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第84話 希望的観測


「やはり、寂しくなるなあ」


 ラゴウたちが持ってきたビニール袋をキラが二つ、ニジノタビビトが一つ持って宇宙船の中に持って行った。

 恩人と別れる寂しさだってあるが、それよりもあの年下の二人と友人になれそうな気がしていたのに。あの、真っ直ぐであるからこそ間違いもする青少年たち。確かに出会いは不思議なもので、その後自分はあの二人と一度袂を分かったけれど、二人の諦めの悪さが自分を突き動かしたのだ。


「本当に、あの子たちは離れ離れになってしまうの……?」

「彼は、キラは、事故によって知らない惑星に飛ばされてしまったところをニジノタビビトに拾ってもらえたらしい。次の目標の星を彼の故郷に設定できるくらいの燃料を得られたらしくてね」


 キラは自分が《翡翠の渦》によって飛ばされた先でニジノタビビトと出会えたことを、運が良かったと思っている。それは事故に巻き込まれたその日に自分の故郷である星まで送り届けてくれるという人に出会えたことこそが始まりであったが、今となっては友人として、ニジノタビビトに、レインに出会えたことを幸運だと思っていた。

 そのキラが、この先のニジノタビビトとの別れに際して、どうか、こんな思いをするならばいっそ出会わなければよかったなどと思うことがないように願っている。



「どうします? 中でお茶でも飲みますか?」


 ビニール袋を宇宙船のキッチンに置いて、二人はすぐに戻ってきた。


「いや、見送りに来ただけだからね。あまり邪魔をしても申し訳ないから今日は遠慮させていただこう」

「そう、ですか……。じゃあ私はこれから最終確認をしてきます。キラはお二人とお話してて」


 ニジノタビビトはそう言って踵を返して行ってしまった。キラはニジノタビビトの方を随分と気にしていたが、確かにわざわざ手土産を持っている見送りに来てくれた二人をそのままにしておくことも出来なくてソワソワした。

 ケイトはキラのそんな様子を見てクスクスと笑って軽く右手を振った。


「ほら、いってらっしゃいな。私たちのことは気にしないで? 最終確認なら二人でした方がいいでしょうし」

「あっ……じゃあ、すみません。すぐ戻ります!」


 キラはバッと頭を下げるとニジノタビビトを駆け足で追っていった。


「本当に、どうにかあの子たちが別れなくていい方法はないのかしら……」

「私たちも少しでも何かできないか方法を考えよう。ひとまず、これを渡してみようか」


 ラゴウは半分に折りたたまれた白い紙をジャケットの胸ポケットから取り出すと人差し指と中指で挟んでみせた。



「えっと、これは?」


 確認を終えて戻ってきた二人にラゴウは先程の白い紙を差し出した。


「私たちの座標と一応連絡先だ。星が離れると通信がきかなくなるが、私たちの座標は分かるだろう? そうしたら一方通行でも君たちからの発信は可能かと思ってね」

「どこかに長い間いることになったらすぐに座標を教えてね。返したときにあなたたちがまだそこにいるかは分からないから必ず届くとは言えないけれど、絶対にすぐさまあなたたちに返事をするわ」


 ラゴウとケイトは二人のこの先の別れが生涯の別れにならない方法は何かないかと考えた。通信端末はあるが、あまりにも離れてしまうと通信はできない。いや、正確に言えば全くできないことはないのだが、そのような端末を一個人で持つにはそれ相応の金銭が必要になってしまう。

 そこで考えたのが座標を元に行う発信で連絡を取るという方法だった。

 これは片方が移動し続けているのであれば一方通行な上に、えらく時間がかかるのでニジノタビビト側は返事を受け取れない可能性もあるが、それでもその星に滞在する日数が多ければ一応通信が可能ということになる。

 ラゴウとケイトは、これであればあるいは、惑星メカニカに帰ったキラと自らの目的のために宇宙を旅し続けるニジノタビビトが交信することができ、永遠の別れにはならないで済むのではないかと、希望的観測も込めて考えたのだ。



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