第83話 餞別第二弾
「レイン! これこっちでいいか?」
「えっと、うん。それでタンクの中の確認もう一回お願い!」
虹をつくれたらこの星を発つということはラゴウと出会う以前から分かっていた事だったので、ラゴウの虹をつくる日が確定してから旅立ちに向けて少しずつ荷物の整理をしてはいた。それでも停泊中に出していた荷物をしまったり、補給した食料や水、酸素の量を再び確認するなどバタバタとしていた。
何より大事なのは燃料、食料、水、酸素の四つなので、これらはそれぞれが確認する二度のチェック体制をとることにした。今までニジノタビビトだけだったのが、二人分になったこともあるので、よくよく確認することにしたのだ。
「よし、水も酸素もタンクは満タンだな」
キラは宇宙船の外に出て水と酸素のタンクのメモリが満杯になっていることを確認した。これはもちろん中からも確認できるのだが、宇宙船内で確認するには一度メインモニターをつけるか、キッチンの奥にある狭い保管室の奥で見なければいけないので、宇宙船外に出られる状況であるのならば、外側から確認した方が早かったのだ。
「やあ、キラ」
ついでに宇宙船の下の方にくっついた葉っぱなんかを取って、手をパンパン叩いて払っていたキラに声がかかった。ニジノタビビトとは違う、低く落ち着いた声、ここ最近で何度も聴いてもう耳に馴染んだ声。
「あ、ラゴウさん、ケイトさんも!」
屈めていた姿勢を元に戻して、声のした方を見るとラゴウとケイトがすぐそこまで来ていて、キラに手を振っていた。二人は何か色々と荷物を持っていて、それぞれ片手がビニール袋で塞がっていた。白いビニール袋をラゴウが二つ、ケイトが一つ持っている。
キラは胸元にかけたワイヤーペンダントを弾ませながらラゴウとケイトの方に駆け寄った。
「これ、この星のお土産。だいたいは長期保存のきく食べ物だけど、お菓子がいくつか入ってるからそれは一週間からひと月くらいで食べたほうがいいやつなんだ」
「えっ……わざわざありがとうございます。今レイン呼んできますね!」
キラはそう言うと三つの袋を受け取ってレインとニジノタビビトを呼びながら宇宙船の中に駆けていった。
「ねえ、ラゴウ。首にかけていてくれたわね」
「いや、うん。そう、だね……」
ケイトはラゴウが走り去っていくキラの胸元で弾むみどり色を面映い気持ちで見ていることに気がついて少しだけからかうような気持ちも込めて言った。
あのワイヤーペンダントについてはラゴウが許可どころか提案をしているので何かを言うわけではないが、昨日の今日で首にかけていてくれたものだから小っ恥ずかしくて仕方がなかった。
「ラゴウさん、ケイトさん! こんにちは」
「やあ、ニジノタビビト。出立の準備は順調かい?」
「はい、もうほとんど終わりました。あと最終の確認をしたら、もう」
「そうか……」
ラゴウは寂しさを滲ませて笑いながら、しかしそれを振り切るようにキラが持っているビニール袋を指差した。
「それは私たちからの餞別だ。長期保存のきく食べ物がほとんどが、少し早めに食べた方がいいものもあるから後で見ておくれ」
「それから、ボードゲームもいくつかあるからよければそれで遊んでね」
「こんなにたくさん……。ありがとうございます」
ラゴウとケイトはニジノタビビトが謝るのではなく、お礼を言ったことに満足そうに笑った。




