第85話 またいつか
「それじゃあきっと、連絡してちょうだいね。きっとよ」
「ええ、惑星メカニカまでは数日留まったりしませんが、途中の食料補給をする星でも送るだけ送ります」
ケイトとニジノタビビトがそうして握手をするように手を取り合って約束をしていた。キラはその少し離れたところでラゴウと話していた。
「キラくん、そのペンダント、大切にしてくれな」
「もちろんです。あの、俺に託すことを許してくれてありがとうございます。これがあればあの虹を何度だって鮮明に思い出せるし、ニジノタビビトが、レインがしていることがどんなことなのか見失わずにいられます」
「それなら良かった。正直な話、君が実際にそれを首からかけているのを見て少し小っ恥ずかしくなりはしたんだが……。そう言ってくれるなら私も嬉しい」
キラはニジノタビビトが虹をつくれる人を探す時のように強く、しかし優しく胸のみどり色を手のひらに握り込めた。
相変わらずこのカケラが自分に何かを教えてくれることはないし、熱を持つこともなかったが、最初にニジノタビビトが触らせてくれたカケラよりもずっと暖かくて、輝いているように思えてならなかった。
「キラ、そろそろ行こうか」
ケイトとの挨拶を終えたニジノタビビトがゆっくりキラとラゴウの方に近づいてきて言った。キラはカケラを握りしめたままこくりと大きく頷いた。
ニジノタビビトとキラは宇宙船のタラップと地面の境目の辺りに立ってすぐ後ろのラゴウとケイトの方に振り返った。
「それでは、さようなら、ラゴウさん、ケイトさん」
「さようなら、お元気で」
「ええ、あなたたちも元気でね」
ケイトはすぐにそう返事を返したがラゴウは黙ったままだった。それに不思議そうに三対の視線が集まったが、ピクリとも肩を動かさずに、しかし一度喉仏を上下させると確かな勇気と共に言った。
「…………また、またいつか」
ラゴウは長い沈黙の後、そう強く強く言った。ラゴウはこの言葉に並々ならぬ思いを込めていた。
もう会えない可能性の方がずっとずっと高いことぐらい当然分かっていた。きっとこの先、四人で集うことはもうないだろうと。しかし、それでもさよならという別れの言葉だけをこの二人に言うことだけはしたくなかった。たとえ想像の通りこれが今生の別れになったとしても、少しでもまた会える可能性があるのならば今から最後だと決めつけて別れの言葉だけを口にはしたくなかった。
そしてラゴウはこの、自分の「またいつか」という願いにも似た言葉が、キラにとっての「またいつか」を言えるきっかけとなれればいいとも思っていた。
ああ、もっと簡単に宇宙を巡れるようになれれば私たちは、何よりこの青年はニジノタビビトとの仲らいを諦めなくてすむだろうに。
「ええ、また、またいつか」
ニジノタビビトはラゴウの言った「またいつか」は約束ではなく、願いであると気がついて、自分の願いも込めて言葉にした。
「そうね、またいつか」
「はい、はい……。また、またいつか」
この場にいる誰もが四人揃ってもう会することはないだろうという気がしていた。もしかすればニジノタビビトはラゴウとケイトに会いに来れるかもしれないが、その宇宙船にはキラは乗っていないだろう。
それでも皆、「またいつか」という願いを抱かずにはいられなかった。四つの願いと四人の同じ言葉が実を結ぶことをこの場の誰もが願ってやまなかった。




