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MMORPG?知ってますけどなにか?  作者: でーぶ
異世界突入!?
20/83

第19話 不退転は後戻りしないって意味じゃないのですよ?信念を持ち、何事にも屈しないという意味なのですからね?

決算やっと終わった…orz

「おうおう、あの速さが足りないラディカルグッドスピードポーション、いい仕事してくれたようじゃ。いやいや、能力値が見えるのはいいのう」

「ひゃっほい!あと49点でレベルアップだ!その辺のゴブ叩いてこよっかな」

「やめとけ、それは死亡フラグじゃ。ギルドハウス出たところで最強クラスの幻獣が群れでやってくるぞ?」

「あ、それはヤダ。でもまあ、ステータスがわかるっていいよね!」


シアが順番に皆のギルドカードを作っている中、早々と手にして確認しているアマクニや熊子らはホクホク顔でカードを弄り回していた。

現在ギルドカードとして皆が持っている品を媒体にスキルを発動したため、カード表面のプレートに様々な表示が映し出される仕様となっている。


「スマホみたいだね。これいいかも」


ネコ耳メイド姿の女性も、ニコニコしながら新生したギルドカードを弄り、楽しんでいた。


「個人宛の魔報も保存出来るようになってるはずだから。あーめんどくさかった」


好評を博しているギルドカードに、シアはほっと胸を撫で下ろしていた。

ギルドカード作成スキルは、ギルドマスター専用のスキルである。

このスキルによって作られたギルドカードの利点は、ギルド員としての証明だけではなく、様々な恩恵にあずかれる事にある。

元々のゲーム内では、ただ単にギルドに所属していると言う証明のアイテムで、カード自体がギルドハウスへの入館許可証として機能する程度であった。

また、同じギルド員の開いているショップにおける割引サービスや、所持している者のステータスにスキル、所持アイテムの能力などの表示をカスタマイズして常時確認できると言う機能も付随していた。

旧ゲーム内では、非ギルド員はデフォルトのウインドウ表示しか出来なかったので、細かなステータスが知りたいときは、全てのステータスが記されている表示画面を一々開かなくてはならなかった。

ギルドに加盟しギルドカードを所持する事で、小さなウインドウに必要なデータだけを選択して表示させることが出来たるようになるので、非常に好評であった。

ゲームにおいてはギルマスによるスキルによりアイテムボックス内にギルドカードが生成されていたが、ココでは現実に存在する物質にスキルを転写する形で実際に存在するアイテムとして生まれ変わったのである。


「っと、これでここにいる全員、終わったかな?」

「あとは下に降りたカレアシンのおっさんと、角ねーちんと黒ねーちんだね。ギルド本部に行けば他の連中も首を長くして待ってるだろうから、とっとと三人を回収して出発しよう。にゅう」


わいわいとカードをいじりながら雑談に興じる皆を見まわしながら、シアはカードの発行漏れが無いかどうか確かめていた。

それに応じた熊子の言葉に頷きながら、そういえば自分用のカードをアマクニに作ってもらわないとなー、何て考えていたりする。

カードをスキルなり手作業で作るなりしてもらって、その上でカード作成スキルを使わないと、みんなのようにスマホ型ギルドカードにならないからだ。

というか、何にも無い状態でスキルを使った場合、どうなるのかわからない。

やり直しがきかないスキルだし、もし脳内にウインドウが出るだけの仕様になったりしたら、一人だけ仲間はずれでつまんないし、とも思っているシアだった。

そんな折り、ギルドハウスの扉が開き、下に降りていたカレアシンらが姿を見せた。


「あら、みんな良い物持ってるわね」

「ずるいです。シア、私の分もお願いします」

「ほぉ?中々便利そうじゃ無いか」

「なんだ?変わった物を持っているな」

「お邪魔しま〜す」

「い、いいのかい?アタシなんかが入ってもさ」

『…お前さンら、ホント何モンなんヨ』


呉羽にヘスペリス、カレアシンに続き、将軍閣下とハイジにクリス、そして微妙におかしな口調の抜き身の剣が、フワフワと宙を漂うように入ってきたのだった。





『お初にお目にかかります。私、この剣に宿る神霊でございます。この剣に封じられて幾星霜、銘はとうに忘れられ、今やこのように落ちぶれ果ててし!?』

雷撃の双角(スペースサンダー)


喋ってみろとカレアシンに言われ、刀身を震わせて鈴の鳴るような音を発した魔法剣であるが、最初の言葉を告げている最中に呉羽が電撃スキルをぶっ放した。

呉羽の二本の角から放電され、額の上辺りでスパークした稲妻は、そのまま岩に刺さっている剣へと吸い込まれていった。


「冗談も程ほどに。魔法剣が記憶を失うわけが無いでしょう?」


電撃を受けて燻る剣に告げる呉羽に視線は、まるで汚物を見るようなそれであった。


『容赦ナい御仁ですナぁ、溶けちまったらどうするンです』

「別に?この程度で溶ける魔法剣なら、たいした代物でもないわ。弁償しろと言われたらきちんと対価を払うけれども」


無論、持ち主は代価を払えと言ってこれるような立場では既に無いが。

それに、確かにこの世界において魔法剣は珍しいが、シアがギルドハウスとともにこの世界にやってきた今となっては、冒険者達にとって、事実たいした代物ではない。

アマクニ辺りが自分で打った業物を大量に在庫しているであろうし、それこそギルドハウスの倉庫に無駄に大量に眠っている各種素材もある。

伝説級の、特定モンスターからのみドロップするユニークアイテムで無い限り、入手に困る事はもはや無いと言える。

ともあれ下手な言いつくろいは無駄と理解したのか、魔法剣は先ほどとはがらりと変わって錆びた鉄が擦れるような音を発し、周囲に己の意思が存在する事を如実に示し始めた。





「で、面白そうな()だから連れてきた、と。で、そっちのおじさんは?」

「お…おじ…」


呉羽らの説明に、一応納得したシアである。

が、見慣れぬ壮年の偉丈夫が彼女の眼を引き、首を傾げさせた。

この世界に来てすぐのシアに仲間の判別ついた理由の一つに、見た目が変わってもそれを取り巻く雰囲気というか、何やらにじみ出るオーラと呼ぶべき物が彼女には見えるというのがある。

この世界に転生してきた者に限るようだが、それと意識せずとも個人の判別が付くほどに。

だが目の前にいる人物は、彼女の記憶にも無く、首を傾げざるを得なかったわけである。

しかしながら、おじさんと言われた本人はひどく傷ついたようで、傍目からもわかるほどに落胆していた。

それなりにまだ若いつもりだったのかもしれないが、年齢的には事実おじさんなだけに、二の句が継げなかったのもあるのだろう。

無論、カレアシンらのフォローもあったが…。


「すまんな、基本的にウチの連中は対人スキルが欠けているんでな。まあ、じいさんと言われなかっただけましだと思え」

「シアから見れば、十分立派におじさん。エルフは白も黒も嘘つかない」

「確かに嘘はつかないわねぇ、言葉に棘はあるけれど。その点、魔人は自由でいいわぁ」

「まあまあ、ジョフルのおっちゃん。シアはエルフだけど、みたまんまの年齢だから。若く見えて実はン百歳のババアです、なんて事はないから。だからおっちゃんがおっちゃんなのは間違いじゃないから」


しかし、このべあ子の言葉のように、全っ然フォローになっていなかったりする言葉だらけであったが、それは気にした方が負けなのである。


「で、だ。シア、こいつ…あー、一応ゴール王国の将軍閣下だ。今回のいくさの総司令官でもある」


ジョフルの精神状態が落ち着いたところで、広間のソファーにて応対を進めようと歩みを進めようとしたのであるが。


「え?ウチに入りたい?いいよー、ギルド加入承認!」


クリスのギルド加入希望を聞いて即決で承認スキルを発動していたりする。


「って、聞けよ!シアっ!」

「あ、ハイジも入っとく?ってなに?カレアシン?」


まるっと素でスルーしていたシアであった。


「はぁ…。ジョセフ・ジョフル、将軍閣下だ。ゴール王国で伯爵位も持ってる。ま、お偉いさんだ」

「好きで偉くなった訳じゃないんだが…。ま、よろしくな」


再度のカレアシンによる紹介を頷きながら受け、シアは居住まいを正しジョフルに向き直った。


「当ギルドの長を務めます、シアと申します。以後お見知りおきを。それで、この度はどのようなご用件で?」


背後でアマクニや呉羽らから、ギルド加入に際しての注意事項等を聞いているクリスとハイジを気にしながら、シアは目の前に立つ重要人物に対し責務を果たそうとしていた。

つまるところ、状況がよくわからないので説明プリーズと叫びたかったのだが、流石に状況的にも立場上も自重しなければならなかった。

なので視線でそれをカレアシンに訴えるのだが、当の竜人はニヤニヤと笑いながらご丁寧に頭を下げてシアの背後に回ってくれた。

交渉に関しては名目上トップのシア、もしくは代行であった呉羽に引き継げば立場的にはそれで間違いないのだが、心情的にそれはどうなのよと言いたいシアである。

長年ゲーム的には親しんではいたものの、実質異世界初心者である自分だ。

三次元(リアル)の男性と面と向かって話すなど、自分のスキル的には業務連絡及び仕事上の事務的な対応ぐらいしか出来はしない。

表面上はこれっぽっちもほころびを見せぬまま、シアはジョフルにソファへの着席を勧め、自身も対面に身を沈めた。


(お、落ち着け私。ここにいるのは人間だった阿多楽真実矢じゃなく、天下無敵のハイエスト(至高の)エルフ、シアちゃんよ。これしきの事で音を上げちゃ、これから先のファンタジー世界を生き抜いてくなんて無理よ)


とは言え胸の中で激しく収縮を繰り返し、実際聴覚にまで影響を与えるほどに大きく脈動を伝えてくる臓器の働きは中々平静を取り戻さなかった。


(仕方が無い…。秘儀『全真美矢改め全シア代表会議!!』)


【全シア代表会議】

シアの脳内に住む無数の人格が寄り集まって様々な意見やちょっとした小粋なジョークで盛り上がる脳内会議である。

議会終了時には総勢五十六億七千万人のシア達によるレアアイテムつかみ取り大会が行われる(嘘)。


(会議終了…。ふう、まさか竜殺しの剣つかみ取り大会の賞品のアスケロンやら天羽々斬の中に、二式複座戦闘機「屠竜」が混じってるとは、流石の私にも想像できなかったわ)


ココまで、ソファーに着席してから、どこぞの宇宙刑事が蒸着終了するまでの時間しか経過していない。

ようするに、何も思いつかなかったのである。


「誰か、将軍閣下にお飲み物を」


仕方ないので多少なりとも時間稼ぎをと思い、とりあえず手近な者に飲み物を頼むシアであった。


「美味っ!なんだ?こいつの美味さは!すげえ甘いっ」


既に定位置となったのか、猫耳メイド姿の娘がシアの要求に応えて飲み物と摘める物を運んできたのだが、出された物を口したとたん周囲の目も気にせずに感想がそのまま口に出てしまった将軍である。

企業とコラボしたゲーム内アイテムであるが、駄菓子とは言え現代っ子の肥えた舌を満足させるためのものである。

たかがタケノコやキノコを模した焼き菓子にチョコレートが掛かっているだけのものであったとしても、未だ食文化的に裾野が広がっていないこの世界においては至高の甘味となるのだ。


「甘さは美味さだよねぇ。ねーちん、アノ系統のアイテムって倉庫にまだあったっけ?」

ベア子の方が知ってるでしょう?ほぼあんたがトリックオアトリート(貰って)してきたんだし」


ゲーム内での期間限定(ハロウィン)イベント時のアイテムも、ギルドハウスの倉庫にはうなるほど眠っていた。


「こいつが山ほどあるのか…。おいカレアシン、帰りに分けてくれ」

「別に構わんと思うが…。対価は考えておいてくれよ?」


暗に、只でやる訳じゃないからな、と将軍に釘をさす竜人。

言われた方も言った方も、どちらにとっても有益な取引になるのならば否は無く、にやっと笑って話を終えた。

 

「で、だ。話を戻すが…」

「始まっても居なかったけどね、にゅう」


口の中にお菓子を詰め込んだまま話し始めるジョフルに、熊子が突っ込みを入れる。

だが、そんなことは露とも感じないかのように話を進めていった。


これ(浮遊城)についてもだが、これ以降のギルドの立ち位置なんだがな」

「はあ、何か問題でも?」


まじめに問いかけるジョフルに、シアは何が言いたいのかと真顔で問い返した。


「問題…といえば大問題だな。主に、パワーバランス的に」


ため息混じりに肩を落とす将軍に、何がそんなに大事なのかとまたしても首を傾げることになるシアだが、はたと思いついて背後に立つカレアシンにちょいちょいと指を曲げ耳を貸せと意思表示をする。


「どした、シア」

「あー、私が話し聞いても状況に即した答えできるかどうかわかんないんだけど。正直なところ、あの(ネフシュタン)に聞いた話をそのまま鵜呑みにしていいのか怪しいし」


神の使いから見た世界観など、実際に地に足をつけて生きるものからすれば大雑把過ぎることこの上ないだろう。

無論、神の使いはその能力が尋常ではないだろうから、認識した状況と実際に行使する能力の齟齬は無いのだろうが、人として言葉で情報を伝えられたシアにしてみれば、穴だらけの可能性を考えてしまうのも仕方ない。

若干瞑目して思案を巡らせたカレアシンは、「好きにしたらいい」とだけ答えた。

別に投げやりになったわけでも、責任を押し付ける気になったわけでもない。

彼女シアの出す答えが、結果として正しかったのはこれまでも証明済みである。

それは今回以上に情報の少ない、ゲームイベントに措いてであったが、贔屓目に見て最善を尽くしたと言える他のギルドよりも、思いつきやカンで動いた自分達のギルドのほうが不思議と高い成績を残したり、高評価を得ることが多かったという事実に倣う。


運をシアに任せる。


実しやかにギルド内部で言われ続けている、シアの悪運というか引きの強さがその所以であった。

「んもう、またそういう嫌な役目押し付けてー。私の選択の結果がみんなに降りかかるんだから、結構胃に来るのよ?如何に関わらずさぁ」

言いつつも腹を括ったシアは、ゆっくりと立ち上がり、その美々しい頤を静かに動かしはじめた。


「私は冒険者ギルドの最高責任者にして最高位の硬度10、星の金剛石ダイヤモンド・スターシア。私たちギルドは、あらゆる国家に対して中立を保ちます。ですがもし、何らかの手段で私たちに服従を求めるのならば、それに抗う事に躊躇いはありません。我々が追求するのは未知への道程。領土的な野心も権力闘争にも興味はありません。私たちは、恩義に報いるに命を投げ出しましょう。仇なす者には命で償わせましょう。我がギルドは不退転。何者にも屈せず、何者をも支配しない。ジョセフ・ジョフル将軍。これ以後、我がギルドの成す行為全ての責を、マスターたる私が負いましょう。貴方は直ちに国許へ戻り、その旨を国にご報告なさってください」


シアはそう告げると、ゆっくりと目を閉じ、腰を下ろしたままのジョフルの前まで歩を進め、掌をかざしてスキルを発動した。


遥けき彼方よりの言伝メッセージ・フロム・イスカンダル


その言葉(スキル発動)とともに、彼女の掌に光が集まり、偏長楕円体《ラグビーボール状》のカプセルが形作られていた。

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