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もういいのです、、、と諦めました

掲載日:2026/07/21

貴方の事は好きでした。でも、貴方がわたくしを好きでは無いのを知っていたから、、、ハッピーエンド

 貴方はいつもわたくしを無視するの。


 わたくしは貴方に振り向いて欲しくて、貴方好みの派手な化粧をし、派手なドレスを選ぶ。

 それなのに、見向きもしてくれない。

 きっとわたくしの事が気に入らないのね。


 貴方はわたくしを見ないのに、言いたい事は遠慮が無くて、ただただわたくしを傷付ける。

 それでもわたくしは貴方の婚約者。貴方と結婚するしか無かった。


 貴方がわたくしを気に入らないのは知っているから、わたくしも貴方を嫌いになるの。

 どうせ貴方は屋敷に帰って来ないから、わたくしはこの屋敷を自由にするわ。


 屋敷内の事は貴女に任せる。金は自由に使って良い。しかし、私のする事に口出ししない様に。


 それが貴方の言葉。

 きっと外に女でもいるのでしょう、、、。

 大丈夫、だってわたくし、貴方を嫌いになるのだから。

 

 

 貴方の好きなタイプは派手で女性的な人。

 胸元の大きく開いた、真っ赤なドレスや金糸を存分に使ったドレスが好きな女。 

 香水の香りを纏い、世界中の男を侍らす女。

 化粧も手を抜かず、美しい顔を更に美しくする女。



 貴方の周りの女は、みんなそうだった。

 そして、わたくしもそれに習ったわ。

 わたくしは似合もしないドレスを着て、したくも無い派手な化粧をした。

 髪型も流行を追い、貴方の周りにいる女達と同じ様にした。


 でも、わたくしは知っていた。

 派手なドレスも化粧もわたくしには似合わない。

 厚く塗りたくった化粧とストレスで肌はガサガサと乾燥し、ボツボツと出来物が増えた。

 似合わないドレスは、わたくしの肌の色を悪く見せる。



 結婚しても貴方は屋敷に帰って来る事も無く、いつも仕事仕事仕事。本当は別邸に帰っているのでしょう。

 わたくしは別に構わない。

 貴方が好きだから、貴方の周りにいる人達を真似た。

 貴方の好みの女に成りたくて、わたくしなりに頑張ったの、、、。


 でも、全て無駄だったわ。


 あの人が帰らない屋敷は、わたくしの好きにさせて頂きました。

 壁紙とカーテン、カーペットを新しくして、調度品も変えたわ。

 色調を揃え、整え、明るく落ち着いた物にしました。

 侍女達の制服も新調したの。

 わたくしのドレスも派手な物は捨てて、わたくしが着たい物だけを残したわ。

 宝飾品も普段使い出来ない様な、大きな物は身に付けず、結婚指輪だけにして、、、。



*****



「奥様、旦那様が帰られるそうです」


 あら、、、困ったわ、、、


「それでは、旦那様の好きな料理を沢山準備して下さいね。わたくしは暫くお部屋から出ないので、食事はお部屋にお願い」


 旦那様はわたくしが嫌いだから、一緒に食事なんて摂りたく無いと思うの。

 わたくしはいつも一人で食事を摂っていたから、お部屋で頂く事も苦では無いわ。


「旦那様はどれ位此方(こちら)にいらっしゃるの?あんまり長い様なら、わたくし、ゲストルームを使おうかしら」

彼方あちらにはシャワールームもありますからね。

「それでは、どちらのゲストルームになさいますか?」

執事長が気を遣ってくれる。

「そうね、旦那様に遭遇する機会が、一番少ないお部屋が良いわ」

「奥様の事を尋ねられたら、如何いかが致しましょう」

「仕事をしていると言って下さい」

わたくしは早速、私物をゲストルームに移動しました。


 旦那様のお部屋から一番遠い部屋。

 とても良い感じ。

 新しい壁紙は、白をベースにほぼ白に近いベージュの二色を使い、ベージュの色の方には薄く白い小花が散っているの。

 応接セットも抑えた色で、カーテンも淡い色。

 飾られた花の色が映えて、わたくし此方こちらのお部屋に移ろうかしら、、、。どうせ、旦那様に会う事は無いし。



 旦那様が屋敷にいらっしゃると、勝手が違ってやり辛いわ。

 あれから一週間、旦那様を上手く避け続けています。食事の時間をずらし、仕事をしているとか、外出中とか、来客中と誤魔化しました。

 そろそろ別邸にお戻りになれば良いのに、、、。

 ため息をきながらそんな事を考えてお庭を散歩していたら、、、。だ、だ、だ、、、旦那様っ?!

 どうしてっ?!こんな一番奥の誰も来ない場所に何故貴方が?


 わたくしはつい、カーテシーをしてしまいました。


「君は?、、、妻の友人かな?」


思わずにっこり笑う。わたくしと気付いていない様です。

 それはそうです。初めて顔合わせをした時から、貴方好みに化粧をしました。

 こんな、ほぼスッピンのわたくしの顔など、ご存知無いでしょう。ほほほ。

 

 彼はわたくしの手を取り、庭を案内します。

「綺麗なお庭ですね」

彼は庭を見回す。

 貴方が帰って来ないので、庭もわたくし好みに変えました。どうですか?

「気に入って頂けて嬉しいです。妻が整えたのでしょう。良い庭です」


 あら?褒められました。


「いつも此方こちらのお庭を散歩されるのですか?」

なんて、屋敷に帰って来ない貴方の事を知っているのに、意地悪を言ってみました。

「いえ、、、貴方が歩いているのを見掛けて、妻だと思ったのです」

わたくしはまた微笑みます。

「妻は私を避けている様で、久しぶりに帰って来たのに、会え無いのです」


 ええ、避けています。だって、貴方はわたくしが嫌いだから。


「お仕事が忙しいのでは無いですか?こちらのお屋敷の事は全て任されているのでしょう?」

「そうです」

「それなら仕方無いですわ。これ程大きなお屋敷ですもの、お仕事が沢山あるのでしょう?」

「あの、、、貴女は妻の友人ですよね?妻に放ったらかしにされているのですか?」

わたくしは、色々な事に疲れてしまって、此方こちらのゲストルームをお借りして静養させて頂いてます」

「お体が?」

「ふふ」

と笑って誤魔化しました。旦那様、早くお仕事にお戻り下さい。



**********



 結局、妻には会えなかった。

 妻とはタイプの違う女性がいた。とても気になったので、執事長に聞く

「妻の友人に会った、、、いつから此処ここに?」

「ご友人ですか?」

「ゲストルームにいるのだろう?」

執事長は少し間を置いて

「はい、一週間程前からいらっしゃいます」

静かに答えた。

「美しい人だった、、、」

「それは、それは、、、」

彼は、私のグラスにワインを注ぐ。

「妻は今日も仕事が終わらないのか?」

「旦那様にも、お分かりでしょう?奥様はお一人でこのお屋敷を管理しております。慣れないお仕事ですので、旦那様よりお時間が掛かります」

「そうだな、、、。私も仕事を手伝おうか、、、」

「いえ、奥様は漸く一人で管理出来る様になって来ました。今、旦那様が口を挟まれますと、混乱してしまいますよ。奥様から助けを求められるまで、任された方が宜しいかと」

「そうか、、、」

妻に会って、彼女の事を聞きたかったのに、、、残念だ。



**********



 一年ぶりに旦那様に会いました。

 相変わらず格好良かったです。

 私に気付かないなんて、本当にわたくしの事、何とも思って無いのでしょう。

 情けないやら不甲斐ないやら、本当にあの旦那様ったら、、、。どうしようもありませんね。



*****



 どうしましょう、、、旦那様からお花が届きました。わたくしの大好きな薄ピンクの薔薇です。

 え?まさか、わたくしが大切に育てていた薔薇ですか?庭の薔薇?

 た、、、確かに旦那様の庭に咲いた薔薇ですから、旦那様が好きになさっても構いません。でも、、、それにしても、、、どうしてわたくしの一番お気に入りの薔薇を、、、。


 複雑な気持ちです。私が貰ったのに、私宛では無いのですから、、、。


 早く別邸に帰れば良いのに、、、。



*****



「え?夕食をご一緒にですか?」

執事長が困った顔をしています。

「奥様はお仕事が忙しい様なので、ご友人の貴女と是非一緒に、と仰っております」

「貴方も大変ね、、、」

「このまま、ご友人のフリをされるのですか?」

「旦那様が勝手に勘違いされたのよ?面白いからこのままで良いと思うの」

「宜しいのですか?」


 今日は体調が悪いと言って、丁重にお断りさせて頂きました。



*****



 所が、旦那様はなかなか別邸に帰らないのです。

 帰りがどんなに遅くても、此方こちらに帰る様になりました。

 毎朝、庭でわたくしを待つ様になり、あ、わたくしでは無く、わたくしの友人ですね。友人を待つ様になりました。

 お陰で、朝の散歩が出来ません。


 早く元の生活に戻りたいです。



*****



 今日も旦那様から夕食のお誘いがありました。

 しつこいです、、、。


「え、、、」

執事長がため息をきました。

「奥様とご友人、お二人を夕食にご招待されております」 

わたくしはどうしたら良いのでしょう。この身は一つです。旦那様がお会いしたいのは、どう考えても友人の方でしょう、、、。

「分かりました。友人の方で会いましょう、、、」

「宜しいのですか?」

「旦那様がお会いしたいのは、わたくしではありません。わたくしが行ったらがっかりなさるでしょう?」

「畏まりました」

「、、、」

「奥様?」

「それとも、友人は帰った事にして、私がお会いすれば良いかしら、、、」

「それが宜しいかと」

執事長は、にっこりと微笑みました。



 あの人好みのドレスと化粧を辞めて、一年前より肌が綺麗に成りました。

 わたくしの大好きなドレスの中から、侍女に一番清楚で、わたくしに似合う物を選んで貰います。

 化粧も薄く、頬はほんのりピンクにして貰い、口紅も花の様な淡い色。

 アクセサリーは結婚指輪だけにしましょう。


 わたくしが旦那様の待つ食堂に入ると、彼の表情が明るくなりました。

 

 随分嬉しそうです。

「やはり、妻は仕事が忙しいのでしょうか?」

彼はわたくしをエスコートする為に、食堂の入り口まで迎えに来て下さいました。

わたくしはそっと、左手を差し出します。


 ご覧になって、貴方が下さった結婚指輪です。


 彼は指輪に気付きました。しかし、それが彼の送った指輪とは気付かなかった様子です。

 

 まぁ、既婚者と言う事は理解してくれたでしょう。



 旦那様は、執事長に料理を運ぶ様に言いました。

 あらあら、二人だけで初めてしまうのですね。

 可哀想なわたくし、、、。


 スープから始まりました。前菜を頂き、美味しい料理が運ばれます。

 旦那様は

「体調は如何いかがですか?」

と気にして下さいます。

「お陰様で、食事も美味しく頂けます」

「それは、素晴らしい」

にっこりと笑いました。

奥様抜きで女性とお食事なんて、よほど嬉しいのですね。ふふふ。

「妻にはあれからも会えないので、貴女のお名前も知りません。宜しければ教えて頂けませんか?」

「、、、アリアです、、、」

「 ?! 」

「アリアと申します、旦那様」


 旦那様は、何とも言えない顔をされていました。


 執事長が、旦那様のグラスにワインを注ぎながら

「奥様のアリア様です」

と言いました。



わたくしにもワインを頂けますか?」

にっこり微笑みます。



**********



 私は今までで一番、気不味い思いをして食事をした。

 妻の友人だと思っていた女性は妻だった、、、。


 チラリと妻を見る。

 

 こんなに美しかったか?


 初めて会った時は、もっと派手な感じだった。ドレスも化粧も今と違う。全く似合っていなかった、、、。腹が立つ程似合わなかった、、、。


 ああ、そうか、、、と思う。私が帰らない屋敷を改装した彼女。庭の花々、、、きっと彼女は、淡い色や、優しい風合いが好きなんだ。

 アレは、私に合わせて作られた彼女だった、、、。


 そう考えたら、何だか申し訳無く思った。


 私も本当は派手な女が嫌いだった。

 遊び相手には良いだろうが、結婚するとなると、やはり慎ましやかな女性が良い。



 ふ、、、と笑った。

 今更、君が好みだとは言えない。

 結婚したばかりの頃、散々傷付けた。

 しかも、妻を妻の友人だと思い、食事に誘うなんて、、、。



 彼女は努力家だった。

 外の仕事が忙しかった私は、屋敷の事を彼女に丸投げした。どうせ出来ないだろうと思いながら、一切助けなかった。

 彼女は、屋敷の者達に協力を仰ぎ、上手くやったのだろう。屋敷の改装も庭の手入れも良く出来ている。


 私の負けだと思った。

 彼女はこの屋敷に相応しい。



**********



 おかしいわ、、、旦那様が別邸に帰らない。

 わたくしの友人がわたくしと分かったのだから、もう此方こちらに用事は無いと思うのよ、、、?


 わたくしは執事長にそっと聞きました。

「あの、、、旦那様はいつ、別邸に帰られるのかしら、、、」

「別邸ですか?別荘では無く?」

彼方あちらに女性と住んでらっしゃるのでは、、、」

「その様なお話は無いと思いますが」

「結婚してから一年も此方こちらを留守にしていたので、他の場所に帰られていたのでは無いですか?」

「成程、違います。旦那様はお仕事が忙しく、結婚前から仕事場で寝泊まりをされていました」

「え、、、仕事場ですか?」

「はい、そうです」

「ずっと、好きな女性と一緒なんだと思ってました、、、」

「旦那様は、仕事一筋。本当は結婚もされたく無かった様です」

「あの、旦那様の好きなタイプはお化粧もドレスも派手で、女性らしい人ですよね?」

「旦那様は、小さい頃より女性に声を掛けて頂く事が多く、それはそれは大変悩まれていました。酷い揉め事も多かった様です。「化粧やドレスは派手な方が良い」と言えば、大抵の女性は諦めましたから」

「そ、、、そうなんですね、、、わたくし、旦那様に好かれる様に頑張って派手にしていたのですが、、、」



 馬鹿みたいですね、、、。



**********



 今日も私はアリアを観察する。

 彼女は清楚なドレスを身に纏う。

 食事の作法も美しい。



 何故、私は彼女をあんなに傷付けたのか、、、。

 今更、どんな言葉を掛ければ良いのか、、、。


 

**********



 旦那様の視線が痛いです。

 早くお仕事に行って下さい。

 

 食事をしながら、彼に見つめられると困ります。

 だって、わたくしは彼が好きなのです。

 嫌いになると決めたのに、一緒に食事をしただけで、彼に対する恋心が帰って来ます。


 お願い、、、そんなに、見つめないで下さい。


「アリア、仕事はどうだい?」

急に話し掛けられて、言葉が出ません。視線を上げて彼を見るのが精一杯、、、

「アリア?」

「ぁ、、、執事長や皆様に助けて頂いております。問題はありません」

「そうか、それなら宜しい」



 、、、、、、。



 会話は終わりました、、、。



**********



 どうした私。何故、会話が続かない、、、。

 屋敷を改装した事でも、庭の話でも良いだろう。何でも良いから話をしろ、、、!


 食事が済み、食後のコーヒーが運ばれる。

 今日も私は帰りが遅いだろう。

 「夜は先に食事を摂りなさい」とでも言おうか、、、。いや、いつもの事だからワザワザ言わなくても良いだろう。庭の薔薇が美しく咲いていた、、、とか?、、、彼女が管理した庭だ、知らない訳が無い、、、。私は彼女とどんな話をすれば良いのか分からなかった。

「部屋、、、いつになったら、部屋を戻すんだ?」

「お部屋ですか?」

彼女は小首を傾げた。

「ゲストルームを使っているだろう?」

少し考えこんでいる。

「旦那様はご存知ですか?彼方あちらのゲストルームは毎晩月が見えるのです。遠くの木に掛かる月、雲が走り抜ける様に流れて月を隠したり、薄い薄い月、まんまるの満月。毎日素敵な月が見えます。私は、あのお部屋が大好きなので、当分あのお部屋を使いたいと思います」


 上手く誤魔化された気がする、、、


「それでは、私もそちらの部屋に伺おうかな」

「、、、」

チラリと上目遣いで見られた。信用されていないな。

「今宵、貴女の部屋に伺っても?」

「構いませんわ」

どうせいらっしゃらないのでしょう?、そんな顔をしている。

「では、今宵、必ず」

そう言って、私は仕事に行く為に席を立った。



**********



 流石、旦那様。社交辞令もお上手ですわ。思わず、嬉しくて舞い上がってしまう所でした。

 毎晩お忙しい彼の事。きっとそんな約束も忘れてしまうでしょう、、、。



*****



 執事長に、早目に仕事を終わらせられました。

 食事を摂り、湯殿に連れて行かれます。

 えっと、、、そんな事は必要無くてよ?

 わたくし達は初夜もありませんでした。今更そんな事は起こりませんよ?


「万が一、、、と、言う言葉がありますから」


 いいえ、億が一ありません。


 まぁ、良いです。侍女達に綺麗にして貰い、オイルマッサージを受けていると、心も体もゆったりとして来て幸せを感じられます。

 ほんの少し、香水を振って貰いました。



*****



「無理です、、、」


 ああ、あんなに幸せだったのに、、、いきなり、地獄。


「こんな刺激の強い物、、、着れません、、、」


 泣きそうです。スケッスケなんです。着ても着なくても変わらない様なナイトドレスです。

此方こちら如何いかがですか?」


「、、、無理です、、、」


 脚が全部見えちゃいます、、、涙、、、。


「いつものナイトドレスにして下さい」

「奥様、、、それでは、旦那様をお迎え出来ません」

「だ、、、旦那様は、どうせいらっしゃらないわ。大丈夫、、、いつものにして頂戴、、、」


 本当に涙が溢れてしまう、、、。


「お願い、、、」


 ハラハラと涙を流すと、侍女長が

「奥様、大丈夫ですよ。今日はいつものドレスに致しましょう」

わたくしの希望を取り入れてくれました。



*****



 どうせ、あの人は来ないのに、


 もしかしたら、、、

 万が一、、、


 そんな風に思ってしまうわたくし

 

 今日も月が綺麗です、、、。


 一人で待つ時間はとても長く感じます。

 小さなテーブルに用意してあった果実酒を、少し頂いちゃいましょう。


 あら、美味しい、、、。


 柄にも無く緊張しているわたくし

 旦那様が来る筈無いと思いながら、二杯目を頂いてしまいます。



 月がいつもより傾いた頃、扉を叩く音が三回鳴りました。

 きっと遅くなり過ぎたので、今日の訪問は無いと執事長が来たのだわ。


 ふふ、、、。


 ほらね、、、。


 口元に笑みが浮かびます。


 ポロリと涙も溢れました。


 扉をそっと開けて、執事長に挨拶をしなくては、、、

「夜遅くまで、、、


見上げると旦那様でした。


「旦那様?」

「君の部屋に、月を見に来ると言っただろう?」

「、、、は、い、、、」

「準備は必要無いと言ったのに、君の部屋に入るのだからと、あれやこれや施されてしまったよ」


 旦那様の顔は格好良いです、、、。つい、見惚れてしまいました。


「中に入れてくれないの?」


 はっ!


「ど、どうぞ、どうぞ!」

扉を大きく開きました。



**********



 上目遣いで私を見る瞳に、まるでさっきまで泣いていたかの様に涙が浮かんでいた。


 その顔が何だか、幼なく可愛らしかった。

 

「中に入れてくれないの?」

声を掛けると、彼女は慌てて

「ど、どうぞ、どうぞ!」

と扉を開けた。


 彼女の使用している部屋は、私の部屋から一番遠かった。大きな窓に近寄ると、月明かりに照らされた草木が生き生きと見える。

 彼女は部屋の灯りを消して、外を眺めていたのだろう。


 窓際に果実酒が有る。

「私も頂いても良いかな?」

「は、は、は、はいぃ、、、」


 ふっ、、、そんなに、緊張しなくても、、、


 震える手で、グラスに注ごうとしている。私は彼女の手の上から支える様に手を添える。

「ひっ!、、、」

顔を真っ赤にして俯く。耳も首元も真っ赤だった。


 可愛い人だな、、、。


「済まなかった、、、」

つい、謝ってしまった。

「君には酷い事をしたと思っている」

「、、、」

果実酒の瓶を置き、彼女の為に椅子を引く。

「座って、、、?。ゆっくり話そう、、、」

「有難う御座います」 

彼女のグラスにも酒を注ぐ。

「この景色は素晴らしいね」

彼女も窓の外を眺める。

「、、、わたくしはこのままで良いと思います、、、。今まで通り、お屋敷の仕事をして、このお部屋で生活出来れば、他に何もいりません」

「仕事は楽しいですか?」

「はい、最初は何も分かりませんでしたが、執事長始め、皆様が丁寧に教えて下さりました。お屋敷の中やお庭を勝手に変えてしまって申し訳ありません」

「君の自由にして良いと言ったのは私だよ」

「有難う御座います。、、、わたくしの事は侍女の一人とでも思って頂ければと思います。旦那様はお好きな方とお好きな様になさって下さい」

「、、、」


 彼女は少し淋しそうに笑った。


 私達の関係は修復不可能なのだろうか、、、。


「君は、誰かを好きになった事が、ありますか?」


 正直、私は無かった。

 私の周りの女性は私に好意を向けてくれたが、過度の行為は私を女性から遠ざけた。


 アリアは何と言うか、、、可愛らしかった、、、。


わたくし、旦那様が好きでした」

窓の外を見たまま呟く。

「旦那様が好きで、旦那様がどんな女性が好きなのか考えて真似をしました」


 くすりと笑った。、、、可愛い。


「でも、失敗しました、、、。旦那様はわたくしに見向きもせず、一度もお屋敷に帰って来る事はありませんでした、、、」


 遠い目をしている、、、。


「だから、わたくし、旦那様を諦めました。諦めて、嫌いになるって決めたんです」


 口元をキュッと結んだ。


 私は何故、こんなに可愛らしい女性を放っておいたのか、、、。


「どうぞ、ご自由になさって下さい」

「何をしても怒らないと?」

「大丈夫です」

「本当に?」

「貴方が外に子供を作っても、、、。契約書、作成致しましょうか?」

「分かった」


 私は立ち上がり、彼女の側に行く。座る彼女に顔を寄せると、彼女は不思議そうに顔を上げた。


 キスをする。


「旦那様?、、、え?、、、」


 触れただけのキスに、彼女が戸惑っている。


「私の好きにして良いと言った、、、」

彼女の手を取り、そっと立たせる。

「、、、あの?」

「好きな人と、好きな様にして良いと言った、、、」

「はい、、、」


 また一つ、触れるだけのキス、、、。


 彼女の手を引き、彼女のベッドへ導く。

 何も分からない彼女は、私の顔を見ながら私に着いて来る。


 素直で可愛い人だ、、、。


 彼女をベッドに座らせる。


 警戒心がまるで無い。


 私は三度目のキスを瞼にした。

 唇にキスをしようと顔を傾けると、彼女は私を見ながら少し身体を引いた。

 チラリと彼女を見る。そのままキス、、、。


 彼女は、ゆっくりベッドに倒れて行った。


「だ、、、旦那様?、、、旦那様は、わたくしが好きなのですか?、、、」


「流石に私だって、好きで無ければキスしたいと思わないよ?」


 彼女の瞳から涙からあふれ、ポロポロと流れた。



 可愛い人、、、。



「愛している、、、。本当に済まなかった、、、。君と一緒に過ごしたい、、、」


 

「有難う御座います、、、わたくしも貴方の事を愛してます、、、」



 彼女は、私の首に腕を回して、しがみつく様に泣いた。



早く、元のお部屋に戻って上げて下さい。

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旦那が身勝手すぎる。
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