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不死となった少年は抗う為に剣を握る  作者: マジュルーム
復讐を目指す少年と全てに絶望した少女
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少年少女は手を結ぶ

命名イベントです。 あなただったらどういう名前にしますか? 感想で教えてください。

意識が浮上する感覚は、アクトの時と同じく、泥の中から光を目指して這い上がるような重さがあった。


薄く開いた少女の瞼の裏に映ったのは、安堵とはかけ離れた、赤と黒の爛れた光。


包帯を纏った少女は、覚醒と同時に、本能的な恐怖に突き動かされた。全身を覆う包帯が、肌の内側から力を求めて蠢き、その体をガバッと勢いよく跳ね上げさせた。


心臓は鼓動を打たない。しかし、その内側のが、全身の神経を鋭敏に研ぎ澄ませていた。


飛び起きた少女の視界は、瓦礫の山や、消毒液と血の匂いが混ざる忌々しい研究施設ではなかった。


そこは、奇妙なほどに豪華で、奇妙なほどに場末の気配がする、「ホテル」だった。     まあ、ホテルの前に『ラブ』がつくホテルだが。


壁には不似合いな赤と黒の幾何学模様の壁紙が貼られ、天井には安っぽいシャンデリアがぶら下がっている。室内の空気は澱んでおり、妖艶な雰囲気だった。彼女が横たわっていたのは、キングサイズの真っ赤なサテンのシーツが敷かれたベッドの上だ。


(ここは……どこ?)


頭の中で警鐘が鳴り響く。ここは「白竜会」の施設か?それとも、新たな実験場か?彼女の唯一の武器であり、身体の一部でもある包帯が、パーカーの袖口から警戒の意を込めて数本、蛇のように床に這い出した。


「起きたんだ? 大丈夫そ?」


聞き覚えのない声が、部屋の隅から響いた。


少女は反射的に声の主へと顔を向けた。そこにいたのは、先ほどの服装とは違う、一見チャラそうな服装をしている男――先ほどまで殺し合いをしていた、もう一人の不死者、アクトだった。とは言っても、精神的に疲弊しているからか、いつもの冷たく、冷酷な声ではなく不死者になる前のような、普通の高校生のような口調だった。


アクトはベッドから少し離れた安楽椅子に座り、どこからか持ってきたおにぎりをむしゃむしゃ食べていた。


そんな彼は少女の鋭い殺気を受け止めると、ゆっくりと椅子から立ち上がり、両手を肩の高さまで上げて広げた。


「安心しろ。敵意はないから。こっちはちょっとお話をしたいだけ。いいかな?」


アクトはそう言いながら、さらに一歩、二歩と後ずさり、壁に背中をつけた。これは、敵の勢力圏から離脱し、自発的に「無抵抗の姿勢」を取っているという、明確な意思表示だった。


少女は、アクトが後退したのを見て、体内の殺気がスゥーっとわずかに引くのを感じた。確かに、もし彼に悪意があれば、眠り香が解ける前に首を刎ねれたはずだ。というか、どちらも不死身なので、永遠に戦うことになるかもしれないし。


少女は立ち尽くしたまま、包帯の先を警戒するようにわずかに揺らめかせるに留めた。



アクトは安堵のため息を一つ吐くと、彼女へと視線を戻した。


「いくつか、聞きたいことがある。」


アクトはそう切り出し、床に散乱した物品を指で示した。そこには、先の戦闘で破壊された、彼の折れた剣の残骸、そして少女の包帯が炭化して焼けた後の黒い煤が、ビニールシートの上にまとめられていた。


「まず、なんであんな場所にいた?」


アクトの問いに対し、少女は首を横に振った。


彼女は口を開こうと試みたが、まるで喉の奥に何かが詰まっているかのように、空気が押し戻されるだけで、意味のある言葉が出てこない。


「……………っ、あっ。」


絞り出されたのは、本当に赤ん坊が初めて発するような、未発達で細い声だけだった。その声は、彼女の口の奥から、無理やり引き剥がされたかのようにか細く響き、すぐに消えた。


アクトは眉をひそめた。


「喋れない、のか?」


少女はそれを否定するように、また首を振った。


そして、右手を自身の喉元に当て、そこから包帯を二本の指のように細く伸ばした。 その包帯の指は、喉の内側の肉をこじ開けようとするような仕草を繰り返した。


アクトは理解した。

「……発音器官が、機能していない、あるいは損傷している。上手く声を出せない、ということかな?それか、何かトラウマがあるのやら。」


少女は勢いよく頷いた。彼女の包帯で覆われた顔が、その感情を伝えようと必死にアクトの方に向けられた。


「わかった。じゃあ書け。筆記用具くらいはあるだろう。」


アクトはそう言いながら、バッグからボールペンと手帳を取り出し、ベッドサイドの小さなテーブルに置いた。


少女は警戒しながらベッドから降り、テーブルへ。彼女はボールペンを手で握り、その先端を震わせながら、紙に文字を刻み始めた。


まるで未熟な子供が書いたように歪んだ、しかし確かな文字が浮かび上がった。


『わたし、うまれたときから、ひとりぼっち。おかあさん、かみ、そめてた。いやなことば、いった。わたしを、すてた。』


アクトはその文字を読み、無表情のまま頷いた。包帯女の最初の記憶は、遺棄。それは、自身を捨てた家族の記憶と似ていた気がした。


「それで、あの施設へ行ったのか。」


少女はアクトの不安定な言葉遣いを気にせずに頷き、再びボールペンの先端を走らせる。その速度は、さきほどよりも速く、焦燥感に満ちていた。


『つぎ、あの、くさい、ばしょ。しろい、ふくの、おとこたち。いってた ふししゃ?じんこう つくる、。』


彼女の包帯は、何度も「注射器」の形を作り、そして自分の腹をえぐるようなジェスチャーを繰り返した。


『なにか、うつ、のむ、たべる。からだ、いたくなる。からだ、ぬく。いっしゅうかん、たべない。』


アクトは静かに聞いていた。人体実験。それは予想通りだったが、その内容は想像以上に過酷だ。彼は自身が持つ能力から、その実験の目的を推察した。


「お前は、不死者を、人工的に作るためのモルモットだった、というわけか。」


少女は包帯を元に戻し、メモ帳をアクトの方に押しやった。


『けんきゅういん、ハクリュウカイには、ナイショ。ハクリュウカイ、ばれる、まずい。エゲレス?、に、ナデギリ。まずい。だから、ナイショ。』


「え?あそこ白竜会に内緒で実験してたの?」

アクトは驚いた。だけどそれよりも気になるのは『エゲレス』という言葉。人物の名前なのか?いや、昔の日本は確か()()()のことを......



ここから先の描写は、少女のジェスチャーがより激しく、そして切実になった。


彼女は鉛筆を置き、両手で包帯を自身の首に巻き付け、強く締め上げるジェスチャーをした。苦痛に歪む包帯の裏側の顔が目に浮かぶようだ。


『もう、いや。くるしい。らくに、なりたかった。』


そして、包帯を解き、一度、力なく床に倒れ込むようなジェスチャーを見せた。しかし、すぐにガバッと立ち上がり、包帯で自身の身体を指差した。


『でも、しなない。きず、なおる。くすり、きえない。わたし、かれら、もとめてた、おなじ。ふししゃ。こわかった。そのまま、えいえんに、おなじことされる。やだ。やだ。やだ.....』


彼女の包帯は、今度は檻の形を作り、自身をその中に閉じ込めるような仕草をした。そして、天井を見上げ、獣が吠えるような口の形を、包帯の隙間から覗かせた。


「……永遠に、実験台にされると思った、ということか。」


アクトが絞り出すようにそう言うと、少女は激しく頷き、全身の包帯を空中へ噴水のように噴き出させ、そして、それらを巨大な拳の形に収縮させた。 彼女のあの暴走の再現だった。


『おとこたち、すべて、こわす。わすれた。』


記憶が曖昧、と。アクトと会った時には、すでに施設は崩壊していた。彼女が暴走して、いろんな研究員を殺したのだろう。そして、数の暴力で封印され、アクトと遭遇したのだ。


だから妙に妖術師がいなかったのか。アクトは深い溜息を吐き、ソファに深く座り込んだ。


(かわいそ。心身共にボロボロになって、自殺しようとしたのに死ねなかった悲劇のヒロイン.....

可哀想だな。本当に。(羨ましいな本当に)


同情と嫉妬の念が彼の胸をよぎる。しかし、それ以上に、彼女の「暴走」の可能性が、アクトの冷静な理性を刺激した。彼女の力は、自分よりも純粋な破壊力において上回っている。もし彼女が再び精神的に追い詰められたとき、止められる自信は今の彼にはない。


アクトは別の点に思考を移した。


「お前は、『自殺』で不死者になった。」


少女は驚いたように目を見開いた。彼女の包帯が、クエスチョンマーク(?)の形を小さく作り、アクトの顔へ向けられた。


「俺も、そうだ。俺は家族の復讐のために自殺したが、死ねなかった。そして、この体になった。」


少女は、アクトの言葉に、包帯の拳を握りしめ、そしてゆっくりと胸に当て、彼の言葉を深く受け止めるような仕草を見せた。


アクトは考えた。


(自殺がトリガーだとすれば、なぜこの世に不死者が蔓延していない? 自殺者など、掃いて捨てるほどいる。俺たちに共通している、それ以外の要素は何だ?)


彼の頭の中に、幼い頃に見た光景がフラッシュバックした。炎のように紅い血液。そしてそれを頭から浴びて幸せそうな表情を見せている閾ェ蛻。


[嗚呼....そういうことか。だから俺は.......]


何かを何かが考えている時、彼は、ふと視線を感じ、顔を上げた。


少女は、服の裾をクイッ、クイッとアクトの方向へ引っ張りながら、包帯の目を通して、じっとアクトの瞳を覗き込んでいた。彼女の包帯の口元は、何の言葉も発しない。ただ、「私をどうするのか」と、不安と同時に、一縷の望みを託すような、切実な眼差しが伝わってきた。


彼女は、自分を殺そうとしなかったこの男を、警戒しながらも、唯一の理解者として捉え始めている。



アクトは、静かに椅子から立ち上がった。彼の判断は、既に下されていた。


(現状、白竜会を一人で潰す勝算は、限りなくゼロに近い。ボンリスもいるけど、逆に俺ら二人以外は(愛知県での)戦力はない。それに、これで見捨てるのもなんか気が引けるからなぁ。)

まあ不死者となってから、冷酷な判断をし続けたアクトだが、流石に人情を全て無くしたわけではない。


彼は、少女の包帯の目が捉えるように、ゆっくりと口を開いた。


「お前は、白竜会に強い憎しみを抱いている。そして、奴らはお前の力を利用するか、あるいは危険因子として排除しようとするだろう。」


少女は包帯の拳を、小さく、しかし力強く握りしめた。


「俺も、白竜会を潰すために動いている。目的は同じだ。だから――」


アクトは、わずかに体を前に傾け、真剣な瞳で彼女を見つめた。


「俺と一緒に来るか。俺と手を組んで、奴らを全て焼き尽くす。お前の力が必要だ。」


それは、打算と、少しの同情、そして生き残るための冷徹な計算に基づいた「同盟の提案」だった。


少女は、その言葉の意味を理解しようとするかのように、数秒間、微動だにしなかった。彼女の包帯は微塵も揺らがない。そして、彼女の包帯の目蓋がゆっくりと閉じられ、また開いた。


彼女は、右手をゆっくりとアクトの方へ差し出した。


そして、こくり、と静かに頷いた。その頷きは、感情に流されたものではなく、彼女自身の意思による、重い決断の証だった。


アクトは、その小さな手を握ろうとして、ふと気づいた。


「......そうか。お前、名前がないんだな。」


少女は、自分の胸元を指差した後、首を縦に振るジェスチャーをした。名前を捨てたのか、最初からなかったのか。


「これから一緒に動くんだ。名前がないと不便だ。」


アクトは、部屋の安っぽいシャンデリアを見上げながら、わずかな時間、思案した。


「『細川ほそかわ こま』。これからお前は細川駒って名前だ。」

そうアクトは命名した。 細川駒。 その名前を聞いた彼女はまるで悪夢から目が覚めたような目をしていた。


「細川 駒。よろしく頼む。」


アクトは、改めて右手を差し出した。


少女――駒は、アクトが授けた新しい名前を、その包帯の奥で静かに反芻した。そして、差し出されたアクトの手を、遠慮がちに、しかししっかりと握り返した。


その手の感触は、冷たかった。まるで死体のような、体温のない感触だった。


こうして、白竜会に対抗するという、たった一つの共通の目的を持った、二人の不死者――家族に復讐を誓う少年と、安息を求める少女――の、奇妙な同盟が結ばれたのだった。

人物紹介 細川駒

施設に入った日 6月23日

身長 155cm

好きなもの 金平糖 チョコ ふわふわのパン

嫌いなもの 注射 薬 捨てられること。

久しぶりの人物紹介。ひさびさなせいで何回目か忘れちまったぜ⭐︎

アクトに命名された可哀想な悲劇のヒロイン系包帯女子とかいう情報が多い子。

戦い方は両脇と両またぐら(太ももと尻の間らへん。)あたりから包帯を伸ばして戦う。結構頑丈だしパワーだけじゃ祐樹のグリム・エンドよりも上。 多分。

ちなみに名前の由来は戦国時代の悲劇の女の人の苗字と名前をそれぞれ拝借した。 誰のことか当ててみてね。

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