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第73話 カケラの行く末


 今日はラゴウと会う約束がある。エネルギーを抽出したカケラをラゴウに返すか聞かなくてはいけない。今日は二人が直接こちらに来てくれると一昨日に言っていたので、ニジノタビビトはトレーに布を敷いてカケラ七つ丁寧に並べてテーブルの上に控えておいた。

 昨日は二人してポロポロ泣いてしまったので少しだけ目に違和感があった。キラは時々目頭を揉むようにしたり、軽く撫で付けるように擦ったりしながら朝食の後のお茶を口に含んだ。


「そういえば、二人が来てもいつ来たのか分からなくないか?」

「そっか」


 この宇宙船に来客というものが訪れることがまずないので失念していた。ニジノタビビトは立ち上がると、彼らが宇宙船に入ってこれるように入り口を開けた。キラも何となく後ろから着いて行って外を見た。


「あっ、あれラゴウさんかな」

「えっ、どれだ?」


 キラは膝を軽くおって手を付きながら首を突き出してニジノタビビトが指差した方に目を凝らした。

 街から宇宙船の着陸が許可されている草原まで続く道、黒っぽい背の高い人と、白く翻る布を纏った隣に比べて小柄な人が二人並んで歩いてきている。

 ここにわざわざ来る人というのは、好奇心旺盛な人や探検にでも出た子供が宇宙船の見物に来るか、ニジノタビビトとキラに用のあるラゴウとケイトくらいなものなのであれはきっと二人だろう。

 キラは毎年の健康診断で視力は余裕でA判定だったので、自分が視力がいいという自負が多少なりともあったが、ニジノタビビトが自分より前にいたとはいえよく気づけたなと目を剥いた。


「ラゴウさーん! ケイトさーん!」


 ニジノタビビトはタラップを降りて手を振った。

 二人は大きな声で呼びかけてくるニジノタビビトに気がついたようで、ラゴウは胸元で軽く、ケイトはこちらに見えるように頭の上で手を振り返した。


「やあ」

「こんにちは」

「こんにちは。ラゴウさん、その後お加減いかがですか?」

「ああ、特に異変はないよ。……いや、異変はあったか、なんというか気分が軽くなって呼吸がしやすくなった感じかな」


 ラゴウはなんだか雰囲気が違って見える。重苦しい堅そうな人だったのが、今は真面目で丁寧で少しだけ荒いところとお茶目があるような人だとキラは思った。こんなに朗らかに笑う人だったというのは知らなかった。出会った時はその瞳の色と雰囲気から夜の似合う人だと思ったが、今は日差しの強い晴れの日が似合う人だと思った。


「さあ、中へどうぞ」


 ニジノタビビトは二人を中へ促してテーブルについてもらった。キラはニジノタビビトが中へどうぞと言ったのを合図に先にキッチンに行ってお茶とお茶菓子を出してきた。昨日はお菓子を仕込むような余裕がなかったので今日のお茶菓子は全て購入してきたものだった。


「まず、こちらがラゴウさんのカケラから宇宙船が次の星に行くためのエネルギーを抽出させていただいたものです。いや、驚きました、エネルギーが見たことないくらい大きかったんです」


 ニジノタビビトはラゴウと隣に並んで座ったケイトの方にトレーに乗せたカケラを差し出した。ラゴウはそのカケラに変わりがないか確かめるように右の端っこにあったあか色のカケラを親指と人差し指でつまんで光に透かすようにした。


「それで、カケラはどうなさいますか?」


 ラゴウは一度ケイトと視線を交えてからカケラをトレーの上に戻してニジノタビビトの方に向き直ると、一度唇をなめて湿らせてから話した。

 ラゴウは自分の感情を具現化したカケラの全てを手元に置くことを希望しなかった。つまり、一部のカケラだけを手元に残すことにしたのだ。

 彼は全てを手元に残すのは少しだけしんどい気がして、しかし全てを手放すには惜しく、ケイトとも話し合って互いの瞳の色に似た、あんず色のようなだいだい色とあい色を手元に残すことにした。ラゴウの瞳は黒真珠のような色で虹にもカケラにもない色だが、ケイトがこのあい色は光の加減によってはラゴウの瞳と似ていると言ったのでその二つを手元に残すことにしたのだった。


「分かりました。それでは他の七つのカケラは私の方で引き取りますね。今まで預けてもらったカケラたちと一緒に私と宇宙を旅してもらうことにします」

「ああ、よろしく頼むよ」


 ラゴウは少しだけ名残惜しく、カケラに視線をやった。




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