第30話 旅支度は済ませたか?乗騎を呼んで鞍をつける準備はおk?
なんかぐだぐだ
現モノイコス盗賊ギルド元締めアウローラは、冒険者ギルドの硬度7位、黒水晶のアウローラでもある。
が、その事実は一般には知られておらず、冒険者ギルドの幹部のみが知りえる情報である。
「まあぶっちゃけ五星物語で言うところの左番号的な感じ?」
「さっきからぶっちゃけ過ぎじゃね?ねーちん」
まあ、どちらにせよ要請があれば協力したりされたりするらしいので、右だろうが左だろうが表だろうが裏だろうが関係ないのだろうけれど。
「で、ダイサークのお馬鹿は?」
「にゅ?」
シアの問いかけに、熊子はカクンと首をひねって短い返事だけを返した。
「にゅ?じゃなくて。アウローラの父親なんでしょう?何でこの子がそんな状況だったのに放置?ダイサークだったらそれこそ盗賊ギルドに目をつけられたってGRとか太陽の使者とか…は使うと街ごと無くなっちゃうかもだからアレだけど、対人戦闘用ゴーレムあたり使えばどうとでもなったでしょ。なのになんで?」
「あ?ああ、ダイサーク的には知らなかったんだと、子供出来たの。それこそ付き合ってたの超短い期間だったらしいし」
世に言う、行きずりの恋、という奴だそうな。
ギルド設立以前、ダイサークは他の転生者仲間と共にあちこち移動しながらの素材集めを行っていた。
その途中、とある宿で働いていたアウローラの母と知り合い、そういう仲になったのだという。
「あー、うん。あれか。アウローラの母もアレなのか」
「アレなんじゃないかな?」
「…お恥ずかしい限りです」
呆れてモノが言えない気分なシアに、熊子もアウローラも同意していた。
そう思い始めると、アウローラが幼少時に男装していたのも別な意味に思えてくるから困ったものだ。
しかし、他の二人はというと。
「私んトコの親も、似たようなモンだったけどねぇ。旅先で良いなと思った奴とそういう関係になるぐらい、よくある話だろう?」
「わ、わた、私はまだそういった経験が無いものですいません意見できませんすいません。あ、でもですね、ウチの亡くなった実の親は幼馴染でその、小さい頃から仲良くてですね…」
「ちっ。リア充爆発しろ」×2
クリスとハイジの二人の意見に、シアと熊子は前世の嫌な異性関係を思い出しつい本音が出てしまったが。
と言ったところで熊子が本来の目的を思い出したように話を変えた。
「ああ、そうそう。んな昔話しに来たんじゃなくて。ソレ、ウチの物スろうとしやがったので引っ立ててきたんだった」
地面に転がしたまま、未だにのびている男を指差し、熊子は続ける。
「ウチのギルドに顔繋ぎもしてない奴みたいだからさ。ここいらじゃ基本盗みは禁止だっつの」
「いや、どこでも普通は盗みは禁止でしょうが」
まあ、盗賊ギルド的に考えてという事であるが、一般市民相手の盗みは厳禁である。
表向きは、非常に縄張り意識が強い盗賊ギルドという形で知られており、たとえ顔繋ぎをしたとしても、よそ者が盗みを働く事自体を禁止して王国領内での活動は非常に厳しく律している。
では、地元民の盗賊らは、というと。
「ふむ。じゃあ、盗賊ギルド的な活動はどうしてるわけ?」
「ん?ギルドに加入してない盗賊やら山賊を、縄張り守るって事にして〆てる。その巻き上げたのを何割か王国に納めてるし。あとは、まあ情報屋かな」
「ああ、私掠船みたいな感じ?」
「左様でございます。モノイコス王国に不利益な行為を行う組織に対する私掠免許を発行してもらっております」
このモノイコス王国は、海に面していない部分はすべて山と森林によって囲まれている。
国境の向こうにも森は続くが、そこは一大軍事国家である、ゴール王国だ。
すなわち、野盗や山賊などがアジトを構えるには、軍の規模が小さいモノイコス王国側の森の方が向いているのである。
「森の奥に入るのなんて、せいぜい魔獣やら亜人討伐の時くらいだからね、この国に限らず」
そう、人里近い森の外縁部以外は、いわば人跡未踏の地と言っても過言ではない。
そしてそういう場所はここモノイコス王国に限らず、エウローペー亜大陸の随所に見られる。
人目を憚る山賊・盗賊団のアジトが設けられるのも当然で、普通の生活を営む者には縁の無い場所なのである。
せいぜい山菜採りか狩猟を生業にしている者達ぐらいだろう。
更に奥深くに足を踏み入れれば、亜人の住処や魔獣の巣、古代文明の遺跡に幻獣の縄張りなど、人が足を踏み入れない、踏み入れられない地が多々あるのだ。
「ふむ、だから冒険者ギルドがどうにか受け入れられてる、って所なのかな?」
深い森や、魔獣の住み着く魔境ともいえる土地に分け入り、希少な素材やダンジョンと化した古代遺跡からの遺物の回収。
それらは冒険者ギルド設立以前には、考える者は数多居るも実行に移して成果を手に生きて帰る者など正しく稀であった。
「ん、そだね。ここ最近は軌道に乗ってきてるのもあるけど、色んな所からの依頼にもそういう遺物の実在を調べてくれってのがあるし」
まあ、探索の結果そういうアイテムが見つかったとしても、長い年月により力を失っているか、地に還っていることがほとんどだが。
「んじゃ、アウローラも気をつけてね。レベル差的に相手にもならない奴らばっかりだろうけど、油断大敵だからね」
ゲームだった時でも、レベル差を人海戦術で力押ししたり寝オチ狙いなど、そこまでやるか、と思う方法でPKを仕掛けてくるものは居るのである。
現実となったこの異世界では、流石に一人を倒すために何百もの人員を割くのは割に合わないだろうが、それでも一応注意をしておくに越した事は無い。
「ねーちんも心配性だねぇ。その辺はとっくに角ねーちんとか黒ねーちんが身に沁みるほどに教え込んでるから安心していいと思うよ?」
「はい、重々承知しております。こちらの方も、ありがたく」
アウローラは嬉しそうな顔をして、手にしたギルドカードの機能を確認していた。
そろそろ本来の予定に戻るかと、シアは忘れないうちにとアウローラの持つギルドカードにもギルドカード作成スキルをかけたのだ。
「それじゃ、またね」
「はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ。無事のお戻りを三柱の大神に祈りを捧げ、お待ち申し上げております」
アウローラに見送られ、盗賊ギルドを後にした4人は、その足で街の中心部で若干高台にある王城から大きくカーブして下ってくる緩やかな坂道、王都のメインストリートとでも言える街路へと向かった。
「ここらの屋台、結構いけるんよ」
「そなの?なんかアレ気な感じがするんだけど」
この世界、中世ヨーロッパ的なイメージが強いシアに取って、こういう所に居並ぶ屋台と言うのは色々と心配な気がするのだ。
いろんな混ぜ物や、人体に害のある何ぞやが入っていそうで怖いのである。
「ああ、衛生基準とかも徹底して教え込んだ。ていうか、ここの王太子が不思議な位すげー協力的でさ、『こんなのどう?』って提案したら、とりあえずテストケースをって街の偉い人呼び出してさ、やらせんの。まあ、おおむね好評だったから今じゃ大体根付いたかにゃ。あ、ほら、アソコなんかちゃんとアルコール消毒に蒸留酒使ってるし」
「…いいのか?とか思っちゃうのはまだ私が転生初心者だからなのかしら」
「んまあ、この王国内だけでしか定着してないけどさ。地元に帰って来たら安心してご飯食えるっていいよ?いやマジで」
それに関しては確かに完全に同意なのである。
「んじゃ何か適当に食べ…って」
ついて来ているはずの2人に何か食べようと声をかけようと振り向いたシアの視界には、既に肉やら何やらを串に刺して焼いた物に齧りついているハイジと煮込み料理に舌鼓を打っているクリスの姿があった。
「うわ、おいし。ギルドの食堂のも出鱈目に美味しかったけど、ココのも中々♪」
「何コレ、美味っ。私んとこの地元の屋台なんて、コレに比べたらゲロ以下だよ、まったく」
2人の食いっぷりを、屋台のおばちゃんは誇らしげな表情で見つめていた。
「あ、おいっすオバちゃん。ウチにもなんか食わして。あ、あとコレ、ウチの親分、以後よろしくしてやって」
「あんれま、えらいべっぴんさんだこと。熊ちゃんとこの娘さんはみんな美人さんだねぇ」
ちょいと体格的に裕福な、働き盛りの中年女性が、おおらかに笑いながら熊子の言葉に相づちを打っていた。
「シアと申します。長らく不在でしたが今後は仲間共々よろしくお願いします」
しゃらん、と光が舞うような仕草で頭を下げたシアに、屋台のオバちゃんは「あらあらまあまあ」と顔を真っ赤にしてあたふたとし始めた。
「ああ、ほら熊ちゃん。ほらほら、コレ持って行きな。アンタんとこの若い子から買った奴で作ったんだ。美味しいよ!?」
どっさりと袋に詰められた肉と野菜のタレ串焼きに、熊子は喜びシアは「何故にこげな反応ですか?」と首を傾げたが、余録に預かってホクホクのハイジとクリスは楽しそうに一連のやり取りを見守っていた。
「あー、シア様ってば、幻獣殺しだけじゃなく、年上殺しのスキルもあんのかねぇ」
「うーん、というか、シア様があんな風に接したら、老若男女人種種族関係なしにああなるんじゃないかなぁ…」
さすがあの一癖も二癖も三癖も四癖もあろうギルドメンバーをしてギルドマスターと言わせるだけの事は有ると、心底感心していた。
「おじょうちゃん、ウチのも食ってみな!」
「いやいや、ウチの揚げイモも中々いけるんだぜ?エールにはぴったりだってな!」
「おおお?いただいていいの?」
通りの店々の店主であろうか、皆が色々と持ち寄ってはシアに、熊子にハイジやクリスへと手渡してくる。
「うまーい!もう一本!」
満面の笑みで串焼きを頬張るシアの笑顔に、屋台村とも言える周囲の面々が一際にっこりと笑みを浮かべ、次はこれを、アレをと矢継ぎ早に勧められ出したのである。
やがて、屋台が建ち並ぶ一角が、時ならぬ宴会状態となり、比喩でなく飛んでやって来た呉羽らギルド本部に詰めていた者達も合わせて、夜通し飲めや歌えの大騒ぎとなり、出発が日延べになってしまい、日がとっぷり暮れて喧噪の余韻に包まれた街角で眼を覚ましたシアは頭を抱えたのであった。
「いーなー楽しそうだなー」
『残念ダな、ご主人様ヨ』
ギルドハウスでお留守番をしていたカレアシンは、指をくわえて見ているだけだったので殊の外寂しげであったとか。
☆
翌日、ギルド本部
「さて、気を取り直して」
「過ぎてく時間は取り戻せないけどね」
熊子の突っ込みに両手を地につけて猛省するシアであったが、数秒後「反省終わりっ!」と立ち上がった。
「ねーちん、ホントに立ち直り早くなったねー」
「おうっ!立ち直り速度は14万8千光年よっ!」
「それ距離だから」
「いやあ、やっぱ16万8千光年じゃなく、そのマンマにしておいて欲しかったかなぁと。別にその辺変える必要ないじゃないねぇ?」
などと無駄口を叩きながら、2人が連れ立ってギルド本部の裏庭へと姿を現すと、そこには既に、ハイジとクリスが自分たちの魔獣に鞍を付け、準備万端と言った様子で待ち構えていた。
「おはようございます、シア様。よいお天気で良かったですねぇ」
「ホント、雲一つない良い天気だよ」
2人は待ちくたびれたとでも言う風に、姿を見せたシア達に挙って声をかけた。
「うん、ホント良い天気ねぇ。こんな天気だと、空飛んで行きたくなるわね」
「却下よ、シア。ちゃんと地に足をつけて行きなさい」
「はい、空の上からでは見えないモノを見ておくべきです」
2人の後を追って本部から出て来た呉羽とヘスペリスの2人の言葉に、シアは若干不貞腐れたが、のんびり行くのも良いもんかと思い直し、気合いを入れるかのように伸びを行った。。
「ん〜、とっ!じゃあ行くとしますか。んと、2人はその子達乗ってくのよね?」
ハイジとクリスの魔獣、ヒポグリフのシュニーホプリとジェヴォーダンの獣と呼ばれる魔獣———名前はつけられていない———には、鞍が付けられ、既に旅に必要な荷物までくくり付けられていた。
「んー、やっぱこの子にも名前つけてあげない?ホロゥとか」
「却下だねーちん。流石にそれは大却下だ」
巨大で美しい豊穣の神でもある、賢狼の名だが、流石に元ネタを知る者には却下された。
ジェヴォーダンの獣は確かに並の狼とは比較にならないほどに大きいが、残念ながら人化は出来ない。
出来てればおkなのか、と言われればまあおkだったのだろう。
そんなこんなでクリスの使役獣には、名前はまだ無い。
「さて、んじゃウチもひっさしぶりに呼ぼうかねぇ」
ギルドハウスの個人用倉庫から取り出した召還アイテムを手で玩びながら、熊子はこの世界に来て始めて召喚する愛獣にwktk状態だった。
「熊子さん?何ですかそれ」
熊子が手にした召喚用アイテムに首を傾げるのはハイジ。
「にゅ?ああ、ハイジもクリスも知らないんだ?コレはねぇ、使役獣を休ませておけるアイテムでね、モンスターバケツって言うんだ」
「はあ…。そんなマジックアイテム有るんですか」
「このバケツから、召喚するんだけどね…」
なぜか汗がタラリと流れてくる熊子。
「熊子…それ呼び出すんなら除名処分にするから」
「う、そ、そう?」
「うん」
にっこりと笑顔のシアに、熊子はgkbr状態に陥っていた。
「え、えーと。うん、デカチュー不敗は色々と問題が有るから呼び出すのは止めて、こっちにしとく。いけっ!鳥バー!」
熊子は大慌てで取り替えた小さなカプセル状の召喚アイテムを放り投げ、召喚獣を呼んだ。
「ほろっほー」
人より若干大きめの、陸上生活に特化した鳥類?的な生物が、そこに姿を現した。
「うは、久しぶりの鳥バー。ミョーな感じだねぇ」
てこてこと自分が呼んだ召喚獣に近寄る熊子。
「んじゃよろしくな」
熊子がぺちぺちと羽を叩くと、鳥バーと呼ばれた召喚獣は、首をコキコキと
鳴らして一声『めんどくさい』と鳴いた。
「…今喋ったろ」
「ほろっほ?」
「いや、今めっちゃ喋ったっしょ?」
「ほろっほー」
ぎゃーぎゃーと言い合う鳥バーと熊子を放って、シアは自分の乗騎を呼ぶ為に召喚アイテムを取り出した。
「…なんか掛け合い漫才やってるわね」
そっちに皆の視線が集中しているため、なんか少し寂しいシアであった。
次回こそ出発を…orz