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MMORPG?知ってますけどなにか?  作者: でーぶ
第二章 異世界漫遊記
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第46話 これより我ら修羅に入るでしたっけ?戦闘前にかける台詞としては自分的に一番だと思うのですよ?

うーん

天の磐船(ギルドハウス)の艦橋で、呉羽ら幹部連中は目の前に広がる光景に唖然としていた。


「この世界のスライムが湿地帯にしかいない理由って…」

「うん、まあちょっと想像はしてたがな」


ヘスペリスもカレアシンも、半ば現実逃避しかかっているのか呆れてモノが言えないのか、溜息交じりの声しか出てこない様子であった。

その彼らの眼下に広がる砂漠地帯では、巨大な、と言う形容ですら生易しいサイズのスライムが、見渡す限り一面に広がっていたのである。が。


「干からびてる?」

「結構標高が高いから、昼の強い日差しで体液が沸騰してるみたいね」


ヘスペリスの言葉を受けて、呉羽が理由と共に肯定する。その言葉通り、粘膜の表皮は極度の乾燥でヒビ割れ、そのヒビ割れた裂け目から、とめどなくドロリとした体液が垂れ流され、時には噴水の様に噴き出しては乾いた大地に滴り落ちていた。


「…夜は夜で氷点下だしな。凍っちゃ溶けて茹でられての繰り返しで、ようやくココまでたどり着いたってところか」


スライムの身体から体液を押し出すようにぼこぼこと浮かび上がる泡は、陽に炙られた事による体液の沸騰によるものか、それとも取り込んだ何某かを溶かした際に発生した気泡なのかは定かではないが、それが自身にさらなる傷を与えているとは、さすがに認識出来るだけの知能はないのだろう。


「ほっとけばそのうち干からびるんじゃないか?」

「そうかもしれませんが、さっさと始末しないといけない様な、嫌な予感がびんびんします」


そういうヘスペリスの前髪が一房、まるでアホ毛のようにぴろりんと立っている。


「あー、【危険察知(妖気です父さん)】な。で、どんくらいだ?」

「それはもう、最大級です」


危険察知のスキルは、常時発動型で自身に及ぼす危険を察知してくれるという便利スキルである。

まあ、その危険がどういった内容かと言うのは判らないので今ひとつ使い勝手が悪いのだが。


「まあ貰うもん貰っちまってるからやるこたやるけどよ。おい、準備はいいか!」


ギルドメンバーが出撃を待つ第三艦橋そばの出入り口に向けての伝声管へ、カレアシンは声を張り上げた。

と、今声を発した管の向こう側から景気のいい返事が飛んでくる。


『いつでもー。魔法使用禁止とか物理ダメ無効とか聞いたらむしろ手を出したくなるのが廃人の廃人たる俺ら』

『私は廃人じゃなかったですけどね。あ、むしろみんなさっさと出たがってますけどー』


準備万端というか色々試したいモノ(レア装備)をそれぞれが手にして、暴発しそうな勢いであるようだ。


「よし、んじゃ行くか。お前ら、わかってんな?干からびてるように見えて実は脱皮の最中だとか、中身は新鮮とかよくある話だからな。気ィつけろよ!」

『倒したと思ったらこれからが本番だとか復活とか擬態が解けるとか本性が現れるとか実は外皮でしたとか』

『よくあること』


一応注意を促すカレアシンだったが、そのあたりは皆心得ている。

呉羽とヘスペリスに向かって頷き、カレアシンも自身の装備を携えて第一艦橋を後にした。

竜人を見送った二人は、呉羽が天の磐船(ギルドハウス)操作に専念するために艦橋中央の球体の側へ、ヘスペリスはその球体の右後方に位置する席へと移動した。


「それではこれ以降、管制は私ヘスペリスが行います。簡単な指示は風の精霊(ウィンドボイス)で伝えますが、詳細は魔報(メール)しますので各員ギルドカードは常に確認できる位置に固定の事、よろしい?」

『了解、アマクニのおっさんも中々良いもん作るじゃないの』

『うん、ギルマス(シアたそ)に作ってあげたら喜ばれたって嬉しがってたから煽てたら「じゃあみんなの分も作るか」ってノリノリで色んなタイプ作ってた。スカウターみたいなのとか。まあ片目塞いじゃうから却下したけど』

「…それで仕事が溜まってては世話がありませんが。では、以降は天の磐船を早期警戒管制機(AWACS)的に使用します。では、皆さん幸運を」

「世界の興廃この一戦に在り総員一層奮励努力せよ、ってね。それじゃあみんな、逝って良し」


なつかしいネットスラングを呟いた呉羽の指示を受け、皆一様に空へと跳んだ。

その際当然の如く各々好きなように声を上げていたのに、艦橋の二人は苦笑するほか無かった。





『行きまーす』だの『アイ、キャン、フラーイ!』だのと口々に叫びながら飛び出していくメンバーたち。

中には数人がかりで「なぜこんなになるまで放おっておいたんだ」と運ばれながら、ソイヤとばかりに外へ放り出される者まで居る。

そんな様子を、先に宙に飛び出していた普通人の男性が落下しながら体勢を入れ替え、上空の天の磐船(ギルドハウス)を見上げて嬉しそうに笑う。


「いやー、まさかいきなり空挺降下させられる事になるとはね」

「ほんとにねー。まあ、これくらいの高さなら前世はともかく今の私達だと、普通に着地出来ちゃうのが凄いよね、実際のところ」


それに倣うように同様の姿勢で横に並ぶのは、ウイングリバー・ブラックRX嬢。

風にたなびく尻尾が若干膨らんで見えるに、やはり落下と言う事に対して生理的に恐怖を感じているのだろうか。


「まーなー。こんな落下中の会話だって、風の精霊のおかげでいつも通りよく聞こえるし…っと、そろそろ装備展開しとくか」

「そだね。スキル【早着替え】起動(バード轟!)

「うしっ!【職喪っ!(ガ○バーっ!)】」





「すっ…す…すみま…ごにょ…せ…」


シアに突っ込みを入れられた男は、先ほどのきりっとした顔つきから一転して視線を彷徨わせて聞き取りにくい喋りでなにやら謝罪の言葉を呟いていた。


「んー、ねーちんツッコミ激しすぎ。もうちょいマイルドに接してくんない?」

「いや、ごめん。ついいつもの調子で。っと、はいっ、仕切り直し!もう一回最初っからね、はいどうぞ」


にこやかな表情でそういうシアであったが、居並ぶ三名の反応は鈍い。

それぞれ何やら薄ら笑いを浮かべたり、視線をあちこちに彷徨わせたり、苦虫を噛み潰したような顔をしていたりと、一向に動く気配がない。


「ほら、ねーちんのせいでこいつらキョドっちゃったじゃん。こうなると復帰しにくいんよ?」

「う、ごめんなさい」


これだからリアルに男を知らないおにゃのこは困ると、元ヲタ男の習性を身を以て知っている熊子はさてどうしようかと腕を組んで頭を捻る。

と、それまで傍観に徹していた二人がすいっと熊子とシアの横に立ち、止める間も無く口を開いた。


「気をー付けっ!」

「っ!?」

「聞こえんのか!?気を付け、と言ったのが聞こえんのか!?貴様らの耳は頭を持つ時の取っ手か何かか!?」


胸を張り、腕を後ろで組んだクリスが、肩幅に開いた足を地面にしっかりと付け、腹から響くような声を上げて男たちに号令をかけたのだ。

戸惑う男三人に追い打ちをかけるような行為ではあったが、従わなければどうなるのかをそれとなく教えるような素振りで、ハイジが怪しい笑みを浮かべてトンファーを片手に装備してくるりと一回転させている。


「次はないぞ!気をーつけっ!」


バシッ、と打ち合わされた踵の音が、辺りに響く。

クリスの号令に、頬が引きつる程に緊張しているのがシアにも熊子にも手に取るようにわかる。


「休めっ」


スザッ、と揃えていた両足を拳二つ分ほどの間隔を開け体側に真っ直ぐ伸ばしていた手を背後で組む三人。


「これから貴様らの処遇を言い渡すっ!」


そこまで言って、クリスはゆっくりと三人に近寄り、彼らにだけ聞こえるような大きさで、一言一言ゆっくりと、焦った脳みそに染み渡らせるかのように言葉を紡いでいった。


「貴様ら三人は本来商隊を襲撃して来た盗賊団の一味として捕縛され、おそらくは死罪になるであろうはずであった」


そこで一旦区切り、三人の表情をじっくりと舐め回すように視線を移動させる。


「しかしっこちらのシア様のご厚情により!お前たちの身柄は我々が保護することと相成った!今後失礼な態度や言動が欠片でも見受けられた場合!」


一転して大声で、しかも彼らの耳元で、順番に移動しながら告げてゆく。

そしてシアの横に戻り、元の体勢を取ると、吐き捨てるように言った。


「誰が止めようと、この私が貴様らを始末する。地の果てまで逃げようと、絶対にだ」


そこまで言い切って一呼吸置くと、いつもの雰囲気に戻るやハイジと頷き合った。


「それを踏まえた上で、もう一度最初からだ」

「シア様、どうぞ」


クリスの後を受けてハイジがそう言い、シアに続きを促した。


「…えー、そういう訳で、名前を教えてくれるかな?」

「はっ、はいっ!アルバトロナール・A児・アズマでありますっ!出身地はわかりませんっ!所属は特に無し!年齢その他一切わかりません!保有スキルは隠形系及び念動、利用可能な魔法は基礎精霊魔法全種、初級回復系神聖魔法、火炎系詠唱魔法です。職業は以前、中忍(ミドルクラスニンジャ)でありました!」

「じっ、自分はジークフリード・ローエングリーンであります。出自は同じく不明、所属もありません!スキルは精密射撃系に特化、魔法は身体強化系のみであります。職業としては魔弾の射手(シャープ・シューター)を拝命しておりました!」

「アレキサンドロス・ズルカルナイン…です。生まれも育ちも…所属も不明です。スキルは広域攻撃系、風の中位精霊魔法が使えます。職業は以前、強弓兵(ハイ・アーチャー)でした」


三人は、何かに怯えるように精一杯の声を張り上げて名乗りをあげるのであった。



『こちらヘスペリス、慣習に従い(某アニメ的に考えて)これより当方のコールサインをデルタ1と呼称します。赤い肩(レッド・ショルダー)、ロボロボ団、五〇一、踊る鈴(ロンド・ベル)・光画部の各小隊は、予定の位置へ』


天高く浮かぶ天の磐船から、黒エルフの涼やかな声が風の精霊に運ばれて各部隊員の耳に届く。

出撃前のブリーフィングで周知された敵の能力に対抗するため、各自思い思いの装備に身を固め、大地に降り立っていた。

中には飛んでいる者もいるがそれはそれとして。


「髑髏・1からデルタ・1、俺らは予定通り負傷者の回収でいいんだな!?」

『こちらデルタ・1、髑髏小隊は朱色(三倍速い)小隊と共に、負傷者の回収と撤退時の援護をお願いします。全小隊に告げる、これよりデルタ・1は牽制に対地攻撃を敢行、効果が見られない場合は一端後退、敵の推定捕食範囲外へ移動します。皆さん、避けてくださいね。発射カウントマイナス5』

『4』

『3』

『2』

『1』

『0。テルミット弾(ギリシアの火)、発射』



テルミットの振り仮名がギリシアの火ってのは作者個人の考えですので気にしないでくだされ

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