第10話 そろそろお話を動かさないと駄目ですよね?いや、ホント動かしますからね?
ええい、魔獣が一掃されたと思えば何だあの空飛ぶ岩の城は!
古の業を誰かが復活させたとでも言うのか?
ならば、今アレを確保する事が出来れば、わが国が、いや、私がこの世に覇を称える事すら出来るやも知れぬ。
「だれぞ、飛行魔獣を扱えるものは残っておるか?」
☆
「しくしくしくしくしくしくしくしく」
「ご、ごめんってば。ただのお茶目な冗談じゃないの」
長身の魔人女性は、シアの一言で固まり、その後この世の終わりとでも言うような表情で、その場に立ち尽くしてさめざめと泣き始めたのだ。
「ご、ごめんね、泣きやんで、お願い」
言いながら、あたふたと周囲に目をやるシアだが、周囲の反応は冷たかった。
「自業自得だ。あいつがどれだけ待ち焦がれていたか。流石にシアの事であいつをからかう事だけは、熊子ですらやらんかったぞ」
「今回ばかりはシアが悪いと、私ですら思います。私が同じ事をされたら精神崩壊するやも知れません」
「黒ねーちんはそれくらいでどうにかなるような細かい神経して無いと思う。にゅう」
「うるさいですよ。おまけに、その取ってつけたような語尾。「はとこ」とでも呼んでほしいのですか?和製マンチキン的行動を取ればよろしいのか?」
「いや、どこぞの剣世界再生じゃないんだからそれは置いとこうよ。ていうか泣きやんでー!」
暫くの間、魔人女が泣き女と化して、ハイエストエルフを困惑させたという。
「それでは改めて。お久しぶりです、シア。今は呉羽と名乗っております。再び見えることができて、大変嬉しく思います」
ようやく泣き止んだその女性、名を呉羽といい180cmほどの身長の、美人と言うよりは妖艶な、という形容が似合う魔人である。
漆黒の節くれ立った太い角が、肩までの黒髪を割って耳の上から伸び、後方に反り返りそのまま前方へと円を描いている。
そしてその女性的な柔らかな線を描く美麗な輪郭は、シアもほう、とため息をつきそうになるほどである。
「う、うん、久し…ぶり?」
若干戸惑い気味に返事をするシアだが、視線は相手の胸元に釘付けである。
そこにはスイカ級の巨大なブツが鎮座しており、女性といえども初見で目をそらすのは中々に難しいものがあった。
「ああ、何十年かぶりにギルドハウスの存在を感じてというか、この世界に来てから初めて感じたわけですけれど、副ギルマス権限での単独帰還を使ってギルドハウスにやって来てみれば、シアに忘れられていたなどと言う悪夢。私を殺す気ですか!?」
「そこまで!?私のお茶目ないたずら気分の一言が人を殺すの!?」
「言葉は容易く人を傷つけます。当然死に至らしめるのも、わけないのです。たとえば私の一言で、効果範囲の敵は即死耐性が無ければ死にますし」
真顔で告げる呉羽に、シアはたじたじである。
「いや、それ“死の言霊”だよね?めっちゃ魔法だよね?」
「そんな事はどうでも良いのです。私がどれほどこの時を待っていたと思ってらっしゃるの!?」
一転してシナを作るような態度でシアに擦り寄る呉羽。
「あ~、本当にごめんなさい。悪気は無くて、ついその…」
「まあ、それだけ私が気の置けない相手と思っていただけているという事で今回は納得します。次は…多分死にます」
「いや、死なないでお願いだから!」
そんな感じでぐだぐだしている二人を見つつ、他の面々も色々と振り返っていたりした。
「ねーちん的にはまだ一ヶ月程度だっけか。ていうか、角ねーちん何考えてQカップな胸サイズにしたんかね?人としてなんかありえない大きさなんだけど」
「微妙な期間ですね。我々にとっては20年以上ですが。しかし下品な乳です。私ぐらいの大きさが最も美しいサイズなのです。まさしくJustice!」
「この世界、向こうと一年の長さも違うしねぇ。って黒ねーちんも代行もでか過ぎるわ。無い乳もいいもんだよ?」
「AAAサイズはだまらっしゃい」
「こっちも揉めだしたようじゃの」
「知るか。ほっとけ」
振り返ってなかった。
ともあれ、話の方向性はそれなりにまとまってきた様である。
「で、あらましは聞いたんだけど、現状どうなってるのか教えてくれる?これからの事考えたいんだけど」
「はい、それはもちろん。取りあえず、各支部に硬度レベル6位以下を集合させて、暫くギルド運営をまかせようかと思うのだけど。そうして、転生者をここに集合させて、装備の回収とこちらでは作れなかった装備やアイテムなどを生産しようかと」
「ああ、そりゃ大事よね。で、硬度?ハードネスレベルって?」
「ああ、硬度ってのは、冒険者登録した奴等のランクだ。ぶっちゃけよくある冒険者のギルド内格付け的なもんだ。A級B級ってな」
「ABCDでは趣きが無いので、硬度と呼ぶようにいたしました。モース硬度同様、1~10までで、1が初心者、10が頂点と言うように」
「はあ。なるほど」
「とうぜんシアは硬度レベル10です。銘付ですし」
「銘付?よくわかんないけど…」
「シアはレベル10、銘は金剛石です。ちなみに硬度10は他におらず、これまで空位でありました。ついでに申し上げますと、私は硬度9、銘は血紅玉。まあ、銘付きは殆どが転生者ですけれど」
「ウチも硬度9。銘は金緑石」
「私は星蒼玉。同じく硬度9です。と言うか、元ギルドの幹部は大体全員が硬度レベル8か9です」
「そういうことだ。俺の銘はクロム、硬度9だ。基本、魔法メインは宝石の銘が多いな。前衛職は鉱石なんかが多い」
「ワシは硬度8じゃな。銘は玉鋼」
「ひとりだけ加工品じゃん!それ日本刀用の鋼だよね!?」
「ああ、別になんだっていい。硬度に合わせなくてもいいしな。人によっちゃあ火廣金だの試掘666番だの月チタ…」
「アウトー!ストーップ」
「あ?何がだ?」
「いえ、まあいいです。で、その硬度レベル6以下の人たちにギルド任せて大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。今だって殆どの事務処理はこの世界出身の一般職員だし。ギルドの警備に張り付かせるだけなら、問題ないわ。鍛えてあるし」
そういうと、きらりんと歯が綺麗な輝きを見せた。
「ねえ、ちなみに6以下の人たちってどれくらい使えるの?」
「6人チームでなら、さっきの中型魔獣一匹を何とか倒せる…ような気がしないでもない」
竜人が、ちょっと遠い目をしながら個人的な評価を告げる。
なおこの評価はあくまで「無傷で」倒せると言う事を念頭においているため、厳しい評価となっている。通常の一般兵や十把一絡げの傭兵たちにとっては満身創痍になってやっと、と言ったところであろうか。
「微妙…」
「こっちの人らにすれば頑張ってるほうだと思うよ?ウチらなら、戦闘職でなくても何とか一人で倒せるけどさ」
「そう思うと、転生で累積レベルあるのって、すごいわよね…って、あそこでうろちょろしてるのは、なんじゃらほい」
そういうシアの指摘に皆が外を見ると、そこにはギルドメンバー以外は進入禁止の結界に阻まれてぐるぐると外周を飛び回っている、軽装の兵士が騎乗したヒポグリフが一頭。
「入れてあげる?」
どうするべきかとたずねるシアに、カレアシンは渋い顔をしつつ、答える。
「まあ、話聞くくらいならな」
「余り良い予想がつきませんけどね。あの装備、アラマンヌ王国の軍装だと思いますが」
ヘスペリスは相手の素性がわかるのかして、これまた渋い顔である。
「私はどちらでも構いませんが、追い返すにしても何かお土産を持たせて上げませんとね」
怖い笑みを浮かべた呉羽が、言葉とは裏腹に入れてやれと変な圧力を放った。
「あー、代行。別にあの兵士個人に責は無いからな?余り手ひどい事はしてやるなよ?」
「あら、この私がいったい何をすると?心外ですわ」
心配げな顔のアマクニが呉羽言うが、効き目はなさそうである。
「えー、じゃあ入れてやるってことで。“結界限定解除”」
シアがつぶやくと、結界が一瞬光り、ヒポグリフはそれまで進めなかった位置から城へと近づけるようになり、まっすぐに城の正門前へと降りていった。
「…あの国、一番対応酷かったもんね。代行が交渉しに行ったときの相手とか、セクハラしてきたらしいし」
何気に不安なことをつぶやく熊子に、シアは早まったかと口元を引きつらせた。