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不死となった少年は抗う為に剣を握る  作者: マジュルーム
復讐を目指す少年と全てに絶望した少女
33/38

やっぱりアクシデントってあるんだなって、3人は思いました。

Qなんで投稿遅れたの?


Aシンプルにボンリスが立てた作戦内容を考えてなかったかだね⭐︎

名古屋市の中心から外れた、白竜会の隠れ家の一室。鬼龍院鉄心は、座敷の座椅子に深く腰掛け、目の前の通信機から出力された暗号化されたメッセージの断片をじっと見つめていた。


メッセージは、アクトとボンリスが過去に使っていたと思しき、簡易な暗号パターンで送られたものを、白竜会の諜報機関が見つけたものだ。内容を解読したのは、鉄心の傍らに控える一人の男。


男は、全身を分厚い麻のロープのような布で幾重にも巻かれ、その容姿は完全に隠されていた。彼の手には、並の人間が両手で持つのがやっとというほどの巨大な剣が握られている。


「鉄心様、解読が完了しました」


男の声は低く、感情がない。


「『禁術指定妖術器を、明日午前三時、名古屋港コンテナヤードの西側ジャンクションに移送する。護衛はアクトと駒。再戦に応じるための準備をする』――とのことです」


その報告を聞いた鉄心の側近たちは、ざわめいた。


「鉄心様、これは……!絶好の機会です!奴らを一網打尽にできますぞ!」


「奴らもついに焦り始めたか」


しかし、鉄心は黙って、自身の黒檀の杖の頭を指で叩き続けていた。彼の冷たい瞳は、情報そのものではなく、その「背景」を深く見透かそうとしていた。


「……ボンリスが、このような稚拙な暗号を使うか?」


鉄心の声には、老獪な侮蔑の色が滲んでいた。


「あの男の用意周到さ、情報戦への執着は、わしもよく知っている。わしらの通信が常に盗聴され、傍受されている可能性など、百も承知のはずだ。それを、すぐに解読できる程度の暗号で、『禁術指定妖術器の移送』などという、奴らの勝機を左右する極秘情報を流すか?」


側近たちは沈黙した。確かに、あまりにも不用心だ。


「恐らくは、囮でしょう。鉄心様。我々に『これは罠だ』と思わせるための、稚拙なブラフかと」


鉄心は小さく笑った。


「そうだな。お前の言う通りかもしれん。だが、その裏の裏をかくのが、あのボンリスという男だ。もし、この通信がブラフだと思わせて、わしらに動くなと油断させた隙に、奴らが本当にその妖術器を手に取るつもりだとしたら……。だが、そこに本当にアクトと駒、そしてボンリスらが待ち受けているとしたら?」


鉄心は、再び傍らのロープの男に目を向けた。


「お前ならどうする?」


ロープの男は、巨大な剣を地面に突き立て、わずかに顔を上げた。ロープの隙間から、その瞳に宿る、深い憎悪の光が垣間見えた。


「鉄心様。俺は、それが真実か偽りかなど、どうでもいい」


男の声は静かだが、その裏に隠された暴力性は、部屋の空気を圧迫した。


「俺は、あの日から、あの男――祐樹をこの手で仕留めることだけを望んできた。奴があそこにいる可能性がある。その一点をもって、俺は行く」


祐樹との過去の因縁が、老獪な策士の理性を揺さぶる。


鉄心は、フッと冷笑した。


「そうか、あの小童どもを討つ好機と、お前の個人的な復讐。どちらも、わしにとっては愉快な賭けだ」


鉄心は杖を手に取り、立ち上がった。その巨躯から発せられる圧倒的な妖力は、側近たちを一瞬にして畏怖させた。


「では、決まりだな。『作戦』を皆に伝えろ。準備を整え、名古屋港コンテナヤードへ向かうぞ!」



午前三時。名古屋港コンテナヤード西側ジャンクション。


無数のコンテナが積み上げられ、巨大な迷路を形成しているこの場所は、深夜の静寂に包まれていた。潮風の匂いと、ディーゼルエンジンの微かなオイル臭が漂う。


白竜会の屈強な組員たちが、鉄心を護衛し、コンテナの陰に身を潜める。全員が自動小銃を構え、いざという時に備えていた。


鬼龍院鉄心は、静かに周囲を見渡した。


「静かすぎるな」


鉄心は、杖を地面にゆっくりと降ろした。


「どうやら、わしの読み通り、ボンリスの稚拙なブラフだったようだ。……無駄な時間を」


鉄心がそう呟いた、その刹那だった。


ゴオオオオオッ!!


コンテナの最上段から、いくつもの圧縮された水塊と、炎の球を伴う妖術が、白竜会の集団目掛けて一斉に降り注いだ。


鉄心は瞬時に反応し、二枚の小さな紙を取り出した。


金鯱双魔(きんこそうま)・阿形/吽形」


ドッゴオオォォォン!!


一瞬にして出現した吽形の巨体から、金色に輝く結界が一瞬にしてドーム状に広がり、降り注いだ妖術の全てを正面から受け止めた。結界は衝撃に耐えたが、激しい振動が鉄心たちの足元を揺らした。


「やはり罠だったか!だが、待ち伏せていたのは『妖術科』か!」


鉄心が銃撃の指示を出すよりも早く、白いコンテナ群の陰から、数十人の影が一斉に躍り出た。彼らは皆、白と赤をベースとした、軍服のような独特なユニフォームに身を包んでいた。背中には日本の国章が小さく縫い付けられている。


「全隊、射撃準備!……待て」


妖術科の集団の中から、一人の男が進み出た。


その男は、一糸乱れぬ七三分けの髪型に、銀色の独特なデザインの腕時計を着用している。軍服の襟を正し、冷徹な視線を鉄心に向ける。


「鬼龍院鉄心。何故貴様らが、この重要国際港湾地区に、深夜に大規模武装で集結している?」


男の言葉は、まるで感情のない法典の朗読のようだった。


鉄心は、男をじっと見つめた。その顔には、過去を思い出したかのような、愉快な表情が浮かんだ。


「……ああ、上杉か。そうかそうか、久しぶりではないか」


鉄心は口の端を吊り上げた。


「お前は確か、20年以上前に、わしを殺そうとしたあの時の青二才。今度は本当に殺されに来たのか、妖術科の犬よ」


鉄心から放たれた殺気の波は、凄まじい熱量を伴って上杉に迫ったが、上杉は表情一つ変えない。


「我々は犬ではない。日本国の妖術統制を担う公務執行者だ。貴様ら違法武装集団は、我々の調査対象である。直ちに武装を解除し、当局の指示に従え。さもなくば、『妖術取締法第十九条に基づき、現行犯逮捕または排除を許可する』」


「排除、だと?」

鉄心は心底面白そうに笑った。

「お前も随分と偉くなったものだ。だが、その言葉、わしに届くと思ったか?老いぼれを舐めるな」


ダダダダダダダダッ!!


鉄心の号令を待たず、白竜会の組員たちが一斉に銃撃を開始した。対する妖術科も、銃弾を妖術の盾で弾きながら、土や炎、木など、複数の属性の妖術を乱れ打ちする。


「銃を捨てろ!能力強化で対抗しろ!」


鉄心の一声で、白竜会組員たちは瞬時に判断した。銃弾は妖術科の防御には不十分だ。彼らは銃を放り捨て、全身に妖力を循環させ、身体能力を飛躍的に強化し、妖術科部隊と真正面から激突する。


グシャッ!ドゴォン!


妖術の光と、肉体同士がぶつかり合う鈍い音が、コンテナヤード全体に響き渡る。


この大規模な乱戦が始まった瞬間、鬼龍院鉄心の周りには、護衛の組員が誰もいなくなった。彼らは皆、ボンリスの作戦通り、目の前の妖術科との交戦に意識を奪われたのだ。


残るは鉄心本体、そしてその傍らに立つ、ロープに巻かれた護衛の男と2体の式神のみ。


「……フフフ。ボンリスめ、本当にやりおったか」


鉄心は、冷静に状況を分析し、警戒レベルを上げた。真の敵は、この混乱に乗じて本体を叩きに来ることを知っている。



グオオオオォン!!


鉄心が上空の気配に気付いた瞬間、頭上のクレーンから、薄く黄色く光る残光が、凄まじい速度で地面目掛けて降下してきた。


アクトだ。


彼はコンテナの壁を蹴り、一式を発動させ、着地と同時に剣を媒介に速度を最高潮まで引き上げた。目標は、鉄心を孤立させたいからということで阿形。


シュッ!!


斬撃は、阿形を正確に捉えていた。


ガキィィィィィン!!


しかし、その音速の斬撃は、阿形に届く直前で、巨大な剣によって弾かれた。


ロープの男だ。


男は、巨大な剣を片手で軽々と持ち上げ、アクトの斬撃を受け止めた。その防御は、アクトの速度と威力を完全に殺しきっていた。


「遅いぞ、ガキ。」


男は、剣を弾く勢いを利用し、アクトの剣を叩きつけるように押し返し、その巨大な体躯からは想像もつかないほどの敏捷さで、アクトに肉薄した。


アクトは咄嗟に防御態勢を取る。その巨剣の攻撃は、阿形の尾の一撃にも匹敵する威力を秘めていた。


ドッ!ガキン!ザッ!


両者はコンテナの壁や、積み上げられた瓦礫を足場に、凄まじい速度で打ち合った。アクトの剣は細く、鋭い速度の剣。男の剣は、重く、防御を兼ねた力強い剣。


数合打ち合った後、両者は再び距離を取り、地面に着地した。


アクトは、戦闘服の袖口から流れ出る血を拭きながら、目の前の異様な男を睨みつけた。


「テメェ……誰だ」


卓は、巨大な剣を肩に担ぎ、全身を覆うロープの隙間から、アクトを見下ろすように笑った。


「フン。忘れたのか。では、いい」


男は、空いている手から妖紙を三枚引き抜いた。


「この術も忘れたか?」


男は、妖紙に妖力を循環させる。彼の全身のロープが、まるで血管のように赤く脈動した。


「螺炎!!」


圧縮された炎の塊が、螺旋状に回転しながらアクト目掛けて射出された。


「なにっ!?」


アクトは、まさかこの男がその妖術を使うとは予期せず、咄嗟に横に跳んでそれを避ける。炎の塊は、アクトが立っていたコンテナを溶かし、爆発音を響かせた。


アクトは剣を媒介に一式を使い、今度は避けるのではなく、その剣で炎を切り裂き、男に切りかかる。


キン!


しかし、その斬撃も、男の巨剣によって完璧に防がれた。


「フン。名古屋支部の頃から、戦い方が変わっていないじゃないか」


その言葉に、アクトの思考が一瞬、停止した。名古屋支部。螺炎。そして、この強烈な憎悪を滲ませた視線。


「まさか……」アクトの口から、掠れた声が漏れた。


男は、全身のロープを力強く引き裂いた。破れたロープの向こう側から現れたその顔は、以前アクトと顔を合わせた時の、顔だった。


「そのまさかだ!俺はお前に土砂の山に生き埋めにされた、鍋島卓だ!!」


卓は、鬼人の護衛ではなく、鉄心の側に控える因縁の復讐者として、その巨大な剣を構え、アクト目掛けて猛然と切り掛かるのであった。

人物紹介 鍋島卓

久々の登場。忘れてたかな、みんな。祐樹に前回舐めプして生き埋めになったところまでは書いた気がするけど、その後になんやかんやで脱出。脱出した後は自分の力が足りないと思って修行をしてさらに強くなった模様。 ただ妖術を使う時に技を言ってしまう弱点は健在。 魔術じゃないんだから叫ばなくてもいいのに...。

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