第82話 ひとつのカケラ
スコーンをそれぞれ二個ずつ完食してもまだ二人とも入りそうだったので、キッチンのケーキクーラーの上に乗せておいた残り二個も二人で食べてしまった。
食後のお茶を飲む頃にはニジノタビビトも眠そうではなくなった。
ニジノタビビトはミルクティーの入ったマグカップを両手握りしめてキラに話し始めた。
「キラ、今回ラゴウさんは生成できたカケラのうち五つを託してくれた」
ニジノタビビトは片方の手を着ているパーカーのポケットに突っ込んでそこに入れたものを軽く握りしめてからテーブルの上に乗せて、キラに見せるようにそっと指をほどいた。
「このカケラの一つはキラが持っていて」
キラはその手のひらにあるものに見覚えがあった。見覚えがあったからこそ、目を見張ってニジノタビビトが何を考えているのかを伺おうとしてそのグレーのようなそれでいて光の加減で色を変えるどこか不思議な目を見た。
ニジノタビビトが差し出したのは、ラゴウが生成したカケラの一つであるみどり色のカケラだった。しかもただのカケラではなく、カケラの周りをワイヤーでぐるっと巻き付けてあってワイヤーペンダントに加工されていた。
ニジノタビビトはキラとケイトがスーパーで買い出しをしている間に、ラゴウに託されたカケラのひとつをキラに一つ預けてもいいか聞いておいたのだ。キラはこの後惑星メカニカに帰るのだから宇宙船から離れてしまうことになるが、あの虹と、それにまつわる出会いを忘れて欲しくなくないと思って、カケラの一つをキラに託せないか考えていた。そしてそれにはカケラをつくった人であるラゴウの同意が当然必要であった。
もちろん、ラゴウがカケラの全てを引き取りたいと言った場合には一も二もなく渡したし、その場合にはまた何か渡せるものを考えようと思っていたが、これ以上のものがないだろうとも考えていた。
ラゴウはニジノタビビトの伺いに躊躇う様子もなく許可したし、そうであるならばとラこういう加工方法があるということでワイヤーペンダントを教えてくれて、手芸店でのワイヤー選びにも付き合ってくれた。
ニジノタビビトは散々繊細なものを扱ってきたが、こうした手先に集中する細かい作業をしたのは初めてだったものだから、最初は思うようにワイヤーを巻けずにぐちゃぐちゃにしてしまった。しかし寝不足になったかいもあって、夜自室に引っ込んでからせっせと作ったワイヤーペンダントは満足のいく仕上がりになった。
「いや、でも、これ……」
キラはいろんな気持ちを抱い抱いたが、何より強かったのは嬉しいという気持ちだった。ニジノタビビトの役に立って、ラゴウの手助けを微力ながらも努めることができて、何よりあの感動をもたらしてくれたカケラだったのだ。しかもニジノタビビトは自分が持っている以前生成されたケラは大切に保管していると言っていた。その一つを自分に、わざわざ加工をしてまで渡してくれたことが嬉しくて仕方がなかった。
「大丈夫、ラゴウさんに話してカケラの一つをキラに渡すのに許可はもらってあるよ。キラ、このカケラはどうか君が持っていて」
キラの協力があったからこそできたカケラを一緒に持っていたくて、キラとの思い出をキラにも残る形にしたくて、そしてどうかあの虹と、それをつくるために宇宙を旅するニジノタビビトという存在がいたことを忘れないでいてほしいとそう願っている。




