表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/204

第46話 かの憎らしき衛星セルカ


「一つ確認しておくけれど、さっきそこの彼が止めていたってことは君は感情の具現化が禁術だってことは理解してるんだね?」

「……はい、理解しています。が、先ほども申し上げた通り、宇宙船に実験結果も残っていますし、今まで何度も虹はつくられてきました」


 ラゴウは感情の具現化の話が出た時には目を見張って両肩を上げたので流石に驚いたようであったが、それでも何も言わずに話を聞いていた。何度もニジノタビビトとキラに話を聞いてくれと追い縋られたものだから、兎にも角にも話を聞かなければどうにもならないと思ったらしい。驚きでニジノタビビトの方に思わず向けていた顔を正面に戻すと元の前屈みの姿勢になって両膝の上に肘を乗せて手を組んだ。

 そうして話が終わったのを見計らってからようやく感情の具現化の認識について確認してきたのだ。


「まさか、こんな話だとは思わなかったなあ……」


 ラゴウは大きくため息を吐いて背もたれに体重を預けると天を仰いだ。今日はよく晴れていて、住宅もビルも周りに点在しているようなところだったけれど、光り輝く星がよく見えた。その中には惑星クルニの周りを回る大きな衛星が圧倒的存在感を持ってしてぽつねんと浮かんでいてラゴウにはその光がなんだか憎らしく見えた。

 あの衛星セルカは第六二四系に属する惑星の周りを回る衛星の中で一番大きい。そのため、引力の釣り合いが取れているからそこそこの距離があるはずなのに、ものすごく大きく見える。昔は悪いことをするとあれが落ちてきてしまうからね、と躾られたものだとどうしてか今思い出していた。

 いっその事あの衛星が落ちてきてくれやしないかと思わないでも無かったのだが、そうするとケイトまで巻き込まれてしまうのですぐに考え直した。すぐに考え直す程度にはケイトのことを愛しているし、彼女は台風の目のようにラゴウの真ん中にある。ど真ん中から多少ブレることはあっても、落ち着いた凪の部分から彼女が大きく外れることは決してない。


 口をへの字にして天を仰いでいたが、唐突に勢いよく立ち上がると、ニジノタビビトの目の前に立ってその高身長で威圧感を与えながら見下ろした。

 ニジノタビビトは一つ唾を飲み込んで緊張を顔に出しながらラゴウのことを見上げたし、すぐ隣に座っているキラも目があっているわけではないのにその威圧感に圧倒されながら固唾を飲んで二人を見比べた。

 への字にしていた口を一の字にしてポケットに突っ込んでいた手を出すと自分の中で納得して一つ頷いた。


「うん、やろう。やって変わるならそれが一番いい」

「え……」


 あんなにも拒絶していたのに、今日はすんなり、しかも感情の具現化の話だってされたのに受け入れてしまった。


「あの、俺が口出ししていいのか分かんないんですが、ヤケになってませんか……?」

「いや、まあヤケになってはいるけど、正直な話もういい加減区切りをつけたいんだ」


 思わず声をかけたキラにラゴウは平然と返してみせた。ラゴウは自分がヤケになっている自覚があったし、もうどうにでもなれという気持ちがあった。でも決してそれだけではない。

 今日、キラがラゴウに話しかけにいこうと決断できたのはひとえにその様子と顔色とをよくよく伺ったからだった。キラが察した通り、ラゴウは今日ここ最近で一番調子がよかった。調子が良いと言ったって、なんだか気怠いとか、何もしたくない、考えたくないというラゴウにとってもなくしたいものたちがなくなっていた訳では無いのだが。

 ただ何となく、今日はマシだった。こんな日が続けばもう少し素直に色々受け入れられであろうくらいには。因みにここ最近で体調が一番悪かったのは一昨昨日で、一番情緒が不安定だったのは一昨日である。


「君たちに、酷いことを言った私が言うのもなんだが、私だってこんなに苦しいのはもう嫌なんだ。何が嫌って自分勝手に周りを傷つけて、傷つけたことを自覚して自分が傷ついて……。それに何より、ケイトには心の底からただ笑っていて欲しいんだ」


 ラゴウは苦く笑っていて、その顔には後悔と悲嘆が滲んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ