少年 絶望を知る
総力戦です。敵キャラが覚醒するのっていいですね。
コンテナヤードの戦場に、新たな二つの影が飛び込んだ。
アクトと駒だ。
アクトは、二式を使い、黄色い光を放つ剣を構え、鉄心へと斬りかかった。その一撃は、真っ直ぐで、迷いがない。
駒も、パーカーの襟元から包帯を伸ばし、巨大なボクシンググローブの形を作り、鉄心の脇腹を狙って殴りかかった。
三対一。
その圧倒的な数的優位は、鉄心を確実に追い詰めるはずだった。
だが――
「扶桑級結界」
鉄心の一言で、黒檀の杖から金色に輝く結界が展開された。アクトの剣と駒の包帯グローブは、その結界に阻まれ、鉄心に届かない。
同時に、背後から上杉の蹴りが飛んでくる。
その脚への対応も、鉄心の杖はいとも容易く受け止めた。
「ふむ。三対一か。悪くないな」
鉄心は、三人の攻撃を受け止めながらも、その表情に焦りはない。むしろ、楽しそうですらあった。
だが、その瞬間――
上杉が、唐突に駒へと身を翻した。
「邪魔だ」
その一言と共に、上杉の蹴りが駒に炸裂する。
駒は、それを正面から受け止めることはできず、吹き飛ばされた。
「駒!」
アクトが叫ぶより早く、上杉は駒を追ってコンテナヤードの奥へと消えていった。
一瞬にして、戦場は変わった。
鉄心は、アクトへ向き直った。その瞳には、新たな興味が灯っていた。
「では、仕切り直しだ。お前と、この老人。一対一。悪くないな」
アクトは、改めて剣を構えた。三対一から一対一へ。絶望的な状況への転換だ。
だが、アクトは臆さない。
「来い。決着つけてやる」
アクトが構えたその瞬間、鉄心は動かなかった。
代わりに、彼は目を瞑った。
「ん?」
アクトが首を傾げたのも束の間、鉄心の口から呟きが漏れた。
「そうか。阿形は死んだか。それではボンリスも、もうすぐ来るな」
鉄心は、目を開けた。その視線は、遠く、アクトが殺した卓の場所、そしてビルへと向けられている。
まるで、何かを「見通している」かのように。
そして、鉄心は、死にかけの吽形に近づいた。吽形の巨体は、もはや動く気配がない。
鉄心は、吽形に手を触れた。
そして、懐から一枚の妖紙を取り出した。
「見せてやろう。魔術の一つ」
妖紙に妖力を循環させる。
その瞬間――
「まずい!」
アクトは直感した。何か、極めて危険なことが起ころうとしている。
彼は、剣で三式を使い、黄色い斬撃を鉄心へと飛ばした。
シュオオオッ!
黄色い光が、空間を切り裂き、鉄心に迫る。
だが、遅かった。
吽形の体が、光の粒子へと変異した。
その粒子は、まるで生きているかのように、鉄心の周りを舞い、彼の体を包み込んでいく。
「何だ……?」
アクトは、呆然と立ち尽くした。
吽形の粒子が完全に鉄心を包み込んだとき、彼の姿は劇的に変わった。
左手には、吽形を模した籠手が装備された。その籠手は、黒く光沢のある、鋭い爪を持つ甲冑だ。
服装も変わっていた。黒い紋付羽織だけだったそれから、全身を包む黒い鎧へと変貌していた。その鎧は、吽形の鱗をそのまま身に纏ったかのような質感を持っていた。
その背中には、式神の二本の角のような突起が生えている。
鉄心は、生まれ変わったように見えた。
まるで、人間ではない何かへと。
「ほう。どうだ。気に入ったか?」
アクトの三式を籠手で弾きながら問いかけた鉄心の声は、深く、重くなっていた。吽形の力を取り込むことで、彼の力はさらに増幅されたのだ。
「……何をした」
アクトが問う。その声は、わずかに震えていた。
「吽形の肉体を、この老人に融合させただけだ。召命一体と言われてるな。まあ安心しろ。玄武みたいな化け物のような性能はない。」
鉄心は、左手の籠手を握りしめた。その動きは、まるで新しい武器を試すかのようだ。
「では、改めて。この老人と、お前の戦いといこうか」
鉄心は、その新しい肉体で、アクトへと突進した。
杖を高く構え、その全力の一撃がアクトへと迫る。
アクトは、剣を立てて防ごうとした。
だが――
ガキィッ!
その音は、金属が砕ける音だった。
アクトの剣が、鉄心の杖の一撃で、根元から折れたのだ。
「あ……っ!」
アクトは、その光景を、ガスマスクの中で目を見開いて見つめた。
(なんだと....。自身の剣は、妖力を循環させて二式で強度も上がってるはずなのに……?)
その思考も、鉄心の次の一撃によって打ち砕かれた。
吽形を模した籠手が、アクトへと迫る。
アクトは、咄嗟に身を翻して避けようとしたが、その速度についていけない。
ドゴォン!!
籠手がアクトの体に着弾し、彼の全身を吹き飛ばした。
コンテナが、その衝撃で大きく陥没し、アクトは瓦礫の中に埋もれた。
「ぐ……っ」
アクトが瓦礫の中から身を起こす。骨が何本か折れている。だが、不死者の再生能力が、その損傷を急速に修復していく。
だが、その一瞬の隙に、鉄心が再び迫ってきた。
その圧倒的なパワーは、アクトの想像を超えていた。
(まずい。このままじゃ……駒とボンリスが来ても、倒すのは無理なんじゃないか?)
アクトはそう思いながらも、近くに落ちていた卓の大剣を握った。
その巨剣は、重い。だが、別に扱えないことはない。
彼は、その大剣を握りしめ、鉄心へと向き直った。
本当の力を出した鉄心。その前で、戦いは続く。
一方、駒と上杉の戦場は、別の緊張に満ちていた。
駒は、パーカーの襟元から四本の包帯を伸ばし、それぞれをボクシンググローブの形に変形させた。
「ん!」
その四つのグローブを、同時に上杉へと放った。
だが、上杉の反応は素早かった。
彼は、その全てのグローブを、まるで雨粒を避けるかのように易々と躱した。
その速度は、異常だった。
駒は、魔力と妖力の両方を持つハイブリッドな存在だ。だが、それでさえも、あの速度には追いつけない。
(なんであんなスピードが出るんだろう。私も妖力と魔力の二つがあるのに、あんな速度は出ない.....不思議。)
駒が思考している間にも、上杉は動いていた。
彼の拳が、駒の顔面へと迫る。
駒は咄嗟に包帯を盾のような形に変形させ、その拳を防いだ。
だが、その衝撃は、駒の体全体を揺さぶった。
上杉は、駒から少し距離を取ると、妖紙を握った。
その瞬間に、木でできた毒針、毒害針が、無数に駒へと飛来した。
駒は、それらを避けるべく、身を翻した。
だが、上杉は既に、駒の背後に回り込んでいた。
「ん!」
上杉の蹴りが、駒の背中を狙う。
だが駒は、背後から伸ばした包帯を盾のような形に変形させ、その蹴りと毒針を同時に防いだ。
(めんどくさい。でも早く倒さないと……)
駒は、再び四本の包帯をグローブの形にし、全力で上杉へと迫った。
彼の強みは、圧倒的なスピードと、その毒の妖術。だが、駒の魔力と妖力を纏った包帯は、その毒を貫くことができない。
少なくとも、今のところは。
駒は、上杉の蹴りを避けながら、彼へと肉薄した。
その四つのグローブが、同時に上杉へと叩き込まれる。
だが、上杉は、その全てを避けた。
(速度じゃ負けちゃう。じゃあ、違うところで勝たないと...)
駒は、そう決意し、再び上杉へと攻撃を仕掛けるのであった。
妖術解説 召命一体
要するに式神と式神の召喚者が合体するもの。楽しいね。
その際に変わるのは、武器や服装、後人間のスペックも変わる。
条件は式神との仲が良くないとダメ、ってことは鉄心と吽形って.....
ちなみに複数の式神と合体する多重獣一体化ってのもある。 複数の式神と合体する分強くなる代わりに体の負担が大きいらしい。 がんばれ。




