第64話 虹をみるところ
「それじゃあ、確認しますね。ラゴウさんのつくる虹はアーチの外側から内側にかけてあか色、だいだい色、き色、みどり色、あお色、あい色、むらさき色となります。合ってますか?」
「ああ、それで構わない」
ニジノタビビトはラゴウの返答に頷きを返すと、元々していた蓋ではなく、透明なアクリルでできたカバーを被せた。
「これで虹をかけるための準備は出来ました」
キラは唾を飲む。いよいよだ、ニジノタビビトが見定めて欲しいと言った、感情を具現化し、つくられる虹。最初に耳にした時は自分はどうすればいいのか、ニジノタビビトに対して何を思えばいいのか分からなかったけれど、あの寝れなかった一晩の間にもうほとんど心は決まっていて、ニジノタビビトのことを信じると、信じたいと思っている。
きっと今回の「虹をつくる人」は特殊だったのだろう。交渉をする以前の問題だったものでつい自然と手助けをしてしまったけれど、それは今のラゴウの表情を見るだけでも間違いではなかったと思える。
なんなら禁術とだけ漠然と知っていた感情の具現化はもうすでに達成されたものだからニジノタビビトが、レインがしていることはある人にとってはプラスに働くものなのだろうと確信していた。
もちろん最後まで見届けるが、それはニジノタビビトに自分が行っていることが如何なるものかを判断してほしいと言われたからというよりも、もはやあれだけ苦悩していた人があの輝きのを持つカケラをもとにつくる虹がどのようなものなのか知りたくて仕方がないからだった。
「一度、休憩にしましょうか。機械の電源をまだ入れていないので、カケラはそのままで大丈夫です。あ、でも虹になる前にもしご覧になっていたいのであれば一度出しますか?」
ニジノタビビトはそう言ってラゴウに問いかけた。ラゴウはケイトの方を見て視線で問うたが、軽く首を左右に振ったのを見て自分も首を横に振った。
また食卓のある部屋まで移動して全員で腰を落ち着けてからニジノタビビトが切り出した。
「あとは、多少設定をしてスイッチを入れれば宇宙船が一定の高さにまで打ち上がってくれて虹がかかります。宇宙船からと地上から、どちらから虹をご覧になりたいですか?」
ラゴウが前回虹をつくった人が残したカケラを通して見た光景は、自然現象とよく似た色の大きな虹がかかっているもの。そこに白くて大きな多面体の角を少しだけ丸くしたような宇宙船と、少女ともとれる女性。そしてニジノタビビトが立っていた。そこでふと、ラゴウに疑問が湧いた。
「確か……、私がカケラを通してみた前回のは地上から見ていたものだと思うんだが、宇宙船は地上になかったか?」
宇宙船が虹をかけるために飛び立ち、上空何メートルかの地点まで到達することは分かる。しかし宇宙船から虹を見ることが可能なのであれば虹を見ている二人の後ろにこの宇宙船があるということにはなり得ないのではないだろうか。
もちろんラゴウは自分が見た映像のような記憶のようなものがまるで走馬灯かのように劇的なものであることを理解していたから、多少混濁している可能性も考えられたが、「虹をみる」というこの取り組みの集大成とも言える何よりも濃い部分が他と混ざっているとも考えづらかった。
「ああ、虹は宇宙船が降りてきた後も少しの間かかっているんです。それで、ですかね」
なるほど、と言って考え込んだラゴウに、ニジノタビビトは追加で違いの説明を施す。
「地上からでしたら自然現象の虹を見上げるように、宇宙船からでしたらそこの窓からとカメラ映像をモニターで見ることが出来ます。それぞれの利点は、地上からは直に見えること、宇宙船からは通常見れない横や斜め上の方から見ることが出来ること、ですかね」
ラゴウはその説明にもなるほどと言ってしばらく考えたが、やげて結論を出した。
「うん、やはり地上から見ることにするよ。いつかまたこの星の空に虹がかかった時、今日のことを思い出せるように」
隣にいる人のことを改めて大切だと思えるように、とラゴウは心の中で付け足した。




