少年 頑張る
ヒロイン?登場です。 果たしてどうなるのか?殺し愛ってでも素敵だね。
作戦は、ボンリスがアクト(祐樹)に作戦を説明した次の日の深夜に決行された。
ボンリスの周到な根回しにより、首都圏では白竜会と、彼らが傘下組織の「憑霊会」を滅ぼしたことに対する**「ケジメ」**を要求する鷹龍軍団との間で、大規模な抗争が勃発していた。白竜会の上層部の意識は、既に首都圏の防衛に割かれている。
愛知県も例外ではなかった。アクトとボンリスの二人だけで、白竜会の資金源や拠点を狙った同時多発的な襲撃が始まった。
アクトが担当したのは、名古屋市内のビルの地下深くに隠された闇カジノだ。別に重要な資金源などではないが、単純に重要な拠点の防御システムは想像以上に硬い守りで、アクト1人ではどうにもならないので、まずいくつかの拠点を潰し、その後に重要な拠点をボンリスと一緒に落とすという作戦になったのだ。
そしてボンリスからの指示は「内部の人間を全て排除し、施設を破壊する」という簡潔なものだった。
祐樹はビルの裏口にあるダストシュート付近の通気口から侵入した。彼が身につけている軍服風の服は、特殊な素材でできており、極めて柔軟で、彼の痩せた体なら多少無理な体勢でも滑り込める。
カジノ内部は、煙草の煙と酒、そして興奮した人間の汗の匂いが混ざり合った、陰鬱な空気が充満していた。侵入に気づいた警備員はいない。
彼は天井の梁を伝い、内部の構造を確認した。白竜会の構成員と思われる男たちが、ルーレットやバカラテーブルの周りを警備している。妖術を使う気配はないが、全員が拳銃を携行している。
(メンドクセエ。一掃するぞ。)
アクトは持っていた小さなドスを媒介に、グリム・エンド・一式を発動。ドスの先端から伸びた黄色い斬撃の糸を、最も警備が手薄な隅のテーブルにいた男の首元に瞬間的に伸ばし、即座に縮めた。
ブチッ
音もなく、男の首が切断され、大量の血液がカーペットに噴き出した。
他の警備員たちが異変に気づいたのは、血の匂いが鼻についた、その一瞬後だった。
「何だ!?」
「テメェ、どこから入った!」
警備員たちが一斉に銃を構えるが、アクトは既に次の行動に移っている。彼は剣を高速で振り、三方向に黄色い斬撃を同時展開した。
ズバッ、ズバッ、ズバッ
斬撃はまるで意思を持っているかのように、三人の男の胸を正確に貫いた。彼らは断末魔の叫びを上げる間もなく、その場に倒れ伏す。
しかし、残りの男たちはプロだった。彼らはパニックに陥ることなく、即座にテーブルや柱を盾にして身を隠し、応戦してきた。
パン!パン!
銃弾がアクトの身体を襲うが、それらを剣で防ぐ。不死者であるアクトの肉体は、貫通してもすぐに再生するが、彼は「痛み」を嫌う。特に頭部を撃たれるのは、人間だった頃からくる無意識の忌避感があった。
(数が多い!)
彼は柱の陰に身を隠しながら、体勢を立て直す。だが、闇カジノという閉鎖空間での戦闘は、祐樹の得意とするフィールドだった。
「ちくしょう、どこから撃ってくる!」
警備員の一人が、テーブルの隙間から上半身を出し、アクトに向けて発砲した瞬間、アクトは動いた。
カチッ
手袋からグリム・エンド・一式のかぎ爪を伸ばし、その男の銃口を正確に掴む。そのまま一気に縮め、男ごと自分の方へ引き寄せた。
「なっ!?」
引き寄せられた男の顔面が、アクトの目の前に迫った瞬間、アクトは容赦なく剣を振り抜いた。
ゴシュッ
剣は男の顔面を縦に断ち割り、その身体を二つに分断した。血のシャワーが祐樹の服を濡らすが、彼は一切気にしない。
残りの警備員たちが絶叫する。
「化け物か!妖術師の仕業だ!」
「本部に通報しろ!俺たちじゃ無理だ!」
通報されては面倒だと判断したアクトは、残りの男たちに一気に肉薄する。彼らを逃がしてはならない。彼らが持つ裏金、情報、そして何より命が、白竜会への圧力となるのだから。
残った四人を、アクトは二式を込めた拳と、一式を込めた剣を使い分け、瞬時に葬り去った。
闇カジノでの襲撃は、約五分で終わりを告げた。
闇カジノから戻ったアクトを待っていたのは、ボンリスからの新たな「依頼」だった。
「次だ。愛知県北部に、『光明の家』という児童養護施設がある。そこを襲ってくれ。」
「児童養護施設だと?」アクトは眉をひそめた。
「ああ。白竜会は、孤児を実験台にしたり、忠誠心を植え付けた戦闘員として養成している。表向きは慈善事業だが、実態は奴隷製造所だ。」ボンリスは淡々と説明した。
アクトは考えた。そんな児童養護施設を襲えばヘイトをまあまあ貯めれるのではないかと。一生懸命に育成している孤児を殺させたらむかつくのではないかと。
「...わかった。その施設は、完全に潰す。」
アクトは迷うことなく快諾した。その中には、白竜会にとって重要な情報や、秘密裏の実験データがあるはずだ。
その夜遅く、アクトは闇に紛れてその施設にたどり着いた。
『光明の家』。
一見すると、普通の、古びた二階建ての建物だ。だが、アクトが蜃気楼の妖術を発動させ、外から内部を観察しようとすると、その怪しさが際立った。
建物には窓が多く設置されているものの、全てが重厚なシャッターか、あるいは夜だからか完全に閉鎖されており、中の様子は全く窺い知れない。建物の周囲には、高圧電流が流れているであろう頑丈な鉄柵が張り巡らされ、静かな夜の闇の中で、異様な威圧感を放っていた。
(夜だから、ではないな。これは中を見せたくないという意思だ。)
アクトは警戒レベルを最大限に上げた。
彼は一式を使い、手袋からかぎ爪を屋根に突き刺し、体を一気に引き上げ、音もなく屋根の上に着地した。
彼は屋根の真上にある換気口のような小さな窓に目をつけた。通常の侵入は難しい。彼は剣を抜き、『焼灼』という妖術を発動した。
ジュウウウウウ……
剣の刀身が、鉄が耐えられるギリギリの温度まで赤熱する。その剣先を窓のガラス部分に押し当てると、ガラスが溶け、黒い煙が立ち上る。この妖術は、剣の耐久度を無視して熱を発生させるため、あまり多用できない諸刃の剣だ。
溶解したガラスの穴から、アクトは音もなく、施設内に侵入した。
着地した瞬間、赤く点滅する警告灯が部屋を照らした。
(案の定か!)
侵入した部屋には、高性能な防犯カメラが設置されており、侵入の瞬間を逃さなかった。
「やばい、やばいな。」
アクトはそう呟きながらも、焦燥の色はない。彼は即座に剣を振り抜き、グリム・エンド・一式を発動。
バリバリバリィ!
黄色い斬撃が、壁や天井、床を無関係に切り裂きながら、部屋の周囲に展開された。見えない敵を斬るがごとく、彼は部屋全体を斬撃で薙ぎ払った。
「ぎゃああああ!」
壁や天井の奥から、微かな悲鳴が響き、そして途絶えた。監視ルームにいた警備員を、壁ごと斬り殺したのだ。
まあ子供もお察しの通りに、、、、
しかし、数人の男たちは、一式が展開されるより速く身を屈めるか、あるいは奇跡的に斬撃を掻い潜り、ボロボロになった部屋の中から飛び出してきた。
「この野郎!どこから侵入しやがった!」
男たちは武装しており、剣やナイフで祐樹に切りかかってきた。アクトは彼らの猛攻を剣で受け止める。
ガキン!
男たちは、剣を媒介とした『石片』という妖術を使い、床のコンクリートを剥がして石を飛ばしたり、遠距離にいる仲間が銃を乱射してきたりと、容赦のない連携を見せる。
アクトは、石片を剣で弾き、銃弾を避けたりし、傷を負っても即座に再生させる。
「長引かせるな!」
彼は切り結んでいた男の剣を受け止めると、剣の刀身全体にグリム・エンド・二式を収束させた。剣が鈍い黄色に輝く。
「なっ!?」
男が驚愕する間もなく、祐樹はその剣を押し込んだ。二式によって極限まで硬度を増した剣は、男の剣を粉砕し、そのまま男の胴体を破壊的な打撃と共に貫いた。
ドシュッ!
男は呻き声すら上げられずに倒れ伏し、遠距離から攻撃していた残りの男たちは、恐怖で動きを止めた。
アクトは躊躇なく、その場に肉薄し、剣で彼らを斬り殺した。
その後も、地下を除く全ての階を巡り、抵抗してきた残党を殺しながら、祐樹は施設内を破壊し続けた。孤児の姿はどこにも見えない。全ては地下に隠されているのだろう。
そして、アクトは一階の警備室のような場所で、地下へ続く階段を見つけた。
(残党、あるいは鎖哭に関する機密がまだ残っているはずだ。)
彼は階段を下り始めた瞬間、廊下の突き当たりに設置された監視パネルが、彼の姿を捉えた。
ダダダダダダッ!!
待ち伏せていた数人の男たちが、階段の踊り場からアサルトライフルを乱射してきた。
奇襲――。
頭を狙った銃弾が、アクトの顔面を襲う。
しかし、血が一滴も流れることはなかった。
アクトの全身、軍服のような服も、ガスマスクも、そして靴も、鈍い黄色に輝いていた。
「な、なんだ!?」
地下にいた男たちが驚愕の声を上げる。彼らの銃弾は、その黄色く輝く鎧に阻まれ、全て弾き返されていた。
グリム・エンド・二式。
アクトは、撃たれる直前にに、全身の服とガスマスク、靴を媒介とし、黄色いエネルギーを収束させ、全身を覆う鎧へと変えていたのだ。これは、戦闘を通じて「二式」の硬度が媒介の素材の硬さに依存しているのではなく、「収束させるエネルギーの量」に依存していることをボンリスとの訓練中に発見した、最新の応用技だった。
奇襲を防いだ祐樹は、そのまま階段を駆け下りながら、剣に一式を発動させ、黄色い斬撃の嵐を放った。
ギャアアアアア!!
アサルトライフルを持った男たちは、斬撃に引き裂かれ、全滅した。
アクトは、残っていた施設の職員たちや、洗脳教育を受けていたであろう「子供」も容赦なく皆殺しにした。彼のルールは、家族への復讐を阻む者は、例外なく排除するという、ただそれだけだ。
全てを終え、アクトは地下の最奥部を探した。そこには、一つの鉄のドアと、その横に貼られた紙の看板があった。
看板には、殴り書きのような文字でこう記されていた。
『包帯女』 重要性:大 危険性:大 不死者になったがこちらに対する恨みが大きく扱い不可。 会長の指示を仰ぐ。
(不死者だと…?しかも白竜会に恨みを持っている…?)
アクトの胸の奥で、警戒心と同時に、奇妙な同族意識のようなものが湧き上がった。この女は、自分と同じ「不死者」であるのだろうか。だがそんな彼女は、白竜会に捕えられ、封印されている。そして「恨み」を持っているという点で、彼と似たような境遇にある。
(虎穴に入らずんば虎子を得ず、か。いや、虎穴に入らずんば鎖哭の情報は得られず、だな。)
アクトは決断した。この女が白竜会に恨みを持っているなら、味方になる可能性がある。たとえ罠だとしても、ここにある情報を逃す手はない。
鉄のドアは鍵がかかっていたが、祐樹にとっては何の意味もない。彼は靴に二式を収束させ、鉄のドアを思いっきり蹴り砕いた。
ドゴォン!!
爆発的な音と共に、鉄のドアは内側に湾曲して吹き飛んだ。
部屋の中は、まるで古い礼拝堂のような、異様な空間だった。中央には、巨大な十字架が立てられており、そこに一人の女が、全身を包帯でぐるぐる巻きにされた状態で、張り付けられていた。
彼女の四肢は、太い杭によって十字架に打ち込まれており、その杭からは微かに封印術の妖力が滲み出ているのを祐樹は感じ取った。その姿は、まるでイエスキリストの受難を思わせる、神秘的で、同時に残酷な光景だった。
祐樹は一歩踏み出し、躊躇なく、杭を固定している封印術の術式を無視して、力ずくで杭を一本一本引き抜き始めた。
メキッ、メキッ
最後の杭を引き抜いた瞬間、事態は起こった。
女の体から垂れていた包帯が、突如として蠢き始めた。まるで生きているかのようにうねり、集束し、巨大な包帯の拳へと変貌した。
「――ッ!」
祐樹が反応する暇もなく、その巨大な拳は彼の体を真正面から襲った。
ドオオオオオオン!!
二式で覆われた祐樹の全身鎧が、悲鳴のような音を立てた。彼はその一撃をまともに喰らい、体は勢いよく後方に吹き飛び、背後の分厚いコンクリートの壁を突き破った。
凄まじい衝撃波と粉塵が部屋に舞い、祐樹は瓦礫の下敷きになった。
その瓦礫の中から、包帯女の、怒りとも憎しみともつかぬ、獣のような咆哮が響き渡った。
祐樹は瓦礫の中で、全身の痛みに耐えながら、「不死者」の同胞との、最悪の遭遇を果たしたのであった。




