少年 帰還する
第三章です。ここからが本編だと思ってるので、これからも応援してください。
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新幹線を降り、名古屋の喧騒を通り抜け、祐樹が廃工場の薄暗い空間に足を踏み入れたとき、全身の疲労が一気に重くのしかかってきた。
廃墟と化した機械油と錆の匂い。その一角にある古びた事務机で、ボンリスは悠然と座り、眼鏡を光らせながら、タブレット端末を操作していた。その姿は、まるで戦場での死闘など知らぬかのような、平穏な研究者のそれだ。なぜそのような格好をするのかわからないが、祐樹はそんなボンリスの姿を数日見てもう考えないことにした。 だってそんな姿でも組み手して一回も勝ったことないもん。
「帰ったか、祐樹」
ボンリスは視線も上げずにそう言った。
「ああ。依頼は完遂した。報酬は?」
祐樹は悠真が爆死したことをまるでなかったかのように報酬について尋ねた。 所詮彼の中では悠真の命よりも金の方が優先なんだろう。ボンリスは、彼の言葉にようやくタブレットから顔を上げた。
「結果は聞いている。スマホで送ってきたな。だが気をつけろ。スマホでの会話は最悪盗聴されたりする危険がある。よっぽどのことがない限り使わない方がいいぞ。」そう言いながらもボンリスは若干面白そうな笑みを浮かばせた。
「だが祐樹。『絶望屋』を仕留めたのか。まああいつも玄武やマルロのような化け物じゃないが、それでも殺しを本業としてるやつに勝ったんだ。まあまあだろう。」
(.....あの実力でまあまあか。それより玄武にマルロ..マルロは外国人ぽいが、玄武は中国人か?それとも、、、)
ボンリスの言葉を噛み締めながら、祐樹はボンリスに尋ねた。
「で、だから報酬は?申し訳ないがこちらもボロボロでな、、、」
「いらない。」
「は?」
祐樹は思わず聞き返した。
ボンリスは机の上に置かれていた、仙台で悠真からもらったものから数枚一万円札を取った。
「とは言ってもお前にあげた服や武器、妖紙の値段分はもらうけどな。だがそれ以外はお前のものだ。」
祐樹の表情に、僅かな驚きが浮かんだ。ボンリスが報酬を全額渡すなど、これまでになかったことだ。彼は即座に封筒を掴み、中身を確認しながら、ボンリスの真意を考えた。
(多分この人、今後は俺に何も買ってくれないな。自分のものは自分で買えっていう意思を感じる。 まあ全額取り上げよりかはマシか。)
「まあ、とりあえず今はお前の新しい力についてだな。」
祐樹は封筒を内ポケットにしまい、警戒心を緩めずにボンリスを見つめた。
「最後に女を殺した時、お前は斬撃を出す代わりに、靴にあの黄色いエネルギーを込めて蹴り込んだな。あれはどういう原理だ?」
祐樹は鉄骨から体を離し、少しだけ実演するように、右足を上げた。
「原理か。いつもは媒介からなんとなくで黄色い斬撃を出してたんだけどな。黄色い斬撃のエネルギーみたいなのを自由にさせていた。まあ、どんくらいのスピードで何メートル伸びて、どのくらいで無くなる?縮むのかは制御できるけど、大体は黄色いエネルギーみたいなのを自由にさせていた。」
祐樹は考えながら吐き捨てた。実際自分でもこの力がどういう原理なのかなどはわからないのである。まるで体の一部のような、自分は呼吸ができるけど、どういう原理で呼吸してるのか問われて詳細に答えれないのと同じような気がした。
「だが、あの時は、逆に黄色いエネルギーを媒介の内部に押し込み、固めたんだ。黄色いエネルギーを練り上げた打撃。そう表現するのが一番近い。」
「なるほど、黄色いエネルギーを....か。申し訳ないがいまいちピンとこないな。というより、お前も感覚でやってるのだろう。だからお前も言葉にしにくいんだろうな。」ボンリスは顎に手を当て、深い思考に入った。「斬撃でもなければ、単なる打撃でもない、妖力でもなければ魔術でもない。果たして、その力は一体なんだろうな?」
そう言いながらもボンリスは椅子から立ち上がった。
「その力、そろそろ名前を付けたらどうだ。いつまでも『黄色い斬撃』とか『黄色いかぎ爪』とかだと混乱する。いい加減決めないか?」
「名前、ですか。メンドクセエ。」
祐樹は露骨に嫌そうな顔をした。彼は「名前を付ける」という行為が、その力を認めること、あるいは愛着を持つことに繋がりそうで、本能的に嫌がっていた。
「そういうことは言わないでくれ。お前の力の特異性は、裏社会で誰も知らない。だからこそ、技名が必要だ。…そうだな、『死の報復』。あるいは『破滅の爪』。お前の戦い方に似合っている。」
「いや、それ以外がいい。」
即答した。 そんな厨二病みたいな名前ならまだ名前を真面目に考えた方がマシだ。振り返ってみると、そういえばこの人、自分にくれた仕事用の服も、軍服に軍帽、それにガスマスクって、、、、そんなどうでもいいことを考えながらも祐樹はしばらく考え込み、答えを導き出した。
「……グリム・エンドでいい。黄色い斬撃を媒介から伸ばすのは一式。エネルギーを媒介に押し込むのは二式だ。」
ボンリスは目を見開いた後、神妙な顔をした。
「グリム。グリムか、、、、俺が考えた技名の方が、、、、」
「断固お断りする」
そんなこんなで命名が終わると、すぐにボンリスは実験を始めた。彼は、祐樹の体が不死身なのをいいことに、即座に次の段階へと移行する。
「よし、早速グリム・エンドの特性を確認するぞ。まずは一式だ。」
ボンリスは、床に立てられた厚さ五センチの鉄柱を指差した。
「手袋から黄色いかぎ爪を伸ばして移動してみろ。」
祐樹は言われた通り、左手を爪のような形にし、グリム・エンド・一式を発動した。バチンッという音と共に、鮮やかな黄色の爪が伸び、鉄柱を掴み、縮む動きを利用して祐樹は鉄柱の場所まで移動した。
「どうだ?違和感は?」
「ない。いつも通りだ。」
「それが問題なんだ。」ボンリスは顔を近づけた。「お前が剣を媒介にした場合、斬撃が伸びる速さは、魔力循環を限界まで高めた俺の目でも、ほとんど捉えられない。だが、今のかぎ爪のスピードは、なんとか捉えられるレベルだ。」
祐樹は眉をひそめた。
「素材の問題じゃないのか?手袋と剣じゃ、媒介の精度が違うだろ。」
「じゃあ次に手袋から普通に伸ばしてみろ。同じスピードだ。」ボンリスは簡潔に言った。
祐樹はボンリスがどこまで本当のことを言っているのか疑ったが、手で拳を握りながら手袋を媒介にして一式を発動し、鉄柱を殴った。結果は、ボンリスの言う通り、かぎ爪を使った時と大差ないように感じられた。だがボンリスから見せてもらった映像だと確かに前者だとギリギリ伸びる動作が見えなくもないが、後者では全く見えなかった。
「どういうことだ?」祐樹は焦燥を覚えた。
ボンリスは静かに答えた。
「お前は以前、俺に会う前に、柱に頭を思いっきりぶつけたそうだな。あれは、お前の身体が不死であるとはいえ、トラウマとして無意識下に刻み込まれた可能性がある。」
祐樹は言葉を詰まらせた。確かに思い当たる節がないわけじゃない。
「あるいは、単純にお前の制御の問題もある。『目に見えないくらいの速さ』でかぎ爪を放って対象を掴めるわけがない。それに同じようにとんでもない速度で縮んだら普通に危ない。だから無意識が**『安全装置』**として速度を制限しているんだろうな。」
ボンリスの言葉は理路整然としており、祐樹は何も言い返せなかった。自分が思っている以上に、この力は繊細で制御が難しいのだと痛感した。
「次は二式だ。二式は制御の必要がない。純粋な破壊力を測る。」
ボンリスはそう言いながら、黒く錆びた巨大なドラム缶を廃工場の隅から引っ張り出してきた。
「まずは妖力を込めずに、思いっきり蹴ってみろ。」
祐樹は文句を言わずにドラム缶を蹴り付けた。ゴッ!という鈍い音と共に、ドラム缶は数センチ移動し、表面が大きく凹んだ。
「なんだこの重さ…中に何が入ってやがる?」
祐樹は足の痛みを堪えながらボンリスに問いかけた。
「汚水だ。工場時代に排出された汚水が溜まっている。かなりの量が凝固して残っているから、重いのは当然だ。」ボンリスは涼しい顔で言った。
(そんなもんで実験しようとすなッ!)
祐樹は内心で怒鳴った。こんな汚いもので、自分の新たな力を試すなんて、ボンリスの趣味の悪さが滲み出ている。 実際はこの工場に物資があまりないというだけだが、、、 それに買うのも勿体無いし。
「さて、次は二式だ。靴を媒介に、黄色いエネルギーとやらを最大限に収束させて、思いっきり蹴り込め。」
祐樹は深く息を吸い込んだ。靴に意識を集中させ、妖力を限界まで収束させる。靴が黄色く発光し、その場の空気が重くなった。
そして、逆方向からドラム缶めがけて、グリム・エンド・二式を放った。
バギャンッ!!
鉄を裂くような破壊音と共に、ドラム缶の側面が完全に貫通した。黄色い光が通り抜けた穴から、ドバドバと黒く粘性の高い汚水が流れ出し、地面を汚した。
そして、蹴り込んだ反動で体勢を崩した祐樹の下半身に、汚水の波がまともに襲いかかった。
「う、わあああああああ!!」
祐樹の悲鳴が廃工場に響き渡った。スーツのズボンと靴は、見てられないほどの汚泥にまみれ、鼻をつく気持ち悪い匂いが充満した。
「お、おい!祐樹、大丈夫か!?」
流石のボンリスもバツが悪そうな顔をして、慌てて後ずさりながら言った。
祐樹は、汚水を滴らせる靴を見下ろし、そしてバツが悪そうにしているボンリスを睨みつけた。
(……いつか、この埋め合わせはさせる。この汚水の匂い、絶対に忘れねえぞ)
彼は汚水にまみれたまま、心の中で、決意し、もう一人復讐相手が増えるのであった。
能力解説② グリム・エンド
前は黄色い斬撃として解説したけど今回はグリム・エンドとして解説するよ。この力は妖力や魔力とは全く違う謎の黄色いエネルギーを使ってるんだ。ここ間違える人多いらしいね。グリム・エンドは、媒介を通じて発動して、黄色いエネルギーは媒介から外に一点から出ようとするらしいから、それで一式を発動させてる、、、、らしい。でも祐樹の感覚での話なので真偽は不明。本人曰くこの世にあるようなものみたいに言語化して理屈などがいえない。まるで世界のバグのようとのこと。二式はその媒介から出ようとするのを押さえつけて、媒介の中に黄色いエネルギーを貯めることで使ってて、耐久性能や硬さが上がるらしい。 でも全部祐樹の感覚での答えなので真偽は不明。 一体何が正解だっていうんだ!
ちなみに名前の由来は、、、、まあ言わなくてもみんなわかるか。




