第91話 小さな呪い
ニジノタビビトとキラはおよそ二週間間隔での補給を繰り返しながら惑星メカニカに着実に近づいていた。恒星には番号が振られており、その番号は近ければ近いほど恒星と恒星の間の距離も近い。番号は降り始めた当時、あまり数字が近いと識別という面から不都合が色々あったらしく、使われていない番号の方が多かったりする。
ラゴウやケイトと出会った星、惑星クルニが属する恒星に振られた番号は六二四で、惑星メカニカで言えば七五六である。
昨日食料補給した星は第七三七系、第四準惑星であった。差はあるが、ニジノタビビトの宇宙船であれば二十日程で恒星の番号にして十五から二十五進むことが出来る。
先も言ったように、番号は使われていないものも多い。また、恒星と恒星の間の距離が等しいわけもないのでどうしても差が出てしまうのだ。
二人いる分酸素や水の資源に余裕を持たせるため多少小刻みではあるが、第六二四系、第七惑星クルニから飛び立ち補給目的の第六五二系に着くまで十七日、その次の補給目的の星まで十五日、さらにその次の星まで十七日と繰り返してきた。その結果、星から星までを平均十六日で移動し、惑星クルニから昨日発った第七三七系までにかかった日数、八十二日。
「キラ。予測、出たよ」
ニジノタビビトがキラの作るご飯やお菓子を食べるときとは違った、少し低い落ち着いた声で呼びかけた。
昨日は補給に時間がかかってしまってバタバタしたことと、ニジノタビビトに少しだけ後回しにしたいという後ろめたい気持ちで詳細な日数の算出をしなかったが、さすがに今日もやらない訳にはいかなかった。
そして宇宙予報と衛星、ブラックホールや恒星の重力をもとに算出された第七五六系、第三惑星メカニカまでにかかる日数は十八日。
もちろん、今後の状況によって変動する可能性はあるが、惑星クルニから旅立ってちょうど百日となる日が惑星メカニカに着くその日となる。
当初ニジノタビビトはキラと出会った準惑星アイルニムから惑星メカニカまで補給なしで行けたとして最短で二ヶ月半という話をしていたので、そこから考えると随分と早くつけることになった。
「そっか、それくらいか。三週間もないんだな……。あっという間だ」
惑星クルニから惑星メカニカまでちょうど百日。まだまだ二十歳を過ぎたばかりの、ユニバーシティに通っていた少壮にとっては、とても長くあっという間という矛盾もある期間であるはずが、ただのあっという間になってしまった。
キラとてこの三ヶ月程を何もせずに過ごしてきたわけではない。キラは短すぎるほどではないが決して長くはないこの期間の一日一日を大切に、自らの心にすり込むようにして生活してきた。
このニジノタビビトとの日々を少しでも忘れることなどないように、幼少期に四十日でやめて以来の日記だって始めた。それでもいつかこれらの日々の記憶が薄れてしまうのかと思うとやるせなかった。
それから、キラはニジノタビビトに何か感謝の印に渡せないかということも考えていた。しかしキラに金はないし、所持品もこれといってない。では自宅に戻れば何かあるかと考えたがこれも特に思い当たらないし、自宅にあるもの自体をそこそこ忘れ気味だ。
そこで考えたのが、ニジノタビビトでも作りやすいレシピをまとめて渡すということだった。そこには健康的であって欲しいという願いと、自分と食事をしたときの楽しさを忘れないで欲しいという気持ちと、レシピを開く度に自分のことを思い出して欲しいという小さな呪いも、あった。




