第44話 恒星の光が残る頃
カフェを出て目星をつけていた三棟のビルがある方に向かうとラゴウを見つけることが出来た。ラゴウを見失わないように、しかし決して気づかれないようにそこそこの距離をキープした。
「キラ」
「ああ」
そのまま見つからないように、すれ違う歩行者にできるだけ変な目で見られないようにしながら少しの距離の間跡をつけた。幸い二人だったことと短い距離だったこと、またすれ違う人も少なかったお陰もあって不審に見られることもなかった。
ラゴウは二人が目星をつけていた三棟のビルがある方に歩いて行った。その姿勢は肩が内側に入って、首が前に突き出されていてひどく疲れているように見えた。
「やっぱり、あの三棟のうちのどれかなのかな」
「……あ、ほら」
ラゴウはここまでまっすぐ歩いてきていたのを急に右に方向転換して一つのビルに入っていった。そこは二人が予想を立てていたビルのうちの一つだった。
「……キラ、どうする? 今ビルに戻っていったってことは帰りを待てば今日会えるけど……」
「いや、やっぱり今日はやめておこう。遠目に見ても疲弊しているのが分かったし」
「じゃあ、やっぱり明日また来てラゴウさんの様子を伺うことにしようか」
「うん。さ、夕飯の食材を買って帰ろうか。まだ早いからどうせならお菓子も何か作ろう」
「本当かい? 何がいいかなあ」
二人はラゴウが入っていったビルをもう一度だけ確認して写真に撮った周辺地図に印を書くとその場を離れて市場へと歩き出した。
朝は出勤時間があるし、お昼も同様に時間に限りがあることを考えて、翌日ニジノタビビトとキラがラゴウが入っていったビルに向かったのは夕方になる少し前からだった。どれくらいの時間待機しなくてはいけないか分からないことから、ビルの入り口近くにずっと立っていると疲れてしまうだろうし、同じところにずっと立っていては目立つだろうと思った。そもそもある程度目立ってしまうのは仕方のないことだろうが、ここで失敗するわけにはいかなかったので慎重に場所を探した。
その結果、二人はラゴウの勤めているであろう会社の入ったビルの入り口が見えるカフェのテラス席を見つけた。今度は慌てて片付けることがないようにあらかじめテイクアウト用のカップに飲み物を入れてもらうことも忘れない。
「キラ、来たよ」
「……よし、行こう」
ラゴウが出てきたのは、恒星が完全に地平線に沈んだものの、空の一部がまだ紫色で恒星の光の名残がある頃だった。
キラはラゴウの顔色や姿勢を観察してから、今日ならまだいけると踏んだ。これまでたくさんの人と関わってきた彼はニジノタビビトよりはずっと人の顔色を伺うのが得意だった。そして行こうの声を合図に二人は立ち上がってカフェの出入り口でカップを捨ててからそっと小走りで近寄った。
「ラゴウさん」
ラゴウはピクリとも肩を動かさずに立ち止まって、一つの間のあと緩慢な動きで声のした方を見た。
「君たち、どうしてここにいるんだい。もう関わらないでくれ、と言ったはずだ」
ラゴウは怒りというよりも倦怠を、表情と言葉に乗せていた。
「最初は、諦めようかと思いました。でも、せめて話を聞いてもらって、私が持っているカケラを握りしめてもらわない限りは諦めないことにしました。話を聞いてもらって、カケラを握ってもらって以降、それでもあなたが関わらないで欲しいとおっしゃるなら金輪際関わりません。お願いします、話を聞いてください」
「お願いします」
ニジノタビビトとキラはそう言って深く頭を下げた。ラゴウは二人の頭頂部をじっと眉間に皺を寄せたまま見ていたが、二人が頭を上げる様子がないことを見ると深いため息を吐いた。
「話だけだ。助け舟を出していたケイトに感謝するんだな」




