあ情報操作って意味ならわからなくはないか。でもこれまではどうしてたの?ただの流れ者扱い?」




「そだよ。前世のジプシーとか、こんな感じだったんかね?お陰様で身に危険が及びそうになるなるww危うく奴隷とか身に覚えのない犯罪の疑いかけられたりしたなー。無駄に能力高かったから力づくでどうにかしてきたけど」

「笑いごっちゃないわね…」


ニコニコしながら割りと洒落にならない事を口にする熊子に、シアは言いようのない疲れを感じる始末だった。

なお、メンバー全員に捏造した過去の設定を通達する際、更に改竄したがる者たちが続出したのは言うまでもない。

「どうせなら、ってみんな無茶苦茶。つじつま合わせのネタだったのに、更につじつま合わせるハメになるとか」

「ウチら設定厨(厨二病)の面目躍如ってとこかにゃー」

「しねばいいのにね!」

それはともかく。


「まあ、これからは実力隠しはしなくていいしー。まあセイバーとかは隠してるつもりで隠せてなかったりするけどね」

「あー…。なんかわかる」


事実、隠せてなかったのであるが。|ちなみに彼女についた二つ名『流星砕き(メテオ・ブラスト)』は出鱈目なその物理戦闘能力を「流星にも追いついて叩きつぶせそうだ」などと賛辞されてのものである。

常に全力全開のセイバーは、本人にその気はなくともちょいと見る目のある人間がいれば、その常時まとっている威圧感やらなにやらで、格の違いは一目瞭然であった。

ゲーム時代、フィールド上で雑魚を寄せ付けないための威圧スキルなのだが、それが今世に於いても有効で、おまけに本人がそれを抑える気がない辺りがその原因である。

当然シアも同様のスキルを持っているが、流石にオンオフは使い分けている。


「んまあ、細かい話は支部に着いてからでいいじゃん。もうじきだし」


言いながらスキルを解除した熊子は、背後の二人にも声をかけ、内緒話を終えたことを告げた。

ちなみに鳥バーを含む使役獣らは、付けられている手綱を引かれ、おとなしくついて来ている。旅人の騎馬などは、基本的に泊まる予定の宿に厩が併設されている場合はそこへ、無い場合は馬や馬車を貸し出す厩舎を生業としている店が預かり業務も行なっていることが多いためにそこで世話をお願いするのが通例である。

シアたちの場合は、ギルドに行けばそれなりに設備も整っているために、そこまで連れていく事となっていた。

騎乗していないのは市街地では王都に限らず、禁止こそされていないが基本的に公務の騎士ら以外はできる限り騎乗を避けるという、暗黙の了解が根付いているためだ。

これは、主に街の通路がさほど広くないと言う事もあって、事故が絶えないからだとも、特権階級による誘導だとも言われているが、その本当の理由は定かではない。

大通りならば大型の馬車でも余裕を持ってすれ違える程には道幅があるのだから。


「あ、足元は気をつけて。この街はモノイコスみたいに馬糞袋はあんまり普及してないから」

「わかってる。っていうか入って直ぐ気がつくってば、匂いで」


足元の道には、アチラコチラに点々と何やら異臭漂う異物が転がっている。

何を隠そう街中で利用されている馬車や牛車らが垂れ流した排泄物である。

定期的に行政による清掃が行われているらしく、昔の街角のように「汚水に気をつけろ!」と叫んでから窓からぶちまけるというようなことはされておらず、中世のヨーロッパ同様の衛生観念とは言え、流石に人糞は撒き散らされていないようである。


「旧時代の名残のおかげ、らしいよ?昔々の下水道がまだ生きてるんだとさ」

「ふーん。ああ、そういえば古代ローマ時代は下水道完備だったらしいもんね。そういった感じなのが残っってるわけね」

「そゆこと」


そうして道々アレはなに、これは、それはと色々と興味津々でドンドンと行動速度が遅くなってくるシアを引きずって、どうにかこうにか目的の場所へとたどり着いたのであった。


なお、シャルル少年は、涙ながらにシアたちとの別れを惜しみ、「冒険者ギルドですよね?!絶対遊びに行きますから!」と、非常に熱の篭った言葉を残して去っていった。

その横で待機していたアラミス女史が渋い顔をしていたのは、あくまで余談である。


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