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MMORPG?知ってますけどなにか?  作者: でーぶ
第二章 異世界漫遊記
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第48話 スライムって緑のバケツ入りで売ってましたよね?て言うか今でも売ってるんですかね?

年末が近づくと忙しさが加速度的に…orz

ゴール王国の王都であるルーテティアは、王国の領土の中心部よりもやや北西に位置する広大な盆地に広がっている。

ケスタと呼ばれる、堆積した地層が差別侵食された結果生まれた波打つような地形が続く土地には、一本の大河がまるでのたうつ蛇のように海まで続いており、人々は古来よりその水の恩恵を受け、生活を営んできていた。

シモーヌ川と呼ばれるその水量豊富な河川の、その川幅がぐんと広がり流れが一段とゆるやかになる下流が始まる流域、そこにある一際大きな中州がこの都市の始まりの地であったという。

外敵を寄せ付けにくい川に囲まれた地に人が集まり、やがて村に、更には中洲では収まりきれずに川を挟んだ街へと規模を増しながら発展していった。

そして川という防壁をこえて溢れた人々と街を守るために、はじめは柵や土嚢が積まれて周囲が囲われていたが、時を経るに従いいつしか城壁を形作るほどの大規模な城郭都市へと変貌していた。

そして現在、その古の城郭都市を中核とした、エウローペー亜大陸でも一・二を争う規模の百万都市という、巨大な市街地を構成するに至ったのである。


その大都市の治安や防衛に携わるという重大な責務を負う王都守備隊、その第二番隊の副長代理と名乗った女性獣人は、ひと通りの経緯を聞き終わり引き連れていた部下達に襲撃者の引渡しを指示すると、瞳を輝かせて天幕の向こう側に見え隠れする巨大な何かへと興味を向けた。


「面白そうなの連れてるじゃないか。ちょいと楽しませてもらえるかねぇ?」


そう独りごちる彼女は、周囲の「揉め事を増やさないでほしい」と言いたげな部下の視線を理解しつつ、一歩を踏み出した。


「おい、セイバー。挨拶程度にしとけよ」

「ははっ、あんたが人を諌めるようになるなんてな。歳かい?」


ゲオルグの言葉を軽口で返して、彼女は天幕の向こう側へと進み、そこに四肢を折り曲げて寝そべる白銀の巨狼を見るや、それはそれは嬉し気な笑みを浮かべ、片手で顎を擦り悦に入る。


「いいねぇ。こんなの(・・・・)呼べ(召喚でき)る奴なんざ、こっちに来て以来、未だに会ったことが…」


無い、と続けるはずの言葉が、途中で止まる。

頭の上の耳がピンと立ち、警戒を示したまま彼女は視線をゆっくりと横へとずらし、そこに見覚えのある顔を見つけるや頬を引き攣らせた。


「あれ?牙ねーちんじゃん。おひさ」


セイバーの視界のど真ん中で、テーブルセットに腰掛け、空になった瓶を弄んでいた熊子が、シュタッと片手を上げた。


「べっ…(ベア)子!?なんであんたがここに!?」


先ほどまで纏っていた重苦しい雰囲気は何だったのかと思わせるような、そんな慌てふためき様に、ゲオルグやブッフらと詳細を詰めていた彼女の部下が慌てて駆けつけてくるほどであった。


「ふ、副長代理、何か問題でも?」


彼らは、見たこともない巨大な銀狼に一瞬怯むが、即座に立ち直りセイバーに向けて問いかけた。


「い、いや。こんなところに居るはずのない昔なじみが居たから少々驚いただけさ。別に問題ってわけじゃないよ」


駆け寄って来た部下に問われたセイバーは、面倒が起きたわけではないと簡単に説明すると、ここはいいからと任せた仕事をこなすように言って、改めて熊子へと向き直った。


「で、なんであんたがここに?あっち(砂漠)にアンタも行ってるって聞いてたけど?」

「あ、行ってたよ?砂漠。終わったからさっさと帰ってきて、とある用事で各支部の巡回中。それよりなんで守備隊の隊長さんやってんの?」


それまで腰掛けていたテーブルセット等を腰の魔法の袋に詰め込みながら、熊子はさらりと現状を告げた上で、相手の状況を問い返した。


「ああ、別に大層な理由はないさ。本職の連中が砂漠から帰ってくるまで手が足りないからってんで、ギルド支部(うちのとこ)に依頼が来たのさ。だから仕方なく…あくまで代理って事、あと隊長じゃなくて副長代理。そこんとこ間違えんな」


眉間にシワを寄せ、居心地悪そうに言い返すセイバーに、熊子はニンマリと笑みを返す。

セイバーは冒険者ギルドに所属している転生者であり、この世界においてはどこの馬の骨かもわからない得体の知れない人物なのである。

それが代理とはいえ守備隊の副長、それも大国であるゴール王国の王都の、だ。

通常ならば最低でも騎士階級出身者で占められる部隊の責任者に、代理とはいえ彼女のような者が収まっていられるはずがない。

熊子としてはそのあたりを突っ込みたかったのだろうが、セイバーは頑として唯の依頼だと言い張り、平行線をたどる様相を見せていた。

そんな二人のやり取りを、ハイジとクリスは目をぱちくりとしながら見守りつつ、声を潜めて会話を行なっていた。


「セイバー…?」

「知っているの?クリス」

「ああ、以前聞いた覚えがあるよ。女性ながらもその高い戦闘能力で王都にその人ありと言われるほどの女傑さね」


聞かれていれば熊子あたりに[大往生]とでも額に落書きされそうなことを口にしていたりする。

聞こえてくる会話から察するに、同じギルメンとの再会という事になるはず、と思いハイジは視線を向けるが、セイバーを見るにあまり嬉しそうでもない。

熊子はといえばいつものごとくニヨニヨと笑みを浮かべているだけで、今ひとつとらえどころがなく何を考えているのかが掴めない。

ハイジは首を傾げながらも、久し振りに会ったのならば色々と積もる話があるのだろうと、挨拶は後回しにして傍観に徹することとした。

一方のクリスはというと、二人の会話に違和感を感じてはいたようであるが、それよりも何やらセイバーに興味があるらしく、意を決するかのように二人の間に割り込んでいった。


「熊子殿、お知り合いですか?」

「あー、お知り合いというかなんというか…ギルメン、チミらの大先輩」


やはり、とばかりにセイバーに視線を向けて姿勢を正し、頭を下げる。

それを見たハイジも慌ててその横へと並び、同様にぴょこたんと頭を下げた。


「ん?なんだい?この娘らは」


訝しげに熊子へと視線を向けるセイバーだが、先ほどの熊子の言葉を思い返し、しげしげと二人の様子を窺った。


「初めまして、かな。クラリッサ・モンベル、そこのジェヴォーダンの獣(長牙黒狼)使役(つか)う、魔獣使いさね」

「あの、アーデルハイト・アルブレヒツベルガーです、ヒポグリフのシュニーホプリを使役います、同じく魔獣使いです、よろしくお願いします」


真正面からそう名を告げて冒険者ギルド所属の証であるギルドカードを見せる二人に、セイバーはむず痒くなるような感触を受けつつも、自身も名乗り返した。


「新入りか。アタシはセイバー・リスキニハーゲン。硬度7、(ガドリニウム)(ガリウム)(ガーネット)流星砕き(メテオ・ブラスト)セイバーさ…ってナニソレ」


思わず覗き込んだのは、見慣れているはずのギルドカードが見慣れない様相を呈していたからだった。

自らの持つ、皮革と金属プレートを張り合わせた物と形状は同じだが、その金属部分がまるで違っていたのに気がついたのである。

磨かれた金属の輝きを放つのは共通で、自身の物にはその金属部分に名を刻まれているだけだが、二人が持つものは明らかに違う。

まるで前世において存在した、携帯端末のような表示が、そこには浮かび上がっていたのだから。


「あー、それ。ウチラのギルド支部巡りの発端…」

「何々?どうやったらこんな風になんのさ。ちょっと見せてもらっていい?」

「…なんだけど、聞いてないね?」


熊子が説明をしようとするのを他所に、ハイジ達からカードを借り受けマジマジと見つめ、ひっくり返したり陽にかざしたりと興味津々なようであった。


「ねー熊子、コレどうやったのさ。新人ちゃん達だけ?古参はもらえないの?」


一頻り弄り倒してカードを返却すると、セイバーは矛先を熊子へと向けた。


「いやだからそれを説明しようとしてるのに聞かないの牙ねーちんじゃん?」


目をギラつかせて押し倒すような勢いで迫るセイバーに、熊子が激しく抵抗するが、如何せん膂力が足りない。

両手で抱え込まれてシェイクされ、もうやめて私のライフはもうゼロよ!と言いそうになるがグッと堪えて違う言葉を吐き出した。


「ねーちーーん!たぁーすけてー!」

「ん?あーっと、警戒するつもりがついヴィト(白狼)の毛の感触に負けてモフってしまってたわって、どしたの熊子」


熊子の叫びで、フローズヴィトニルの背からムクリと起き上がった一人の女性エルフ。

白狼の背でモフりを堪能していたシアが、ようやく状況の変化に気がついたのであった。


「よっ、と」


巨狼の背中から跳んだシアは、軽い跳躍にもかかわらず高く舞い上がり、太陽を背に受けて(逆光は正義)綺麗に体を伸ばしたまま後方に二回回転しつつ更に二回ひねりを加えて着地すると、悠々と熊子のすぐそばへと歩を進めた。途中でシアが一旦立ち止まったので周囲の面々は一様に首を傾げたが、それは遅れて降ってきたチビたまちゃん(九尾の狐)が彼女の頭上にぽふんと降り立ったことで納得された。


「うーむ、E難度の伸身の新月面(ワタナベ)が楽に決まるとは…。こりゃ普通に平地でも後方伸身三回(空の)宙返り三回ひねり(キャンバス)が出来そうね…」

「きゅ?」


顎に手をやりながら何やら思案顔のシアに、頭上のチビたまちゃんがどうしたのとばかりに鳴く。


「あ、別になにか困ってるわけじゃないからねー。気を使ってくれてありがとうね、たまちゃん」

「きゅ!」


頭の上の子狐を撫でながら、シアは熊子へと視線を送り、次いでその頚椎を今にもへし折りそうな勢いでブンブンと前後に振り回している女性獣人へと顔を向けた。


「はて、何やら関係者な雰囲気が…」

「…え?」


熊子を問い詰めていたセイバーは、熊子を揺すりまくる手の動きはそのままに、顔だけはまっすぐにシアへと向けて、驚愕の表情を浮かべていたのであった。








「い、いい加減、手、離して…」


熊子、脳震盪でリタイヤ。再起可能。

←TO BE CONTINUED





巨大な、と言う形容すら生ぬるいサイズのスライムを視界に収め、カレアシンは肩をぐるりと回してから気合を入れるためかガツンと胸の前で拳を合わせた。


「さーて、いっちょやるか」

「隊長、赤い肩小隊揃いました」


カレアシンの背後から、腰までの白いマントと一体になったピンクのミニスカートと二の腕まで覆う手袋にひざ上のロングブーツ、半透明のバイザーがやけに細長く突き出ているヘルメットに専用ブレスレットを身に着けている黒子さんが、配下の部隊が配置についたことを告げる。


「…お前もネタ装備かよ。いや、俺も人のことは言えんけど」

「いーでしょー、あの頃(ゲーム時代)アマクニに頼んで作ってもらったのよね~。大変だったけど懐かしいわ~」


そう言うと黒子は、ニコリと笑いながらマントを翻してて片足を大きく蹴りあげて決めポーズを取る。

ゲーム時代、素材からアイテムを作る際に、3Dスカルプター(彫刻家)というゲーム内アプリを利用してオリジナルデザインによる装備が作成可能であった。

無論課金が必要なアプリだが、生産系のプレイヤーはこぞってオリジナルを生み出しては販売して色々と楽しんでいたものである。

彩色も自由度が高かったため、痛防具や痛マント、痛剣などが出回って、色々と盛り上がったりもした。

どう見ても布素材なのに加工アプリは『彫刻家』などという名前だったので、色々と突っ込まれていたが。

それはさておき、そのような成り立ちで作られた各種アイテムも、ギルドハウスごとこの世界に持ち込まれているために、見た目も能力補正も尋常ではない性能のレアアイテムづくしの装備一式は、色々と突っ込みどころ満載なのである。


「うん、完璧。動きやすいし、空中で落下にある程度移動補正がかかるのも助かるのよね」

「パンツ見えてるぞ。って、ああ。予定の位置に寸分違わず降りてったな、そういや」


飛べる自分自身は別になんとも思わなかったが、いくら身体能力的には落下における終端速度で地面に激突してもそうそう死なないようになってはいても、やはり落ちるのは怖いだろうと、そういった補正ありの装備を纏うのも致し方無いかとカレアシンは得心していた。

ただ単にコスプレが好きなだけかも知れないという事実は別にして。


「それより、そろそろ始まるぜ。こっちは準備万端だ。それよりカレアシン、そんな装備で大丈夫か?」


そう口にしたのは、普通人男性のジローサブローである。

ジローサブローの言うとおり、カレアシンの着用している装備は、焦げ茶色に染められた布製の上下に毛皮のベスト、黒い手甲・脚絆を纏った格好で、背中には鞘と鍔が鎖で繋がれている太刀と、至ってシンプルだ。

しかも、見たところ特にレアというものでもなくなんの補正もついていない、ゲーム内どころかこの世界でも普通に店売りされている程度のいわゆる“狩人の服”といった感じの安物に見える。

唯一背中に背負った太刀のみが怪しい魔法の気配を醸しだしている程度で、元商人であるカレアシンが大量に保有しているはずの防具の類(レアアイテム)は、一切身に着けていなかった。


「ああ?大丈夫だ問題ない。つーか、一番いいのを着てるとちょいと心配でな」

「いやむしろ一番いいのでないと、なんかあった時に怖いだろ。アレ、色々とやばそうだぜ?」


砂漠で日差しと焼けた砂とに焼かれているスライムを指差しそういうジローサブロー自身は、ギルドハウスで眠っていた手持ちのレア装備を着込んでいる。

揃いの防具は全身を覆い尽くしてその素顔を窺い知ることもできないが、あからさまに職人の手によるものと理解できるデザインだった。


「お前だって色々とやばそうだがな。額の宝玉割れたら装備に食われたりするんじゃないよな?それ」

「…多分」


全身甲冑である彼の装備は、確かに身体を隙間なく覆っているが、通常であればある程度の隙間がある関節部分すらもとある物質で覆われている。


「ちゃんと加工した素材だから大丈夫だろ…もとがスライムでも…」

「だったらいいな…」


凝り性の職人であるアマクニ謹製の装備だけに、そのあたりが怖いところであるが、さすがに命にかかわるようなネタは仕込まないだろうと納得するしかなかった。

そんなネタ装備の心配をしている二人に、透き通るような澄んだ声が届いた。


「爺さんもおっさんもそろそろ黙るがいいですの」

「そうだね、黙りやがれ」


美しい声の響きとは裏腹に辛辣な内容をぶつけてきたのは、二人のハイエルフ女性であった。

その名に恥じない美しい容姿を誇り、正しくファンタジー世界を体現しているとも言える存在である。


「ほら、そうこうしているうちに『天の磐船』から攻撃が始まるですよ」

「はっじまっるよー」


二人の声とほぼ同時に、上空に浮かぶギルドハウスから幾筋もの光が煌めきはじめた。

狙いなど付けずとも打てば当たる巨大さだけに、打ち出される全弾が命中し広範囲にわたって盛大に炸裂していくのがはっきりと見える。


「たーまやーですわー」

「かーぎやーだねー」


竜人カレアシンと猫種獣人ウイングリバー・ブラックRX、普通人のジローサブローに加え、ハイエルフの双子である女性、メアリーとスーの二人をあわせた総勢五人が、今回の赤い肩小隊の全メンバーなのであった。



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