ウチのギルメン以外にも転生している人はいるのですよ?そんなお話ですけどいかが?
「青い空」
見上げた空は、今まで見た事もないような色合いの、青さ。
「白い雲」
ぽっかりと浮かんだ、浮雲。
「どこまでも続く…荒野…orz」
いきなり地面に突っ伏してくじけたのは、誰にも責められない…と思う。
「転生したてのレベル1だったとは言え、スキルやらは使えたから、生きるだけなら何とかなったけど…」
気配察知のスキルで野生動物を見つけては、素手での戦闘スキルを用いて狩りを行って食いつないでいたが、流石にそう美味くもない硬い肉と、道端の草だけではいろんな意味で先が見えない。
「しかし、発火とかの弱い魔法は使えても、まともな攻撃向けの魔法は使えないとか…やっぱ魔法の杖が無いからかなぁ」
それなりの高レベルまで育てていた甲斐もあって、戦闘向きのスキルや魔法の類は充実している俺であるが、ゲーム同様の高火力な魔法を使う際には、やはり発動体となる物が無ければいけないという縛りは存在していたようだ。
これは、詠唱魔法の場合、身体に溜め込んでいる魔力を放つ際に、規定量以上を一定の濃度で収束させなければならないためである…らしい。
発火なんかは極微量の魔力で発動するから、指先なり何なり、任意に放出した先で即発動するみたいだけれど、規模が大きな魔法になると、流石に無理っぽい。
余程の高レベルで魔力が豊富、そして何より魔力操作に熟練していなければいけないようだ。
そもそも、魔力の収束なんてどうやっていいかわからん。
きっと、ガス爆発とかと同じで、ある一定以上の濃度でないと爆発しない、みたいなもんなんだろう。
「職人スキルはロクに取ってないからなぁ…。せいぜいポーション各種くらいだし」
気を取り直して立ち上がった俺は、再び何処とも無く歩き出したが、足取りは重い。
なにしろあてが無い。
どっちに向かえば町…村でも、ただの街道でもいいが、人の痕跡が無いというのは心細すぎる。
「こんな事なら、転生じゃなくて転移にしておけばよかったかなぁ…。でも、不細工なままだとなぁ」
そう、俺は転生前に、女神の御使いから示された、『各種アイテムや前世界からの荷物持込み可』の利点を放棄してでも、容姿にこだわったのである。
前の人生で、何度と無く泣かされた、人の目には見えないが確実に存在するであろう注意事項。
『※ただしイケメンに限る』
これが故に、お隣に住む可愛い幼馴染は中学に上がる頃には他のイケメン幼馴染と良い仲になったし、高校で隣の席になったクラスで一番可愛い娘は反対側の席のイケメンと仲良くなって青春を謳歌するし。
進学してサークルに入っても、彼女が出来るのはイケメンか雰囲気イケメンな奴ばかり。
そして社会人。
相変わらず彼女は出来なかった。
気になる同僚のあの娘は、イケメン営業マンと恋仲だったり、取引先の大企業の秘書課の美人なお姉さんは既に人妻だったりで、女性に対して縁というものが無かった。
『俺だって可愛い彼女を作っていちゃいちゃしたい!』
その原因は、きっと自分がイケメンじゃないからだと結論付けていた。
まあ、間違いではないけれど、半分くらいは自業自得なところもあった。
特に、お隣さんの幼馴染。
この子に限っては、ある時の選択さえ間違わなければ、その後は違ったであろうと思われる。
女幼馴染は確かにお隣さんで、仲も良かったのだ。
しかしその彼女の家の反対側のお隣にももちろんお隣さんは存在し、そこにも同い年の子供が居たため、同様に幼馴染となっている。
そしてそいつが今の女幼馴染みの旦那である。
物心つく前から、常日頃三人一組で遊んでいたのだが、幼少時から小学校へ入学した際に。
俺は同学年の他の少年と遊びに行ってしまったのだ。
そう、『女の子と一緒に遊ぶなんて』的な行動を取ったのだ。
もう一人の、男幼馴染よりも先に。
もちろん残された男幼馴染も、俺と一緒に他の男の子達と遊びたがっていたようだが、もしそうすれば最後に残された女幼馴染は、近所に女の子の同級生が住んでいなかったために、独りぼっちになってしまう。
子供心にそれは嫌だと思った男幼馴染は、女の子の手を握って、二人一緒に仲良く遊び続け、そして中学に至り、恋仲となった。
二人の結婚式の折りに、馴れ初めとして上げられたのが、その時の話だった。
女幼馴染みの、幼心に焼き付いた、男幼馴染みの優しさとして。
先に遊びに行ったのが、そう、残されたのが彼ではなく俺だったならば、見た目云々抜きにして、女幼馴染と良い仲になっていたのは俺の方であったのかもしれない。
なにせ、女幼馴染は相手の容姿にこだわって人との付き合いをどうこうするような女では無かった。
今の男幼馴染がイケメンだから、付き合っているわけではないからだ。
幼い頃から行動を共にしてきた人と結ばれる事を望んだだけ。
例え残念な容姿であったとしても、それは変わらなかっただろう。
その後の俺の行動は駄目な方に一直線。
何を考えていたのか、『俺は女には興味が無いぜ』的な態度を取り続けたり。
彼女が欲しいくせに、俺からは行動をしなかったり。
いわば、エロゲの主人公的立場を欲していたのだ。
無条件に圧倒的な好意を寄せてきて欲しい。
美人に興味が無い態度を取って逆に気を引きたい。
そんなエロゲ体質を夢見ていたのだと、魔法使いになってようやく気がついたのだ。
それはむしろ『※エロゲ・ギャルゲに限る』という注意事項が付いた行動である。
と言うか、ときメモ系だとステータス上げまくったり相手の気持ちを察して手を回したりしないと振られたりするような気がしないでもないが。
だがそれでも俺は容姿にこだわったあげく、転生を望んだのである。
「見た目が良くても、見せる相手がいない」
まさか転生先ですら、こんな状況になるとは。
地面に生えてる枯れてしまった草を、スキル【真空波】で纏めてぶった切る。
風の精霊にお願いして【つむじ風】で一纏めにしてもらい、火をつける。
さっき狩ったカンガルーサイズのウサギみたいな動物を手刀で切り裂いて、神聖魔法の【清めの光】をかける。
これで寄生虫やら毒は除去出来る、と転生前に御使いの人?が教えてくれていた。
なにやら過去に俺以外にも転生した人が居たらしく、その際に行くか行かないかと転生にするか転移にするかのどちらかと、その際の利点等を伝えただけで決めさせ放り出した、という事があって。
それについてこっぴどく怒られた御使いがいたんだそうな。
女神の御使いを叱りつけるとか、すげえ人も居たもんである。
それ以降は、といっても俺が最初らしいが、きちんと転生先の環境とか生活に使える便利な魔法の応用方法を伝えるようにしようと決めていたらしい。
そんな感じで、飲み水も土の精霊に頼んでちょっと穴を掘ってもらえば湧き水が得られたし、夜野宿するにも、風の精霊に見守っててもらえば外敵やら害虫から守ってくれたりする。
朝起きた時に、虫と肉食獣の死体の山が出来てたのはちょっとトラウマだが。
それでも肉は食う。
切り捌いた肉を、別に取っておいた骨で突き刺して炙り焼き。
見渡す限り木がまったく生えていないので、有効利用である。
味付けは無いが、食えないことは無いので我慢。
それにしても、行けども行けども街どころか人家の一つも見えない。
と言うより、生活の痕跡が見当たらない。
これまでの数日歩いて来たが、見える範囲に人の痕跡は無い。
ふと地平線までの距離は、地球と同じサイズの星と考えて、大体4~5kmだったか、と思い返す。
ゲームだと、こんなに歩くなんて事は無かったのに。
まあ、長距離移動は飛行魔獣とか使ったりしてたからなぁ。
せめて空を飛んで移動出来ればと思うが、飛行の魔法は発動しなかったし、召喚獣を呼ぼうにも召喚アイテムが無い。
これでは現状を打破できないと天を仰ぐ。
つくづく自分の選択ミスが恨めしい。
そもそも戦闘特化でソロな俺は、アイテムに頼っていた部分が多かった。
麻痺無効やら石化無効なんかのアクセサリーを常に身に付けていたのは基本だと思う。
そんな俺がアイテム捨てて転生?馬鹿じゃないの?見た目が良いからといって、それが何になる?
まったく、ガキの頃から選択ミスばっかりだ。
この辺りはそんな高レベルな魔獣はいないのかして、その心配は無かったが、この先どうなる事やら。
いい加減人里にたどり着きたい、せめて街道ぐらいは見つからないもんか、そう思っていたところに、空に何かが浮かんでいた。
いや、何かがやってきた。
最初は小さな点。
それがどんどんとこちらに近づいてくる。
大きく広げられた翼。
鋭い嘴の鷲頭に、俺の腕ほどもあるかぎ爪が並んだ前足と、俺の腰回りよりも太い後ろ足。
そして
その背に跨がっているのは…。
「よう、少年。こんな所でどうした?森の民が荒野で一人歩きとは、中々いい趣味してるじゃないか」
Q.きれいなおねいさんは、すきですか?
A.大好きです。
俺に声をかけて来たのは、歳の頃なら二十代半ば、といった感じの魔獣使いの獣人女性であった。
☆
「へぇ、気がついたらこんな所で突っ立ってた、ねぇ」
気っ風の良い、姐さん肌のその女性は、俺が何の調味料も無く肉を焼くだけで食おうとしているのを見て、塩と香辛料を分けてくれた。
その代わりに、少し…というか、食いきれない分を譲ったが。
今食べる分以外の部位で、脂身の少ない所を分けておいて、残りをグリフォンに食わせていた。
取り置いた分は、干し肉にするそうだ。
彼女は鹿の獣人らしく、両側頭部から美しくも鋭い枝角が大きく羽を伸ばすように伸びていた。
「私はラフォンテール。見ての通り、鹿の獣人よ。この子はグリフォンのハイマックス、よろしくね?」
その紹介と同時にグリフォンがひと鳴き。
人語を解するとは、かなりの優秀さである。
となると、それを使役する側のレベルも推して知るべし。
仲良くしておくに越した事は無いのである。
「あ、僕はご覧の通り、エルフです。名前はイサクといいま…す?」
自己紹介を言い終える前に、目の前の彼女は口に含んでいた肉をそのままに、あんぐりと口を開けたまま惚けたようにこちらを凝視した。
それからすぐに口腔の中のものを飲み下して、今度は何故だか堪えきれない、と言った感じに笑い出した。
「え、エルフ…エルフの…イサク…。ご、ごめ。ごめんなさい。ちょっと勘弁して…」
何が可笑しいのか、彼女は暫くそのままで。
僕は何がなんだかわからないので、焼けた肉を齧って待つ事にした。
その後復帰したラフォンテールさんは、笑った理由は教えてくれなかったが、失礼な態度だったと言って謝罪して来た。
別に気にはしていないので、と告げると、それじゃあお詫びにと最寄りの街まで連れて行ってくれる事になった。
しかしながら、手持ちの金もなく、着の身着のままだからどうしようかと思案していた所、仕事先なら紹介出来ると言って「心配しないでオネーサンにまかせなさい」と胸を叩いた。
うむ、揺れる。
アレは良いものだ。
そんな僕の感想をよそに、グリフォンは一鳴きすると、僕とラフォンテールさんを乗せて空に舞い上がった。
僕が、彼女と旅の道連れになった、最初の出会いはこんな感じだった。