第62話 ラゴウのカケラ
ガチャン! シュウゥ――。
ニジノタビビトは生成が終わった機械の蓋を開けた。多少のスチームを伴って開いたそこには七つのシリンダーが並んでおり、それぞれにカケラが入っていた。ニジノタビビトはシリンダーを一つ手に取ると蓋を外してラゴウの方に差し出した。
ラゴウは左手でそれを受け取って照明の光にかざしてみた。確かに、白い空間で自分がつくったものと同じだ。
「どうぞ、中から出してみてください」
ラゴウはニジノタビビトの方を見て、シリンダーに視線を戻すと、ケイトがゆっくりと右手を離してくれたのを合図にシリンダーを逆さにしてそうっと手のひらにカケラを落とした。
「きれいね……、これがラゴウの感情を具現化したものなの?」
「ああ、機械のスイッチを入れたあと、白い空間にいたんだが、そこに渦の形になった私の感情があって、そこから引っ張り出してこう、ギュッとやるんだ」
ラゴウはシリンダーを膝において右手のひらのカケラを左手で覆うようにしながら軽く握り込むようにした。
「そうしたら、こう、キューッと凝縮してカケラになって、好きな色をつけられるんだ」
擬音と感覚の話であったが、自分の深層で行うことなのだからそんなものかと思った。ケイトはラゴウの手のひらの覗き込んで、顔の角度を色々変えながら観察した。
キラはその姿がニジノタビビトにカケラを初めて見せられたときのラゴウと瓜二つで二人に気づかれないくらいに小さく笑った。
「あの、これ持ってみてもいいかしら?」
「ああ、もちろん」
ケイトはそっと手を伸ばしてラゴウの手のひらから外れないくらいでカケラを持ち上げてみた。
ラゴウはもちろん、とは言ったものの、ニジノタビビトが手渡してきたのがたまたまだいだい色のカケラだったので少し気恥ずかしくなった。
ラゴウはせっかくだから、とカケラを虹の七色に揃えたが、だいだい色にするときに思い浮かべたのが所謂もぎたてのオレンジのような秋の夕焼けのようなビビットな色ではなく、目の前の渦にも脳裏にもちらついていたあんず色で、ハッとして手のひらを開いた時にはだいだい色と言うには少し薄い結晶が手のひらに乗っていて小っ恥ずかしくなった。
幸い、カケラという鉱石のような結晶になったことと、ケイトはまだ一つしか見ていないお陰で少し白を混ぜたようなだいだい色にしては薄い色だと言うことを気づかれていない。が、気づかれるのも時間の問題かもしれない。
別に気づかれてもただ自分が恥ずかしいだけだが、ラゴウにしてみればただ純粋に愛を言葉にして伝えることよりもずっと頭が茹だるような気分だった。
「ふふ」
ケイトはそんなラゴウに気付かず、もう心配が振り切れて楽しくなってカケラを落としてしまったりしまわないようによくよく気をつけながら見ていた。それで、そうラゴウはこんなに綺麗なものをつくれるような人なのよ、と誰にするでもない自慢を心の中で唱えてご機嫌だった。
ニジノタビビトは続いて他のシリンダーの蓋も開けていった。全ての蓋を開けると、ラゴウの方を振り返って言った。
「全て取りだしてもよろしいですか?」
「ああ、私がやっても構わないか?」
もちろんですと言ってニジノタビビトはシリンダーを一本ずつラゴウに渡した。ラゴウはそれを受け取っては手のひらに出して、空になったシリンダーをニジノタビビトに返した。自分の片手の手のひらだけでは場所が足りなくなるので、途中でケイトの手のひらも借りた。
ケイトは両手をおわん型にして三つほどカケラをその手のひらに乗せられていた。
空になったシリンダーを全て受け取ったニジノタビビトは元の場所に戻して、蓋は閉めずに乗せるだけにした。
「それではいよいよ次はラゴウさんがつくったカケラをそっちの機械にセットして虹をかけます」
ニジノタビビトは二歩動いてもう一つある大きな機械の腰の高さくらいにある蓋を開けた。そこには細い金属が円柱状になった台座が七つ置かれていた。




