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第67話 いざこの青空に


「雨が、止みましたね」


 ニジノタビビトが窓から空を見上げて言った。それから念の為にと宇宙船の入り口を開けてタラップの途中に立って空を見上げた。すぐ後ろにはキラが、タラップと入り口の間にラゴウとケイトが立って一緒に空を見上げていた。

 ニジノタビビトは青い空を少し睨みつけるようにして、振り返って強い表情をしたままラゴウの方を見た。


「ラゴウさん、はじめましょう」

「ああ」


 いよいよ、この青空にラゴウのつくる虹がかかる。

 ニジノタビビトはさっきキラに背中を押してもらったので強く確かな気持ちのまま、虹をつくることに臨むことが出来る。

 ニジノタビビトは改めて機械とラゴウの感情を具現化したカケラの待つ部屋のドアを開け放って中に入った。それから後ろから三人がついてきていることを確認して、ラゴウが部屋の中に入ってきたのを見てからカケラを覆うカバーを一度外した。


「それではこれからこの機械の電源を私が入れます。もう先ほどスイッチを押してから時間を置いて動くように設定しました。ラゴウさんにスイッチを押してもらった後はもう外に出て待機していれば宇宙船が打ち上がり、虹をかけます。スイッチを入れると変更ができませんからもう一度カケラの並びの確認をお願いします」


 ニジノタビビトが手で差した先。ラゴウが所謂精神世界のような白い空間に没入して、渦になった感情から引き出してぎゅっとしてつくったカケラたち。

 ラゴウはこれが自身の感情の具現化したものであるというのが不思議な感覚だったが、少しの時間を置いて見てみると、込み上げてくるものがある。自分はアーティストでも親でもないから作品や子など自分の一部のようなものを送り出す経験というものがなかったが、きっとこのような感じなのだろうと思った。不安も確かにあるが、このカケラの、感情の元になったものにはケイトと過ごした日々だってあるのだ。ケイトが隣に立って、自分の手を取って握りしめてくれる今、不安よりも自信が勝っていた。

 カケラはラゴウから見て左から順番に、あか色、だいだい色、き色、みどり色、あお色、あい色、むらさき色と並んで一つ一つがキラリと部屋の明かりを反射する。

 キラだって宝石ぐらい校外学習の博物館だとかお金持ちのご自宅訪問みたいなテレビ番組で見たことがあったし、手のひらに収まるくらいの大きさのカットされただけの研磨されていないパワーストーンの水晶なんかを子供の頃に持っていたが、それとは到底比べ物にならない輝きだと思った。多分、光を反射する輝き自体は博物館で見た、いつぞやの時代の王妃さまのティアラについていた親指を人差し指をくっつけてできた丸よりも大きいサファイアと変わらないのだろうけれど、そういうことじゃない。あれは自分とおんなじ人間という種族から、人から生まれたから美しいと思うのだ。

 

「うん、問題ない」

「それでは、機械の電源を入れますね」


 ニジノタビビトはそうっとアクリルのカバーをかけて機械の横についているスイッチを押しながらレバーを下ろした。


 ブウウゥン――。


 低い音を立てて所々光を漏らしながら機械が起動した。カケラは台座の下から照らされ、ちょうど真上に着いているモニターには下のカケラ延長線上のように、垂直の七色の帯が表示される。


「さあ、ラゴウさん。心の準備が出来ましたらこちらのカバーを外してスイッチを押してください。押されたあと一定時間後に宇宙船に指令が伝わり、打ち上がります」


 ラゴウはひとつ頷いて、右手をカバーにのばした、ところで一度止まり、唾をひとつ飲み込む。ケイトはラゴウの横にぴったりとくっついてじっと顔を見つめた。

 ラゴウはケイトの顔を見て、ニジノタビビトの顔を見てそれから後ろを振り返ってキラの顔も見て、もう一度ケイトと視線を合わせた。

 再びカバーにのばした手は止まらなかった。誰も何も言わず、カタン、カチッという音だけが響く。

 今、起動するときと同じ音を立ててより一層カケラにあたる光が強く、強くなった。




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