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第86話 飛び立つ宇宙船


「それじゃあ、宇宙船が飛び立ちますので、危険ですから入り口を閉めたら離れていてくださいね」

「ああ、分かった」


 ニジノタビビトとキラは後ろ髪を引かれながらタラップをゆっくりと登って振り返った。ニジノタビビトは少しだけためらった後、決心したようにタラップをしまうためのスイッチ、それから入り口を閉じるためのスイッチを押した。二人はラゴウとケイトが見えなくなるギリギリまで背伸びをしたり横に跳んだりして手を振っていた。

 ラゴウとケイトもタラップが完全に上がって入り口が閉じてしまうまでずっと手を振っていた。ガコンという音を立てて入り口が閉まると、ラゴウもケイトも数秒そこで停止したが、宇宙船が無事に飛び立つところを見守るためにあの虹を見た丘の上に登った。

 そのまま少し待つと、宇宙船が虹をかける時と同じようなブオンという音を立てて起動した。


 ピ、ピ、ピーッ!


〈まもなく離陸に移ります。離れてください。繰り返します。まもなく離陸に移ります。離れてください〉


 一度聞いたことのあるアナウンスが流れる。先日、ラゴウが虹をつくった日に聞いたもの。

 あの時宇宙船は上空で停止してすぐに戻ってきたが、もうあの白くて大きな多面体の角を少しだけ丸くしたような、遠目に見たら丸く見える、家ほどあるであろう宇宙船は戻ってこない。


 ピピ、ゴウン。ブウゥーン。


〈離陸まで二十秒前、十九、十八……〉


 もうカウントダウンが始まってしまった。ニジノタビビトとキラは、窓やカメラ越しのモニターからラゴウとケイトを見ていてくれるだろうか。自分達が今手を振り続けている姿は見えているだろうか。あの二人のことだ、きっと、見てくれている。

 その間にもカウントダウンを続ける機械のアナウンスは無情にも丁寧に一つずつ数字を削っていく。


〈五、四、三、二、一、ゼロ〉


 キューン、ピピッ、ガウン!


 宇宙船の下から土煙がたちこみ始めた。もう少し浮いているのだろうか。ああ、もう、さよならだ。どうか永遠のさよならになりませんように。そう思いながら今にも飛び立っていきそうな宇宙船を見守るしかなかった。


 ゴゴゴゴゴ!


 轟音と先程よりも激しい煙を立てて宇宙船がゆっくりと浮き上がる。先日も見たはずだが、こんなにも激しい音と煙だっただろうか。まだゆっくり、少しずつ上がっている。

 あっ。

 急に浮上するスピードが速くなった。この前に見た時はカケラの生成が終わった後ということと、その後すぐに控えている虹に気を取られてこんなにも宇宙船の浮上を意識して見ていなかった。

 宇宙船は上昇するスピードをどんどん上げて、すぐに目線の高さを超えてしまった。ラゴウとケイトはどんどん遠ざかって白い丸から白い点になっていく宇宙船を見上げて変わらず大きく手を振り続けた。


「どうか、どうかあの二人の旅人に、幸多からんことを」


 「またいつか」という願い。それからあの友人になれるだろうかと思っていた、友人となった年下の二人の旅路の無事を祈る思い。願いや思いというものは、大きな力となり得るものである。自分達の願いが、思いが、あの二人にとって幸いな形として実を結べばいいとそう思っていた。

 ラゴウとケイトは宇宙船が白い点となって薄青の空に溶けても、まだしばらく、大きく手を振り続けていた。




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