第75話 キラとラゴウ
ラゴウとケイトがおすすめするレストランまでの道すがら、何故かキラはラゴウと並んで歩いていた。というのもケイトがニジノタビビトに話しかけて歩き始めたので、自然とその後ろからキラとラゴウが並んで続くことになったのだ。
「君、ええと、キラくん?」
「あっ、はい」
五歩先で何やら色々と話している二人をぼんやりと眺めていると、沈黙を気にしたのか、聞きたいことがあったのかラゴウが話しかけてきた。
「君は確か、色々あってニジトタビビトと共に旅をしていると言っていたな。どうしてなのか、聞いても?」
「あー、それは、ですねえ……」
どう話したら、どこまで話したらいいものか悩んだが、別に話して困るようなこともないので簡単に、かいつまんで話すことにした。
「その、俺は故郷の星で原因とかが全部分からない現象に巻き込まれて知らない星にとばされちゃったんですよね」
「は、それは、また……」
キラはアハハと苦く笑いながら、ケイトの勢いに押され気味の、しかし楽しそうなニジノタビビトを見つめて思いを馳せるように目を細めた。
「でも、その飛ばされた準惑星でレインと出会いました。なんとか頼み込んで、というかまあ同情につけ込めるだけつけ込んで宇宙船に乗せてもらいました」
もちろん《翡翠の渦》なんてものに巻き込まれて知らない星に飛ばされてしまったこと自体は不幸なことでしかなかったし、その時の絶望は今思い出しても酷いものだ。
しかしその先に起きた出来事は、もしかしたら自分はこの出会いとこの光景のために生まれてきたのではないかと思わせるようなものだった。
「そりゃあ、知らない星で一人ぼっちで目覚めた時には絶望しましたけど、でもレインと出会ったことは、ラゴウさんの虹を見れたことは運命だと思わざるを得ないくらい劇的なものでしたよ」
「そう言われると、なんか恥ずかしい気もするな。……どうした?」
さっきまでニジノタビビトの方を優しい目で見ていたのに、キラは俯いて眉を寄せて唇を突き出して、どこかつらそうな顔をしていた。
「これは、決して悪いことではないんです。元々決まっていたことだけど、でもあんなにもレインが自分の中で大きな存在になるなんて思いもしなかった」
要領を得ないキラの言葉を不思議に思ったが、特に突っ込まずにラゴウは聞いていた。キラはまだ俯いたままニジノタビビトとケイトの靴と地面だけを視界に入れていた。
「俺、もう帰れる目星がついたんです。次の目的の星を故郷の、第七五六系の惑星メカニカに設定できるって」
ラゴウはそれが自分のカケラが持っていたエネルギーが大きかったことによるものと察した。そしてキラがそれを望んでいないことも自分が謝るのは筋違いだというのは分かっていたが、どこか申し訳ない気持ちになった。キラも、もちろんニジノタビビトも、ラゴウのカケラから得られたエネルギーが強大であることをこれっぽちも悪いことだとは思っていない。しかし、心の準備ができていなかったことも確かなので、ずっと気持ちの整理がつけられないでいるのだ。
「きっと、私が声をかけてやれることなんて少しもないんだろうが、それでも、手を握ってくれる人の手は多少力を入れてでも握っていた方がいいよ」
「二人とも別れてすべきことがあって、でも、もう二度と会えない可能性が高いのに?」
「手を握ってもらっている、というのは手が届く範囲にいなくても実感できたよ。私は君たちに出会うまでしばらくケイトと会っていなかったが、ずっと、どこかでケイトの手の温もりは感じていた。それでも、君たちのように別れが目に見えていたわけではないから本当は、何も言えることはないんだな」
ラゴウはこの自分からすればまだ大人になりきっていない青年に、数年早く生まれた先輩として何か、何か声をかけてやりたかった。それでも、「虹をつくる」という類まれなる経験をした今でも、よっぽど不可思議な経験をして大切な友との永遠に近いかもしれない別れが控えている青年にかけてやれるいい言葉を思いつくことができないでいた。




