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不死となった少年は抗う為に剣を握る  作者: マジュルーム
復讐を目指す少年と全てに絶望した少女
31/38

少年少女 撤退せよ。

撤退戦は敗北じゃないですから。

ダンケルクスピリットの精神で頑張りましょう。

鬼龍院鉄心の冷徹な号令と共に、夜の静寂が引き裂かれた。


ダダダダダダダダッ!!


四方を囲むビルの窓から、数百発もの銃弾が、文字通りの「弾幕」となって、アクトと駒が立っている一点目掛けて降り注いだ。


「ちくしょう、多すぎんだろ!」


アクトは即座に反応した。



全身を覆う軍服のような服を媒介に、二式を発動させる。薄く黄色く輝いているそれは、まるで鋼鉄でできているかのように見えた。


キン!キンキンキンッ!


アクトの二式に当たった銃弾は、その都度、鋭い金属音を立てて弾け飛び、アスファルトを削っていく。彼は両腕を交差させ、最も弾幕が集中する上半身への攻撃を防ぎながら、脳内で現状を分析する。


(一式での回避は間に合わねえ!二式で耐久、だがこの量はいつまでも持たない!)


隣では、駒がさらに本能的な動きを見せた。


「ン!」


彼女のパーカーの襟元から伸びていた2本の包帯が、瞬く間に彼女の体を覆い、巨大な「マユ」のような塊を形成した。アクトの装甲が銃弾を弾く硬い音とは対照的に、駒の繭は銃弾を包帯でクッションにして防ぐような、鈍く分厚い衝撃音を立てていた。


「よし、駒も無事だ!」


アクトは、弾幕が途切れた一瞬を見逃さず、右手から黒い剣を引き抜いた。



剣を媒介に一式を使い、刀身の表面を薄い光の刃が走る。狙いは、ビルの窓に陣取る銃撃手たち。


(奴らを先に潰す!まずは正面だ!)


アクトが剣を振り上げ、目にも止まらぬ速度の斬撃を放とうとした、その時だった。



「させんぞ、小童(こわっぱ)


鬼龍院鉄心の低い声が響く。


退路を断つ形で背後のビルに着地していた二匹のしゃちのうち、攻撃型である「阿形(あぎょう)」が一瞬にしてアクトの目の前に躍り出た。その巨体からは想像できないほどの速度だ。


阿形は、巨大な口を大きく開け、その黒鉄の牙がアクト目掛けて食らいついてきた。


「速っ!」


アクトは銃撃手を切り払うことを諦め、咄嗟に剣を垂直に立て、再び二式を発動させ牙を受け止めた。


ガキィィィィィン!!


硬質な牙が剣に深く食い込み、凄まじい火花が散る。


(硬すぎる!?式神にしろ元々は動物なはずだ。でも何でこんなに!?)


剣は阿形の顎に挟まれ、身動きが取れない。 その隙を、阿形は逃さない。しなやかな巨体が半回転し、その尾がアクトの腹部に叩きつけられた。


ドゴォン!!


二式の防御が施されていたにもかかわらず、アクトの体はまるでラグビーボールのように吹き飛ばされ、そのままビルの壁を突き破り、闇の中に消えていった。


「ンン!!」


駒の繭を形成してたうちの包帯の一本が飛び出した。狙いは、アクトの剣を咥えたままの阿形の横顔。


バキィッ!


包帯の拳は、凄まじい衝撃波を伴って阿形に迫ったが、その前に、もう一体の防御型である「吽形(うんぎょう)」が素早く前に立ち塞がった。


『妙高級結界』


吽形の体から、金色に輝く薄膜状の結界が展開され、駒の攻撃を正面から受け止めた。


ドッゴオオオォン!!


結界は、駒の渾身の一撃を吸収したが、その表面にはわずかなヒビが走っていた。


(……結界が耐えた。でも、押し切れないことはない!)


駒の包帯は、魔力と妖力によるハイブリッド強化を受けているため、その破壊力は並大抵ではない。


駒は阿形への攻撃を諦め、グローブを引っ込めると、即座にもう一つのグローブを形成し、結界目掛けて容赦のないラッシュを叩き込み始めた。


ドコ!ドコ!ドコドコドコッ!!


そんな光景を見てた阿形は、剣を吐き捨て、駒への攻撃に加わろうとするが、その前に、爆音と共にアクトが瓦礫の中から舞い戻ってきた。


「テメェに横槍を入れる暇はねえよ!」


アクトは宙を舞いながら、三枚の妖紙に妖力を循環させた。螺炎を三発出した。



三発の圧縮された炎の塊が、螺旋状に回転しながら阿形目掛けて射出された。


阿形は、それを口から噴射した超高圧の水流で全て撃ち落とし、その隙に地面に着地したアクトが、剣を拾い上げて繰り出した目にも止まらぬ一式斬撃を、紙一重で避けた。



二体の鯱と二人の不死者が、夜の街を舞台に激しくぶつかり合う。ビルとビルの間を高速で移動するアクト。結界と剛拳が激突する駒。


その様子を、鬼龍院鉄心は微動だにせず見つめていた。


「ふむ……よく耐える。あの二匹と正面から戦えるとは、流石は『不死者』か。いや、致命傷を負っても即座に再生する。これでは勝敗など付くものか」


鉄心は、まるで品定めをするかのように呟いた。その言葉は、アクトの耳にも届いていた。


(勝敗がつかない?……チクショウ、その通りだ!)


アクトの頭脳が、冷静にこの状況を分析した。


(鯱は再生こそしねえが、鉄心の妖力で動く式神だ。体力に限界はねえ。しかも、一体が防御、一体が攻撃。相性が最悪だ)


真の敵は、鬼龍院鉄心。


(ここで時間を食えば、どうなる?鉄心クラスの幹部が、増援として次々来るかもしれねえ。そうなったら、俺たちに勝ち目なんてない!)


アクトは瞬時に判断した。この戦いは「殲滅戦」ではなく「離脱戦」だ。


アクトは、阿形との打ち合いを避け、炎壁の妖術を発動させ、炎の壁を作り出した。



炎の壁は、二匹の鯱と鉄心に対する目眩ましだ。


炎の向こう側で、アクトは駒に声をかけた。


「駒!聞け!この戦いは罠だ!奴らは時間を稼いでる!ここで勝負しても意味がねえ!逃げるぞ!」


駒は、そんなアクトをじっと見つめ、一瞬の沈黙の後、大きく頷いた。


二人は即座に連携行動に移った。



アクトは炎壁を利用し、ビル群の陰へと飛び移った。


彼の行く手を阻むように、阿形が猛烈なスピードで追尾してきた。やはり2体の鯱の中でも攻撃に特化した「阿形」が、アクトの担当になったようだ。


「チッ、しつこいぜ!」


アクトは、戦闘服の手袋を媒介に一式を発動。手から発せられる黄色いかぎ爪。それをビルの壁に突き立てながら、スパイダーマンのようにビルとビルの間を高速で駆け巡る。


(突撃を避けろ!あれの体躯を正面から受けたら、二式でも持たねえ!)


阿形は、口から断続的に高圧水流を噴射し、アクトの逃走経路を断とうとする。


シャアアアッ!


アクトは水流を紙一重で避けながら、体勢を崩さずに逃走を続けた。彼の狙いは、鉄心から最も遠い地点に駒を誘導することだ。


一方、駒は、その場に残って防御型の「吽形」と対峙していた。


吽形の全身から発せられる結界は、分厚く、破壊が困難だ。


ドスン!ドスン!


駒は、二つの包帯グローブで結界を殴りつけ続ける。彼女の攻撃は純粋なパワーであり、防御に特化した吽形にとっては、アクトのトリッキーな攻撃よりも、むしろ対処しやすい相手だった。


吽形は結界を揺らしながらも耐え、時折、結界の隙間から巨大な牙を覗かせ、駒に噛み付こうと威嚇する。


「ン!」


駒は、噛み付きを素早くバックステップで避け、再び防御の硬い結界に渾身の一撃を叩き込む。


(このままじゃ、本当に埒が開かない。本当に逃げないと、私も祐樹も危ないかも……!)



そんな頃、アクトは阿形を誘導しながら、ビル群を縦横無尽に駆け巡っていたが、突如、急転換した。


ズオオオオオッ!!


鉤爪を強引に引き剥がし、ビルを蹴って空中で体勢を整えると、一式を足の裏を媒介にし発動させ、黄色い靴底が伸びる勢いを利用して直線に跳んでいった。その速度は、阿形が追いつくことすら許さない、「音速」の領域だった。


アクトが目指すのは、鬼龍院鉄心、その一点!



阿形が水流を噴射し、猛追する。


しかし、アクトは鉄心の目の前に肉薄した。


シュッ!!


剣閃は、鉄心の心臓を正確に狙っていた。


ゴッ!!


鉄心は、まるで予期していたかのように、手元の黒檀の杖を軽く横に振り、アクトの全力の斬撃を難なく受け止めた。


「……速いだけでは、儂を覆せんぞ」


鉄心の杖の先端から、鋭い針が一瞬生えた。アクトはそのカウンターを剣で受け止め、両者の剣と杖が火花を散らして打ち合う。


(避けられねえ!この杖、ただの木じゃねえ!)


アクトが鉄心と打ち合っているその瞬間、遅れて追いついた阿形が、アクトを背後から丸呑みにしようと、巨大な顎を開いた。


「終わりだ、アクト!」


その時、遠くから、圧倒的な轟音が響いた。


ドオォォォォン!!


吽形と対峙していた駒のから、今まで抑え込まれていた三本目、四本目の包帯が、まるで命を得たかのようにパーカーの裾から噴出した。


包帯は、元々あった二本のグローブとも絡み合い、今までよりも遥かに巨大で、硬質化した一つの巨拳を形成した。


吽形が、アクトと阿形の方に意識を向けた一瞬の隙。


「ンッ!!」


駒は、全細胞の魔力と妖力を拳に注ぎ込み、横槍として阿形目掛けて放った。


ドゴオォォォォオォン!!!


阿形は、まさか背後から、しかも吽形が守っていない場所から攻撃が来るとは予想だにせず、回避できなかった。鉄の巨体は、まるでボールのように殴り飛ばされ、凄まじい轟音と共に遠くのビルに激突し、爆発音を響かせた。


『木林森誕』


その瞬間、アクトは鉄心との打ち合いを放棄し、木妖術を発動させた。


鉄心の足元から、瞬く間に無数の木の根と蔓が噴き出し、周囲一帯が森林のような様相を呈した。


「チッ、また妖術か!」


鉄心が妖紙を構え、『万象裁断』を発動。杖から放たれた金色の波紋が、周囲の木々や蔓を瞬時に細切れにする。


鉄心が視界を確保した時、そこにアクトと駒の姿はなかった。


彼らを囲んでいたはずの結界は、駒が阿形を殴り飛ばした際の余波、そしてアクトが木妖術で作り出した混乱の隙に、すでに破られていた。


「……逃げたか」


鉄心は、手に持った杖をゆっくりと下ろし、夜空を見上げた。


「阿形をあの一撃で吹き飛ばすとは……あの小娘、どれだけの量の妖力を持ってるのだ?」


鉄心は、老いた己の身体をさすりながら、静かに息を吐いた。


「ふむ……わしにも老いというものはある。ゆえに、こうして無駄な時間を過ごしてしまった」


彼は、一瞬の失態を認めながらも、その瞳に宿る光は全く衰えていなかった。


「だが、だからと言って、わしが貴様ら若輩者に負けることはない。……遊ぶには、最高の獲物だ」


鉄心は、破壊されたビルの残骸の上に、ゆっくりと立ち尽くしていた。彼の静かな怒りが、夜の名古屋の空気を、凍りつかせていた。

式神紹介 阿形吽形

鉄心の式神。式神ってなんぞやって思った人はいつの日か金妖術の紹介欄で書いた気がするから探して読みましょう。

で、この子達の生まれは、実は妖術とか魔術って、今は対策されてるから出ないけど、使うと妖力た魔力の残滓、言い換えれば車使って出る排気ガスみたいなのが出てきて、それが原因で昔は妖怪や魔物という存在があったんだ。まあでも殺せないほど強い化け物はいなかったし、この頃も別に残滓を出さないようにする技術は存在したけど、それを妖紙の術式に入れたり魔術の詠唱に加えると威力が半減くらいするからつける意味なくないってなってたけど、WW2の時に大量の魔術師、妖術師が戦いまくった結果、とんでもない量の魔力と妖術の残滓が出てきて、とんでもない化け物が爆誕して、普通に世界中の術師らの大半が死んで、これはまずいと思ったのか残滓が出ない技術を使ったんだ。 話がずれたけど、こいつらは昔の妖怪だったので、昔の白竜会の人が捕まえて、鉄心がそれを受け継いだもの。攻撃型が阿形で、結界張ったりする防御型の吽形の二体で、コンビネーションもすごい。まあでもぶっちゃけ中途半端な性能らしい。ダントツの攻撃力とか防御力ではないらしいから。

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