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第8話 《翡翠の渦》とは


「翡翠の渦は第七五六系、つまり恒星シタールタ系の第三惑星メカニカでここ数年観測されるようになった現象で、一応他の惑星では観測されていないようです」



 翡翠の渦が惑星メカニカで初めて観測されたのは八年前のことであった。観測されたのがこの時というだけなので、本当はもう少し前から存在していた可能性も考えられている。

 その名前の通り翡翠のような色味を持った渦で、緑色と乳白色をベースとし、ところどころに薄紫が混じっていたりする直径二メートルから四メートルほどの大きさの渦である。


 何もしなければただそこにあるだけで、近づいても触れさえしなければ何もなく、早ければ数分で、遅くとも五時間程度で音もなくほどけるように消える。空中に発生するため、地面を持っていくことはなかったが、時折ガードレールや支柱、生垣なんかを持っていってしまうことがあった。時折というのは、人工物や自然物は持っていかれたり持っていかれなかったりと、まちまちであったためであった。


 翡翠の渦が問題視されるようになったのは、興味本位でこれに触れた人間が吸い込まれ、どこかに消えてしまうという事件が起きてからであった。

 それ以降、翡翠の渦について研究しようとする研究者はいたものの、いつどこに発生するのかてんで分からないこともあって大した成果は得られず、とにかく翡翠の渦は見つけても近づかず触れないようにして消えるのを待つしかないという状況であった。


 しかし、なんの前触れもなく現れる翡翠の渦はごくごく稀に、人を拐った。


 翡翠の渦が発生したその場所にたまたま人がいたことにより、この八年で片手で足りるほどではあるものの、消えてしまった人間がいた。消えてしまった人間は消息が掴めず、もう亡くなってしまっただとか、どこか亜空間に放り出されただとか、未来や過去に行ってしまったなんて説がまことしやかに噂されていた。


 誰も彼もが分からなかった翡翠の渦の被害者の行き先は四年前、隣の隣のそのまた隣の惑星、つまり第七五六系、第六惑星カシルカから通信が入ったことで急展開を迎えた。惑星カシルカは自然保護の観点から、星に降り立つことに厳しい制限のある第五惑星イニーカの管理を務めていた。その惑星カシルカが惑星イニーカで定期的に行なっている観察で、人間のご遺体を発見したのだという。

 回収されてきたそのご遺体は、大部分が白骨化していたが、風化したのであろう痛んだ服とロケットを身につけていた。惑星カシルカはその着用していた服にデザインされた言語が惑星メカニカのものであったことから、通信を入れてくれたらしかった。


 その後、ご遺体は惑星メカニカに移されてすぐに個人が特定された。身につけていたロケットに書かれた名前が、五ヶ月前に翡翠の渦に巻き込まれた被害者であったためであった。翡翠の渦に人が巻き込まれるのはとても珍しい事故であるため、その度に何度も報道され、改めて翡翠の渦に対しての注意喚起が行われていた。巻き込まれてしまった人の名前も大々的に報道されていたため、ご遺体を確認した検視官と研究者にも名前を覚えていた人が何人もいた。


 こうして今から四年前に翡翠の渦に巻き込まれた人間は亜空間でも未来でも過去でもなく、どこか別の星に放り出されてしまうらしいことが判明した。



「ただ、翡翠の渦に巻き込まれた人間の行き先が判明したところで、巻き込まれなくなるわけではなかったので、まあ、予備知識のようなものがほんの少し備わったくらいです」


 初めて翡翠の渦が観測されてから八年間で、記録上巻き込まれた人間は四人。一人目は翡翠の渦に興味を持って触れてしまった人、二人目が惑星イニーカに飛ばされたロケットの人、三人目と四人目は並んで歩いていたカップルで、巻き込まれた一人にもう一人が手を伸ばしてしまい、共に巻き込まれてしまった。


「そして、記録上五人目が自分です。翡翠の渦は本当になんの前触れもなく現れました。突然自分がどこか浮いたような感覚になって、そこで初めて自分が何か緑色のような白色のようなものに触れていることに気がつくんです。ただ気がついたときにはもう意識は薄れ始めていて、次に目を覚ましたら、自分はこの星でした」


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