第39話 すごい魔法で守ります?むしろ攻めてますけどね?
未だに「こうすると変換出来ますよ」とご指摘を戴く昨今(8/27現在)、皆様いかがお過ごしでしょうか…orz
感想のみならず、活動報告やらメッセージでまで指摘いただいており涙が止まりません…。
「あーーーーーれーーーーー」
シアの攻撃の余波は、敵のみならず、味方さえも巻き込んでしまっていた。
商隊と護衛の傭兵団らは、熊子によって守られたが、上空で警戒を行っていたハイジはもろにその煽りを受け、あらぬ方向へと吹き飛ばされていった。
ヒポグリフと自身とを繋いでいた落下防止用のベルトにより、乗騎からの転落こそ免れていたが、彼女らを襲った凄まじい乱流と衝撃波により、先ほどの丘から三レウガは飛ばされてしまっていた。
「命があっただけめっけもの、と…?」
立派なフレンドリーファイヤーなのだが、そのあたりはあまり気にせず、自身の無事に感謝して元の位置に戻ろうとハイジは乗騎の首を廻らせた。
と、彼女の下方、街道から若干離れた位置にある岩陰で、鞍が付いたままの馬が自分同様先の魔法攻撃の影響を受けたのか、数騎ひっくり返ってのたうっていたのが見えたが、人影は見えなかったので「ハテ?誰かが放馬しちゃったのかな?」と放置して商隊の元へと急いだのであった。
跡形も無く砕け散り吹き飛び魔力渦の次元断層とも言うべき空間に引きずり込まれ消失した大型投石器の設置されていた丘の麓へとシアらと共にやってきたゲオルグは、周囲にうめき声を上げて倒れ伏している何人もの襲撃者を見つけ、傭兵団の面々に捕縛を指示していた。
「し、しかし、アレだけの威力がある魔法の矢を見たのは初めてだ。それに、狙った対象だけを悉く破壊できる、てのもな」
そう言うゲオルグに対し、シアは「いやあそれほどでも〜」とはにかんで答えた。
「褒めてないよ?褒めてないからね?ていうか、ねーちんもうちょい自重シル」
ほえほえ~っとした感じでゲオルグに応えるシアに対し、ぷんすかと言った感じでふくれっつらをした熊子がわざわざジャンプしてその後頭部に何処に持っていたのかハリセンを装備して突っ込みを入れていた。
スパーンといい音を鳴らした熊子に対し、シアは涙目になりながらも一応文句は言い返した。
「いったーい、何すんのー?」
「ウチの百八まであるぞ的な必殺技その五十七の直撃食らってへいちゃらぷーな人が何言うかな!?」
先ほど空中でシアの魔法の余波を食い止めた熊子は、そのまま高さに任せて彼女に向かって自身の対人突っ込み技をぶちかましたのだ。
が、しかし。
シアは「あいたっ」の一言で済ませてしまっていたのである。
「小石でも当たったみたいなリアクションだったじゃん。何あれ、ねーちん的にウチの必殺技は当たらなければどうと言うことは無いどころか当たってもどうと言うことは無いレベルな感じ!?」
「えーと」
とは言え半ば体当たり的な攻撃だった為、流石に玉ちゃんの上からは転がり落ちている。
言われながらシアは左手のガントレットをはずしてその下につけたままのギルドカードを確認した。
―――――――
種族 ハイエストエルフ
職業 光の神 魔神 騎士王 女帝
Level 1000
HP 64868/65000
MP 65135/65535
―――――――
外したガントレットを脇に抱え、左腕に装着されたギルドカードを覗くシアと、それを横から覗き見る熊子。
端から見ると仲の良い娘達が何やら内緒話をしているようにしか見えないが、実のところある意味内緒話どころかギルド機密にして世間には知られないようにしなければいけない、出鱈目な物であった。
「あ、HPが132減ってる」
「…ドンだけ固いのよねーちん。あの突っ込み技受けて減るのがそんだけとか」
ちなみに熊子が放った必殺技、アフガン航空相撲秘奥儀スーパーイナズマ・キックは、凄まじい稲妻のエフェクトと共に落下してくるドロップキックである。
ちなみに稲妻はエフェクトだけで当たり判定などは無い、ただの効果である。
攻撃力としてはかなり高いのだが、貫通攻撃ではないので高い防御力を持つ相手には効果が薄い上に、予め高い場所にいなくてはいけないという制約があり、非常に使い勝手が悪い技である。
「…あー、まあどちらにせよ助かった、礼を言う」
そんな二人の掛け合いを極力見ない振りをして頭を下げるゲオルグに対し、シアは「お仕事だし当然の事」と答えるに留めた。
シアとしては殲滅しても多分平気だとは思っていたのであるが、一応は“森の民”であるエルフの眷属―――というか上位種―――である為に、その巻き添えで周囲の樹々をあまり吹き飛ばしたくなかったというのが本音でもある。
それに実のところ、先の攻撃自体は、スキル【非殺傷設定】と二種類の詠唱魔法、【マジックボウ】と【マジックアロー】との組み合わせによる物で、シア的には大したモノでもない。
そも大物魔獣を狩る際の、牽制攻撃程度の扱いだ。
シアが放った魔法———【女神の一矢】———は、本来手持ちの武器やアイテムを何でも超高速で打ち出す魔法と、弓が無くても魔力で作られた矢が絶対に狙った的に当たる魔法との組み合わせによる物だ。
そして、こと威力に関しては、シアの出鱈目な大容量・高出力の魔力によるところが大きい。
本来は弓を作り出す魔法と、矢を生み出す魔法とは別々の物なので二種類の呪文を同時詠唱する必要が有るのだが、これは装備しているガントレットに依存している。
シアが今装備している防具は円環の理シリーズと名付けられている一点物で、彼女自身のお手製の品でもありゲーム時代に気に入ってソロ狩りでは頻繁に使用していた物だ。
うっすらと光を放つ、淡いブルーの装備のうち、両の手を守るガントレットには、円環状のプライヤーホイールと呼ばれる魔力機関が装着されている。
これは、円筒やリングの外周に呪文を刻み魔力を注ぐ事により回転、それにより詠唱を代行させる事が出来るというトンデモアイテムだ。
ちなみに前世においても、実際に似たような物が存在している。
一回転させると一回お経を唱えた事になるという、チベット仏教の仏具がそれである。
それで良いのかとも思えるが、実際に有るんだからしょうがない。
なお、ブーツにも同様の機構が装着されている。
刻まれている呪文は基本的に攻撃魔法であるが、書き換えにより様々な魔法を準備しておく事が可能という、ご都合設定なマジックアイテムでもあるのだ。
以上のように、アイテム任せの撃ちっぱなし攻撃なため、シアとしては「これで誉められてもなぁ」といった感じなのである。
なお非殺傷設定のスキルは、某リリカルな魔王様が使用する物とは似て非なる物で、使用する事で確実に相手の息の根を止める一歩手前でダメージが止まるもので、肉体に損傷を与えない訳ではなく、死なないだけで怪我はしまくるので、むしろどこぞのごった煮ロボ戦争世界的な精神コマンド扱いになっていたりする。
故に、吹き飛んだ投石器への魔法攻撃の余波に吹き飛ばされた連中は、辛うじて息はあったわけである。
が、もとより盗賊の類いは捕まればその元締め・幹部・実行犯は死罪、下っ端などは鉱山などの危険な地での労力として死ぬまで働かされる運命である。
そう言った内容をシアに語りつつ、ゲオルグは続けて二人に休むようにと伝えた。
「ま、しばらくは動けん。始末はウチで済ませるから、ちょっくら後方でゆっくりしててくれ」
そう言って部下に指示をするためその場を離れた団長とその乗騎のスレイプニルの背中を目の端に入れつつ、シアは先ほど自身が成した行為の結果を目の当たりにしても、動揺を感じていない事に内心安堵し、また納得出来ない想いも抱えたりしていた。
「うーん、意外と平気。不思議不思議、不思議すぎる」
降りていた―――というか、熊子に蹴られたために転げ落ちたのだが―――九尾の狐に再び跨り、引っ立てられて行く傷だらけ土まみれの襲撃者共を視線だけで追いながら、自身のさざ波一つ立たない心象に違和感を感じざるを得なかったのだ。
いくら精神安定の効果があるマジックアイテムが装備されているからとは言え、ここまで平気の平左だと逆に怖い。のだが、だからといって額のサークレットを外してみる、などと言うのは流石に勘弁してもらいたい所である。
「もうお薬飲まなくても平気じゃね?とか思って勝手に投薬止めた時の反動知ってるだけになー。フラッシュバック怖いです」
「あー、確かに。ウチの前世のオヤジが似たような事して医者に怒られてたわ」
前世においての浅はかな行為は、未だに記憶から消えないのである。
「お疲れさまだね、シア様。熊子殿も」
そうして物思いに耽っていると、使役獣から降り、その背を撫でていたクリスから労いの言葉がかけられた。
考え込んでいる間に、もう馬車を止めているところまで戻ってしまっていたのだ。
「たいした事してないんだけどねー」
「いやいや、ねーちん的にはそうでも、結果としちゃ命が助かってる奴一杯居る訳だし、たいした事だってばよ」
「そうさね、アレだけの準備を整えて襲撃する盗賊団なんだからさ、下手に逃がしたら後々他の誰かが酷い目に遭うのさ」
だから一網打尽にしたシアの行動は、誇りこそすれ謙遜する事など無いのだと言うクリスの意見である。
「そ、か。うん、ありがと」
そう言って、にっこりと微笑むシアの表情は、そう言った気のないクリスですら「やべえ」と思えるほどに、ときめきをさそう良い笑顔であったそうな。
そんな三人から離れた丘の中腹では、ゲオルグがつるつるの頭を撫でつつ後始末に追われていた。
「…そうか、引き続きやってくれ。何、一人や二人死なせても構わん」
取り急ぎ、襲撃者の身柄を拘束したゲオルグ含む傭兵団であったが、些か腑に落ちない点があった。
ゲオルグの言葉を受けて一礼して去って行く男は、捕縛した襲撃者のうち、比較的軽傷だった者に今回の件に関して色々と尋ねさせていた、腹心の部下である。
それと言うのも、こんな開けた荒野において賊に襲われると言う事もそうだが、アレだけの設備を投じての襲撃など聞いたことも無かったからだ。
「どいつもこいつも口を揃えてでっかくひと山を当てたかった、ってか。確かにコレだけの規模の商隊なら、精々いい稼ぎになっただろうが…。だが、あんなブツをこれ見よがしに設置してたら、普通なら巡回の守備隊どころか国軍が全力を挙げてつぶすが…」
と、ここまで考えて彼はある事に気がついた。
先の破壊された投石器は、設置されていた丘から自分達が通る予定だった街道をその投射範囲に収めていた。
そして、投石器により放たれるはずだった投射物は、山済みされていた人の頭ほどの大きさの岩石だ。
同じ場所から発見された、縫い目の粗い大き目の頭陀袋の事を考えると、恐らくは対人用として、セットした袋に岩石を積め込み投射、袋はその衝撃で空中分解し、散弾となって頭上に降り注ぐ…。
確かに並みの護衛では遠距離から蹂躙されるだろう。
降り注ぐ岩石を掻い潜って丘に取り付けても、投石器までたどり着くまでに、そこを守るほかの連中が襲い掛かってくる、二段構えだ。
しかし、コレはむしろ攻城戦に於ける守備側の体制ではないだろうか。
そしてそれは、恒久的に守る必要のある砦や城塞にこそ相応しく、このような野戦で利用される事などありはしなかった。
どちらかと言えば、自分達が持つような弩を複数所持している方が、有効だと思われた。
そもそもそこまでして、どれだけの被害を与えどれだけの益が出るのか。
利益を度外視してまでの投資など、金に汚い盗賊などが、考える事ではない―――。
「―――っ!」
団長は眉間に皺を寄せたまま、荒々しく乗騎の馬首を廻らせ、シアたちの後を追うように、商隊の責任者たる商人、ジェラール・ブッフの乗る馬車へと急ぐのだった。
「ん…」
「お目覚めですか、シャルル様」
一方商隊の馬車の中で居眠りをしていた少年シャルルは、それまで続いていた馬車の揺れが止まった為か、ゆっくりと覚醒して従者であるアラミス・デュマの膝の上においていた頭をゆっくりと持ち上げて目を擦っていた。
「うん、ゴメンね膝借りちゃって」
「慣れない馬車での長距離移動です。お疲れになるのも仕方ありません」
言いながら、アラミスは起き上がったシャルルの髪に、手櫛を通して撫で付けてやる。
「何かあったの?」
停車している馬車に首を傾げるシャルル。
聞いている予定では昼に食事休憩を取るまでは、止まる予定はなかったはずであった。
陽はまだそこまで昇っておらず、なにか予定外の事が起こったのだと結論づけたのである。
「なに、ちょいと盗賊が現れて手間を取っただけですよ」
反対側の席に座り、相変わらず書類に目を通していたブッフが、シャルル少年の疑問に答えを与えた。
「盗賊…盗賊!?」
ブッフの言葉を咀嚼して、理解し終えた少年は、慌てて外に視線を向けた。
「…え?」
そこに見えたのは、呑気に話をしている傭兵姿の普通人の女性と自分とあまり変わらない身長のホビットの女性、そして彼の目から見てもとんでもなく美しいと思える優しいエルフの女性の姿があった。
「ご安心くださいシャルル様、既に盗賊は…シャルル様?」
アラミスの言葉を最後まで聞かずに、シャルル少年は勢い良く椅子から立ち上がると、馬車の扉を蹴り飛ばす勢いで開けると、そのまま飛び降りて駆け出して行った。
登場人物紹介、用語説明に記載しました。
あ、外伝もよろしく。