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奴隷商、ダークエルフと揉み合う

山脈超えは、王都を出発してから一番の難所……のはずだった。


「イルス様。カーゾ隊、テッド隊、到着しやした」


ぞろぞろと150人近い野盗達が膝を折り、頭を垂れている。


誰が教えたのかは……まぁ、マギーだろうな……


こんな事はしなくていいのに。


雪が積もっているから、足が冷たいだろうに。


「ありがとう。すぐに合流をするから暖を取って待っていてくれ」

「へい!!」


僕はマギーに手を振る。


結構な雪が降ってきたせいで、辺りを見通せなくなってきている。


ここで迷えば、即遭難だ。


全員の安否を細かく確認していかなければ。


「私達も無事よ。シェラ達はもう先に行ったのかしら?」


シェラとマリーヌ様はすでに出発してしまった。


雪が酷くなる前にオーレック領にたどり着きたいようだ。


「薬草採取が出来なくなるって、急いでいったよ」

「そう。まぁ、急ぐ旅でもないし、安全第一ね」


その通りだ。


フェンリル達もさすがに山脈をぶっ通しで超えてきたから、疲労の表情が出ている。


「サヤサ。フェンリルの様子は?」

「腑抜けた奴らですね。もう一回、子爵領を往復させようと思います」


鬼だ……。


「いや、フェンリルは大切な家族だ。あまりイジメないでくれ」

「分かりました。では、狩りでもさせましょう。食料が心許ないですから」


たしかに……


ヨル達、野外料理人は素晴らしい人材だ。


料理がとても美味い。


が、大きな問題も生じた。


食料の減りが想像以上に早いのだ。


オーレック領まではもうしばらくかかるだろう。


「それは僕からも頼む」

「分かりました。ご主人様達は先に進んでいて下さい。すぐに追いつきますから」


ここからは徒歩となる。


僕とマギーは馬車の旅となる。


「あたいらも同席してもいいのか?」

「構わないわ。女性にこの寒さは良くないわ」


馬車の中の温度が一気に上がる。


それほど広い馬車ではない。


いくら細身の女性とは言え、十人も加われば、狭くもなる。


それに両隣の女性の胸がぷにぷにと当たるのだ。


「僕は外で移動するよ」

「ダメよ。ロッシュは主なのよ。そのけじめだけはちゃんとしないと」


といってもなぁ……


ヨル達は頭巾をかぶっているとは言え、眼力の強い女性だ。


きっと頭巾を脱ぐと、その素顔は……


「ヨル。外してもいいわよ」

「はい。マーガレット様」


ずっと隠されていた素顔が今、晒される。


……?


この顔って……


「エルフ?」


口に出したが、微妙に違う。


何よりも肌色が違う。


「あたい達は流浪のエルフ。ダークエルフと呼ぶ人もいます」


褐色の美しい肌が異国情緒を感じさせる。


遥か南方には褐色の肌をした人種がいると聞いたが……


それとはまた違うのだろう。


「ダークエルフといったが、ただのエルフと何が違うんだ?」

「あたいは人間とエルフの混血。そっちの娘は獣人とエルフ。そっちは……」


ダークエルフとは混血を意味していたのか。


だが、どの種族との混血でも見た目はほぼ変わらないのだな。


「それがエルフ族の特徴。エルフ族は……」


初めて聞く話だった。


男が生まれないエルフ族は、子を生むために他種族から精を受ける。


生まれた子はエルフ族として生を全うする。


「分からないな。だったら、君たちもエルフ族ではないのか?」

「違う。流浪のエルフは突然変異。褐色の肌を持ち、忌み嫌われる。だから、流浪している」


ふむ……人間に少なからず突然変異というものがあると聞いたことがある。


化物のような魔力を持つような者も……。


「顔を隠していたのは、それが理由か?」

「そう。だけど、それだけじゃない」


エルフは慰み者の対象になりやすい。


美しく、長命だ。


ましてや、褐色エルフとなると狙われるのも無理はない。


「そうか……だが、なぜ、僕の前で頭巾を外す?」

「イルス様はあたい達を差別しなかった。それが理由」


僕は彼女たちを奴隷として使っている。


それは人間社会では大きな差別だ。


だからこそ、それを取り扱っている奴隷商は忌み嫌われているのだ。


「マギーは優しくしてくれるか?」

「マーガレット様はあたい達と対等になってくれる」


良かった。


彼女たちの生き様を理解できるわけではない。


だが、少なくとも、ここにいる間は安心できると嬉しい。


「だから、いつでも、あたい達を呼んでくれて構わない」


ふむ。


体つきを見るに、実にしなやかだ。


それにエルフと言うと、高い戦闘力だ。


彼女たちもその力を継承しているのだろう。


「分かった。その時は助けてくれるとありがたい」

「イルス様は童貞か?」


……ん?


「女の助けが必要なのは童貞だ」


んん?


「えっと……何の話だ?」

「はいはい!! これで話は終わり! もうすぐでオーレック領よ」


はるか向こうに、数筋の煙が上がっていた。


街にある当たり前の光景だ。


なんだ、不完全燃焼だが、オーレック領に入る前に食事をする必要があるだろう。


いくら、オーレック当主の娘がいるとしても、何が起きるか分からない。


なにせ、マギーはすでにこの世にいない存在なのだから。


僕達はこの山で最後の食事を摂った。


サヤサとフェンリルが獲ってきた獣はどれもが美味しく料理された。


そして、残り火で干し肉にされ、準備は整いつつあった。


……僕達は更に進み、ついにオーレック領の領都イドニースにたどり着こうとした時……


「シェラ、マリーヌ様。ここでなにをやっているんだ?」


前には数十人の武装した兵が槍を構えていた。


「侵入、拒絶」

「ふむ。この者共が入らせぬと一点張りじゃ。どうしたものかと思案していたところじゃ」


……たしかに、物々しい雰囲気は尋常ではないな。


「僕はロッシュ=イルス!!」

「奴隷商……」

「奴隷商だ……」

「結構、私好みかも」


誰だ? 変なことを言うやつは。


いや、それよりも……


「そうだ。君たちに忌み嫌われる奴隷商だ。まずはここの代表に会わせてもらいたい。話をしたいんだ」


すると奥の方から男が現れた。


鎧に身にまとい、只者ではない雰囲気を醸し出す。


だけど、どっかで見たことが……


「奴隷商!! よく、この地にやってこれたものだな! 貴様のせいでマーガレット様が……」


彼は剣を抜き、今にも斬りかかろうとしていた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。話を……」

「フィリム!!?」


本当に突然だった。


後ろからマギーが走り抜けた。


その直後にはマギーがそいつに飛び込んでいた。


「マ、マーガレット……様!!? どうして、貴女が……」


感動の再会でした。


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