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第99話 変装とは


 キラはニジノタビビトに準備してくると言って自室に引っ込んだ。自分が自分であると気づかれないようにするにはどうするべきか。ここからキラの自宅に行く道中は林と野原を突き抜けて公園を通り越し、住宅街を突き進んでいった先にある。キラは端末の十メモリの時計と外の恒星シタールタの位置を見て、この時間であれば人手はそこまで多くないと判断した。しかし昼間であることに変わりはないので、ニジノタビビトに迷惑をかけないためにもキラだと気づかれないに越したことはない。

 まず、翡翠の渦に巻き込まれた時の服装が一番ダメだ。だから惑星クルニで永い時を生きた松の色のマグカップと一緒にニジノタビビトが買ってきてくれた服にしよう。それから変装と言っても気をてらったものはいけない。変に大きな帽子だとかサングラスをしてしまえばそれだけで目立ってしまう。だからできるだけ惑星メカニカの人がよくしているような服装かつ、キラであることを隠せるようなもの。


「いや、でも帽子ないんだったわ。そしたらもう髪型でどうにかするしかないか……」


 キラはひとまずニジノタビビトが買ってくれたシャツとスラックスに着替えてから洗面所に飛んでいって、洗面台に左手をついて鏡にぐいっと顔を近づけてながら前髪を摘んだ。ニジノタビビトは急に支度をしてくると言って部屋に引っ込んだと思ったらすぐに出てきて今度は洗面所に消えていったキラに目を見張った。


「前髪をかきあげるか? いや、この服に合わないか……?」


 まるでデート前の思春期の少年のようであった。今のキラに求められているのは、キラのようではないが、普通の人であった。この場合の普通の人とは惑星メカニカの街中にいる二十歳を過ぎた頃の成人男性の服装髪型の平均値である。

 惑星クルニで売られていたこの服は惑星メカニカでもよく見るような少しだけ襟と袖に唐草の刺繍の入った生成色のシャツである。ニジノタビビトも購入するときにこれから色々な星に行く予定であることと、キラの趣味も分からないことからシンプルなデザインのものを購入していた。

 キラは惑星メカニカで生活していた時はTシャツやスウェットばかりでこういった襟付きのシャツはアルバイトの制服くらいでしか着てこなかったので、キラがあまり着ない方向性の服という点で幸いしていた。

 キラの髪はこの四ヶ月弱で五センチほど伸びていた。なんだかいつもよりも髪の毛の伸びが早いような気がしたが、宇宙空間に長くいたことでも関係しているのだろうか。

 変に髪の毛をいじるよりもこの長さを生かすことにして、惑星メカニカにいたときはおろしていた前髪を真ん中で分けて横に流すことで雰囲気を変えることにした。宇宙で生活するようになってから、後ろ髪は惰性で伸ばしたままにしていたが、前髪は邪魔だと思うとその都度適当に切っていた。普段からまあいっか、と自分で切る事があったのでいつも通りにできた。

 最後にワックスがわりに保湿クリームを指先二本分取ってちょちょいと調整したら、うん、いつもと雰囲気が違う気がする。


「よし、こんなもんか……」


 キラが思うに、変装で大切なのはいつもとは違う雰囲気をいかに馴染ませるかだと思うなんて少しスパイ映画のエージェント気分で鏡の中の自分にひとつ頷いて見せた。

 キラはちょっと慌てていたので気づかなかったが、ニジノタビビトなど今のキラをひと目見てキラだと気づく人にしてみればその変装はちょっとしたイメチェンのようなものであった。



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