少年は撫で斬りを決意する。
撫で斬りと言えば伊達政宗って思うのは僕だけでしょうか。
二つの首なし死体が、血溜まりの中に転がっていた。その異様な光景を前に、祐樹は乾いた笑みを漏らした。
「ハッ、ザマァみやがれ。俺を舐めてるからこうなるんだ」
常識的に考えれば、首が折れ、頭蓋骨が砕け散れば、いかに頑健な肉体を持つ者でも即死する。油断や慢心などという生易しい話ではない。だが、祐樹の口から出た言葉は、彼自身の常識が既に崩壊していることを示していた。彼は、先ほど男たちの首を刎ねたメスを再び握りしめ、意識を集中する。すると、メスの切っ先から、再びあの禍々しい黄色の斬撃が迸った。それは、まるで熱を持ったレーザーのように、天井の硬いコンクリートを、床を、そして血塗れの死体収納袋と、その中にあったであろう内臓までもを、一瞬にして切り裂いた。大量の血と臓物が、グチャリと音を立てて飛び散る。祐樹は思わず「ッゲ」と顔を顰めたが、すぐにその光景から目を逸らし、今度は自分の手から直接斬撃を放とうと試みた。しかし、いくら手を振っても、指を突き出しても、何も起こらない。次に、彼は長身の男が持っていたナイフと、ゴリマッチョの男から奪った銃を試してみた。すると、どちらの武器からも、先ほどと同じ黄色の斬撃が放たれた。さらに、試しに足で蹴りを放つと、彼の靴の先からも、鋭い斬撃が伸びた。
(……なるほど。恐らく、この奇妙な斬撃を放つには条件がある。それは、斬撃を放つためには、何らかの“媒介”が必要だということか。だから、素手では何も起こらない。その代わりに、こんな馬鹿げた威力の斬撃が、どんな物体からも放たれる、と……)
祐樹は、自身の新たな能力の特性を冷静に分析していた。その思考は、先ほどまでの絶望に打ちひしがれていた彼とは、まるで別人のようだった。彼はふと、自身の体に目をやった。
(てか、俺、絶対さっき死んでたよな。頭蓋骨が割れる音もしたし、死ぬほど痛かった。意識も途切れた。……てことは……)
彼は、メスを自身の首筋に当て、躊躇なく、思いっきり引き裂いた。肉が裂ける鈍い感触と、生暖かい血が噴き出す感覚。祐樹の体は、ドサリと音を立てて床に倒れ込んだ。しかし、数秒もしないうちに、彼の首の傷口は、まるで早送りの映像のように急速に塞がり、肉が再構築されていく。そして、何事もなかったかのように、祐樹はむくりと起き上がった。
「……なるほど、ってなるかよ!」
彼は、自身の不死性を確認したことに、驚きと同時に、激しい怒りを覚えた。彼の脳裏には、死にたくて飛び込んだ電車の光景が蘇る。あの時、彼は全てを終わらせたかったのだ。なのに、なぜ、こんな体になってしまったのか。死にたくても死ねない。その事実に、祐樹は激しい苛立ちを覚えた。彼はコンクリートの床を地団駄を踏んで悔しがったが、やがて、その表情に不気味な笑みが浮かんだ。
(……そうか。なら、俺をこんなところに連れてきた奴らにお礼ができるじゃないか)
彼の瞳の奥に、冷たい光が宿る。それは、復讐の炎か、あるいは、もっと別の、歪んだ感情の萌芽か。祐樹は、男から奪った銃を、血で汚れたボロボロの後ろポケットにしまい込んだ。そして、ナイフとメスを両手に持ち、鉄の扉の先に続く暗闇へと、足を踏み入れた。
コツ、コツ、コツ……と、規則正しい足音が、薄暗い通路に響く。祐樹は、その足音の主が、自分を追ってくる敵であることを確信していた。彼の耳は、微かな物音さえも捉えるほどに研ぎ澄まされている。
「まったく、あの人たち、いつまで待たせるんですか。もう30分は経ってますよ」
「まあそうだな、でも流石にもう帰……」
「ちょっ、先輩?だいじょ……」
通路の角を曲がった瞬間、祐樹は二人の男の会話を耳にした。彼らは、祐樹が切り裂いたコンクリートの壁と、飛び散った血痕を見て、警戒を強めているようだった。しかし、祐樹の動きは、彼らの予測を遥かに超えていた。会話が途切れるその一瞬の隙を突き、祐樹はメスを構え、電光石火の速さで斬撃を放った。黄色の斬撃は、まるで空間を切り裂くように伸び、男たちの首を正確に捉えた。ゴボッ、と血を噴き出しながら、二つの首が床に転がり、胴体はゆっくりと崩れ落ちる。祐樹は、血溜まりをベチャベチャと踏みしめながら、無表情で歩を進めた。
「ふう、やっぱり奇襲して狩るのが一番だな」
彼は、この通路で既に何人かの敵と遭遇し、戦いを経験していた。そして、自身の能力の特性と、敵の戦い方を学習していた。彼の斬撃は中距離では絶大な威力を発揮するが、接近戦では扱いづらい。そして、ついさっきまで一般人だった祐樹が、修羅場を潜り抜けてきたであろう男たちと、素手やナイフで渡り合うのは不利だと悟った。だからこそ、彼は「奇襲」と「斬撃」を組み合わせた戦法を選んだのだ。足音が聞こえた瞬間に、その足音の主がいるであろう場所のコンクリートごと斬り裂く。この荒業は、コンクリートを豆腐のように切り裂く彼の斬撃だからこそ可能な戦法だった。この方法で、彼は多くの敵を排除してきた。
しかし、その油断が、新たな危機を招いた。通路の奥から、一発の銃弾が祐樹の頭部めがけて飛来した。彼は咄嗟に首を傾け、紙一重でそれを避ける。
「ッツ!危ねーな!」
祐樹は、銃を撃った男の方向へ向かって、再び斬撃を放った。黄色の斬撃は、男の体を縦に両断し、血飛沫が壁に飛び散る。だが、その一瞬の隙を突いて、通路の左右から、十数人の男たちが一斉に祐樹に襲いかかった。彼らは、鉄パイプやバール、そして鈍く光るナイフを手にしている。明らかに、祐樹の能力を警戒し、対策を練ってきた動きだった。
「チッ、やってくれたな……!」
祐樹は舌打ちをしながら、ナイフとメスを握りしめ、襲いかかる男たちに手当たり次第に斬りかかった。黄色の斬撃が乱舞し、男たちの肉を切り裂く。しかし、数に勝る敵は、斬撃の隙間を縫って祐樹に肉薄する。一人の男が、鉄パイプを振り上げ、祐樹の頭部めがけて叩きつけた。祐樹は咄嗟にナイフでそれを受け止める。ガキン!と金属がぶつかり合う甲高い音が響き、ナイフと鉄パイプの間から火花が散った。鉄パイプを防いだことで、祐樹の斬撃は止まる。その隙を、他の男たちが見逃すはずがなかった。次々と鉄パイプやバールが祐樹の体に襲いかかる。
(流石にまずいな……。てか、こいつら、俺のことを対策してきやがった。それに、どうやって俺がここにいるって分かったんだ?)
祐樹は、頭をよぎる疑問を振り払う。彼らが、コンクリートの壁を切り裂く斬撃を見て、何らかの特殊能力を持つ者がいると判断し、追跡や待ち伏せを仕掛けてきたことは想像に難くない。血の足跡も、彼らの追跡を容易にしただろう。しかし、今はそんなことを考えている暇はない。祐樹は大きく息を吸い込むと、腰を軸に、まるで暴風のように回転した。ナイフとメスから放たれた黄色の斬撃が、竜巻のように周囲の男たちを容赦なく切り裂いていく。肉が断ち切られる鈍い音、骨が砕ける音、そして男たちの断末魔の叫びが、地下室に木霊した。
「ッグフッ……!」
「ッギャアアア……!」
「う、腕がああああ……!」
祐樹が回転を終えた後には、地獄絵図が広がっていた。首を失った胴体、手足を失い血を噴き出す男たち、そして、血の海に横たわる無数の死体。阿鼻叫喚の光景は、生き残った男たちの戦意を完全に喪失させた。
「ッヒイ、バケモンだあいつ……!」
「に、逃げろー!」
男たちは、恐怖に顔を引き攣らせ、一目散にその場から逃げ出そうとした。しかし、その背後から、重々しい声が響いた。
「何をしている、貴様ら」
その声に、逃げようとした男たちは、まるで糸が切れたかのようにぴたりと動きを止めた。声の主は、通路の奥からゆっくりと姿を現した。身長2メートル近い巨躯に、引き締まった筋肉。その手には、黒光りするロングソードが握られている。その男こそ、白竜会の幹部、「卓」だった。
「ッで、でも、卓さん、あいつ、変な力を……」
震える声で訴える部下たちに、卓は冷たい視線を向けた。
「……なるほど。霧島さんより、あのガキの方が怖いとでも言うのか。笑わせるな」
「そ、それは……」
卓の言葉に、男たちは歯切れ悪く言葉を詰まらせる。卓は鼻で笑うと、祐樹に向き直った。
「まあ良い。あいつは俺が殺そう」
卓の言葉に、祐樹は迷わず黄色の斬撃を放った。先ほどまで、この斬撃で敵を容易く切り裂いてきた。しかし、卓は動じない。ロングソードを構え、斬撃を受け止めた。キィン!と鋼が軋むような金属音が空間を震わせ、斬撃はロングソードに弾かれた。
(な、なんだよあれ……。なんでコンクリートを豆腐みたいに切り裂ける斬撃を受け止めるんだよ)
祐樹は、驚愕に目を見開いた。自身の斬撃が、初めて通用しなかった。彼は一瞬怯み、後方に跳び退くと、再び斬撃を放とうと身構えた。だが、卓の動きは、それよりも遥かに速かった。卓は右手を炎で包み込み、その業火を纏った右手を祐樹めがけて突き出した。
「貴様が撒いた災厄、この業火で焼かれるがいい――螺炎!」
卓の口から放たれた言葉と共に、炎の渦が祐樹を飲み込んだ。灼熱の炎が彼の全身を焼き尽くし、壁に激突。轟音と共に大爆発が起こり、地下室全体が激しく揺れた。
そこには、冷たい目で爆心地を見つめる卓だけが、静かに立っていた。彼の表情には、一切の感情が読み取れない。まるで、目の前の出来事が、取るに足らない日常の一コマであるかのように。
今まで人物紹介だの自己紹介だのキャラクター紹介だの言ってましたが、人物紹介で固定しようと思います。 これからミスってたら指摘お願いします。
人物紹介④ 高野慎吾
享年 30歳
誕生日 6月18日
身長 170センチ
職業 実業家
好きなもの 堅実 家族 真面目
嫌いなもの 怠惰 不真面目 ルールを破ること
堅実なものが好きなのに職業は実業家っていう謎の人。 あとあんな人と結婚したので見る目がない可能性が高い。 マジでなんで実業家やってるの? ちなみに死因は祐樹を庇ってトラックに轢かれて亡くなった? 転生して異世界チート手に入れたかな? ちなみに元々の設定だと白竜会かどっかに殺されてた。 それが色々あってこうなった。 何があった。 天国でもしこの状況見てたら闇堕ちしてそう。 あ、でも闇落ちはしないか。 彼殺されたんだから。




