第56話 虹のつくりかた
「さて、順を追って話していかなくてはいけませんね。と言っても今まで説明してきたことをより詳しく実物や写真を見せて説明していくばかりで新しいことはあまりないと思います」
ニジノタビビトはキラが淹れてくれた紅茶を一口飲んでからそう切り出した。ニジノタビビトの手元のソーサーにはキラが焼いたクッキー二種類が二枚ずつ乗っていた。
「まず先程も言った通り、虹をつくるには感情の具現化を行ってカケラを生成する必要があります。このカケラの生成は限られた人しか行えず、それ故に虹をつくれる人が限られているのです」
カケラはえも言われぬ感情や大きな思いを主にして生成する。そして今まで虹をつくってきた人々から推測されるに、それらの感情を複数抱え、かつそれを抱え込んでいる人がカケラをつくる。
これはニジノタビビトの推測も混じるが、えも言われぬ感情や大きな思いを抱える人というのは結局のところほとんどの人がそうなのではないかと考えられる。きっと誰にだって譲れないものがあり、誰にも負けないという思いや、自分の中で大切にしているものがあればそれは大きな思い、感情であると当然言える。これだったらカケラを生成できない、虹をつくれないニジノタビビトにだってある。
しかし、虹をつくれる人々はそれだけではない。虹をつくれる、つまりカケラを生成できる人々は、まるで自分よりもはるかに大きく膨らみすぎたいくつもの風船が自らを圧迫するようになってしまった人ばかりであった。
その激情とも言える風船は、決して割りたいものでも忌むべきものでも捨てたいようなものでもないのに自分自身を苦しめるにまで至ってしまったり、適度に空気も抜けず、消化や昇華が出来なくなってしまったりして行き場をなくし、膨らむばかりになっていた。
宇宙船に残されている実験結果によれば、望んで虹をつくることに成功しているので、恐らく大きく膨らんだ激情が七つもあれば虹はつくれるようだが、意図的に激情をため込むということ自体がニジノタビビトには出来なかったし、出来る人に出会ったことがない。
そもそも虹をつくる候補は前回虹をつくった人が託してくれたカケラが教えてくれるのだが、教えてくれる時点で既に激情を複数抱いているので意図的に激情をため込んで貰うということ自体をしてもらったこともなかった。
「カケラの生成というのは、その、ちょっと非科学的な部分がだいぶあるんですが、そもそも感情の具現化というファンタジックなことなので……」
そう前置きしてからニジノタビビトはカケラの生成について手順を話した。
カケラは自らの意思で機械のスイッチを押すことで自分の心や記憶などがあるところを視覚する。これは本人の精神の部分の話なので心や記憶などがあるところが見えていても身体は目を瞑っていて、周りの人には椅子に座って眠っているように見える。
心や記憶などがあるところが見えたら、膨れ上がった激情を選び、触れて手の中に取り出し、好きな色や虹に使いたい色、相応しいと思う色を付ける。これを七度繰り返してから目覚めると、機械のシリンダーの中にカケラが生成されている。
あとはまた別の、隣に設置した機械にカケラを七つセットして、また本人の意思で機械を作動させれば宇宙船が上空二百五十から三百メートルの高さまで飛び立ち虹をかける。機械を作動させてからすぐに飛び立たないようにも出来るので、地上からでも上空の宇宙船の窓からでも好きなところから虹を見ることが出来る。
「ふう、こんな感じですかね……、写真はこのアルバムにいくつかあります。虹をつくるというのは工程の中の感情を具現化してカケラをつくることが難しいんです。この後機械を実際に見てもらってから質問などを受けて改めて虹をつくるかどうかゆっくり決めてください」
「まだ、虹をつくらない、という選択肢があるのか……」
「そうですね、そもそもが自分の意思で行わなくてはできないことなので強制は一切出来ないんです」
なので自分は精一杯説明をするだけなのだとニジノタビビトは笑った。




