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奴隷商、起きたら衛兵に囲まれていました。

「兄上が乱心したぞ! 衛兵! すぐに兄上を捕らえろ!」

「ははっ!」


これが人生を大きく変えた日に初めて耳にした言葉だった。


僕は前日の酒が抜けていなかったせいか、頭が未だにくらくらする状態で、状況をうまく飲み込めていなかった。


「ガトートス。何の騒ぎだ?」


「しらばっくれるな! この王族の面汚しめ!」


何を言って……


ガトートスは僕の弟だ。


腹違いで正妻の息子だ。


歳は一つ違いだったせいか、妾腹の僕に何かと突っかかってくる。


しかし、今日の剣幕は今までとは比べ物にならない。


衛兵まで動員して、寝所を取り囲んでいる。


「まずは水を飲ませてくれ。頭が痛くて……」

「ふざけるな! この状況で貴様の言うことを聞くやつがいると思っているのか!?」


「だから、一体何のことだ?」


訳が分からない。


ガトートスは一体、何を騒いでいるんだ?


ただ、ベッドにいつまでも居る訳にはいかない。


立ち上がろうと手をベッドに付いた瞬間、感じたことのない感触が手に伝わってきた。


これだけでなんとなく察してしまった。


見たくもないが、見なければならない。


酷い頭痛に襲われながらも、視線を隣に移すと……


そこには裸の女性が……


「エリス! どうして君が……」


ありえない。


彼女とベッドで夜を共にした?


ここは確実に僕の私室だ。


彼女が勝手に入ってこれるわけがない。


だとしたら、僕が招いた?


しかし、そんな記憶は……


頭が痛む。


昨晩は所属している学園の仲間たちを王城に招いて、パーティーをした。


いつもよりは酒を口にしたが、酔いつぶれるほどではなかった。


最後の記憶は……彼女と二人でテラスにいた。


一緒にワインを飲んでいた……そこまでは覚えているが、それから先は……


「やっと自分のどんな事をしでかしたか、分かったようだな。この下衆が! 衛兵、何をしている! 早く捕まえろ!」


酷い頭痛と倦怠感で抗うことも出来ずに、衛兵によって拘束されてしまった。


向かうのは牢獄……と思っていたが、父の前……つまり王の玉座の間に連れて行かれた。


ほぼ裸同然という姿を衆目に晒されながら……


ある人は驚き、ある人は笑っていた。


僕は罪人になってしまった……。


……玉座の間。


何度も来たことがあり、次期後継者として指名されたのが最近の出来事だ。


次期王として、皆の模範とならなければならない。


そう決心を固め、学園生活を送っていたはずなのに……


王の前に投げ出されるように衛兵は僕を突き放した。


無様に地面に転がり、その上で、縄で拘束された。


なんとか……父上に自らの潔白を証明しなければならない。


王族は婚前に他人の女に手を出すことを最大の禁忌とされている。


僕には婚約者がいた。


この王国で最大の権力を持つ公爵家……その一人娘だ。


彼女は僕の幼馴染で、昔から一緒に遊んだりしていた。


いつの頃か、取り巻きを作り、彼女は豹変していった。


美しい顔に泥を塗るように化粧をし、他者に高圧的な態度を取り始めていた。


昔は本当に可愛くて、優しい女の子だったのに……。


それでも彼女を婚約者から外すなんて微塵も考えたこともなかった。


だけど、同時に一人の女性に興味を持った。


彼女は市井の出でありながら、優秀な成績で貴族のみが入学を許された学園に特待生として入ってきた稀有な人だった。


彼女は常に怯えたような態度だったが、僕が第一王子と知っても、態度を皆と接するようものと変わらなかった。


もしかしたら、それ以外の接し方を知らなかったかも知れない。


だが、僕にはそれがとても新鮮に写ったのだ。


それからは彼女と一緒にいる時間が増えていった。


恋仲とか、そんなものではない。


純粋に友情を感じていたのだ。


だが、婚約者であるマーガレットは激怒していた。


それ以来、マーガレットとは顔を合わせていた。


昨晩のパーティーにも顔を出さなかった。


僕は彼女……エリスと他愛もない話をしていただけだ……


それがどうして、こうなるのだ。


エリスをベッドに連れ込み、一晩を共にした?


そんな感情がエリスになかっと言えば嘘になるが、王族として婚約者がいる手前でそんな愚行を起こすことはありえない。


それが例え、どんなに酩酊状態だったとしてもだ。


だから、これは何かの間違いなのだ。


父上なら……王ならば分かってくれるはずだ。


僕を次期王として認めてくださったのだから。


頭痛が少しずつ収まっていく……


「王よ。これは何かの間違いなのです。調べれば、きっと僕の誤解は解けるはず。何卒、調査を!」


ガトートスが何かを王に手渡していた。


あれは……まさか……


受け取った王はじっと手にのった物を汚物を見るように見下していた。


「ロッシュよ。なんて、愚かなことをしてくれたのだ」


……完全に疑われている。


王が手にしたのは一つの魔道具だった。


それは僕が婚約者が出来てから、ずっと身につけさせられていたもの。


そして、清い体であることを証明するもの。


いつもは青く輝く宝玉がついた指輪だったのだが、今は赤黒く光っていた


「待って下さい! これは何かの間違いなのです」

「ならば、これをなんとする? 貴様のもので間違いはなかろう?」


自分の指にはたしかに指輪はない。


いつ、取ったのかも定かではない。


さっき、拘束されたときか?


でも、たしかに僕のものであるのは間違いない。


ふと、王の横にいるガトートスの顔が目に移る。


王には見えていないだろうが、奴の顔は下卑た笑いに満たされていた。


玉座の間から見下し、優越感に浸った表情。


だが、それで確信した。


これは仕組まれたものだと。


だが、どうする?


指輪は本物。


そして、指輪は嘘はつかない。


僕がエリスと不義を交わしたことを明瞭に証明している。


……ちょっと待て。


「王よ。我が潔白はエリスを調べてくれれば分かるはず。不義を交わしたとあれば、彼女の体に変化があるはず」

「おいおいおい。往生際が悪いぜ? 未だに女の体に未練があるのかよ」


こいつは何を言っているんだ?


「そんな訳がないだろう! 僕は断じて、王族を裏切るような真似はしていない! 王よ。何卒、調査を」

「……そんなに言うのなら、調べてやろうだ。だが、身の潔白が証明できなければ、分かっているな? 王族の名を汚した罪は重いものと覚悟せよ」


ガトートスがにやりと笑う。


何かを企んでいるのか?


いや、それはないだろう。


彼女を調べれば、きっと王も分かってくださる。


「じゃあ、俺が連れてきますよ」

「うむ。頼むぞ。こんなことを頼めるのはお前しかいないからな」


王の信頼がガトートスに移っていくような感じがした。


だが、大丈夫だ……。


彼女の体を調べれば……。

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