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回想と記憶


「いつも楽しそうにしている君が好きだよ。」


 ドン


「はあ、びっくりした。」


 夢っていうのは誰が作ってるんだろう。恋愛に興味も、というかそもそも無頓着な人が見る夢じゃないだろう。


 心の中でそう言って、俺はベッドから吐き出されて目を覚ます。まあまあ強めにぶったので、左腕とおでこ中央がジンジンする。


「えっと、、7時か。」


 肘をついて、部屋の上の時計を見る。


 厳密にいうと起きた時刻は7時2分だが、寝起きの頭はそんな正確なんかじゃなかった。大体朝は物事を曖昧に決めているものだろう。

 しかし、今日は例外で、夢のお陰でできた痛みを脳が感じ取ってくれるので頭はいつもより少しだけ冴えている。だが、急に叩き起こされたのとほぼ同義なので、気分は悪い。そして頭がなんだかモヤモヤとした。


 はあ、とため息をつきながら片手を支柱にして腰を上げる。


「ん?」


 同時に冷たい床を足が感じ取った。 

 そして少し体全体が冷えているのに気づいた。


「少し寒いな。」


 ひんやりとした冷たい風が右肩にあたる。心地よさもあった。そこからはマメザクラの匂いがする。

 寒さを主張する右の方を見ると、ゆらりゆらりと冷たい風がベッド横の窓の方から吹いてきていた。


 (あっ。かわいい)


 少し空いた窓の奥にスズメが見えたので、覗いてやろうと思って近づく。窓枠に腕を乗せ、顔だけ窓から出すと、パタパタと飛んで行ってしまった。


 仕方なく窓を閉め、枕の横に置いてあった携帯を拾った後、制服のポケットに入れていた財布を取り出し、部屋の開けた入口に向かう。すぐに階段が見え、手すりのない壁を第一関節でなぞりながら、リビングへと向かった。


「おーはーよーう」


 と、誰もいないリビングで寂しく声が反響する。


 まったく、最近の若者はテレビのニュースを見ずにスマホばっか開くよな。って思って、大胆にテレビの前に置かれているソファに座り、スマホを起動する。

 スマホの本日のニュース画面にはどことない普通の日常を取り上げられたものが広がっている。お花見へ行こう、為替レートの上昇? TAYOUのオープン。


 そうか、何も変わらないんだな。大きく変わることを望んでない自分は心の中でそう言った。


「さて、準備するか。」


 そうまた独り言を言ってキッチンへと向かう。


 ぺたぺたと歩き、キッチン下のフロアマットに侵入。少しかかとが浮く様にマット内を移動し、おはじきのようなマグネット達が心臓の顔をしている冷蔵庫を開ける。中には納豆、卵2個などで他にめぼしいものはない。前の家では買い出しを頻繁にしてたなあ。と冷蔵庫の中身を確認するたびに思う。納豆を取り出して、扉をバタン。


 短い人生で一回も冷蔵庫の取手を最後まで持っていたことがない。途中からは全て慣性が目的を遂行してくれる。慣性に感謝しながら、次はキッチン上の戸を開け、即席味噌汁の袋を取り出す。バタン。また慣性に任せてしまった。


 来た道を戻りながらお椀を持って誰もいないリビングに向かう。色々と片を済ませ、いただきます、ごちそうさまでした。


 時計を見ると、7時30分。朝食完食。心が休まる。


 ドン


 誰かいる


 起床し、目が覚めた時から分かっていた。


 まず、窓を開けた覚えがない。自分の体と部屋の床が冷えていたことから、1時間、またはそれ以上は窓が空いていたと考えられる。


 昨夜は疲れ切っていたため、シャワー後すぐに横になった。髪もろくに乾かさず、部屋に移動したために体は水滴がついていて、まだ熱が残っている状態。つまり、もし部屋の窓が空いていたとしたら、昨夜・今日と続いている冷たい風を感じ取っていたはずだ。


 しかし、その覚えはない。物はあまり運ばず買わずだったので、内装はかなり殺風景になっている。隠れるスペースなどはない。部屋も荒らされておらず、ここまで、部屋の窓以外変わった場所はなかった。


 つまり、確証がない。しかし、わかるのである。自分以外の人が居ることが。人の気配というものはたしかにあって、なにか考え事でもしていない限り、肌でその空気を感じるものである。


 実際、かなり昔だが、妹が自分の部屋に隠れ、脅かそうと画策していた時も室内の妙な雰囲気から見事にベッドの下にいる妹を探し当ててみせた。むしろ妹の方が驚いていた気がする。


 ドンと音がしたのは玄関・トイレに繋がるドアの向こうからで、ぶつかったのか、何かを落としたのか、低く、重い音だった。


 さて、こういう時は焦らず、冷静に動こうと意識することが正解である。


 ゆっくりと立ち上がり、玄関に向かった。

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