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MMORPG?知ってますけどなにか?  作者: でーぶ
異世界突入!?
19/83

第18話 やる事はやっておきましょうね?後回しにするとたいへんですし?

待っていてくださる方がいるかどうかはわかりませんが、遅くなってしまいもうしわけありませぬ。



「カレアシンが出かけちゃったので、帰ってくるまで暇つぶしターイム!」

「どんどんぱふぱふ~!で、なにすんの?」


シアと熊子がやけにノリノリである。


「暇つぶしといっても、何をする気じゃ?わし等、自分の装備やらアイテムや何やらの点検なんぞで結構手間かかるんじゃが」


とてもとても迷惑そうなアマクニが、広間に呼びつけられた他のメンバーを代弁して苦言を呈している。

ギルドハウスの個人用ロッカーに放り込んでおいた、秘蔵のアイテム群を実際に目にするお楽しみタイムと言っても過言ではないから、その気持ちはシアにもわかりすぎる。

しかし、取り急ぎやっておかなければいけない事であるため、無理を言って皆に集まってきてもらったのだ。


「いやまあ、その辺の事は他のみんなと合流してからでも出来るじゃないですか。まあ正直なところ、私が遅くなったせいでみんなに迷惑かけちゃったなぁと思ってですね、やれることっていうか、やっておかないと拙い件を先に済ませておこうかなと」


てへ?という感じで頭をかくシアに、アマクニは気の抜けた溜息をついて肩をすくめた。


「まあ急いておる訳でもなし、別に構わんが…何をする気じゃね」

「いえ、とりあえずですね。ギルドカードの発行をと思いまして。コッチ来てから私いなかったから、発行できてないでしょ?」


案外まじめな提案をしてくるシアに、アマクニは納得した表情で頷いて返した。


「確かにコッチに来てからは発行できんかったな。呉羽お嬢も嘆いておった」


ギルドカードの作成は、旧『ALL GATHERED』時代から一貫してギルドマスター権限であり、副ギルマスによる代理発行は不可能であった。

しかし、ゲーム世界においては様々な恩恵をプレイヤーに与えてくれていたギルドカードだが、この世界においてはどうだろう、とアマクニは首をひねった。

身分証明書として、というなら現状暫定的に発行している皮革に金属プレートを打ち付けて刻印したものがある。

ギルドの設立前から仲間の証として造り、所持してきたのだ。

設立後は後見についてくれた小国の紋章が、金属プレートが張ってある面とは逆側にエンボス加工で浮き彫りにされ、結構手間がかかった品となっている。

市井に紛れた者の子弟が、このカードを片手に冒険者ギルドの扉を叩くなど、それなりには役に立ったと言えよう。

皆それなりに、愛着も感じていると言っても過言ではなかった。


「へー、案外かっこいいじゃない」


アマクニから手渡されたカードを、裏に表にしげしげと眺めるシアは、ひとしきり思案したあと、ギルマス専用スキルを使用した。


「アマクニのギルドカード作成、start(審査)examination(開始)



女神からの恩寵たる輝きに包まれた聖なる水が、陽の光に瞬いて降り注ぐ。

それは、心を癒す雨。

ささくれた心の傷を埋める、優しい女神の金色の滴り。

その輝く水滴は、全ての悪しきしがらみから精神を解き放つ。


「これは…?」


従者の男は、今にも抜き放とうとしていた剣の柄から手を離し、降り注ぐ黄金の雫を手の平に受け止めようとするが、煌きは手に触れると一瞬で消え去った。


「女神の聖なる癒しの力…か」


カレアシンへと、その怒りの矛先を向けていた従者達の気勢が、まるで無かったかのように削がれ、静まっている。

その最先鋒と思われる従者の面持ちも、穏やかなものへと変わっていた。

それもつかの間、何やら思案するように額に手を当て、大きくため息を吐き項垂れていた。

別段これと言って影響が無かったのは、ジョフルとカレアシン、神聖魔法の効果範囲外にいたハイジとクリスだけであった。


「やれやれ、何を手間取っているのかと思えば。カレアシンとも在ろう者が情けないったらないわね」

「はい、隊長らしいとも言えますが」


誰の仕業かと周囲に注意を促す中、頭上からかけられた声に、カレアシン以外の一同は揃って驚きに目を見張った。

見上げた先には、シアとは違う、威圧的としか言いようのない雰囲気の魔人女性の呉羽と、飄々とした黒い肌のエルフ女性、ヘスペリスの姿があった。

彼らに驚きを与えたのはその出で立ち。

呉羽は、ビロウドの様な滑らかな色彩の深紅のミニスカワンピースに黄金色の羽毛で覆われた胸当、細かな細工が施された白金の手甲と、それと同じ意匠の高いヒールの太ももまで覆う白金のロングブーツに、紫紺のマントを羽織り、額には自らの左右の角に挟み込むように取り付けた、鼻先から頭頂部までをシェイプされた曲線で形作られた菱形状の鉢金のような物で覆っている。

その手には、半ば透き通ったような赤黒い結晶で形作られた、互い違いに6本の枝が生えた剣のような杖、いや杖のような剣なのだろうか、が握られていた。

左手には何も持ってはいなかったが、手甲の前腕部の外側には両手の平を合わせたほどの大きさの円盤に、和バサミのような形状の刺突用の突起のある小型の盾が取り付けられている。

ヘスペリスはというと、サテン生地の長袖チュニックとデニムのホットパンツ、黒いサイハイソックスと足首までの皮ブーツという軽装に、取ってつけたようなごつい革ベルトを腰に巻き、それの左右に細身のレイピアと短杖を携えている。

かたやこれでもかと言うほどに重装備の呉羽と、かたやその辺を散歩にでも行きそうなヘスペリス。

とはいえその装備のいずれもが凄まじい魔力を帯びており、見る者によっては怖気を振るうほどの物ばかりであったから。


「おまえ…大丈夫なのか?」

「大丈夫とは心外ですこと。シアに手ずから看病してもらった私が、いつまでもどうにかなっているわけが無いでしょう?」


大半の者が降りてきた呉羽らにどう対処すれば良いのか逡巡している中、呉羽は竜人から掛けれられた声に軽く言い返し、カレアシンから若干離れた位置に着地した。

その際にごくごく自然に、尖ったつま先で地面に転がっているでぶ貴族の股間をぐりぐりと踏みつけにしていたりしたが。


「あー、元気になったんなら、まあいいか。で?何しに降りてきたんだ?」


確かに手間取ってはいたものの、別段急かされていたわけで無し、と疑問に思うカレアシン。

それに対してあっさりと答えたのはヘスペリスであった。


「いえ、ソレの相手をするのでしたら、出る気も必要も全くなかったのでが。将軍閣下がいらしているとなればご挨拶に伺わねばと思った次第です」


ふわり、と重さを感じさせない動きでカレアシンの横に着地したヘスペリスは、そのまま恭しく剣戟将軍へと向き直った。


「お久しぶりにございます、将軍閣下。冒険者ギルド所属、星蒼玉スターサファイヤのヘスペリスであります」

「お久しゅう存じます、将軍閣下。冒険者ギルド、副ギルドマスター、血紅玉ピジョンブラッドルビーの呉羽でございます」

「あ、ああ。久しいな、ヘスペリス殿。それに呉羽殿、壮健で何よりだ」


慇懃に礼をするヘスペリスと呉羽に、将軍は些か虚をつかれたような戸惑いを見せるが、すぐに答礼を返し、声をかけた。


「しかし、副ギルドマスターとは?いや、確か御身は以前ギルドマスター代行を名乗っておられなかったか?」


若干記憶を探るように視線をそらし、問いかけるジョフルに、呉羽は杖を持たぬ飽いた手で口元を隠すようにしてくすりと笑い、それに返した。


「はい、代行の肩書きをようやく返上出来ましたので、本来のものに戻した、という次第です。本来のギルドマスターが、ようやく我らの元に戻られたのです」


誇らしげにそう告げる呉羽に、ジョフルは「ほう」と感嘆の声を上げた。


「長年正式な責任者を定めぬまま、というのは不思議に思っておったが、そう言う事であったとは。なんにせよ、それは喜ばしい」

「ええ、それはもう。私、もう幸せすぎて死ぬかと思うほどでした」


喜びの再会時に地に落ちるほどの一撃を食らった事は彼女的には無かった事になっているようである。

そんなある意味首脳会談的な状況の中、放置されていた従者達は自分自身を取り戻して居住まいを正していった。

ただ一人、己の先の行動に激しく疑問を持ち、眉間にしわを寄せているものがいたが。

そんな従者らを横目に、カレアシンはさてと、と一息入れ姿勢を正し、将軍に向き直った。


「で、話を戻すが。どうする?俺たちは引く気はねぇ。そちらは軍規で雁字搦め。さて?」

「む…」

「俺たちは、仕事を済ませて撤収した。引いた先は、ちいとばかり巫山戯た移動基地みたいなもんだが、それはお前さん方にはどうこう言われる筋合いじゃねぇ。それはいいな?」


戦線を最後まで支えたのも、魔獣の群れに止めを刺したのも、自分達冒険者である。

撤退時に足並みがどうこうなどと言われても、それがどうしたと跳ね返せる。

その上でカレアシンは、今回の下の者の行動を把握し切れなかった責任者に、どう落とし前をつけるのかと問うていた。


「…ふぅ。よかろう、冒険者ギルドへは一切の責を問わん。今回の一件は、この部隊責任者の独断専行だ。軍規に照らして厳重に裁かれよう。そして、こちらからの侘びとしてだが…」

「ほう?大盤振る舞いだな、正直そのデブの処分はそっちで済ませとくからさっさと帰れ、で終わりだと思ってたが」

「今回の参戦、報酬はいらんと言っていたな?私の裁量で、通常の傭兵団に支払う額の倍出すように取り計らっておく。それと、だ。私自ら、そちらの責任者殿に謝罪に伺おうと思う」


将軍がそう口にすると、ざわり、と。 

周囲の空気がかさついたように、聞こえない音を立てた。


「や、ただ単に今後も色々と手を貸してもらうだろうから、その、だな。ギルドマスターにご挨拶を、とな」


ちりりと首筋に嫌な感覚を捕らえた将軍ジョフルは、付け足すようにそう言いつつ、周囲の気配を探る。

すると、キツイ視線を目の前の魔人から感じはするが、それとは違うと切り替える。

と、背後からそれまでとは違う違和感が盛り上がってきたのをゆっくりと受け流し、滑らかな挙動でそれまで立っていた場所からずれるように移動し背後に向き直った。


「閣下!閣下が赴かれるなど、ありえません!むしろあちらに足を運ばせるべきです!」


言いつつ、腰の剣を抜いた従者が、先ほどまで将軍が立っていた場所目掛け突きを放っていた。


「…言ってる事とやってる事が出鱈目だな。お前さんのところは変わった教育してるんだなぁ?」


伸び切った剣を戻そうとする寸前に、カレアシンはその剣先を摘み、それを握った従者ごと地面に引き倒した。

もんどりうって顔面から転がった従者から剣を奪い、その背に片足をのせ動きを封じる。

すると、その背に畳んでいたマギウス・ドライブの翼が起き上がり、周囲の魔力を吸い上げ始めた。


「っと、こいつぁ?」

「あら珍しい、魔法剣?ちょっと貸してみなさい」

つまんだままの剣をまじまじと見るカレアシンの手から、呉羽が横から手を伸ばし、ひょいと奪い取った。


「おいおい、お前さんなら大丈夫とは思うが、気ぃつけろよ?」


そう言って注意を促し、励起した魔力翼を収めながら、竜人は足下の従者の様子を見やる。


「気ぃ失ってるってえと、あれか」


従者の持っていた剣は、魔法剣と呼ばれる類いの物である。

魔法剣は幾つもの種類があり、主に魔力を用いて切れ味を強化するものが多い。

また、持ち主の意思により魔法を放てる物や、それ自体が知能を持ち、持つ者に英知を授けたりこれまでの戦闘経験などの恩恵を与える剣もある。

そしておそらくこの剣はいわゆる呪いの剣、持ち主の意志に反して身体を支配し、切り掛かるという類いの物であろう。

今回は従者から剣を奪い取ったカレアシンを支配しようとしたために、例の魔法鎧が起動し対魔法防御が働いたのである。


「おそらく条件付けでの呪いの発動だったのでしょう。持ち主の精神状態により、呪いがかかり目的の行使が行われると。先ほど無理矢理に魔法剣の支配を断ったわけですから、意識を失うのも当然かと。たしか発動中の精神支配魔道具相手には、一時的な精神洗浄にしかなりませんよね、ピースフルスピリチア(平穏なる精神を)は」


カレアシンの足下にしゃがみ込んだヘスペリスも、倒れて意識を無くした従者の男の様子を見て、状況を把握していった。


「魔法剣との繋がりは、完全には切れてませんね。…あ、切れた。あ、繋がってまた切れた。って、何遊んでるんですか呉羽さん?」


従者と魔法剣との繋がりを、魔力の目で見ていていたヘスペリスが、接続をオンオフするように遊ぶ呉羽に苦言を呈するが、効き目は無いに等しい。


「あら、ごめんなさい。ちょっと弄ってただけだから。はい、これでよしっと」


魔法剣の柄を逆手に握り、半眼の状態で剣の状態を確認、そして従者との繋がりを断ち切った呉羽はふっと息を吐いて足元の岩に剣を突き立てた。


「おお、中々の刺さり具合だな。だてに魔法剣じゃないって所か」

「呉羽さんの力で刺したら、常人では抜けませんねぇ。取りあえず、これで被害の拡散は無いわけですが」


さて、これからどうするか、と考え始めたところに、将軍が申し訳なさそうに足を運んで来た。


「まさか、こやつがこのような事をしでかすとは」


それなりに信頼を置いていたのか、若干呆然としている様子であったが、すぐに気を取り直し、カレアシンに声をかけた。


「手間をかけさせてすまん。こやつはこちらで引き取る。しかし、いったい何があったのだ?」


腕を組んで訝しがる将軍に、カレアシンが告げたのは、魔法剣による精神支配と、先の神聖魔法によるそれの一時的解呪。

そして、呉羽による剣の再支配防止である。


「そのような魔法やアイテムがあるのは知っていたが…」


従者にそのようなアイテムを与えて、状況的に考えて自分を弑るように指示したのであろう者がいる。

自身の暗殺それ自体は想定出来ていたが、まさか自らの従者がそのような者に仕立て上げられるとは、夢にも思っていなかった。


「ま、今回の魔獣戦で死ぬならよし、それが駄目でも戦後のどさくさでそいつがお前さんを刺すって段取りだったのかもしれん。まあ、その剣の出所を探れば解るだろ。なあ、呉羽」


カレアシンの言葉に呉羽は頷くが、些か憮然とした面持ちで首を傾げた。


「でもこの魔法剣、自意識持ってるわよ?いわゆる妖刀、妖剣の類いね」


人の身体を支配する呪いの魔剣にもいくつか種類があり、本人の意思とは無関係に身体が勝手に動き敵味方関係なくのべつまくなしに手を出すもの、精神まで完全に乗っ取られるものなどがあり、今回の物はその中間、本人の意思とは無関係に、剣の意思によって身体が動き、目的に沿った行動をしてしまうという物だろう。

本来は、意識をなくした剣の持ち主を戦場から帰還させるための物だと言われているが、真偽のほどはわからない。

だが、誰かの差し金でそう言った暗殺などを行うには不向きだと、呉羽は告げた。

主に値段の関係で。


「なるほど、確かにこれ一本で、王都にでかい屋敷が2つ3つ軽く買えるな」


地面の岩に刺さった剣を見下ろしながら、将軍は自分を殺す事で利益を得るだろう者をピックアップしていた。


「こんな金のかかる剣を用意出来て、お前さんの従者に持たせる事が出来る伝手がある、か。かなり絞れるな。おい、お前さん喋れるか?」


カレアシンの問いかけに、剣はその刀身を震わせる事で音を発した。


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