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オーバーハング  作者: 葉月
一章 戦場の死神
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傭兵

バイザーを閉じ、酸素の供給ボタンを押しベルトをする。アームを握りスイッチを右から順に入れ、大きな破損がないか確認したあと、バイザーに表示された電子のメモ書き通りに、いつも通りの手順を踏んで起動をしていく。少しずつ照らされていく内部で、今度はインコムの具合を確認する。毎日繰り返される神経をすり減らす作業だ。だがここで確認を怠ることで、死に繋がる場合がある。この作業は自分を救う作業だと言い聞かせ、黙々と単純作業をこなす。


「…投下準備OK。いつでも降ろせます。」


こちらの準備が終わった頃に、いいタイミングでオペレーターから通信が入る。これもいつも通りだ。代わり映えのない日々っていうのは本当に気分がいいものだと、少し気分が高揚する。


「了解。普段通り、敵の砲撃が止んだあとすぐに降ろしてくれ。いいな?」


「わかりました。幸運を祈ります。」


返答はしなかったが、これもいつものことだ。直後、身体から牽引フックが外され、重力に応じて落下していく。地面に接する少し前にブースターをふかしバランスを上手く取りながら着地をする。この時は決まって右足からだ。すぐに周囲を確認し、レーダーの反応を確認する。どうやら戦車が8両に輸送トラックが2両、装甲車両が2両。今回の任務と合致している相手の内容に、ほっと胸をなで下ろす。…伏兵が無いかは心配だが、とりあえず今回は楽に済みそうだ。

今日の任務は相手輸送部隊の襲撃。部隊にしては輸送車両が少ないのが気になるが、まあ気にする程でもないだろう。こちらは傭兵、与えられた仕事を淡々とこなすだけで金が貰える。金が貰えればHSの強化にも使えるし、義手と義足の費用にもあてられる。戦車乗りの時には考えられなかったほどの高給だ。…その分出費も多いが。


「…ガガガッ…ゴゴッ…」


機体の近くに戦車の弾が着弾し、衝撃がコクピットに伝わる。振動が心をかき乱し、手に汗を滲ませる。だが、それこそが戦場だ。

命のやり取りをする、良い意味でも悪い意味でも戦場であると言える。戦闘狂ではないが、平和よりこっちの方が性にあっていると確信を持って言えると男は考えていた。


次々と右手に持った大型ライフルで戦車を撃破していく。一兵器には少し過剰すぎるとも言えるほどの大口径なので、戦車程度ならば撃破はたやすい。しかしそれもパイロットの技量あってこそのもの。その点で言えば彼は熟練していると言えた。5両の戦車をライフルで破壊しながら、滑るようにブースターを左右にふかしながら移動していく。その機体の動きに砲撃はまるで当たらず、お互いの力の差は歴然だ。男は相手の技量を見切り、安全だと見越した上で全てのブースターの出力を背後に回す。高速で接近し、エネルギーブレードをすれ違いざまに振り抜く。これも何回もシミュレートを重ねた上で習得された、熟練した技術だ。当然戦車が回避など出来るはずもなく、ブレードの光に飲み込まれ爆発する。最も驚異的な戦車を全て殲滅したことにより、残りは5分もせずかたがつく筈だった。


「…なんだと?レーダーにアラート?…この速度はヘリじゃないな。なんだ?まさか…向こうが雇ったHSか?!」


心の中で舌打ちを何回もしながら体勢を整える。最悪の予想が当たってしまった。もしHSであるならばしっかりと真正面から迎え撃たねばならない。側面や背後から撃たれると甚大な被害を被るからだ。戦車なども例外ではないのだが、HSは桁が違う。戦車よりも大経口の銃を持ち、戦闘機並の速度で動き、装甲車両よりも堅い。地上に存在するありとあらゆる兵器の中で最も優れた存在。

それが相対するとどうなるか…壮絶な潰し合いである。勝つにしろ負けるにしろ機体が壊れることは覚悟しなければならない。費用もかかるし、最悪傭兵稼業ともおさらばだ。デメリットが大きすぎる。なるべく避けたい事案だ。…かと言って、話し合いでなんとかなることではないのでしょうがないと言えばしょうがないが。


「…よう、アンタがこれをやったのか?」


通信が入る。聞き覚えがない声だ。恐らく最近出てきた傭兵だろう。そう決めつけ、戦闘のスイッチを入れる。強ければ逃げなければならないが…有名なやつらの声じゃなくて安心した。


「そうだが、何か問題でも?」


「俺にとっちゃあ大ありだね、こいつらは生きる金塊だったんだ。それをぶっ殺しやがって。お前のHSで弁償してもらおうじゃねえか。悪く思うなよ。」


チッ、このバカが。それなら戦車が潰されてる時に来やがれ。連携を取りながらかかってくるというなら分かるが、後から出てきてその言い草はないだろうと言いたかったがこらえる。そんな無駄なことを言っている余裕はない、気を抜けばスクラップにされるということを知ってるからだ。相手は真正面から盾を構えながら突っ込んできた。…どうやら盾で攻撃しつつ、こちらのコクピットに衝撃を与えて気絶させるのが目論見のようだ。が、


「甘いね。そんな戦法、よちよち歩きのヒヨコちゃんしかやんねぇぞ。」


即座にブースターをふかし、左に旋回しながら躱す。軋みが聞こえ、かなり無茶な体勢ではあるが、この程度で壊れるほどヤワな造りはされてはいない。完全に真横をとり、ペダルを全力で踏みながらブースターの勢いを加算した蹴りを食らわすと、巨大な鉄の塊が砂漠に横たわり、地面が微かに揺れた。


相手は沈黙し、静寂だけがその場の空気を支配する。こちらとしては非力だったので非常に有難かったのだが、少し物足りなさも感じた。…威勢だけの最近の若手と言った感じで、なんとも言えない。


「次はもっと工夫してかかってこいよ。ま、次はないがな。」


誰も聞いていないアドバイスをした後、機体にライフルとミサイルをこれでもかと撃ち込む。死亡確認はしなくても良いだろう、どうせミンチだ。これが傭兵、これが戦場。金さえ貰えればそれでいい。そのためなら障害を取り除くことに躊躇いはない。

依頼内容に無かったHSが出てきた分、報酬を増して貰わないとな。そんなことを考えながらオペレーターに連絡をし、身体を釣り上げてもらう。揺られながら目を閉じて寛ぎ、拠点に帰るまでの間唯一の楽しみである睡眠を楽しんだ。




読んで下さり誠にありがとうございます。

感想、レビュー等頂けると幸いです。

よろしくお願い致します。

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