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第35話 果たしてそれは贅沢か


 ニジノタビビトもキラも何も言えなかった。元々キラは口出しをするつもりがなかったとはいえ、苦しそうに孤独に怯えるこの人に何か言葉をかけなきゃと思って、結局何も出てこなかった。

 ニジノタビビトは記憶喪失になってからキラと出会うまでがずっと孤独だったものだから、孤独を孤独と知らずに慣れてしまっている節があった。だからこの人が孤独であると嘆いたことにも、それゆえの寂しさにも侘しさにも寒さにも理解を示せても、それ以上は何もできない。

 ラゴウはやがて顔を上げて目の前でしゃがんでいるニジノタビビトと、ずっと背中を温めるように手を添えてくれていたキラの方をそれぞれ見てからまた下手くそな笑い方をした。


「はは、すまないね、こんな話。いや、実際話したら少し俯瞰して見れたし、心が軽くなった気がするよ。まったく、贅沢な話だよなあ。愛している人に愛してもらいながら、勝手に孤独感を感じているんだから」


 心が軽くなった気がするなんてそんなものは嘘だった。それでもどこの星の人間かも知れない二人が、たとえ目的のためだったとしても自らに手を差し伸べようとしてくれて、こうして話を聞いて痛ましい顔して何かできないかと言葉を探してくれていることが嬉しかった。たとえそれが、今のラゴウにとって苦しさを強める一因にしかならなかったとしても、嬉しいという思いだって本当だったのだ。

 今はもう、この、人に手を差し伸べられる異星の旅人たちに嘘を悟られたり、間違ってもあたったりしてしまわないように早くこの場から立ち去るしかなかった。


「さて、そろそろ戻らなくちゃ。役に立てずにすまないね。どうか良い旅を」


 そう口早に言ってラゴウは立ち上がった。今はキラも座っているので並んで測っているわけではないが、やはりキラよりも背が高く、肩幅もしっかりしていた。さっきはキラよりもずっと小さく見えていたというのに。


 何も言えないままラゴウの背中を見送った二人は、木漏れ日の風に揺れながらその心地よさとは反対の心持ちだった。


「ねえ、キラ。そんなに、贅沢なことなのかな」


 キラだって分からなかった。愛している人がいて、その人が自分を愛していると覚えていながらも、孤独感に苛まれてしまうのは、本当に贅沢なことなのだろうか。




 結局あの後ほかを周る気にもなれなくて、宇宙船に戻ってきてしまった。ひとまず落ち着こうと昨日買ったココアを淹れた。もちろんキラのマグカップは永い時を生きた松のような深い緑色のマグカップだ。



「そういえば、レイン、何を買ってきたんだ?」

「あ、これ。キラの服とね……」


 ニジノタビビトは紙袋を一度置くと中から箱を取り出して両手で大事に持ってきらに差し出した。


「開けてみて」


 キラはきっと自分に何かを買ってきてくれたんだということも分かってそれが申し訳なさもあったけれど、高鳴るものが確かにあった。

 箱を焦らすようにできるだけ丁寧に開けて中の緩衝材の奥にあったのは深い緑色のマグカップだった。そこに甘くて優しいココアを淹れて、嬉しかったのでニジノタビビトの方のココアには生クリームを少しだけ泡立ててのせて飲んでいた。



「なあ、レイン。明日からどうするんだ?」

「……別に、虹をつくれる人というのは星に一人というわけではないんだ。えも言われぬ感情や大きな思いを抱いている人は星に一人だけと決まっていないから。だから、ラゴウさんでなくても、別の人探すという方法もある。でも……」


 ニジノタビビトは暖かなマグカップを両手でぎゅっと握りしめた。


「でも、このままラゴウさんのことを忘れて次の人を探すというのは、私にはできない」

「うん、俺もそうだよ。レイン、俺にも何かやらせてほしい」


 二人のこの思いが、ラゴウのことを思っているということに間違いはないのだ。そして、それがラゴウにとっても良いことにつながるのだと信じて疑っていなかった。


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