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第59話 隣の気配


「ニジノタビビトさん、お願いします」


 キラとニジノタビビトがフルーツサイダーのフルーツを完食して、サイダーまで飲みきってしばらくした頃ラゴウとケイトは戻ってきた。二人の距離感は今更変わるものでもなかったが、ほんの少しだけ、目の周りが赤いような気がした。


「それじゃあ、こちらへどうぞ」


 ラゴウはするりとケイトの手を離して一歩前に出た。ケイトは名残惜しげに少しだけ手を追ったが、チラリと振り返ったラゴウの目を見て追うのをやめた。


「ケイトさんはどうします?カケラをつくっている最中は触れたり声をかけたり出来ないんですが一緒にいますか?」

「えっ……いいんですか?」

「はい、構いませんよ」


 カケラをつくるとき、本人の集中を阻害しなければ周りに人がいるのは特に問題がなかった。

 ニジノタビビトも初めて虹をつくったときについ声をかけてしまったりしたのだが、そのとき反応は一切なかった。しかしそれからカケラをつくっているときがどのような状態にあるのかを本人に聞いて以降は万が一にも集中を阻害してしまわないように気配を殺すようにしていた。


「要するにラゴウさんが問題ないとおっしゃるなら……」

「私は構わない、むしろケイトがいてくれた方が落ち着く気がするんだ」


 キラは困った。正直に言えばカケラがどのようにできるのか気になるが、ラゴウの気を逸らすようなつもりはなかった。であればやはり自分はここで待機になることだろう。ちょっといじけてホットチョコレートでも作って一人で飲んでやろうかと思った。


「あの、近くにはいないようにしてもらうので、キラも見ていても構わないでしょうか……?」

「彼もかい?」


 ラゴウの言葉に厭うような色はなく、純粋に疑問に思っているだけのようであった。


「その、キラは虹をつくるところを見たことがなくて、一度彼にも虹がどのようにしてできるのか、見ていてほしいと、思ったんです」

「そうか、……ふむ、彼には最初に助けてもらったからな。すぐ近くにいる、とかでないのなら構わないよ」

「ありがとうございます!」


 キラはびっくりした。まさかニジノタビビトがそんな交渉をしてくれるとは思わなかった。しかしそれよりも、疎外感のようなものが薄れて自分も輪の中に入れてもらえたことが嬉しかった。

 カケラを生成するため、虹をつくるための機械のある部屋の鍵を開けるために立ち上がったニジノタビヒトに慌てて近づいて声を潜めた。


「あの、ありがとうレイン」

「ん? ふふ、何が?」


 ニジノタビビトは何となくキラが寂しく思っていたところに同席できるように取り合ったことに対して礼を告げたのだろうと分かったが、朝のキラとは反対に分かっていることを隠したりした。

 そもそもキラが疎外感を感じているかは別としても自分が虹をつくることを、感情の具現化がいかに行われるものなのかを見ていて欲しいと言ったのはニジノタビビトなのだから、そのために自らが交渉をするのは当然だと思っていた。


「さあ、ラゴウさんはこちらの椅子へどうぞ。高さとか背もたれの角度とか調節してください。ケイトさんの座る椅子は――」

「あ、俺取ってくるよ。スツールでいいですか?」

「ええ、ありがとう」


 相変わらず部屋の入り口の敷居の真上に立っていたキラはケイトが頷いたことを確認してスツールを取りに少し小走りになった。

 ケイトがラゴウの隣に座ったのを見てニジノタビビトは口を開いた。


「それじゃあ、やっていきましょう。改めて確認ですが、ラゴウさんはご自分のタイミングでここのスイッチを押してください。そうしたらカケラを握ったときのようになるのはずなので、自分の感情を見つけたら、虹にしたいと思う感情を七つ取り出してお好きな色をつけてくださいね」


 ラゴウは示されたスイッチを前に、やはり強張ってしまった。これから自分がやろうとしていることは「虹をつくること」だが、その過程には感情の具現化がある。


「ッ、ケイト?」


 その時ラゴウの肩にケイトが触れた。ケイトの力強い瞳で優しく笑う顔を見て、自分はどうしたって一人ぼっちになりはしないことを思い出した。それからニジノタビビトと、少し振り返ってキラの顔を見て前向いた。

 スイッチに伸ばした手はもう強張っていなかった。瞼を下ろしたラゴウは、隣に確かな、慣れ親しんだ気配を感じていた。


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