第28話 カケラが教えてくれること
翌朝、キラとニジノタビビトはしっかり朝ごはんを食べて、寝不足を解消してから今度こそ、と宇宙船を出た。もちろん宇宙船を出る前に翻訳機の確認をして。
ニジノタビビトは他の星で仕入れていたものをいくつか抱えていたので、半分ちょっとをキラがもらって持った。
「そういえば、何だっけ、えも言われぬ感情を抱える人たちってどうやって見つけるんだ?」
「ああ、それはこれを使うんだ」
そう言ってニジノタビビトは服の下にしまいこんでいたペンダントを取り出した。先には透明なケースがついていて、中に鉱石のような荒削りの、しかし美しい輝きを持つ石が入っていた。ニジノタビビトは立ち止まってケースをひねって開けると、中の石を掌に出して見せてくれた。
「綺麗な石ですね……」
レインの目みたいだ、と思って言うのは何とか踏みとどまった。何だか変に口説いているみたいだと思ったのだ。
「これはね、えも言われぬ感情を抱える人々や、大きな思いを抱く人たちのカケラが虹になった後なんだよ。これがどうしてかは分かっていないんだけれど、次の人を見つけてくれるんだ」
ニジノタビビトが分かっていない仕組みをキラが分かるわけがないのだがキラなりに、自分と同じような人々の助けになろうと教えてくれているのかもしれないと考えてみたりした。
ニジノタビビトは加えて感情の具現化をしてできるというカケラについて話しはじめた。
「このカケラはひとつ前の虹をつくるときに生成されたものの一つでね、宇宙船が飛ぶためのエネルギーはもらった後なんだけど、次のえも言われぬ感情を抱える人々や、大きな思いを抱く人たちに近づくと熱を持つことでそのことを教えてくれるんだ」
ニジノタビビトはこのカケラの力を借りて、次に虹がつくれそうな人を探る。最初はほのかに熱を持つだけなのが、特定の人に近づいたり話をするごとに段々と熱くなっていく。そうなってからニジノタビビトは虹をつくることに始まり、カケラの生成方法、つまり感情の具現化の話をする。
鶏が先か、卵が先か。ニジノタビビトが記憶喪失になった時にはすでにカケラが宇宙船内に存在していた。実験結果が残っているのだから、カケラが存在していてもおかしいことはないのだが、そもそも誰がこの研究を行なっていたのかを含めて分かっていないのだから、謎が多いことも事実だった。そもそも熱を持って教えてくれることに気がついたのだって、たまたまカケラをお守りのようにして持っていたから気がつけたのだ。厳重に宇宙船内で保管していたのであれば、そもそもカケラの連鎖性に気づくことすらなかっただろう。
このカケラが熱を持って次のえも言われぬ感情を抱える人々や、大きな思いを抱く人たちを見つけてくれたらあとはニジノタビビトの手腕にかかっていた。話を聞いて、話を聞いてもらって虹をつくることに協力してもらう。正直なところ自分が怪しいことをしている自覚はあったものだから、毎回よく協力してくれるものだと思ったりするのだ。
しかし、どうしてか実際に前の人が生成したカケラをその人の手に握らせると数秒、人によっては数十秒沈黙してから、話を聞き入れてくれていた。
一度どうしてなのか気になって、ニジノタビビトも聞いてみたのだが、「カケラが教えてくれた、自分もつくれるならそれがいいことだと思った」と言われただけであった。それ以上でもそれ以下でもないらしいそれを、カケラを握っても美しくて暖かくてときどきひやりとするものだという感想しか抱けない自分には理解できないのであろうことを察するしかニジノタビビトにはできなかった。
「あ、レイン、もうすぐそこだ」
ペンダントトップのケース越しにカケラを握りしめながら、未だに何も感じられないことにやるせなさを感じていると、キラに声をかけられた。もうすぐそこに惑星クルニの街が近づいていた。
また、えも言われぬ感情を抱える人々や、大きな思いを抱く人たち探しが始まろうとしていた。




