暗殺者 最終兵器を使う
結局最終兵器はあったんだね。
ビルの内部は、真っ暗だった。
ボンリスは、崩れた床の隙間に身を隠し、荒い息を整えていた。彼の魔力は、既に限界に近い。
(くそ……魔力の枯渇が早い。こんなペースで戦っていたら、すぐに魔力がなくなる。)
ボンリスは、自身の掌を見つめた。かすかに光る、青白い光。それが彼の魔力を象徴していた。
一般的な魔術師と比べれば、ボンリスの魔力量は圧倒的に少ない。わずか数回の魔術を使用すれば、その魔力は底をついてしまう。だからこそ、彼は銃や爆弾といった、純粋な物理的な武器を頼りにしてきた。
それは、彼の弱点であり、同時に彼の強みでもあった。
ボンリスは、愛銃のトーラス PT92を握りしめた。その銃身には、無数の傷跡が刻まれている。何百、何千という戦闘を潜り抜けた、その証拠だ。
(策を変えるしかない。やはりあれを使うしかないか。.....じゃあ行くか。)
ボンリスは、ビルの奥へと身を隠す場所を探した。彼の脳裏には、既に完璧な作戦が構築されていた。
その瞬間だった。
ドゴォォォンッ!!
ビルの床が、コンクリートと鉄筋ごと爆発的に破壊された。
阿形だ。
黒い鱗に覆われた巨体は、ビルの構造など無視して、ボンリスを追跡していた。その牙から噴き出す高圧水流は、ビルの内壁を容易く切り裂き、支柱をも破壊していく。
「チッ!」
ボンリスは舌打ちをしながら、阿形に向かって銃を発砲した。
ダダダダダダッ!!
銃弾は、阿形の鱗に当たるが、跳ね返される。妖力で強化された体を、単純な銃弾で貫くことは難しい。
ボンリスは、その事実をよく知っていた。
阿形は、ボンリスを追い詰めるべく、その巨大な口を開き、ウォータージェットを放った。
シャアアアアッ!
水圧は、ビルの壁を削り、床を抉り、あらゆるものを破壊していく。
ボンリスは、それを避けながら、絶えず移動し続けた。彼の視線は、常に「逃げ道」を探っていた。
(この調子だと、あと三十秒で俺はあそこに追い詰められる。……ちょうどいい)
ボンリスは、意図的に逃げの軌跡を調整した。
階段を使わず、壁を蹴り、上へ。そして、ビルの最上階近くへと向かう。
阿形は、ボンリスの後を追う。その巨体では、建物の階段など無視して、直線的に壁を破壊して進んでいく。
やがて、ボンリスは追い詰められた。
ビルの最上階。その一室の奥の壁際に、ボンリスの背中が押し当てられた。
前には、阿形。その口からは、致命的な水圧が準備されている。
その目は、獲物を仕留める直前の、その瞬間を楽しむかのようであり、ゆっくりと近づいてきた。
だがボンリスの表情には、恐怖はない。
その唇の端には、わずかな笑みさえ浮かんでいた。
「さあ、終わりの始まりだ」
ボンリスは、ポケットから小さなスイッチを取り出した。
その指が、それを押した。
ドオオオオォォォン!!!!
ビルの壁のあちこちに、C4爆弾が仕掛けられていた。ボンリスは、阿形を追い詰められているふりをしながら、実は自分に有利な戦場を作っていたのだ。
爆発の炎は、室内全体を焼き尽くし、コンクリートと鉄筋を粉々に砕く。
阿形は、その爆発の中心から吹き飛ばされた。
ボンリスは、予め用意していた爆風シェルターの中に身を隠していた。彼の体には、爆発によるダメージは最小限だ。
「gyaa……」
阿形は、爆発から身を起こした。その黒い鱗は、一部が焦げ、爆発の熱で変色している。だが、致命傷ではない。妖力で強化された体は、その程度のダメージでは倒れない。
「gauryaaaaaåaaaaǎa!!」
阿形は、爆煙の中から、再びボンリスを狙おうとした。
だが、ボンリスは既に、次の手を打っていた。
爆煙の中から、一本の銃身が突き出た。
それは、AW50という対物ライフル。狙撃兵の中でも最高峰の、その銃だ。
ボンリスは、銃の照準をアジャストした。アイアンサイト越しに、阿形の頭部を狙う。
ごく短い間隔で、脳髄を撃ち抜く一撃のための準備。
だが、ボンリスは知っていた。
通常の銃弾では、妖力で強化された鱗を貫くことはできない。人間の手から離れた銃弾には、強化の効果が続かないからだ。
それが、銃が妖術師や魔術師との戦いで不向きとされる理由だ。
しかし――
「くたばれ」
ボンリスは、引き金を引いた。
ズドォンッ!!
対物ライフルの銃声は、ビルの中を吹き抜けた。
その銃弾は、通常のそれではなかった。
銃弾の中には、ボンリス自身の体細胞の一部が埋め込まれていた。古来から日本で使われていた伝統的な技術。
その名は――『セルフマージ・バレット』。
自身の肉体の一部を銃弾と火薬の素材の一部に融合させることで、銃弾が身体を離れた後でも、一時的に魔力の強化を保つことができるという、極めて危険で革新的な兵器だ。
その銃弾は、阿形の鱗に着弾した。
ザクッ!
黒い鱗が、その対物ライフルの弾に穿たれた。
「gyaaa……!」
阿形は、悲鳴を上げた。銃弾は、彼の頭部を貫き、その脳を撃ち抜いていた。
阿形の巨体が、ゆっくりと崩れ落ちた。
その体は、光の粒子に包まれ、まるで砂時計の砂が落ちるように、下へ下へと消えていく。
鉄心の式神。その一体が、ここで消滅した。
ボンリスは、対物ライフルを下ろし、ふうっと深く息を吐いた。
(セルフマージ・バレットの効果は確認された。だが、使用するたびに俺の肉体が削られる。これは、本当の最終手段だ)
彼の顔には、若干の蒼白さが見えた。自分の体細胞を銃弾に使用することは、それなりのリスクを伴うのだ。
だが、それで阿形を倒せたのであれば、その代償は安いものだ。
ボンリスは、爆弾と、使い終わった対物ライフルを放り捨てた。
これ以上、重い武器は不要だ。
彼の目標は、ただ一つ。
鬼龍院鉄心を殺すこと。
ボンリスは、ビルから飛び出し、コンテナヤードの中心へと向かった。
彼の視界には、上杉と鉄心が、なお激しく打ち合っている光景が映っていた。
そして、その場に、アクトも到達しようとしていた。
ボンリスは、愛銃を握りしめ、戦場へと駆け込むのであった。
最終局面は、今、幕を開けようとしていた。
武器(?)紹介 セルフマージ・バレット
日本では古来から弓矢でばっか妖怪とかを殺しているタネ。使用者の肉体の一部を矢や火薬、銃弾の材料にして作った物。その威力はすごくて普通に矢を放っても貫通したり銃で妖術師などを簡単に撃ち殺したりできる。代償は一回使う分命が少し削れること。なので使いすぎると普通に消滅する。まあアメリカではそれを克服する方法を見つけたんだとか、、、 ちなみに不死者では使えないらしい。まあ元々この技術が神のものなので。元々は肉弾など肉矢などと日本では呼ばれてたけど、海外にバレた際に名前を変更された。曰く、名前がいろいろアウトらしい。 なんでだろ?




